●リプレイ本文
茨に紛れて旅人を襲うスカルウォーリアーを退治しに、冒険者がやってきた。
ここのスカルウォーリアーは性質が悪く、弱い者を見つけては茨を引きずりまわして責め殺し、強い相手が現われると茨の中に逃げ去っていくずるがしこいところがあった。
茨を刈ろうにも火を放てば火災に発展する恐れがあったし、人が刈れば犠牲者が増える始末。
しかし、ファイターの明王院未楡(eb2404)はその性格を利用して、おびき寄せようと提案した。
「茨を切り拓きながら‥‥襲ってくるのを待っては‥‥いかがでしょう?」
提案はメンバーの支持を受ける。
クレリックのロゼッタ・メイリー(eb0835)は、見張りに立つ未楡にグットラックをかけた。
「あなたの危険なお勤めに、幸運をお祈りしておきます」
未楡はロゼッタへの感謝を、にっこりと微笑んで表した。
疲れたら休息や食事ができるような野営地を準備してから、刈り取りは行なわれた。
実行するのは、2メートルに届くばかりの直刀であるクレイモアを持ったメロディ・ブルー(ea8936)と、サイズを担いだ寡黙な浪人の高葉龍介(ea1745)だ。
背を上回るサイズを抱えて佇む龍介の背中は、かすかなうつむき加減といい収穫期の農夫を思わせる。
無言で茨の前まで行くと、軽く鼻を鳴らしてサイズを構える。次の瞬間、ヒュンと空を切る音と共に茨の茂みを横薙ぎにした。
つながりを失った茨の塊が空へ飛び、ぼとんと落ちる。イケる! と思った龍介はサイズを振り回し、ものすごい勢いで茨を刈り出した。
「みんな頼もしいし、スカルウォーリアくらい怖くないよね!」
龍介の働きに触発されたメロディは、まずクレイモアを地面につきたててオーラパワーを付与する。そして剣の3/4にしか満たない身長で健気にもクレイモアを担ぎ上げ、力任せに茂みを横薙ぎにした。
組み合った茨は叩き切ることを念頭に作られた大剣の衝撃を分散させてしまうが、メロディの技量はそれでも一塊を引きちぎった。
しかし、膝より下の位置の茂みは残ってしまい、ブーツを頼んで踏み入るも、棘は美しい飾りを引き裂き、いくつか突き抜けて白いブーツを赤く染める。
「茨の生い茂る丘か‥‥思えば、僕の人生も茨の中みたいだったな。でも、僕だって幸せな結婚ができたんだから、この丘の茨だって切り拓いてみせるよ!」
痛みに堪えつつ、メロディは自分の担当個所を、クレイモアに振り回されるような感じで切り拓いていった。夫が肌の傷を咎めやしないかなと、ちょっとだけ心配した。
刈り取る者たちが刈り取りに専念している間、未楡は耳を澄ませて襲撃を警戒する。
グットラックの助けもあって、仲間の立てる音に混ざる骨の音を聞きつけた。どうやら敵もバカではないらしい。膝下に茂みの残る、メロディの方向だった。
すぐに警告の声を発すると、茂みの外で護衛に控えていたメイリア・インフェルノ(eb0276)が、赤い瞳を邪悪に光らせて応えた。
「さて、やっと私たちの出番ですか〜」
鬼の顔が刻まれた短刀を両手に持ち、逆手に構えてメロディを助けに駆けつける。
「黒きメイリア・インフェルノ‥‥参ります!」
二人は、幸い龍介の刈り取った、足の裏が痛くない茂みまで後退できる。他のメンバーも集まってきて、隊列を整えた。
メロディを襲おうとしたスカルウォーリアーは、当てが外れて不承不承に追ってきた。
しかし、1体が合流前にメロディに追いついてしまう。いまフォローは、メイリアしかいない。
逃げられないと判断したときに、振向いて捨て身の反撃に出た。
「うわあぁっ!! こいつぅっ!!」
いままで茨に振るわれてきた、力任せの一撃がスカルウォーリアーへ振るわれる。
命中するかと思いきや、運悪く盾で止められてしまった。敵の剣先がメイリアに迫る。
しかしミミクリーを発動していたメイリアの腕が、うにょんと伸びて、敵の剣先を受け流した。
ものの駄賃にと2回切りつけていく。1回外して1回当たり。
傷はそれほどでもなかったが、面食らっているスカルウォーリアーに、メイリアは恥ずかしそうに妖艶に微笑んだ。
「あら‥‥驚かせてしまったかしら?」
メイリアの笑みが消えない内に、メロディは退避を終えた。
姿を現したスカルウォーリアーたちへ、冒険者の反撃が始まる。
龍介は横に振り回していたサイズを止めて、今度は唐竹割りに打ち下ろした。
重い一撃だが、盾で受け止められてしまう。
しかし間を置かずメロディが、茨を払っていた力強い横薙ぎを食らわせた。龍介のサイズを受け止めたせいでいまは避ける余裕がなく、しかもオーラパワーが付与している。
肋骨をいくつか折り飛ばした。茨を刈り取っていた2人は、戦いでもよいチームワークを見せる。
見張りをしていた未楡も、いまは臨戦態勢を終えている。
戦えない仲間が襲われないように、日本刀を構えて切り込んだ。
服の裾を茨で裂きながらも、スカルウォーリアーと渡り合っていく。
メイリアと並んで護衛についていた、ナイトのグレイ・ドレイク(eb0884)も、スカルウォーリアーを引きつける。
「戦士の誇りを忘れた○無し野郎、此処で引導を渡してくれる」
人の言葉がわかるのか、それでもすこしでも茨があれば有利と思ってか、スカルウォーリアーが応えるように前進する。
「今日は太刀だが、ケンブリッジの打撃騎士の戦い振り、とくと味わえ」
メロディと同じように、相手の攻撃に合わせて重い一撃を狙おうと待ち受ける。
スカルウォーリアーの剣先が繰り出される。
「お返しだ」
交差したグレイの太刀筋は鋭く、盾の防護をかいくぐってスカルウォーリアーの本体に命中させた。
神聖騎士のヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)は、迂回して後衛に迫ろうとするスカルウォーリアーとにらみ合い、前衛たちを隔てて右往左往した。
だが、ヴァレリアの攻撃方法は剣だけではない。
「これまでの非道、偉大なる父に代わって、このヴァレリア・ロスフィールドが裁きを与えましょう!」
コアギュレイトを使い、スカルウォーリアーの動きを封じようとする。
慌てたスカルウォーリアーは一撃浴びせんと接敵を急ぐが、ヴァレリアのコアギュレイトが効果を現し動けなくなってしまう。
動けなくなったスカルウォーリアーに山吹葵(eb2002)は、ナイフで茨を切り分けつつ近づいて、アンデッドの輪廻を断ち切らんと拳で一撃与えようと近づいた。
しかしその間、美しい肉体美にイバラのトゲがツンツンと突き刺さる。これがイタい、というかキモチイイ!?
倒錯的な気配に背筋をゾクゾク震わせつつ、筋肉占い師はバラの園で骸骨と戯れたのだった。
メイリアもミミクリーで伸ばした腕でペシペシしたり、気まぐれにブラックホーリーでバシッとしたりした。
茨の中でのスカルウォーリアーとの戦闘は、一撃を受けずとも前衛に出血を強いていた。
ヴァレリアは1体たりとも逃がすまいと、コアギュレイトを掛け続け、ロゼッタは、傷ついていく前衛にリカバーでの治療を続けていく。
頼もしい前衛と後衛の的確なサポートの連携で、スカルウォーリアーは押され、1体、また1体と動かぬ屍にと戻っていく。
最後の1体になったとき、ヴァレリアはロゼッタに魔力の余裕があるか聞いた。
「多少ならないでもありませんが、いったいなんでしょう?」
「せめて1体ぐらいは、浄化してあげたいんです」
死者を悼む気持ちでは同じだったロゼッタは、協力を約束した。
前衛も手伝い、未楡と龍介たちは退路を塞ぎつつ攻撃を控え、グレイが盾を掲げてスカルウォーリアーの攻撃を惹きつけた。
弱いっていたスカルウォーリアーが、ヴァレリアとロゼッタのピュリファイで浄化されていく。
戦闘が終わると、あたりは冒険者の血で赤い花が咲いていた。しかし今度は、ここで倒れた者たちへの手向けの花へとなるだろう。
龍介は無言で残りの茨を切り拓き、犠牲者たちの遺体を集めてきた。
ヴァレリアとロゼッタは力を合わせ、スカルウォーリアーのと合わせて簡素な墓を作り、亡くなった人たちの冥福を祈った。
ロゼッタは膝を折り静かに黙祷を捧げ、ヴァレリアは神聖騎士の礼に則り「この地で無念の死を遂げられました方々の魂が、安らかに偉大なる父の御許で憩えますように」と祈った。
龍介は黙って、いつかまたこの者たちの菩提を弔いに来ようと考えていた。
野営地のほうから、未楡の呼び声が聞こえる。
「食事の用意ができましたよ。朝から重労働だったでしょう。服のかぎ裂きも、そのあいだに繕っておきますよ」
その明るい声だけで、仲間たちは彼女の優しげな笑顔が浮かんでくるようだった。