●リプレイ本文
呪われた教会で式を挙げたために、ズゥンビに攫われてしまった花嫁。
反対していたがゆえに、娘をそんな教会で式を挙げさせてしまった父親は、激しく悔いている。
新婚夫婦を助けるために、キャメロットから冒険者が旅立った。
明王院未楡は夫である明王院浄炎(eb2373)と、友人のヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)を見送った。
手作りのお弁当を持たせたあと、背で石を合わせて火花を切り、安全を願う。
仕事とはいえ、夫が同性の友人と新郎新婦の真似事をすることを知ってるのだろうか。
いつもと変わらない明朗な未楡の表情からは、真偽はわからなかった。
「気をつけて‥‥下さいね」
そういうと、浄炎の胸に顔を埋めた。
「未楡」
呼びかけに答えず、未楡は顔を上げると、静かに目を閉じる。
浄炎の顔が重なり、静かな別れが交わされた。
なるべく目立たないようにしたつもりだったが、バレバレだったのでその日いっぱいの道行はみな無口だった。
件の村に着くと、ヴァレリアは知り合いの青年の新居に向かった。嫌な予感は当たり、被害に遭った新郎は彼だった。新婦を連れ去られないよう抵抗したらしく、怪我をしている。
神聖騎士のヴァレリアに、介添え役を務められて喜んでいた娘の顔が、思い返される。
「ささやかでも幸せに暮らす二人に危害が加えられたというのなら、どんなことをしてもこれを救い出すのがわたくしの責務」
ヴァレリアは事件解決への使命感に奮いたった。
ヴァレリアの意気込みに感謝している青年を見て、アザート・イヲ・マズナ(eb2628)は優しい気持ちになった。
傷のために薬を分け与えることを申し出て、不器用だが素朴な笑みを浮かべる。
「妻なんだから、夫が助け出さないと‥‥でしょ?」
「そう、彼女は助け出されるのを待ってます。必ず」
起き上がりにくそうな青年に、アザートは肩を貸す。しかし、青年たちの結婚に神父役を務めた、ジーン・メイスフィールド(eb2665)が止めた。
「貴重な薬を、無為に使うことはありません。一つ約束をして頂けるなら、私が傷を癒しましょう。絶対に、ズゥンビ退治に同行しないこと。はっきり言います。邪魔です。人一人の命がかかっているのです。妥協できませんし、失敗も許されません」
青年は、娘を守れなかった不甲斐なさを思い出したか、涙ぐんだ。しかし、先のことからジーンが娘を救い出すことに必要なことを言っているのだと理解して、ポーションをアザートに返し、攫われた妻のことをくれぐれもと頼んだ。
「‥‥悪いことを、したかな?」
「いいえ、あなたの親切は嬉しかったのです。しかし、私が行って足手まといになり、妻が助からなかったら後悔しきれません。どうか、どうか私の分も妻の面倒をお願いします」
「約束する」
アザートは、青年の体の代わりに、心を運んでやることにした。
昼の間に、ズゥンビを誘い出す準備を整える。浄炎は金物を借り、鈴とは言えなくとも、金属の小片がぶつかり、動くとチャラチャラ音を立てるものを作って、偽りの花嫁役を務める仲間に渡した。
黒衣の神聖騎士であり、アステリア・オルテュクス(eb2347)を目の中に入れても惜しくないようにかわいがっている、エルフのアルセイド・レイブライト(eb2934)は、呪われた教会に近い家を2軒借り受け、ズゥンビの襲撃を待つ場所を用意した。村人たちは、事件に巻き込まれるのを恐れ、事情を聞くと喜んで一晩貸し出してくれる。
用意が整うと、いよいよ教会訪問だ。事件の解決に意欲を見せる浄炎とヴァレリアは粛々と進めるが、アステリアとアルセイドは実際に楽しんでいるかのように、はしゃいでいた。
手をつないだアステリアは、アルと愛称で呼び、アルセイドの視線をすこしでも多く惹きつけようと、子犬のようにじゃれついて、アルセイドの周りを駆け回る。
目まぐるしく手を引かれるアルセイドのほうも、迷惑そうな様子は全然なく、鷹揚に構えてにこやかに見守ったり、アステリアが飛び込んできたり転びそうになったときは、抱きとめて紳士然と振舞った。
「ねえ、アル」
「なんだい。どうかしたのかい」
「ふふ。なんでもない。呼んでみただけ。だってアルがこっち向いてくれると、なぜかすっごく嬉しいの」
「しょうがないな」
ズゥンビならずとも妬けてくるような2人のアツアツぶりに、冒険者たちはこの作戦の成功を確信した!
準備が終わり夜中。それぞれのカップルが隠れた小屋に、荒々しいノックとともにズゥンビたちが襲ってくる。
花嫁役の2人はズゥンビに連れ去られた。
星明りのみの道を死者に手を牽かれあてなく進むのは心細かったが、助けに来てくれるだろう仲間を信じて、大人しくついていった。
ズゥンビが進みだすと、今度は追跡行である。
待機していたレイムス・ドレイク(eb2277)は、武器や鎧に皮を巻いてなるべく音を立てないよう出撃し、ジーンも靴底に布を巻くなどの工夫をして、気を配った。
夫役とも合流し、慎重に後をつける。しかし、星明りのみでの前進は足元が危うく遅々として進まず、ズゥンビたちの姿も暗くてすぐに見失ってしまう。
もし、アルセイドが教会近くの小屋を借りなかったら迷ってしまっただろうし、浄炎の工夫がなくては跡を追う頼りすらなかっただろう。
慎重に取った距離と軽装が幸いして、ズゥンビたちは追跡者に気づかなかった。
教会付属の墓地に、花嫁たちは連れ去られた。ズゥンビたちは二人を土の下に埋めようと、墓穴を掘り始める。
到着したと判断して、アステリアは仲間の位置を確認しようと、ブレスセンサーを発動した。
すると後方に点在する仲間の他に、一緒に連れ去られたヴァレリアと、自分との間にかすかな呼吸が感じられた。
「ヴァレリアさん。攫われた花嫁は、そっちに近い墓の真下にいるわ」
ヴァレリアは、埋められているので逃走は適わないと判断すると、アステリアに教えられた墓の前に立ちはだかり、隠し持っていたシルバーダガーを抜いた。
「亡者はあるべき世界へ‥‥。この私が祝福を与えた2人の幸せを、おまえたちなどに邪魔させはしない」
アステリアも、ライトニングサンダーボルトを放つ。
「どんな事情があっても、赤の他人を怨むのはお門違いだ! 自分の不孝を人のせいにしたって、惨めなだけよ」
戦闘の物音と、アステリアの放つ電光。追跡してた仲間も、気配の消すのを止めて走った。
2ラウンドに渡って、2体ずつのズゥンビの攻撃がアステリアとヴァレリアに向けられる。
アステリアは2回、ヴァレリアはシルバーダガーで1回払い、1回命中となった。
「アル! アルッ!!」
アステリアの悲鳴に、アルセイドは傍に駆けつけて庇う。冷静を通り越した酷薄な表情で、クルスソードを構えズゥンビとの間に立ちはだかった。
「あなたたちは、してはいけないことにまで手を出してしまった。覚悟は済みましたか? 必要になりますよ」
普段は見せないような激しさで、ズゥンビたちを攻め立てる。
レイムスは花嫁の姿を探し、ヴァレリアから土の下だと教えられる。踏み込むことができないと判断して、怒鳴りつけ注意を引き、武器の重さも利用した衝撃波で攻撃した。
「兄貴には負けられない! これがレイムス・ドレイクの戦い方です」
背後から攻撃を受け、ヴァレリアを囲んでいた2体はレイムスへ向き直る。
ジーンは攫われた花嫁が土の下だと聞くと、負傷したアステリアの近くに向かって、ホーリーフィールドを使った。その後に、リカバーで治療する。
アステリアの傷には、アザートも激情に駆られた。瞳を血の色に染め、髪を逆立ててズゥンビに飛び込んでいく。
「殺す、殺サレル‥‥殺られる前に俺ガ殺す!」
マントをはねあげ、両手に持ったダガーで力の続く限り切りつけた。
アステリアの方は、アルセイドとアザートが向かい、ジーンのホーリーフィールドも展開している。
そう判断した浄炎は、レイムスの隣につき、ヴァレリア側の援護に回った。
「この地に留まり悲しみの連鎖を紡ぐよりも、天に昇り主の愛した者に逢いに行ってはどうだ」
だがズゥンビは答えず、猛って襲ってきた。
「無念‥‥なら悲しみの連鎖はここで断ち切るまで。主と主が愛した者が転生して来るためにもな」
オーラパワーをナックルに付与し、戦闘に入る。
全員揃っての猛攻に、ズゥンビたちは長く耐えられなかった。
後半アルセイドなどは、気を取り直して狂化したアステリアを止めねばならないほどだった。
改めてブレスセンサーで位置を探査し、攫われた花嫁を掘り起こす。衰弱していたが、命に別状はないようだった。
夫や父親の喜びはたとえ様もないほどだった。花嫁の健康の回復を待って、式も豪勢にやり直すようだ。
もう彼女たちの幸せは、なにものにも煩わされることはないだろう。