●リプレイ本文
荒地の人食いオーガを退治しに、キャメロットから冒険者が旅立った。
しかし依頼人の商人からは、4体のうち、1体いるよいオーガだけは殺さないで欲しいと、条件がついていたのだった。
女性のナイトであるフェアレティ・スカイハート(ea7440)は、2日の旅程のあと出没するという荒地に到着しても、釈然としなかった。
「信じられん。噂にいると聞いたことはあるが、やはりよいオーガなど想像もつかん」
囮役を務める、ウィザードのリアナ・レジーネス(eb1421)が、なだめるように言った。
「もしそうでしたら、全部退治してしまうだけのことですわ。それを確かめるために、私たちが行って参りますから」
同じく囮をする、シフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)が、リアナに同意する。
「そう。良いオーガさんから兄弟を奪うのは悲しいけど、悪いオーガは見過ごせ無いよね。いっそみんな悪いオーガだったら、私も気が楽かな」
覚悟よりは、退治しなければならないオーガへの同情に満ちた2人が出発しようとすると、クレリックのロゼッタ・メイリー(eb0835)が、あわてて追いすがった。
「待ってください。私に、お二人の幸運を祈らせてください」
そうして、グットラックを2人にかける。
できる限りの準備は整えたが、フェアレティは心配が拭えぬまま、2人を見送った。
「なるべき注意はしておくが、オーガは3体。気をつけられよ」
先行する2人のうち、リアナはときおりブレスセンサーをかけて、後続の仲間や、あたりの生き物の呼吸を確認する。そうやってしばらく進むうちに、ついにオーガを発見した。
気づかない振りをして、旅人を装い前進を続ける。そしてついに、オーガに攫われることに成功した。
後続も距離を取りつつも、見失わないよう追いかける。
見晴らしの悪い崖の下まで2人を運ぶと、オーガは仲間を呼ぶかのように、高い声で吠えた。
すると、1体、また1体と似たようなオーガが現われる。これが商人の言っていた、オーガの兄弟というものだろう。確かに、見分けはつきにくい。
3体は辛抱強く待っていたが、なかなか最後の1体が現われない。すると相談の上、手分けして探しに行くことになったらしい。
1体のオーガがその辺の草を3本むしると、兄弟に引くよう勧める。力を込めて引き始めるが、勧めたオーガが1番短かったようだ。
長いのを引いたオーガたちは、西に東にと歩き出した。
姿が消えると、見張りに残ったオーガは、きょろきょろと辺りをうかがいだす。そして手の中の草のちぎりかすをその辺に投げると、リアナとメルシアに、ウォウウォウと、追い払うかのような仕草で、遠くに行くよう促した。
リアナとメルシアは、これだ! と顔を見合わせ、彼が噂のよいオーガであると確信した。
リアナは筆記用具のインク壷を取り出すと、えいやっと、よいオーガにかけた。
「良いオーガ、判別しました!」
頭から真っ黒になったオーガは、なにが起きたかわからないようにきょろきょろしている。それでもまだ、2人を襲おうとはしない。
グレイ・ドレイク(eb0884)は戦闘馬で急行し、フェアレティもロングボウを構えながら、通常馬で中間距離を保った。ロゼッタもトトトと、フェアレティの後ろまでついてくる。
リアナは再びブレスセンサーを発動し、あたりの様子を探った。
「3つの大型生物、確認。たぶんオーガ、来ます!」
囮役は、グレイに守られながら、フェアレティの所に合流する。同時にオーガの兄弟もやってきて、真っ黒になった見張りに驚きつつ、冒険者たちを見つけて襲ってきた。黒いオーガも続いてくる。
メルシアはオーガとグレイの間に、シャドゥフィールドをかけた。
グレイは馬を下り、オーガの攻撃に合わせて攻撃する構えだ。
フェアレティも、オーガを見て逃げる馬に任せて、弓に適した距離を取る。
ついに一人のオーガがシャドゥフィールドから出て、グレイに襲い掛かった。
「レオンの技、受けて見よ。カウンタースマッシュ!」
相手の攻撃を盾で受け止めると、ハーフエルフでありながら、オーガにも引かない重い攻撃を繰り出していく。
シャドゥフィールドから出てきたオーガに、フェアレティもロングボウを射った。
しかし、今はいいとしても、他のオーガも出てきたらグレイが保たない公算が高い。
他の後衛が退避し終えてるのを確認して、フェアレティはロングソードに武器を替え、前衛に加わるべく馬を下りる。
「耐えろよグレイ、私もいま行く!」
メルシアは、後方からムーンアローをかけた。
あとを追うように、リアナのライトニングサンダーボルトが伸びていく。
また1体、オーガがシャドゥフィールドから抜け出してきた。しかし今度は、黒いインクを被っている。
リアナが大声で警告する。
「その、全身インクまみれのが良いオーガです」
グレイの前のオーガが傷ついているせいか、よいオーガはグレイに襲い掛かった。
グレイは再び相打ち覚悟で臨み、しかしダメージを与えるのではなく、気絶を狙う。
幸い、オーガは気絶した。しかしグレイのダメージは小さくはなく、ロゼッタは再びリカバーをかける。
「あまり無茶な戦いをしないでください。私は、どなたであろうと亡くなられたりするのいやです」
「気持ちは有りがたいが、俺は他の闘い方を知らない」
グレイの戦い方は、フェアレティから見ても無謀に思えた。あれは後衛のロゼッタのフォローが切れたら、長くは続けられない。
かといって、覚悟の決まっている戦士の戦い方に口を出しても仕方ないので、他のオーガの攻撃が、グレイに集中しないよう積極的に攻める。
傷ついているオーガを早く戦線離脱させることができれば、前衛の負担も減るはずだ。
ロングソードで一撃すると、狙い通り最初のオーガの攻撃は、フェアレティに向いた。
それを、ロングソードで受けてかわす。
再び、メルシアのムーンアローとリアナのライトニングサンダーボルトが降り注ぎ、最初のオーガは傷に耐えかねて逃げ出した。
「よし、まず1体。グレイ殿。あまり無理をするな、ロゼッタ殿の負担も考えろ」
「悪いとは思う。しかし、俺の方から攻撃相手は選べない。ダメージを集中する援護を頼めないか?」
「まあ、よし。今回は、私が合わせよう」
シャドゥフィールドを抜けてきたオーガを、それぞれ一対一の格好で迎え撃つ。複数から攻撃されなければ、グレイの盾による防御は悪くない。そしてグレイが相打ち覚悟の強打を浴びせたほうへ、後衛と合わせて攻撃を集中させていく。
1体、また1体と逃げていく。途中でよいオーガが意識を取り戻すたびにグレイが気絶させ、そのとき傷を受けると、ロゼッタが回復させた。
悪いオーガたちは、気絶しているよいオーガを見捨てて逃げ去った。
意識を取り戻して1人なのがわかると、よいオーガが武器を放り出して降伏した。
念のため、ロゼッタがリカバーで回復させ、リアナはインクの汚れを拭ってやった。
言葉が通じるかどうかはわからないが、一応リアナは「ごめんなさい」と囁いた。
気持ちが通じたか、それとも兄弟に捨てられた悲しみがぶり返しでもしたか、よいオーガはわんわんと泣き出した。
フェアレティはやはり釈然としない顔でその様子を見つめる。
「なるほど。確かにそのオーガは、人を襲わないようだ。しかし、兄弟が戻ってきてしまったら、やはり同じことではないだろうか」
メルシアはどこか淋しそうに、悪いオーガたちが逃げていった方角を見やった。
「確証はないけど、大丈夫だと思います。悪いオーガは、よいオーガが生きているとは思ってないでしょうし、今日負けたから、ここは危険だと思っているでしょう。でも、よいオーガは、そんな兄弟でも、いなくなっちゃったのが淋しいんですよね。そう泣かないで、私が一曲歌ってあげるから」
メルシアの、どこか悲しげな歌声が荒野に響く。歌声が終わるころ、よいオーガもようやく泣き止み、傷を治したり、体を拭いてくれた冒険者に、名残惜しそうに手を振りながら荒地の何処とも知れない場所に去っていった。
後日譚になるが、キャメロットに戻った時、近辺でオーガに襲われて、返り討ちにしたという武勇伝を聞いた。手負いだったために、楽な戦闘だったそうだ。
しかしそのオーガは、3体だったらしい。
そのニュースを聞いた冒険者たちは、あの風変わりなオーガは今はどうしているのかと思ったが、そういう噂は聞こえて来なかった。
あの荒地には、もう人を食うオーガはいなくなったのだ。