死が2人を別つとも

■ショートシナリオ


担当:鹿大志

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月21日〜07月26日

リプレイ公開日:2005年08月01日

●オープニング

 寂れた修道院がある。
 ここでは昔、家同士の仲が悪い不幸な恋人が、現世での恋の成就に絶望し、死後の世界で結ばれようとして心中を試みた事件があった。
 しかし遺族の反目は強く、2人の亡骸は別々に葬られた上、一族の名誉を汚したとして辱められた。
 2人の魂はレイスとなって蘇り、そこで果てると約束した修道院に囚われてしまった。
 彼らは手近な生者に乗り移り、今度こそ死に損なうことが無いよう、修道院に戻って来ては心中を試みる。だがたとえ憑依された者が死に至ろうとしても、彼らの望みは果たされず幽霊騒ぎは続いていた。
 不吉な自殺未遂が続いたため修道院は閉鎖され、両家の一族も恐れて遠地へ逃れてしまった。そのため、当の修道院の一帯は放置され人の近寄らぬ場所となっていた。
 だが時は過ぎても、恋の悲劇が絶えるわけではない。
 いまもまた、両親に交際を許されない若い恋人が、その人目につかない修道院を由来も知らずに、逢瀬の場所に選んだのだ。
 いつもと違い日を置いても帰らず、2人の失踪に気づいて家人が捜索したところ、件の修道院で暮らしているのを発見されたのである。
 既にレイスに憑かれてしまったようで、痩せ衰えるのも構わず、2人は修道院の生活を楽しんでいる。家からの使いが迎えに来るも、別れさせられるのを恐れて、短剣をきらめかせ互いに突きたて、心中しかけたのだった。
 家族は2人の仲を認めなかったことを深く悔い、レイスから解放されて無事で戻ってきたならば、交際を許すと宣誓した。
 しかしレイスに憑依されてしまった2人は傷の手当てもせず、死が2人に永遠の絆を約束してくれると思い込み、傷か飢えが迎えに来るのを静かに待っている。
 2人の家族は、恋人たちをなんとか無事に連れ戻してもらいたいと考えた末、冒険者へ依頼を出すことに決めた。
 果たして冒険者は新たな悲劇を防ぎ、修道院での不幸に終止符を打てるだろうか。

●今回の参加者

 ea1745 高葉 龍介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2153 セレニウム・ムーングロウ(32歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea4207 メイ・メイト(20歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6945 灰原 鬼流(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7794 エスウェドゥ・エルムシィーカー(31歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea8583 アルフレッド・アルビオン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2665 ジーン・メイスフィールド(30歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ルフィスリーザ・カティア(ea2843

●リプレイ本文

 憑依されたほうのカップルの説得に役立ちそうな細々とした情報を、ルフィスリーザ・カティアは調べてアルフレッド・アルビオン(ea8583)に伝えた。
「現場までいけないのが本当に残念‥‥皆様のご無事をお祈りしています」
 アルビオンは、ルフィスリーザの憂愁を払うかのように、大袈裟な身ぶりで快活に笑った。
「大丈夫ですって、集めてくれた情報があれば、なんとかなりそうです」
 あまりの明るさに、ルフィスリーザはよけい心配になった。こういう状況の時は、アルフレッドの明朗さは、刺激的過ぎやしないかと忠告する。
「わかってますって♪ でも、心構えから準備するのって、ちょっと時間かかるんですよね。でも、到着までにはなんとかなります。大丈夫大丈夫」
 到着すると、人気がなく気味の悪い修道院だ。打ち捨てられ荒れるままになっている様子が、昼なお暗い雰囲気を建物に与えている。
 到着するなり、エルフのウィザードである、セレニウム・ムーングロウ(ea2153)、ジャパン出身の忍者である灰原鬼流(ea6945)、華仙教大国出身の武道家である明王院浄炎(eb2373)は、レイスたちの亡骸確保に、シフールのクレリックであるメイ・メイト(ea4207)、エジプト出身のジプシーであるエスウェドゥ・エルムシィーカー(ea7794)は、家族の話や助けたあとの飲食物を仕入れに村へ向かった。
 ジャパン出身の浪人である高葉龍介(ea1745)は、いかなる理由があろうとも死者は生者に悪影響を与えるべきではないと言う考えを持っていたため、憮然とした様子で修道院を見張っている。
 中に暮らしている、恋人の女の方の、楽しそうな歌声が聞こえてきた。だがその調子は明るいものの、声が弱々しくちぐはぐな印象を与える。
「ふん」
 つまらなそうに鼻を鳴らして、龍介は仲間の帰還を待った。
 亡骸を求めに行った者たちは、二つの死体が、互いに姿は見えても手の届かない場所に打ち捨てられているのを見つける。
 胸や背の上には、まるで動けなくされているかのように、大き目の石が乗せられていた。
 セレニウムが、悲しそうに眉を寄せる。
「過去と現在‥‥二組の恋人が似たような境遇であるのも、憑依を手助けしているのかもしれませんね」
 たおやかな指を伸ばし、非力ながらも石をどかそうとする。
 鬼流は表情を微塵も動かさなかったが、黙ってセレニウムを手伝った。適当な空き地を見つけ、埋葬用に穴を掘り始める。
 いざ穴の下へ置こうとしたとき、途中まで手伝っていた浄炎が、頼んできた。
「俺に考えがある。埋めてしまうのは、すこし待ってくれないか」
 そう言って2人の遺骨を布で包み、大事に預かった。
 村に向かったメイは、恋人の両親に、被害者二人の仲を認めることを再確認した。そして、エスウェドゥと一緒に、救出後の健康回復のための、食料品を求める。
 それらは、二人の両親が用意していたものがあったので、受け取ることになった。
 メイはシフールなので、見繕うに留め、エスウェドゥに持ってもらう。
 エスウェドゥは、言われるがままに運びながら、昔受けた恋人がらみの依頼を思い返した。
「こういう話には縁があるのかな‥‥僕自身は、さっぱりなのになぁ」
 それは羨ましく思っているのか、それとも面倒に関わらずに済んで良かったと思っているのか、単なる述懐なのか。
 砂漠の風のように、飄々としているエスウェドゥの様子からは、どうにも窺い知れない。
 それぞれの用事が済んで合流が終わると、メイが作戦の手順を再確認する。
「まず、説得というか、揺さぶりをかけます。反応があったらうちとジーンはんが詠唱を開始、うちは右手、ジーンはんは左手を頼みます。この攻撃でレイスが離れたら、鬼流はんとエスはんで恋人たちを確保してくださいまし。後は手はず通り、双方同時にしとめますえ」
 そして思い出したように、エスウェドゥに運んでもらった水を、エルフのクレリックであるジーン・メイスフィールド(eb2665)に渡す。
「あと、その水をとり憑かれとった2人に飲ませたってくださいまし。魔法じゃ、飢えは癒せませんから」
「はい」
 丁寧に返事をして、ジーンは水を受け取った。
 修道院に入ると、恋人2人は、壁際に並んで肩を寄せ合い座っていた。腰を下ろし無邪気に語り合うさまは、とっておきの隠れ場所を共有する子供のようにあどけなく見えたが、顔色が悪く、今回の救出に失敗したら次はないことを、暗く予想させる。
 説得から始まった。まず、浄炎が話し掛ける。
「主等は死して結ばれる事を望み、それすら叶わぬ事を儚み今に至ると聞くが。相違ないか」
 そして、先ほど布に押し包んだレイスの遺骨を、丁重に床へ置く
「ここに主等の遺骸がある。我等が寄り添って眠れるよう弔おう。故に、その者らから離れ成仏してはくれぬか?」
 恋人たちは、おびえたように手を取り合った。それは、先ほど見た遺骸が、果たせなかった触れ合いを果たすかのようであった。
 混在しているレイスと被害者の意識が、すこしづつ明確に意識されていった。
 アルフレッドが、浄炎に続いて説得する。
「十戒を守りさえすれば救われるという旧理に対し、大工の息子は余計な言葉や活動を続けました。それは何故でしょうか? 型にはまって楽園を待つよりも、努力するという態度を尊んだのです。たとえ教会の定める理屈に逆らおうとも、たとえあなた方が死者であろうとも、私はあなた方を祝福しましょう」
「私たちは‥‥死ねないんだ」
「結ばれないから‥‥まだ死ねないの」
 レイスたちは迷っている。しかし、離れるほどではないようだ。だが十分、接近し、魔法の準備をする時間は稼げていた。
「主等が自力で成仏出来ぬのであれば、我等がその介添となろう」
 説得の失敗が予想され始めてから、詠唱に入る。
 浄炎は、まず龍介にオーラパワーをかける。
 メイとジーンは、レイスたちの妨害も、防御行動もなく、ホーリーとブラックホーリーを放った。
 男性の方のレイスは引き離したが、浅かったのか、それとも思ったよりレイスの執着が強かったのか、女性の方は離れてくれなかったようだ。
 せめて2人が刺し違えないように、戦士たちが間に入るよう駆け寄っていく。
 エスウェドゥは、女性の方に駆けていった。
「死者に生者の道を阻む権利は無いよ。‥‥大人しく、天に昇ってよ」
「この子たちとは、一緒に行けそうな気がするの。今度は上手くやるわ」
 誰のものかわからない声で、そうつぶやいている。
 鬼流は、男の方へとり憑いていたレイスに向かった。
 短刀「月露」 とダガーを両手に構え、赤い左の瞳が険しい視線を向ける。
「幸せになりたいか? なら死人何ぞの呪縛から逃れろ‥‥生者には幸を得る権利がある」
「僕たちが結ばれるには、他に方法はない。そう、ないんだ。なぜか知らないけど、僕にはそういう確信がある。邪魔するな!」
 触れ上げられたレイスの手を、横に交わして距離を離さない。そして、両の手にした魔法の武器で、切りつける。一つ当たって一つ外れた。
 鬼流は手数がある分、当たり始めたら早いかもしれないと判断した龍介は、まだオーラパワーを待っているエスウェドゥのフォローに入る。
 浄炎のオーラパワーが、エスウェドゥにも付与された。セレニウムは、ウインドスラッシュで男性のレイスを攻撃する。
 メイは追い打ちを掛けるように、男性のレイスに向けてブラックホーリーを放った。
 ジーンはレジストデビルに切り替えて、女の方のレイスの引き剥がしを試みるが、上手く触れられない。
 ようやく自分自身にオーラパワーをかけられた浄炎は、男性のレイスに向かう。
「願わくば‥‥この者等に諸仏の加護があらん事を」
 鬼流はバランスを見て攻撃を調整していたが、男性のレイスが先に倒れてしまう。
 恋人が倒れされるのを見て、女性が悲鳴をあげた。彼女が振り回していたナイフは、冒険者の脅威にならない。今まで警戒していたのは、レイスの接触だ。
 だが逆手に構えられた、その切先は、女性自身の喉を破るには十分な鋭さだろう。
 セレニウムが、悲鳴混じりに声をかける。
「その身体で、死を選んでも願いは果たせませんよ! 貴方達が成し得なかった幸せな答えを、誰かに託しませんか?」
 倒れたはずの青年が、動くのを見たのだろうか。それともセレニウムの呼びかけに、女のレイスが心を動かしたのだろうか。
 ナイフの動きが、ぴたりと止まる。女性の身体から、レイスがゆっくりと浮かび上がる。
 振りかざされていたエスウェドゥの「霞小太刀」が、女性のレイスに振り下ろされる。
「‥‥もう二度と哀しい思いをしないように‥‥もう二度と二人が離れないように」
 絶叫があがり、女性のレイスも倒された。
 龍介は構えていた明王彫の剣を下げ、ジャパン語で短く弔う。
「南無阿弥陀仏」
 メイと浄炎が駆け寄り、恋人たちの介抱を始める。意識を取り戻した青年は、介護の手を避けようとする。
「僕たちは、これからいったい?」
 鬼流は言った。
「黙って生きろ。生きてこその絆だ、下らんまやかしに惑わされるな」
 影に生き影に死す鬼流は、それだけ告げて、青年へ背を向けた。駆け寄ってくるセレニウムに「二人は頼んだ」と後を託す。
 セレニウムは、2人ともに助かった喜びを表情に湛えながら、柔らかく諭した。
「生者は、死者の思いを継ぐべきもの‥‥過去の二人が果たせなかった事、かなえてあげてください。過去の二人は、生ある内に幸せになれないと思い死を選びました‥‥あなた方は、それを繰り返さないように、幸せになる義務がありますよ」
 生者のフォローは十分なようだ。ジーンは、浄炎のまとめた遺骨を鬼流の掘った穴へ運び、埋葬した。
 セーラ神に、2人が幸せに眠れるよう祈りを捧げる。
 アルフレッドも墓までやってきて、鎮魂ではなく、結婚の祝福を与えた。
「聖なるかな、聖なるかな。たとえ死が2人を分かつとも、たとえ困難が2人を艱難辛苦の生で阻むとも、この誓いの聖なるかな。永遠の愛を誓いますか? なればベールをとりて口付けを。略式なれど、指輪の交換をもって誓約の証に。聖なるかな、二人の行く末に聖なるかな」
 アルフレッドの明るさが、太陽のように修道院の陰鬱さを吹き飛ばしたようだった。たとえ死が2人を分かつとも、彼らは手を取り合って、セーラ神の加護に与れるに違いない。
 もうここに、レイスが現われることはないだろう。