●リプレイ本文
ハーフエルフのウィザードであるルーマ・シャイゼルグ(eb3108)は、出自を気にして表情が硬い。
しかし、パーティーのメンバーに、自分を含めれば過半数のハーフエルフがいたので、すこし緊張を緩ませた。
「あの黒いフードを深く被って、俯いている女の人も‥‥たぶんそう。あの男の人は、人間のお友達がいるんだ。へえ、珍しい」
ちらちらと、視線を配って仲間の様子をうかがう。残りのシフールはシフールだし、とほっと息をつこうとしたのだが、最後の一人の人間が、凍りつくような気配で周囲を圧している。
ルーマと目が合うが、その瞳は暗い。見れば、他の仲間にも、険しい表情を向けている。すこし目を逸らしているところなんかは、直接視線を向けるのも嫌っているようだった。
「やっぱりこういう人もいるんだ。‥‥いけない。私、なにを期待しているのかしら。独りで生きる‥‥そう決めたのに‥‥」
ルーマを緊張させている人間、志士の忌野貞子(eb3114)は、ときおりネコのようにあらぬ方向へ視線を向けつつ、一通り仲間の顔を見やると、ボソボソと聞き取りにくい声で挨拶した。
「‥‥よろしくお願いしますね‥‥皆さん」
ただならぬ貞子の様子に、内心緊張していたメンバーは、ほっとして挨拶を返した。
しかし、ルーマの耳は、他のメンバーには聞き取れなかった貞子の言葉の続きを、聞き取ってしまう。
「‥‥のご先祖様たち」
ルーマはうっと眉をしかめ、考えを改めた。
「‥‥単なる変わった人かしら」
さて、夏らしいちょっと涼しげなやり取りが済むと、ジプシーのイケル・ブランカ(eb2124)が、偵察に名乗りをあげた。
「よろしく〜♪ 俺はインビジブルやテレスコープが使えるからさ、発見までは任せてくれよ。目標のオークなんて、ちょちょいって見つけてくらぁ」
今にも駆け出していきそうなイケルの腕を、友人であるアリオク・バーンシュタイン(eb1961)がつかんで引き止めた。
「そんなにあわてるないでよ、イケル。先に、森番へ話を聞きに行く予定だよ」
「おっ、そうだったな」
2人は.仲よく目的のオークの住処と、それ以外のオークの出没位置を聞き出した。
予定通りイケルが先行し、目標外のオークがいないのを確認してから、後続を呼び寄せる。
移動中、シフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)は、ハーフエルフの僧侶である虞百花(ea9144)のそばに、ぴったりとくっついて辺りを警戒していた。
不思議に思った百花は、もの問いたげな視線をメルシアへ向ける。
メルシアは、使命感に燃えた風に、羽音も高く胸を張った。
「回復役の虞さんを、危険にさらせないからね。なにかあったら、私が守るから」
百花は、この50cmにも満たない小さい護衛をかわいらしく思い、気持ちを傷つける気にはなれなかった。
「‥‥それは‥‥‥‥頼もしいです」
「安心してていいよ。あっ! まずい。見つかっちゃった」
単独行動で姿も消しているイケルはよかったのだが、後続が、やり過ごしたと思っていたオークに発見されてしまった。
それも、首輪なしのやつだ。後続の戦力は十分だが、彼らに勝ってしまえば、目的のオークが逃げてしまうかもしれない。
メルシアは飛び出し、迫ってくる先頭のオークを魔法の射程内に捕らえると、シャドゥフィールドをかけた。
「闇の帳よ全てを包め」
不意に目の前を闇に覆われて、オークたちは混乱する。
後方の騒ぎに気がついたイケルは、仲間をを呼んだ。
「こっちに来な! この茂みなら、死角になっていてやり過ごせそうだぜ。飛び込むんだ」
パーティは次々に飛び込む。シャドゥフィールドから脱出したオークたちは、冒険者を見つけることができず、またあらぬ方向へと去っていった。
パーティーは、ついに目的のオークの住処まで到達する。
当のオークたちは、他のオークたちの貢物でたるんでいるのか、警戒心が薄い。
「犬さんの仇見つけたよ。犬さん、仇はきっと取るよ。見守っていてね」
そう言って、魔法の準備を始めようとするメルシアを、アリオクが止めた。
「逃げられないように、罠を張っておきたいんだよ。すこし、待ってもらえないかな?」
アリオクは、逃走できそうな道に、足止めの罠を準備していった。
罠の準備も終わり、満を持して戦闘が始まる。
ルーマと貞子が並んで前に出て、射線を確保したあと詠唱を始める。
「接近戦になったら出番は無いから、そのまえに私の最大級の炎の魔法を叩き込んであげるわ」
ルーマの杖の先から、ファイヤーボムが飛んでいく。火の玉はオークたちの中心に当たると、火花を散らして四方に飛んだ。
いきなりオーク全員にいいダメージが入る。後を追うように、貞子のウォーターボムが飛んでいった。
ぺしょんと、1体のオークの頭を濡らした。
「見てますか珀太郎(ひゃくたろう)。私、頑張ります」
他の仲間がいくら目を凝らしても、貞子の周りには珀太郎らしき存在はなにもない。文字通り、冷や水を浴びせられた気持ちになる。
続けて、メルシアのシャドゥフィールドが発動する。突然のやけどの上に水を浴びせられて、さらに闇に包まれたオークたちは大混乱だ。
ハーフエルフのナイト、レイムス・ドレイク(eb2277)は、彼女たちの活躍に感嘆した。
「勇気有るご婦人方へ敬意を称します」
そして、飛び出してくるであろうオークに備えて前衛に立つ。
「騎士として、ご婦人方には傷一つ付けられない、必ず守り抜きます」
オークたちはしゃにむに走り回り、1体が飛び出してきて、レイムスに襲い掛かった。
「此処より先は通さん、ソードボンバーマキシマム」
攻撃に合わせて、メタルロッドの重さを乗せたソードボンバーが放たれる。衝撃波が扇状に広がっていく。
向かって来たオークは、大ダメージを受けてキャンといったが、闇の中のオークには当たったり当たらなかったりしたようだ。
しかし、オークのハンマーもまた、レイムスに傷を与える。
前衛のすぐ後ろに控えていた、百花がおずおずと手を伸ばし、リカバーをかける。
「我が身が神に許されずとも、人々に癒しを」
レイムスの傷は癒された。まだ打ち合う戦いを続けるつもりのレイムスは、感謝した。
「ありがとう」
「‥‥軽い傷でも‥‥遠慮なく言ってください。私にできるのは‥‥‥‥癒しだけですから」
貞子は、自分の知る限りのオークの知識を引っ張り出した。
「‥‥豚鬼たちは、そう勇敢ではありません。ルーマさんと、いまのレイムスさんの攻撃を受けた相手は、逃げ始めるかもしれません。警戒してください」
闇の中から、また1匹飛び出してくる。しかも貞子の言うとおり、今度は冒険者を避けて逃げ出した。
接近戦が始まると、自分の仕事は終えたと考え、声援を送っていたルーマが見咎めて声をかける。
「ほらあそこ。逃げるよ仕留めて! 私の報酬のために頑張って〜」
クルスソードを構えて、脇に待機していたアリオクが反応する。ブラックホーリーが発動して、オークを打った。
だが、ブラックホーリーではオークを仕留めるのに、すこし心もとないようだった。
オークは逃走しかかるが、他ならぬアリオクの仕掛けた罠に引っかかり、転倒する。
アリオクは追いすがり、クルスソードで止めを刺した。
「やったあ♪」
ルーマの歓声が上がる。人間であるが、ハーフエルフの友人を持つアリオクは、屈託なく剣を上げて声援に答えた。
闇の中で迷っているオークには、メルシアがムーンアローを発動する。
「月の光よ首輪を付けしオークを撃て。‥‥生きてるやつで1番近いの」
ムーンアローの牽制を受けて、オークが冒険者の方向を察して飛び出してきた。
女性に優しいイケルは、メルシアを庇おうとナイフを構えて護衛する。
レイムスは、挑発するように前に進んだ。
「此処より先は通さんと言った筈だ」
攻撃が交錯し、レイムスは傷と引き換えに、再び重い衝撃波を扇形に放つ。
すかさず、百花がリカバーで傷を癒した。
オークは対抗しようにもレイムスに阻まれ、逃げようにもアリオクとイケルに牽制され、隠れようにもメルシアのムーンアローでチクチク攻撃を受けてしまう。
そしてついに、討ち果たされてしまった。
「犬さん仇は取ったよ、安らかに眠ってね」。
そう言ってメルシアが犬の墓を作っている間、貞子が首輪を回収する。
「ごめん‥‥つかれちゃった」
「え? 疲れちゃったの。じゃあ、私が元気の出る歌を歌ってあげるよ」
「違う‥‥疲れたんじゃないけど‥‥」
つかれたと言い出す貞子のために歌い始めるメルシア。ちょっとニュアンスは違うようだが、とにもかくにも、首輪の回収は成功し、依頼は無事に? 果たされたのだった。