●リプレイ本文
気の毒な妊婦を救うため、報酬も出ない依頼に、キャメロットの冒険者が立ち上がった。
セブンリーグブーツなどの高速移動手段を持つ者は、妊婦の安全を慮って先行することに決めたが、その前に、志士の忌野貞子(eb3114)が、オークの習性を説明する。
説明の途中、太陽がきらりと照りつけ、貞子は額の汗を拭う。
「ふうう‥‥太陽の光は、苦手。体が‥‥灰に‥‥なりそう。‥‥呪うわ」
変わった暑がりかただと思いながらも、仲間たちは貞子の説明に耳を傾けた。
ハーフエルフの武道家である水鳥八雲(ea8794)は、村への工作をトール・ウッドに頼もうとしたが、村の位置が思っていたよりも遠く、断念せざるを得なかった。
準備が終わると、先行組は村へ向かう。
「うわー、早い早い♪」
ころころと楽しそうに笑ったのは、シフールのウィザードであるセルライト・セルディン(ea0481)だ。セブンリーグブーツを履いた、仲間の荷物に捕まり、先行組に加わっている。
そして到着するなり、よい目やブレスセンサーを駆使して、村へ近づくオークの一団を警戒する。
頼もしい見張りが警戒している間に、他の仲間はオークを迎え撃つ準備をした。
要点は、妊婦にショックを与えないよう、村に侵入される前に、オークを撃退することだ。できれば、後日の憂いを無くすため、全滅できるとありがたい。
ジャパン出身の浪人である羽紗司(ea5301)は、飛んでいくセルライトを見送りながら、つぶやいた。
「とりあえず、間に合ったみたいだが。そう時間も無いな、急ぎ罠の作成とオークの居場所を確認しないと」
柴犬を連れたレンジャーのレイエス・サーク(eb1811)が頷く。
「罠は落とし穴がいいと思うんだけど。意表がつければ、それでいいしね」
「ああ、それでいい。手伝うぞ。仕掛けるなら、一人より二人のほうが進みが速いだろ」
2人は、せっせと落とし穴を掘り始めた。
八雲は妊婦に顔を見せて安心させると、レイエスたちと合流する。
「素直に助けなきゃって燃えれるシュチエーションは、話早くていいわよね」
そう言って、特徴的に笑った。八雲から妊婦の様子を聞いて、二人も安心する。
落とし穴が掘り終わると、八雲はそこをオークが横切るよう、甘い保存食を囮に置いた。
やはり先行していて、樹上から様子を見ていたハーフエルフのレンジャーであるケヴィン・グレイヴ(ea8773)は、きりりと引き絞っていた弓を下ろした。
「味方か? ‥‥まあ、まだしばらくは様子を見るとするか」
レイエスはまだ時間があると見ると、村の入口にロープを張って、仮の柵とした。障害物としては心もとないが、オークたちが刃物を持っていなければ、勢いで雪崩れ込むのは止められるだろう。
張り終えた所へ、後続がやってきた。
貞子に、シフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)、ハーフエルフのナイトであるクレイグ・エインズワース(eb3248)だ。
レイエスはロープを越えやすいよう引き下げて、言った。
「やっと着いたんだね、メルシアさん。八雲さんが、いまかいまかと焦れてましたよ」
「わ! それはゴメン。オークはもう来ちゃった?」
レイエスたちにはまだわからなかったが、偵察していたセルライトは、村へ向かっているオークを補足していた。
「おー、居た居たオーク4匹はっけーん‥‥と静かに静かに」
嬉しさからあげそうになった声を、自分で口を押さえて防ぐ。
彼らは、飢えた兵士の足取りで、前進を続けている。定住している人間が、与し易い獲物だと、経験から知っているのだろう。
セルライトは、オークの凶行を思い浮かべ、かすかには持っていた同情を捨て去った。
「かわいそうかとも思ったけど、ま、仕方ないよねー。あいつら悪さばっかりするんだもん。村を守るためだしね」
そして、仲間のもとへ飛んで戻る。
後続と合流し、警戒に向かったセルライトからオークの位置の報告を受けると、八雲は気分が盛り上がった。
「さて、それでは皆様いっちょまいりましょうか」
みんなも賛同して気合を入れるが、生来の性格か、貞子はふ・ふ・ふと、陰性の笑みを浮かべる。
「無事に生まれると‥‥いいね。ほら‥‥村のご先祖様たちも‥‥見守ってるから」
「もう貞子ちゃん、私たちはいいけど、妊婦さんの前でそういうこと言っちゃダメよ、めっ!」
叱責とともに、八雲はお札を貞子の額に張った。
「あっ‥‥」
つっこまれて、ぴたっと不穏な笑いを止める貞子。
セルライトのブレスセンサーが、接近するオークの呼吸を捉えた。そして、後方の樹上に潜む、狙撃手の存在にも気づく。
「オークたち来たよ。あ、あとあっちにも!」
セルライトに指を指されて、ケヴィンも弓を振り、存在を示した。
「俺は敵じゃない。近づく前に、数を減らしといてもらえるか。援護する」
ミドルボウにつがえられた矢尻しか見えないが、その狙いは落とし穴の向こうをさしている。八雲たちは、突然の協力者を信じることにして、オークたちが来る方向へ向き直った。
八雲や貞子の置いた保存食を目にしたのか、オークたちは冒険者の姿を眼にしつつも、強行しようと前進して来た。
まずレイエスが、引き絞ったショートボウから矢を射る。通常通りのダメージに留まった。
レイエスの矢を追うように、ケヴィンの矢も放たれた。これはケヴィンの狙ったオークの目を、的確に射抜いてみせた。
レイエスが感嘆の声をあげた。
「名の知れない助っ人は、頼もしいみたいだよ」
前衛は、落とし穴を前にして、迎撃の構えだ。魔法支援の順番になる。
セルライトの手から、風切る音をさせて、見えない真空の刃が飛んでいく。オークに血を噴き出させ、不可視の三日月形を一瞬だけ浮かばせた。
「よしっ、私の方もいい調子だよ」
クレイグは、メルシアがシャドゥフィールドを使いそうなので、オーラソードを準備した。
「練習通りにやれば大丈夫、新流派を切り拓くんだ」
ウォーターボムをかけようとしていた貞子が、クレイグを見てくらっとした。
「ああ‥‥オーラは、ダメ。当てられちゃうの」
真偽はわからないが、本人が嫌がってるのだから、クレイグはあまり近づけないようにを気をつけた。
ウォーターボムには悪影響は出ず、水球がオークに命中し、びしょぬれにした。
メルシアは、次には接的するだろうオークの一団に向かい、シャドゥフィールドをかける。
「新たな命は、明日へとつなぐ希望の光、きっと守り抜くよ」
オークたちは冒険者を前に、闇に包まれた。勢いに任せて強行突破しようとするが、レイエスと司の掘った、落とし穴に落ちていく。
オークたちの、最初の攻撃はこれで行なえなくなる。一方、待ち構えていた前衛は、不利な体勢のオークに一方的な攻撃を加えた。
司は、無傷のオークに、狙い澄ました蹴りを首筋へ叩き込んだ。
「こっちへ来たのが、己らの不幸だと思えよ」
オークは気絶して、がくっと落とし穴の中へ沈み込む。
八雲は抜刀した小太刀「霞小太刀」を両手に構え、グサ、グサと突き刺したあと、鳥爪撃による高速の蹴りを見舞った。
苛烈な攻撃に気をよくしていると、後ろからちょんちょんと貞子につつかれる。
「なによ、いま戦闘中で忙しいのよ」
「八雲さん。狂化‥‥してる。それ、怖いから、妊婦さんに見せちゃだめ」
八雲は逆立ってる髪の毛を手で確認すると、自分でも驚いた。
「うわちゃー先に行ってて、村にはあとで戻るわ」
クレイグも、オーラソードを構えて切り込んだ。実戦初の一撃になる。
「小さい子供の命もかかってるんだ。負けて取り逃がすわけにはいかないんだ」
無事に命中するも、クレイグの満足がいくダメージとはならなかった。
「‥‥ううむ、技の練習もしなきゃならないなぁ‥‥」
続いて矢、そして魔法の支援が続く。メルシアはムーンアローに切り替えた。
飢えは激しいが、劣勢を察して、逃げようとするオークが出る。
ケヴィンの矢が、逃げようとするオークの踵を射抜いた。
「お前達に逃げ場ない」
よろめいたオークに、司が追いすがり、再び昏倒させた。
趨勢は決した。オークたちは駆逐され、司は気絶させたオークの始末にかかる。
「こいつらも運が無かったな‥‥こちらへ来さえしなければ、生き延びれたものを」
戦闘の決着がつくと、助けや祝いを述べに、ケヴィン以外の冒険者は、妊婦を訪ねようとした。
しかし、八雲は狂化がなかなか収まらず、すこし悔しい思いをする。
「収まるまでは、俺がついてよう」
ケヴィンは樹上から、八雲の護衛を約束した。他の仲間が村へ向かうと、姿を現す。八雲は、この正体の知れぬ協力者が、同じハーフエルフだと、初めてこのとき気づいた。
「‥‥十分落ち着いてきたようだ。仲間のもとへ、向かうといい」
「えっと、せめて名前を」
ケヴィンは笑って答えず、帰途についた。
冒険者が戦っているとき、母親またたたきの最中にあった。粗野なオークの乱入も無く、無事に玉のような男の子を出産した。
貞子を始め、贈り物を贈ろうとした者は多かったが、報酬も無く助けていただいたことに加え、これ以上の助けを得ては心苦しいと、辞退された。
代わりに、生まれた子に祝福を授けて欲しいと頼まれる。なにせ、冒険者たちがいなければ、子供の存在さえ危うかったのだから。
母の願いを聞いて、一言づつ祝福を与えると、冒険者たちも帰り支度を始めたのであった。