●リプレイ本文
商人がズゥンビに襲われるという事件が起きて、冒険者が必要とされた。
シーヴァス・ラーンはクレリックのヨシュア・グリッペンベルグ(ea7850)にセブンリーグブーツを貸しに行く。ついでに、ズゥンビ発生の原因がなにか、手掛かりになるような噂を町で集めた。
「これといった噂はない。単なる、はぐれズゥンビだろうか」
ヨシュアのつぶやきに、神聖騎士のアルディナル・カーレス(eb2658)が返事をした。
アルディナルもレジエル・グラープソンに、ズゥンビたちが先の戦争やゴルロイス公に関わりがないか調べてもらい、関連性を示す根拠は見つからなかったと、報告を受けていたのだ。
「どうもそのようだ。まあ、警戒するにこしたことはないが」
冒険者は、他の商人などが巻き込まれて被害者が増えないように、先遣隊を出すことに決めた。
セブンリーグブーツなど移動の高速化を図れる手段がある者は、先行して状況を探る。
向かうのはヨシュアとアルディナル、そしてビザンチン帝国出身の神聖騎士であるセラ・インフィールド(ea7163)と、華仙教大国出身の女流武道家である李明華(ea4329)である。
「商人たちには、解決まで辻を使用しないよう、冒険者ギルドを通じて通達を出してもらいました。さあ、向かいましょうか」
馬に乗った明華がそう言うと、先遣隊は出発した。
まだ朝もやの漂う早朝に、先遣隊はズゥンビと当の荷車を補足した。
目のいいアルディナルが、冴え冴えとする青い瞳を荷車のあたりに向けて、たむろするズゥンビの数を確認する。新しい死体もないようだ。
「これで報告通り、8体だけの退治で済みそうだな」
「でも、8体は大した数です。後続の到着を待って、合流してから迎え撃ちましょう」
「‥‥ああ、作戦通りに。不運な旅人が通りかかるような不測の事態が起きても、これで対処できる。早めに到着できてなによりだった」
幸い、先遣隊が見張っている間に、他の訪問者は通りかからなかった。待っている間に、どこで戦うのが適当か辻の地勢を検討する。辻は荷車がある分、防衛側のズゥンビに有利であり、8対8の乱戦よりも魔法支援を行なう後衛がいる分、来た道に引き寄せた方が冒険者に有利だと結論が出た。
それに、上手く行けば荷車も破損することなく回収できる。
各自の合意を確めたうえで、後続の到着が知らされる。
「そろそろ、あたしの仕事ですね。では、カーレスさんから」
明華がオーラパワーを発動し、仲間にかけていく。
「セレニウムさんからも頼まれていますし、上手く行くといいのですが」
セラはかけて貰い終えると、シルバースピアを掲げて、ズゥンビを挑発した。
「亡者よ。おまえたちの憎くてたまらない生きている人間が、ここにいますよ。そのまま眺めているつもりですか?」
セラに気づくと、ズゥンビたちは荷車を出て襲い掛かって来た。
万一に備えて、明華たちがフォローに入れる距離で姿を隠しているが、やはり8体のゾゥンビに1人で囲まれる状況はぞっとしない。
思えば、こういう役回りが多いなと苦笑しながら、セラは不自然にならないよう後退する。
待機している後続と合流し、明華も求める者にオーラパワーを行き渡らせ終えて、戦闘が開始された。
しかも、ズゥンビたちはおびき出されたことに、気づいた様子すらなかった。
セラが後退を止め、隠れていた前衛も飛び出して戦線を構築する。
ズゥンビたちは横に並びきれず、後ろ半分は行動を阻害されているだけだが、冒険者の後衛は魔法の支援を行なうべく、詠唱が始められる。
前衛は、明華が口火を切った。
「あたしは明舞の天使、ズゥンビに安らぎを与える戦舞を舞わせて頂きますね」
トライデントを華麗に回しながら、明華が飛び出して行く。そして、オーラパワーの付与された、トライデントを繰り出した。
「天に帰りなさい」
襲い掛かろうとしたズゥンビの突進を、正面から押し戻すように、ぐさりと胴体を貫いた。
セラは目の前のズゥンビに、シルバースピアの穂先を向ける。
「よくやってきましたね。焦らなくても、ここまでくれば相手をしてあげますよ」
そして銀に輝く穂先で、胸板を抉った。痛みか猛りか、ズゥンビが亡者らしいおぞましい声をあげる。
アルディナルは、ハルバードを掲げて振り回した。
「哀れな者達よ、我が刃を持って今解き放たん‥‥」
手近なズゥンビを犠牲者に選ぶと、武器の自重を乗せた強打をお見舞いする。
「小技を使わねば勝てぬ程、零落れてはいないっ!」
唸りを上げて振り下ろされたハルバードが、ズゥンビの頭を、半分胴体にめり込ませる。腐敗し脆くなっている体とはいえ、大きなダメージに仲間からおおという感嘆が漏れる。
「明華さんのオーラの助けもあってのことだ。驚かれるほどのことでもない」
賞賛にもアルディナルは態度を崩さず、戦闘相手のズゥンビに厳しい目を向けている。
3体までは、各前衛が相手をする。しかし、1体余ってしまうようだ。状況に目を配っていた明華は、その余った1体に、足を出した。
テコンドウらしい、軽い跳躍から繰り出された踵が、ズゥンビの膝頭を打つ。襲い掛かる相手を目指して前進していたズゥンビは、前のめりに転倒した。
後衛は、アルディナルが相手をしている、被害の大きいズゥンビに魔法を集中させる。
ジャパンの僧侶である国定悪三太(ea1083)は、職業柄か腐敗が進みおぞましいズゥンビの姿にも表情を変えず、数珠を鳴らしながら念仏を唱える。
「南無阿弥陀仏‥‥南無阿弥陀仏‥‥」
発動したブラックホーリーがズゥンビに命中すると、悪三太はにっこり笑って、魔よけのお札を取り出した。
「今なら、2割増の特別価格にてお譲りいたそう。この世の未練を捨てたうえ、拙僧に布施を施し功徳まで積めて一石二鳥でしょう」
ズゥンビは買わなかったが、悪三太が大した坊主であることはよくわかる。
エルフのウィザードであるセレニウム・ムーングロウ(ea2153)は、ウインドスラッシュを放つ。
「生者は家へ、死者は大地に帰れ‥‥」
三日月型の真空の刃が舞い躍り、ズゥンビを切り刻む。
赤いリボンがかわいらしいバードのチハル・オーゾネ(ea9037)も、ムーンアローで支援する。
「月光の矢よ。アルディナルさんに1番近いズゥンビを打って!」
燐光のような淡い光の矢が、前衛の脇を器用に潜り抜け、目標のズゥンビに命中した。
ヨシュアも、前衛が隙なく展開しているのを利して、ピュアリファイを発動する。
聖なる力がズゥンビを浄化して、アルディナルに劣らない、回復不能な大ダメージを与える。
神聖騎士のヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)は、明華が転ばせたズゥンビに向かい、コアギュレイトを発動する。起き上がろうともがいていたズゥンビが、ぴたりと硬直し大人しくなる。
後ろのズゥンビが前線に加わるのに答えるように、ヴァレリアも前衛に加わった。
「不浄なる亡者の存在して良い所などこの望ましの大地のどこにもありませんわよ。亡者は大人しく地へと還りなさい!」
戦闘開始からもの10秒のうちに、ズゥンビはすでに一体が行動不能、一体が瀕死である。一方、冒険者これといって目立った被害はない。
ヴァレリアが加わって後衛の安全が完全に確保されたことにより、明華が戦い方を変えた。身体で目の前のズゥンビを防ぎつつ、アルディナルの前のズゥンビへ攻撃を集中させる。
テコンドウの足技で体勢を崩させて、トライデントで大地につなぎとめるよう、上から串刺しにした。
ズゥンビの動きが鈍ったのを見て、アルディナルも、ハルバードを振り回し、更に勢いのついた一撃をズゥンビへと見舞う。
「哀れむだけが慈悲ではない、人に害なす者であれば力を用いるのもまた致し方なき事‥‥これもまた慈悲」
ぶつんと、肩口から肺のあたりまでの肉を押し切り、ハルバードの斧頭が深くめり込んでいた。このズゥンビは、ヨシュアのピュアリファイでとどめを刺され、浄化される。
「かつて人であったものよ。その偽りの生を終え、天へと召されるがよい」
入念な準備によって、速やかにズゥンビたちを駆逐する冒険者たち。劣勢に気づいたズゥンビたちが、荷車を盾にしようと引き返そうと思っても、もう誘い出されて距離がありすぎた。セレニウムの提案した、おびき寄せが当たったといえるだろう。
冒険者優勢のムードのままズゥンビは殲滅される。
発生理由が特定できないことには安心できないとして、冒険者たちは周囲を探索した。しかし、墓やそれらしいものは見つからず、遠くからさ迷い出て、ここにいついたのではないかとの結論になった。
せめて遺体を埋葬し、聖職者たちが弔ってやることにする。
チハルも鎮魂歌を捧げた。
「祈りだけだと淋しいかもしれないから、あたしが一曲歌ってあげますね」
チハルの指が、竪琴から旋律を引き出していく。彼女の歌はそのまま今日の冒険者を称える凱歌となった。諦めていた荷車の帰還に喜ぶ商人たちが、しばらくのあいだ口ずさむことになったのだ。
きっと、何処とも知れぬところから迷い出でたズゥンビたちの霊も、慰められたことだろう。