●リプレイ本文
エルフのクレリックであるレゥフォーシア・ロシュヴァイセ(ea6879)は、依頼主の死が、救いたいと思う孫娘の心の傷になるのを憂いて、知り合いの風霧健武に依頼主の保護を頼んだ。
健武は思いつく限りの努力を試みたが、依頼人の手掛かりがなかったので、レゥフォーシアの期待に答えられず残念な思いをした。
明王院浄炎(eb2373)は、ギルドに依頼者との連絡・説得を申し込み、1名以上の同行、最低でも待合場所の変更を強く求めた。
「孫娘が近づいただけで襲ってきたと言うのにその付近で待合せるなど、贖罪の響きに酔った只の自殺行為に過ぎぬ」
「それはそうかもしれませんが、それが依頼の内容ですし、あなたもそれを承知して請けたのでしょう?」
「確かにそうだが‥‥ギルドに負担をかけようとは思わぬ。護衛は俺が受け持とう」
「依頼主はご自分の関係性から、孫娘が誰かわかってしまうのを恐れている訳ですし‥‥それに、ギルドは依頼によっては事前調査も行いますが、基本的にはあなた達冒険者へ正規の依頼の斡旋を行うのみで、ギルドメンバーを派遣することはしません」
「おぬしは、依頼人や家族の気持ちをどう心得るのかっ!」
浄炎は激昂するが、この担当者の言うとおり、ギルドの役目は浄炎達冒険者への正規の依頼の斡旋であり、依頼を請けた後のバックアップを頼む事自体筋違いなのだ。
一頻り激昂した後、ようやく冷静になった浄炎は、非礼を詫びて先を急いだ。
レイムス・ドレイク(eb2277)は、依頼主が合流前にスカルウォーリアーと遭遇してしまうのを心配して、合流地点に馬で急いだ。
途中、老人に出会えるかもしれないと期待したが、老人以外には手掛かりがないので、旅している老人にかたっぱしから声をかけた。
「あなたは、この先の元盗賊のアジトであった洞窟で待ち合わせをしている、依頼人でしょうか?」
何名かは、レイムスがハーフエルフということに気づいて、態度がぎこちなかった。イエスという答えはなく、レイムスは合流場所で依頼人を待つこととなった。
エルフのクレリックであるフェルシーニア・ロシュヴァイセ(ea6880)は、姉のレゥフォーシアを励ましながら合流場所に向かっていた。
「健武さんも頑張ってくださったんですから、きっとご老人も無事ですよ」
「それは一体どういう根拠ですか?」
「あれ? 根拠になりませんか。きっとそうだと思ったんですけど。えへへ☆」
ハァーと深く溜め息をついたレゥフォーシアだったが、妹の気楽さににすこし救われる気がした。
華仙教大国出身の郭無命(eb1274)は、合流前に依頼者が襲われることを心配して、支度を終えると合流場所に急いだ。
そして、到着場所に痩せ型のいかめしい顔をした老人を見つけ、声をかける。
「早まってはなりません。貴方はこれを罪滅ぼしであるとお考えかもしれませんが、最早貴方に償うべき罪など有るでしょうか? 30年の間、過去の過ちを背負い、我が子にもそれを隠しながら生きてきた事、決して楽な生き方では無かった事と存じます。そうした苦悩を背負いながら、日々を生き子を育て来た事は、十分な贖罪になる事でしょう」
「異国の僧侶殿。あなたの言葉は、亡き妻のようにありがたい。しかし前非がわしを追いかけて、孫娘に及ぼうとした。贖罪といえども今までの日々は幸せだった。家庭の喜びも知った。子を為す嬉しさを知った。そして何よりも、罪を犯さず生活する恵みに与れた。もう身にあまるほどの祝福に包まれて、なぜまだそれを惜しみ、愛しい子や孫を危険にさらせようか」
真摯な老人の態度に、努力は必ず報われるべきだと考えるレゥフォーシアは、どうにか気持ちを和らげてあげたくなった。
「過去を清算する為に、自ら戦いに赴く事は素晴らしい心意気ですですが、死を以って贖罪とすれば、孫娘さんは『自分が話したせいで死なせてしまった』と悲しむでしょう。貴方は決してここで死んではいけないと、私は思います」
「わしがかつて盗人だと知っても、孫娘は悲しんでくれるだろうか。わしは、子供たちには言えずにいた。そのせいで子に子を失わせる危険を冒させてしまった。わしは子を愛するがゆえに、子がわしに抱く怒りがわかる。エルフのクレリック様。わしは子や孫に疎まれて生きるよりも、慕われたまま死ぬほうが幸せなのです」
頭を垂れ悔いている老人の肩を、浄炎はつかみ顔を上げさせる。
「俺の娘らも祖父母を大切に思っている、貴殿の孫娘も同様であろう。贖罪と言う甘美な響きに誘われ残される者が如何に悲しむか考えぬなど言語道断な行いではないか? 真の贖罪とは、生きて償うもの。安易な死など只の逃げに過ぎぬ」
「生きていて、これから何が償えるでしょう。わしに生きている価値などあるでしょうか」
ビザンチン帝国出身のクレリックであるファルコ・ロッツォ(eb3392)は、背筋のピンと通った威風堂々たる物腰で、老人を諭す。
「貴殿は少なくともこれまで罪の意識を背負い、必死に償おうと生きて来たのではないのか? 家族を持った以上、既におぬし一人の命ではないのだ。簡単にそれを投げ出そうと言うのは貴殿の家族にとって、新たなる悲しみを与える、許されざる行為なのだぞ」
「わしの命は、わし1人ではない。家族が悲しんでくれる。もしそうなら、それはなんて嬉しいことだろう」
冒険者たちの励ましにより、老人はすこし上向いて来たようだ。
フェルシーニアは、にっこり笑いかける。
「死んで終わらせようなんて考えは間違ってますよっ。ホラ、格言にもあります‥‥『生きる方が戦いだ』って、あれ? 言わない?」
「コラ。フェルシーニアったら!」
レゥフォーシアは姉の務めとして注意したが、老人は考え込んでいた。
「わしの戦いとは、生きることなのかもしれないな。それでも、冒険者のかたたちは、助けてくださるだろうか」
レイムスは馬を下りて答える。
「今を生きる、貴方の家族や、貴方自身が為さねばならない事が、まだ多くある筈です、依頼を受けた以上、私は、貴方を見守り、依頼を完遂する義務が有ります」
老人がレイムスを頼もしげに見つめたとき、ぼんやりとした印象のジャパンの浪人、橘木香(eb3173)がとぽとぽと歩いてきた。
仲間かどうか怪しんでいる一同に首を傾げ、ぼそっとつぶやいた。
「おじーさんの骨を拾う?」
老人が、がくっと崩れ落ちる。
「そうじゃなくって」
老人を支えなおしながら1人がそう突っ込もうとすると、木香は洞窟の方をゆっくり指差した。
「でも‥‥骨じゃぁ食べられない‥‥」
言ってることはちんぷんかんぷんだが、指し示した方向からは、確かに骨が迫ってくる。
スカルウォーリアーが現われた。戦闘開始だ。
老人が狙われないよう、そして前に飛び出さないよう後ろに下げて、フォーメーションを取る。
前に出るのは言葉通りにまずレイムス、次に筋肉質の巨漢である浄炎、そしてぽけぽけしているが、木香も日本刀「霞刀」を構えた。
そして鞘に収められた状態から、目にも止まらぬ抜刀術で抜きざまに切りつける。
あまりの速度に、スカルウォーリアーは、盾で防ぐのもままならない。
逆にスカルウォ−リアーの攻撃は、とろい印象のする木香にふらり、ふらりとかわされてしまう。
レイムスは豪快に、重そうなメタルクラブを振り上げる。
「受け止められるか、この打撃を」
渾身の、そして高い技術に支えられた精度の高い一撃が見舞われる。
スカルウォーリアーは盾で受けるが、あろうことか盾を粉砕されてしまった。
レイムスは一息吐くと、次の標的をもう片方に変えた。
「どんなに腕が立っても、武器の質までは、変えられないだろう。覚悟」
浄炎は、まずオーラパワーを自分に付与する。
レゥフォーシアとフェルシーニアのロシュヴァイセ姉妹は、揃って黒と白のホーリーを発動させる。
「再現神の力を以って、我、邪悪なる者を滅する漆黒の光を放たん! ブラックホーリー!」
「慈愛神様の加護の力のもと、邪なる魂魄を退かせる純白の光の矢となれ! ホーリー!」
レゥフォーシアから黒の、フェルシーニアから白の光が伸びて、邪悪なスカルウォーリアーを打った。
ファルコはダメージの少ない方に狙いを定め、戦士たちの後ろからコアギュレイトを発動する。
凍りついたように、一体のスカルウォーリアーが動きを止めた。
倒されようとするスカルウォーリアーに、老人が身を乗り出す。
郭が、それを静かに制した。
「お仲間が討伐され、貴方は生き延びた事も、いま貴方が責を感じるべき事では無いと思います。自分達が彼等を浄化致しましょう。ですから、早まった考えはなさりませんように」
木香とレイムスの攻撃が、まだ動けるスカルウォーリアーにダメージを与える。
そしてオーラパワーの付与された浄炎の、牛角拳の双拳が繰り出された。
「死して尚悪事に手を染める事もなかろう、輪廻の輪に戻られよ」
続けざまに、ロシュヴァイセ姉妹のホーリーとブラックホーリーが当たり、スカルウォーリアーのダメージは大きい。
そしてファルコ、郭のピュアリファイによって、浄化された。残る一体も、浄化される。
崩れ落ちたスカルウォーリアーの骨を、木香は屈んで拾う。
「おじーさんの‥‥骨を拾ってます」
「そう、それらはわしの元仲間で、おじーさんになる前にわしのせいで亡くなったのだ。すまん」
老人はかつての仲間の死骸にひれ伏すと、おいおいと泣き始めた。
浄炎は、その背を優しく撫でてやった。
「主が今の幸せを得られたのも、1つはこの者らが礎となったからであろう。この者らが再び迷わぬよう弔ってやることも、1つの贖罪ではないか」
そう言って、埋葬を手伝ってやった。
全てが終わると、フェルシーニアは、にっこりと老人に注意する。
「もぉ二度と危ない事をしちゃ駄目ですよぉ? こーゆーのを『年寄りの死に水』って言うんですから」
「そうだ。また孫娘に、息子たちに会えるのだな、ありがとう、ほんとにありがとう」
行方をつかむのに散々てこずらせた老人だったが、最後は冒険者に送られて、子供たちの待つ家路についた。
そして冒険者は、過去の因縁に清算をつけ、一つの家庭の平和を守ったのだった。