●リプレイ本文
高地から移住しようとしているオーク一家が、人家に近づきすぎているので危険なので、追い払うためにキャメロットから冒険者が招かれた。
エルフのレンジャーであるサラ・フォーク(ea5391)は、旅の途中で食料が無くなり、神聖騎士のフレア・レミクリス(ea4989)から分け与えられた。
村に到着すると、ドワーフのナイトであるマレス・イースディン(eb1384)を中心に、作戦が話し合われる。
「村にやってくるオークを追い散らしてる間に、森の住処を壊しちまえば、臆病なオークどもは追い出せるんじゃないか?」
キャメロットに知れ渡る名声のナイト、グラディ・アトール(ea0640)が、生来の優しそうな顔だちで微笑み、賛成する。
「いくら魔物でも、傷つけずに追い払うことができればそっちの方がいい」
日影に席を取ったフレアも、髪をいじりながら頷く。
帽子からこぼれる銀髪のまぶしい、レンジャーのケヴィン・グレイヴ(ea8773)が、酷薄そうににやりと笑った。
「なら俺は、追い立てるほうをやらせてもらうか」
ビンッと、弄んでいたミドルボウの弦を、ひときわ高く鳴らす。青い瞳には何の感慨も無く、ハンティングの準備をする狩人のようであった。
支持を受けて気をよくしたマレスは、調子に乗ってニコニコ笑う。
「じゃ俺は、住処壊しのほうにいこうかな。ちょっとした考えがあるんだ」
シフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)は、ケヴィンとマレスの間を行ったり来たりしながら、マレスの側に着地した。
「住み分けって難しいよね、でも依頼はしっかり行うよ。此処は、オークの住処じゃない。私は、住処をぶっ壊す作戦で行くよ」
小柄のシフールの勇ましい発言に、物見高く作戦を覗いていた村人から、笑い声があがった。メルシアがちょっと照れたように、身をよじる。
「わ、私がするのは、魔法のサポートだけど」
寡黙に耳を傾けていた、ナイトのレイムス・ドレイク(eb2277)が、重そうなメタルクラブを杖にして、立ち上がった。
「じゃあ直接破壊するのは、私が受け持とう」
たくましい肉体と重量感溢れる武器は説得力十分で、笑いは止まり感嘆のため息が漏れる。
「正直気まずいものがあるけれど‥‥ほうっておくと村の被害が広がるのは確かね。まあ適当に追い散らして、森の奥に戻ってもらいましょうか」
サラも立ち上がり、村人から辺りの地形の情報を集めに向かった。
森に行って住処を壊すのは、マレス、メルシア、レイムス。数のバランスから、村に待機してオークを迎え撃つのは、ケヴィン、そしてグラディ、フレアになる。
8匹のオークに、守るのは3人。村人が不安そうに動揺し、フレアもすこし影響される。
しかしグラディが、優しそうな笑顔を向けた。
「‥‥大丈夫。フレアに何かあったら、僕が絶対に守るから」
ケヴィンは狙撃に向いた隠れ場所を探す。
村人から情報を集め終えると、サラは斥候として、森に向かった。
テレスコープをスクロールで発動し、オークの出方を窺う。
オーク一家が村に向かってくるのを確認したので、報告に戻った。
まず、サラがライトニングアーマーを発動。
次に、接近してきたオークに向かい、冒険者たちが一斉に、魔法攻撃を行なう。
サラがスクロールで、グラビティーキャノンを放った。
黒い帯が伸びていき、オークの半数ほどを直線上の射程に収めて、ダメージを与え転倒させる。
続いてケヴィンも、スクロールでマグナブローを放つ。
「死にたいのは誰だ?」
転倒した真中のオークを中心に、不運な4体のオークが、地中より湧き出たマグマの炎に飲み込まれた。
武装どころではない。
遠距離魔法の使い手を、2人以上も伴った、冒険者の一団に待ち伏せされたのだ。
臆病風に吹かれたオークたちの足元に、グラディのオーラショットが放たれる。
たとえ言葉は通じなくても、それ以上近づけば、容赦はしないという意思表示だ。
オークたちは、接近の足を止めた。
「俺は全滅させるのに躊躇はないんだがな、まあ、作戦通り進めるさ」
対峙しながら、ケヴィンはメロディーのスクロールを開き、歌を口ずさみ始める。
「この森はお前達オークにとっては死を誘う場所でしかない♪ すぐにこの場を離れ遠くに逃げ延びるのだ♪ そうすれば家族全員幸せに過ごすことが出来るであろう♪」
歌詞はわからなかったろうが、歌の魔力か、オークたちは恐怖に駆られて逃げ始めた。
さて、追撃戦だ。なるべく追いまわしてオークに恐怖を叩き込み、森の住処に向かった仲間たちが、工作する時間を稼がなければならない。
オークは仲間を逃がすために、比較的体の大きい2体が残り、立ちはだかった。
オークパパと、オークムコだろう。
彼らは猛り、対決の構えを見せている。
「傷つけないで済めば、そうしてあげたいんですが」
心苦しそうなグラディに、フレアが答える。
グラディの背に隠れるように近づいて、魔法を使った。
「動きを束縛します、コアギュレイト」
寄れば殴りかかろうと構えていたオークパパが、動きを止めてころりと転がった。
狼狽している内に、オークムコもフレアのコアギュレイトで封じられてしまう。
早々に排除されたしんがりに、逃走したオークたちが足を止めた。彼らを追い立てるように、地面へグラディのオーラショットが打ち込まれる。
ミドルボウやスクロール魔法の牽制を受けながら、オークはメロディーの歌詞通りに、森の中を追い回された。
それでも、帰るべき住処は見つからない。
ガンガンと硬い物を打ちつける雷のような音と、住処への道を阻む漆黒の闇が広がっていたからだ。
闇の向こうからは、淡い光の矢が飛び出してきて、近づくオークをチクチクと苛むのである。あそこは、きっと雷雲か、嵐の精霊でも降りてきてるに違いない。とにかくなにか、怖く危険なものだ。
逃げてくるオークを発見したメルシアは、道を阻むようにシャドゥフィールドを発動していた。そして、1番近いオークを標的に、ムーンアローを放っていたのである。
「対象先頭のオーク、狙い必中、ムーンアロー」
メルシアが威嚇を続けている間、レイムスはメタルクラブで、オークの住処を滅多打ちにしていた。
額に汗が浮かぶが、速やかに作戦終了し、仲間にもオークにも被害が出ぬよう、住処の破壊を進める。
シャドゥフィールドを抜けてくるオークの警戒には、マレスが抜刀して控えている。
だが村班に追い立てられているオークたちは、先の知れない得体の知れない場所に、飛び込んでくる勇気はないようだった。
オークの気配と、それを追うケヴィンの歌声が、ぐるぐると住処の周囲を巡っていく。
ひときわ高い打撃音の後、ドシャッと倒壊する音が聞こえた。レイムスのメタルクラブが、ついにオークの掘っ立て小屋を破壊したのだ。
「終わりました。退却の準備を始めましょう」
「ちょっと待ってくれ、最後の仕上げが用意してあるんだ」
どことなく嬉しそうに、マレスが村から借り受けて、ここまで運んで来たモノを取り出した。
ムーンアローをとめたメルシアが、鼻をつまんで苦情を述べる。
「なにそれマレスさん。くさ〜い」
マレスは、桶の蓋を取り、住処あとに撒いていく。
「へっへっへ。こやしだよ。ただし、村の肥だめから持ってきたやつだけどな」
桶の中身を空にしてしまうと、マレスたちは撤退した。マレスたちの姿を確認した仲間たちも、オークを追うのを止めて、村へ帰還する。
シャドゥフィールドの効果が切れて、住処に戻ったオークたちの気持ちは、推測するしかない。
新天地を求めて旅立ち、落ち着ける場所を見つけて建てた新しい我が家は跡形も無く壊され、辺りには異臭を放つ黄金色の半固形物が撒き散らされている。
家も無く、いつまた、あのおっかない乱暴者たちに、追いかけられたらどうしよう。そして、その家も壊してしまうような、得体の知れない恐ろしい存在が近くにいる。そしてとても臭い。
人の近くで暮らすのは、かくも危険なことだと察したオークたちは、ひっそりと姿を消していった。きっともっと安全な、人里離れた場所を求めれ旅立ったのだろう。
冒険者たちは、余計な殺生をせずに依頼を解決できて、喜んだ。オークの危険が去った村人たちの喜びようは、一層だった。
「じゃ、オーク退治を祝して宴会ね」
サラの提案により、冒険者たちの活躍を称えて、慎ましやかだが量は多い宴が、村人たちにより行なわれた。
美しい髪を丹念に漉いて、着飾ったサラの美貌は、宴に花を添えた。
ついでにサラは図らずも、一食浮かすことができたのであった。