●リプレイ本文
コボルトの巣を掘り当ててしまった坑道から、鉱夫たちを救うために冒険者が招かれた。
到着した冒険者は、逃れた鉱夫たちに坑道の間取りを聞き、慎重に地図を書いていく。
エルフのウィザードであるセレニウム・ムーングロウ(ea2153)は、コボルトの巣を掘り当てたであろう場所、隠れ場所の心当たりなど、詳細に情報を集めていく。
「『知』も『力』なり‥‥ですよ‥‥」
そして集めた情報から、大まかな地図を作りコボルトの移動ルート、鉱夫の隠れ場所等の目星をつける。
入って間もなく、入口からの明かりが届かず、足元が不案内になってしまう。
ウィザードのアステリア・オルテュクス(eb2347)が、ランタンと松明を使い、光源を確保した。
明るくはなったが、自然のごつごつした岩肌が天井になっているのは重圧感が有り、明かりとともに動く岩影は、なにか生き物のようで気味悪く思った。
特にシフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)は、いつもの安全圏である上空がないため、落ち着かない。
「地下世界って、初めてだから緊張するなあ」
一方、ドワーフのナイトであるマレス・イースディン(eb1384)は上機嫌だった。
「まっすぐ伸びる上下左右の壁に先を見通せない暗闇、そしてなによりこの土や岩の匂い。あぁ故郷を思い出すなあ」
心から嬉しそうに深呼吸するマレスを、メルシアは不思議に思った。
ひなたの土の匂いは確かに嫌いじゃなかったので、胸いっぱいに吸ってみる。
メルシアの鼻に入ってきたのは、油の匂いだった。
分かれ道を通った目印に、ウィザードのディーネ・ノート(ea1542)がロープを張り、それをコボルトに取られた時に準備して、油をこぼして臭いをつけていたのだ。
ディーネはくりくりっとした大きな瞳でメルシアに振向くと、指をぱちんと鳴らした。
「いいアイデアでしょ?」
「〜〜〜」
返事をしようとしたが、むせてしばらく声の出ないメルシアであった。
コボルトの捜索を続けるが、現われる気配がない。
引き返してみると、目印のロープが切られている。コボルトは通っているのだが、数の多い冒険者を警戒してか、離れるのを待っているかもしれなかった。
挟み撃ちを避けられる分かれ道に引き返して、2班に分かれることにする。
ここで、コボルトたちを引き付けておく戦闘班。そして、鉱夫を探しにいく救助班だ。
救助班はディーネ、セレニウム、そしてアステリアの恋人である、エルフの神聖騎士アルセイド・レイブライト(eb2934)だ。
さあ向かおうとするが、明かりの持ち手がいない。ディーネが、自分のランタンに火を灯して進むことになった。
一定距離進むたびに、セレニウムがブレスセンサーを発動する。
ようやく、吐息を2つ見つけた。背格好、呼吸の頻度は同程度。ただ、どちらがどっちかはわからない。よく考えれば、移動している方がコボルトだろうか。
結論に行き着く前に、答えがわかった。
セレニウムの詠唱を耳にしたのか、移動しない方の吐息が、声をかけてきたのだ。
「誰だ? 助けが来たのか」
途端、移動していた息が声のほうに近づいていく。
「いけない。止めませんと!」
続く悲鳴。三人が駆けつけたときにはコボルトの姿はなく、鉱夫はすでに倒れ、傷口は変色していた。
「コボルトに刺された。俺は、毒で死ぬんだ。もうだめだ」
ディーネは、すぐさま応急処置を行ない、鉱夫を落ち着かせた。
ディーネもセレニウムも、ちゃんと解毒薬を用意している。
責任はないのだが罪の意識を感じ、仲間思いのセレニウムは、鉱夫に解毒剤を使った。使用した分は、コボルトを倒せば補充できるだろう。
ディーネとセレニウムが2人で鉱夫に肩を貸すと、アルセイドは急かした。
「コボルトめ、なんと卑劣な。もしもアステリアになにかあったら、残らず抹殺してやる。急ぎましょう!」
戦闘班も、襲撃を受けていた。しかしこちらは、迎え撃つ気まんまんだ。
マレスとジャパンの浪人である凍扇雪(eb2962)が、救出班が赴いた坑道を並んで塞ぐ。後衛は、その後ろに隠れた。
3体のコボルトが迫ってくる。
アステリアは小悪魔的な笑みを浮かべると、ライトニングサンダーボルトを放った。
「悪い人には、おしおきよ」
手から伸びる雷光が、2体のコボルトを打った。
メルシアは岩陰に移動しながら、ムーンアローを放つ。
「岩越しの一番近いコボルトに行け、ムーンアロー」
ムーンアローは障害物に邪魔されず、命令通りの目標に当たった。
凍扇は十手と盾を落とし、日本刀を構えた。
マレスは、その凍扇の日本刀に、オーラパワーをかけた。
「お前達はどれほどの腕のモンだ? やるからには全殺してやるぜ!」
コボルトたちは、接近で終わる。
凍扇は袈裟斬り・逆袈裟とかすめるような斬撃を続けざまに放った。
大怪我をしたコボルトはよろめき、凍扇への攻撃をはずしてしまう。
マレスはきわどいところで、盾でかわした。
メルシアは再びムーンアローを打ち、マレスは自分にオーラパワーをかけた。
凍扇は装備を十手と盾に戻し、持久戦の構えを取る。
アステリアは、ウインドスラッシュを天井に放ち、風圧でぱらぱらと砂をコボルトたちの上に落とした。
これから、救出班が鉱夫を助け出し、合流してくるまで耐え忍ばねばならない。
マレスは更にオーラボディをかけ、凍扇は十手で捌き、コボルトの毒の刃を凌ぎ続ける。
そうこうしている内に、ついに救出班と合流した。
心細くなっていたアステリアは、アルセルドの胸に飛び込んだ。
「わーん、待ってたよ」
「無事なんですね。もう、心配ありません」
抱き合う2人を尻目に、ディーネは、せっせと鉱夫を地上へと護送する。
「じゃあ、任せたわよ」
セレニウムとアルセイドはうなずき、戦闘に加勢した。
マレスは、待ちに待っていた反撃を始める。
「さあ、今までの借りを返してやるぜ」
うってかわって、攻勢に出る冒険者たち。
マレスや凍扇の攻撃に加え、セレニウムのウインドスラッシュや、アルセイドのホーリーもそれに加わる。
少々の手傷も恐れぬ、マレスの積極的な攻撃が、ついにコボルトの一体を仕留めた。
仲間が倒れたことに動揺して、コボルトは身を翻し、逃走を開始する。
全滅を狙うマレスはもちろん追った。凍扇も再び日本刀に持ち替え、追撃に参加した。
岩壁や天井に引っ掛けないように注意して、切先が背をかすめるように袈裟切りに斬りつける。
もう一体コボルトが倒れるが、残り一体は逃げてしまった。
「ふぅ、今回は結構いっぱいいっぱいですね、私」
武器を傷めないようにとの配慮は神経を使うのだが、凍扇はそういうだけで息をついた。
マレスはどこまでも追っていきそうな勢いだったが、アステリアの明かりが届かなくなってさすがに諦める。
セレニウムは、無事コボルトたちを追い払えたことに、安堵した。
「今回は、何とかなりましたか‥‥しかし、今後も注意が必要ですね‥‥」
地上に出た冒険者たちは、先に運び出した鉱夫の応急処置をディーネが済ませていたこともあって、関係者から感謝された。
これでようやく、捜索隊を出せるという。
しかし、ディーネは自分が目や耳が利くことを訴え、時間が許す限りの協力を申し出た。
仲間もそれには異論はなく、鉱夫たちを伴って、再び坑道へ降りていく。
マレスは、鉱夫たちに力こぶを作って見せた。
「隠れてるおっちゃんたちは俺達が必ず助け出してやるって。ついでにコボルトの戦士階級って奴等がまた襲ってくるようなら、纏めてぶっ飛ばして、安全に鉱山仕事ができるようにしてやるよ」
凍扇は、気合が乗りすぎているような気もするマレスを見て、かすかに微笑んでる。
「どんな時でも余裕を忘れずに」
戦闘班の警護の元、ブレスセンサーなどの魔法の助けもあって、隠れていた者だけではなく、傷つきそのままでは手遅れになったであろう鉱夫たちも発見した。そして、ディーネのいち早い処置によって、死者を出すことなく坑道の事件は解決できたのであった。