非常にお気の毒ですが

■ショートシナリオ


担当:鹿大志

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月31日〜09月05日

リプレイ公開日:2005年09月10日

●オープニング

 死者を殺し直していただきたい。
 端的に言うと、仲間の死を信じられない狂人が、レイスとなってしまった仲間のもとに、助けを呼んで被害を広げている。
 レイスを退治し、狂人に現実を見つめ直させられる、冒険者を募集している。
 仲良し三人組の冒険者がいた。
 彼らはとある遺跡の罠にかかり、落とし穴に落ちてしまった。三人は相談の上、1番若く、1番小さかった仲間を押し上げ、助けを呼ぶことにした。
 しかし助けは間に合わず、二人の仲間は傷が悪化して死んでいた。罪悪感からか、助かった一人は、仲間の死を認められなかった。不運な仲間を助けられる、別の人間を探しに放浪したのである。
 しばらくすると、死んだ二人もさ迷い出た。レイスとなって、助けに来た人間の生命力を、糧にしようと襲い掛かったのだった
 危うく逃れた冒険者の話によって、今回の事件は露わになった。
 当時は18だったというその狂人は、背も曲がり皺だけの老人と化している。その事件から、幾年経ったのかはもう想像もつかない。
 彼らはもう助からない。そんな彼らに巻き込まれて、被害に遭う者が出たら気の毒だ。
 レイスを退治し、この悪夢に終焉をもたらしてはもらえないだろうか。

●今回の参加者

 ea0163 夜光蝶 黒妖(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4207 メイ・メイト(20歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2435 ヴァレリア・ロスフィールド(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb3392 ファルコ・ロッツォ(48歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 遺跡の落とし穴にレイスが現われる。
 その退治が今回の依頼だが、近辺には、レイスがまだ生きている仲間だと、信じている老人が出るという。
 冒険者たちがキャメロットを出発して3日目の朝。目的の遺跡につくと、浮浪者か野人のような老人が、茂みから現われた。
「あっ、いいところに来た! ボクの仲間が、落とし穴に落ちて困ってるんだ。助けておくれよぅ」
 風体に似合わぬ、子供っぽい喋り方をする。
 老人の訴えは真に迫っていて、これでは騙される者が出るのも、納得のいくものだった。
 仲間たちは顔を見合わせて、老人が件のレイスの友人だと確認する。
 難しいと思われたが、ジャパンの忍者である夜光蝶黒妖(ea0163)が、一応事情を説明する。友人はすでに死亡していて、レイスとなっていること。そのレイス退治の依頼で、自分たちが差し向けられたこと。
「貴方が‥‥そんなになるまで‥‥後悔しているのなら‥‥あの人達を‥‥弔ってあげて欲しい‥‥。‥‥ちゃんと‥‥天国にいって‥‥幸せになれるように‥‥」
 だが予想通り、老人は話を理解しなかった。
「おねえちゃん、縁起でもない事言わないでよ! ボクの友達はまだ助かるよ。お願い、助からないなんていわないで、ボクと一緒に、仲間を助けに行って」
 後ろでシフールのクレリックであるメイ・メイト(ea4207)が、嘆息する。
「‥‥死者にとらわれとるとは‥‥」
 頑是無い老人の態度に、黒妖に代わり、ハーフエルフのナイトであるレイムス・ドレイク(eb2277)が話を聞く。
「わかりました。あなたの友達を助けに行きましょう。どのように、助けて欲しいんですか?」
 老人は、要望に似つかわしくなく幼く笑う。
「ハーフエルフって初めて見るけど、噂よりも親切なんだね。落とし穴はそんなに深くないんだ。でも、自力では這い上がれなくて。お兄ちゃんたちが引き上げてくれれば、みんな助かると思うんだ」
 ハーフエルフのファイターであるアザート・イヲ・マズナ(eb2628)は、ちょっと面食らった。だが作戦に支障が無いように、別の依頼で顔見知りの仲間につぶやいた。
「じゃあ、いつも通りの隊列で行こう」
 この仲間が全員顔をそろえるのは、初めてである。だが老人に気づかれたくないとのアザートの真意を察して、仲間たちは言葉すくなに並んだ。
 黒妖とアザートと華仙教大国出身の武道家である明王院浄炎(eb2373)、そしてレイムスが前衛を務める。
 そして神聖騎士のヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)、メイ、ビザンチン帝国出身のクレリックであるファルコ・ロッツォ(eb3392)が後衛になった。
 老人の案内に従って遺跡を進んでいくと、しばらくしない内に立ち止まって、10メートルぐらい先にある、床の穴を指した。
「ほら! あそこだよ」
 40に迫る歳だが背筋のしっかり伸びたファルコの体が、白く淡い光に一瞬包まれる。デティクトアンデットを使用したのだ。そして、老人にはばかることなく仲間に伝えた。
「アンデットが2体ともいる。準備を整えようか」
 冒険者は立ち止まり、レイス退治の準備を始める。浄炎は前衛を務める黒妖、レイムス、アザート、そして自分自身にオーラパワーをかけた。
 メイは、頭上に飛んで逃げる空間が確保されているか確認しながら、老人の様子を窺っていた。
 老人は、他の者の口が重いせいか、子供が注意を引くみたいに、しきりにレイムスへ話し掛ける。
「アンデットがいるの? みんな、そう言ってボクの仲間を見捨てて逃げちゃうんだ。ボクにはそんなの見えないのに。でもクレリックさんがいるなら、ボクの仲間も助けられるよね。しばらくは大丈夫だろうけど、ちょっと血が出てて、危ないかもしれないんだ」
 レイムスは律儀に、一言一言にうなずく。メイはその様子に心配になり、他の仲間に警告した。
「‥‥あのおじいさん、レイスと戦い始めたら暴れはるよ?」
 老人の目を気にしながら、浄炎がこくりとうなずいた。
「承知。牙無き者の牙、不動明王の浄炎が受け持とう」
 準備が終わると、警戒しながら落とし穴に近づいていく。すると、落とし穴からふわりと、半透明の姿が浮かび上がってきた。
 レイムスが態度を変えず、老人へ聞く。
「あれが助ける友人ですか?」
「あ、そうだよ。あれが、ボクの仲間だよ!」
「あなたの友人は自力で這い上がったが、未練の余り苦しんでいる、そろそろ楽にしましょう」
 前衛がレイスに迫った。
 武器を構えて前進する仲間に、老人は絶叫する。
「ボクの仲間になにするの!? やめて! 人殺しぃ!」
 しゃがれた声の幼い叫びに、冒険者たちは心を痛めた。
 ファルコは、叫びとともにレイスたちの顔に、老人を哀れむような表情が宿ったことに気がついた。
「なんと痛ましいことか。しかし神の名において、貴殿たちの苦しみは今日で最後になる」
 乱戦になれば、誤って落とし穴に落ちる可能性がある。そして、まだ崩落してない、落とし穴の蓋があるかもしれない。
 ひきつけて戦いたかったが、レイスたちも落とし穴から半身を浮かせ、様子を見ていた。
 黒妖が近くまで行って、身を庇いながらおびき寄せる。
 老人が、差し止めようと飛び出した。このままでは、黒妖が危険になる。
 浄炎が老人の腕を取り、前衛の後ろに押し留めた。
「主が現実から目を背け、弔ってやらぬから彼の者達は彷徨い続けねばならぬのだぞ」
「そんな。ボクの仲間は死んでないよ。だってあんなに仲良しだったんだよ。ボクを置いて死んだりするわけ無いじゃないか!」
 黒妖が無事にレイスをおびき寄せてきた。レイムスとアザートは黒妖が集中攻撃を浴びぬよう、後から来たレイスへ2人掛かりで攻撃する。
 レイムスはシルバースピアを構えて勢いを乗せて突きかかり、アザートはシルバーナイフを両手に構えて切りつけた。
 メイも高く飛び上がり、安全な位置からブラックホーリーで攻撃する。
「‥‥死してなお彷徨ぉとるんどす。一番苦しいんは、彼らやろ? ええかげんに眠らせてあげましょう‥‥」
 ヴァレリアとファルコは、黒妖が引きつけているレイスへ、コアギュレイトを試みた。
 しかし、最初の1回は2人とも、レイスに抵抗されてしまった。
 老人は、かつて仲間だったレイスに非常な愛着を持ち、冒険者を攻撃することすら厭わない。浄炎は、仲間の邪魔をさせないように捕らえ、根気よく正気を取り戻させようとする。
「このまま、死した友を浅ましき姿のまま留まらすのか」
 レイムスとアザード、そしてメイの攻撃は、1体のレイスを弱らせていく。
 ファルコの方が成功の可能性が高いと見て、ヴァレリアは傷ついた仲間をリカバーで回復させる。
「可能であれば、最後のとどめはピュアリファイでお願いします」
 ヴァレリアの訴えに、仲間たちは頷く。そしてファルコは、コアギュレイトを成功させ、1体のレイスを束縛した。
 手の空いた黒妖までが、残りの1体への攻撃に加わる。
 ヴァレリアもピュアリファイに入り、ファルコはもう一体にもコアギュレイトを試みる。
 老人は必死で、浄炎の手を逃れようともがいた。浄炎も、この大詰めで邪魔させてしまったら、レイスたちも浮かばれないと考える。
「苦痛から解き放ち天に昇らせてやる事こそ、そして弔ってやる事こそ主にできる最善ではないのか」
 弱ったレイスに、ヴァレリアが近づいていく。
「二度と彷徨わぬように、今楽にして差上げます」
 ピュアリファイが発動し、1体のレイスが浄化された。
 残った動けないレイスも、ファルコたちのピュアリファイで浄化されていった。
 老人は、茫然自失してへたり込んでしまった。
 メイが、落とし穴から遺品を引き上げようと呼びかける。レイスの元になった犠牲者を弔おうと考えていた冒険者たちは、協力して準備する。
 そのときである。老人が、なにを思ったか立ち上がり、落とし穴目掛けて走っていった。
「あ!」
 黒妖が、危ないから止めようと腕を伸ばした。しかし、老人は重いがけぬ力で前に進み、黒妖ごと落とし穴に落ちてしまった。
 突然のことに、仲間たちも心配して落とし穴を覗き込む。
 黒妖は大事無かった。しかし老人は、かつての仲間の遺骸に胸を貫かれ、致命傷を負っている。
 驚いた顔をして、黒妖を見上げていた。黒妖は、老人が自分の瞳に映る、老人自身の顔を見ているのだと気づいた。
 何十年もの時間が老人の中で駆け抜け、現実に追いついていく。遺跡に入る前の黒妖の説明や、戦闘中の浄炎の説明が、ようやく老人の魂に届く。
 老人は涙を溢れさせながら、かぼそい声でしきりに謝っていた。
「お姉ちゃんたち、ひどいこと言ってゴメンね。ボクの仲間を助けてくれてありがとう。ああ、みんなの声が聞こえる。みんなもありがとうって。ボクは、もういいから‥‥。ごめんね、みんな。ほんとにゴメンね」
 謝罪を繰り返しながら、老人は息を引き取った。
 冒険者は仲間を引き上げ、老人とその友達の遺骸を一緒に葬ってやった。
「‥‥せめて、明るいところで眠らせたらんとな‥‥」
 盛土を撫で、メイがつぶやく。レイムスは、複雑な気持ちを整理つけられずにいた。
「レイス退治だけならすっきりしますが、老人の方を、どのように助ければ良いか、自らの非力さを思い知るばかりです」
 アザートが、いつものそっけない態度で、3人の葬られた土を見下ろす。
「満足だった‥‥と思う。仲間を助ける冒険者をようやく連れてこられて、いまはこうして、一緒にいられるのだから。仲間は、いい。こうして狂えるほどの友人が作れて、そのために一生を費やしたじいさんの生涯は、他人はとやかくいうかもしれないけど、本人は、幸せだったと思う。すこし羨ましい‥‥」
 聖職者たちは彼らの魂の平安を祈り、遺跡の外の簡素な墓をあとにした。
 このように冒険者はレイスを退治し、老人に正気を取り戻させて、悲痛な繰り返しに終止符を打ったのであった。