●リプレイ本文
冒険者を狙う悪いバグベアが居る。
ヴィスコ・ヤンセンは、その犠牲者へ会いに行き、バグベアの武装具合や罠の存在を聞き出した。
そして、旅立ちの準備を終えた神聖騎士のアルディナル・カーレス(eb2658)に伝える。
「ゴブリンだと思って行くとバグベアが4体も居ることが、罠みたいなもののようだ。猪頭では、それぐらいが限界なのだろう」
アルディナルは真面目に報告したつもりだったのだが、一緒に組む予定の七神蒼汰(ea7244)は、冗談だと思ったらしく笑った。
「猪頭か、それはピッタリだ。バグベアか‥‥ジャパンではなんと言うんだったかな?」
「いや、知らない。作戦に必要だろうか」
あくまでクールに聞き返すアルディナル。蒼汰は気にするなよとでもいいたげに、肩をすくめた。
「足手纏いにならぬよう頑張らせて貰うよ」
「よろしく頼む」
二人は固い握手を交わして、目的の村へ向かった。
村では、先に一度冒険者が退治されているせいか、一行が来ても喜びよりは心配を表に出す。
そして申し訳なさそうに、ゴブリンが挑発を続けていると告げた。しかし、奥にはもっと強い怪物が居るみたいだから、自信がなければ帰っていいとも言う。
態度を見ると退治して欲しそうだが、善意の冒険者をひどい目に合わせてしまったことに、深く罪悪感を覚えている様子だった。
シフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)が、村人の心配を吹き飛ばすように、元気に歌う。
「冒険者ハンター、オーガ達の間では、ヒーローなのかな? でも、冒険者だって負けてられないよ〜、向こうが、冒険者ハンターなら、こっちは、オーガハンターだよ。どっちが強いか、お互いの意地を掛けた決戦だね。ララ〜♪」
呆然とする村人とは違い、夢想家で箱入り娘のナイト、リースフィア・エルスリード(eb2745)は、メルシアの歌に想像をたくましくして、盛り上がる。
「返り討ちにした冒険者を散々愚弄した‥‥むむむ。普通なら止めを刺すなり、その場に放置したりするのに‥‥。はっ! もしかすると、あのバグベアたちは私たちを試しているのかも。オーガ種にはいろんな性格の者がいるといいますし、あのバグベアも自分より強い人を探しているのでしょう。俄然やる気が出てきました。私もまだまだ未熟ですので期待にこたえられるかわかりませんが、ここは一つ、胸を借りるつもりで行きましょう!」
「素敵です! リースフィアさん。私、リースフィアさんとバグベアさんの美しき師弟愛を、きっと素晴らしい歌にしますっ!」
手を取って際限なく想像を膨らませる2人に、村人も気持ちが楽になってきたようだ。
ひとしきりおしゃべりを終えると、メルシアは偵察しにゴブリンへ向かった。
ムーンアローでつっつくと、ゴブリンは待ってましたとばかりに逃げ出していく。しかし、メルシアから離れすぎないようにときおり立ち止まった。メルシアは、ゴブリンには疑われず、仲間を振り切らない速度で、森を進む。
後続は、バグベアが現われたら対処できるよう、隊列を組んでメルシアの姿を追っていく。
左翼はアルディナルと蒼汰。右翼は神聖騎士のユーネル・ランクレイド(ea3800)とファイターのファーラ・コーウィン(ea5235)。
それぞれがバグベアを孤立させられるように、リースフィアとジャパンの浪人である光城白夜(eb2766)が遊撃体勢をとっていた。
もっともリースフィアは、バグベアに一騎打ちで胸を借りるつもりであったが。
ファーラは顔見知りのユーネルと組むことになったので、挨拶する。
「ユーネルさん、お久しぶりね。頑張ってバグベア倒しましょうね」
「お、あれからもう半年以上にもなるのか。よし、俺とお前で一匹を仕留めちまおう。ちょっと年食ったペアだが、若い連中にベテランの戦い方を見せてやろうや」
「ふふふ‥‥退治依頼なんて久しぶり。私の剣がまだどれだけ通じるか、楽しみだわ」
古馴染み同士の、穏かな親しさが交わされる。そうしている内に、ついにバグベアが現われて、メルシアの前に立ちはだかった。
彼らは雄たけびやポーズを取って自分たちを印象づけようとしているが、冒険者は承知で来たの驚きもせず、黙々と作戦を遂行した。
アルディナルは怖気も勇みもせず、バグベアを品定めする。
「さて、一番強そうな奴はどれかな?」
これと決めたバグベアに近づくと、他のバグベアを牽制するような位置を取って、蒼汰がついてきてくれる気配を感じた。
「信頼できる仲間がいる。背中を気にせず闘えると言うのは、騎士としての名誉以上に喜ぶべき事だな」
ハルバードの重量を利用して、強烈な一撃を見舞う。
続けざまに蒼汰が、距離に気をつけてエスキスエルウィンの牙+1で掠めるように斬りつけた。
ユーネルたちは、アルディナルが選ばなかった方のバグベアに向かう。
「お。悪りぃ、ファーラ。10秒だけ時間作ってくれねえか」
ファーラは黙って、バグベアの前に進んだ。
臨戦体勢だが、背筋を伸ばし、油断の無い足捌きで前進する。
猛るバグベアが獲物を振り下ろすが、ひらりとサイドステップでかわす。そしてユーネルに注意が向かないよう、正面に戻り流れるような剣捌きで攻撃した。
バグベアの後衛と冒険者の遊撃担当は、接敵しようと左右に展開する。
すると、ユーネルのダークネスが発動した。
後衛を巻き込んで、バグベアの居る一帯が闇に包まれた。これでバグベアたちは、仲間たちの状況がわからなくなる。
ユーネルは、バグベアのいた辺りをクロスソードで横薙ぎにする。
「ほらほらバグベアさんコチラ、手の鳴る方へ」
猛って飛び出してくるバグベアだが、相手がファーラからユーネルに代わってしまっていて戸惑っている。
ファーラは打ち合わせ通りバグベアの背後に回って、ダークネスから飛び出してきたところを、挟み撃ちにした。
戦闘の気配に、後衛のバグベアがこけつまろびつ飛び出してくる。
待機していたリースフィアは、崇高な思いでバグベアの胸を借りに行った。
「えっと‥‥がんばります!」
そしてえいえいと、堅実に攻撃する。バグベアが際どい一撃を繰り出してくると、剣で受けた。
アルディナルの左翼も、蒼汰との連携でバグベアを押していた。
最後の後衛がダークネスの範囲から飛び出してくるが、邪魔をできないよう白夜が抑えにいく。
白夜は剣先を揺らしバグベアに間合いを取らせない北辰流の太刀運びをする。
そして多様な手数から踏み込んでは切り、退いてはかわすのを繰り返し、バグベアに地道に傷を与えては、自分へ注意をひきつけていた。
「‥‥‥‥」
(「ポーションもあるし、仲間が倒せるまで何とかもちそうじゃん。もし、一人で倒せたら快挙なんだけど、っとと。いけねえいけねえ。力まず、油断せずだぜ」)
白夜がそうやってバグベアを引きつけている間に、ユーネルたちがバグベアを追いつめた。
バグベアのダメージが蓄積し、最期が近いと判断した蒼汰は、刀身を隠してバグベアを戸惑わせ、抜刀ざまの一撃を繰り出した。
「夢想七神流奥義、霞刃(かすみやいば)!」
バグベアは避けることもままならず、蒼汰の一撃をまともに受ける。
活路を見出そうとしゃにむに攻撃するバグベアに、ユーネルはわざと隙を見せ、体勢が崩れた時を見計らい、より重い強打を与える。
ついにバグベアは膝をつき、起き上がらなかった。アルディナルも、一息つく。
「あまり冒険者を嘗めない事だ」
加勢しようと白夜と戦っていたバグベアは、冒険者の方に加勢が来てしまったので転進する。蒼汰はその背に声をかけた。
「これに懲りたら村には近づかぬ事だな」
同じ頃、ユーネルのほうもバグベアを降しつつあった。
バグベアは2対1ではさまれてしまい、狼狽している。ファーラはその無防備な背中に、ロングソードを突きたてた。
「これで‥‥お終いよ!」
バグベアは、情けない声をあげて絶命した。
「他のバグベアの様子はどうかしら?」
ユーネルはアルディナルのほうを覗き、片づいたことを伝える。ファーラはリースフィアに声をかけた。
「みんな! 大丈夫!? 怪我は無い?」
「これは、一騎打ちですから。ひい〜、よい修行になっていますー」
リースフィアは、あくまでも一騎討ちのつもりらしい。しかしバグベアにそんなことがわかろうはずも無く、前の仲間が倒れ、後ろでは別の仲間が逃げ出しているのを見て、算を乱して逃げ出した。
「勝ちました!」
リースフィアの勝利宣言に、残りのバグベアがリースフィアの相手1匹になったときからはムーンアローを控えていたメルシアが、喝采を贈る。
「やった! 噂の冒険者ハンターを倒した、オーガハンターの誕生です!」
2人は手を取り合って、勝利を喜び合った。
様子を見ていたゴブリンは、頼みのバグベアがいなくなってしまい、困ったように冒険者を見てる。
ファーラは、ゴブリンが怖がって2度と悪さをしないよう、恐い声で言った。
「もう、バカになんかさせないわよ」
ゴブリンは、警戒するがまだ見つめている。ユーネルが肩を叩き、フィーナの代わりに前に出た。
「ギシャーーー」
そして威嚇の雄たけびを発し、剣を大上段から弧を描いて振り下ろし、地面に打ち込む。
ゴブリンは驚いて、風を食らったように逃げ出していく。
「正義は勝つっ!!」
逃げ出していくゴブリンたちを、仁王立ちで見送りながら、ユーネルは勝ち誇ったのだった。
かくして冒険者バスターは退治され、これで初心者も安心してゴブリン退治にいけるようになったのであった。