迷惑な隣人

■ショートシナリオ


担当:鹿大志

対応レベル:1〜4lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月05日〜05月10日

リプレイ公開日:2005年05月14日

●オープニング

 面倒というものは、それが小さいうちに処理してしまえば、えてして解決も容易なものだ。
 キャメロット付近の村で、しばらく前に若々しい(報告にそうあったのだ)ゴブリンのカップルが、近くの洞穴に入っていったそうだ。
 そのときは手間を惜しんで放置していたのだが、近日、メスのほうがすっかりたくましくなって、洞窟に近づく存在に唸り声を上げて威嚇している。
 オスの方はそのままで、彼女の命令に従い、エサを探しにあくせくと徘徊している。
 それもそのはずで、彼女は子供を3匹も作り立派な母になったのだ。
 これが人間の隣人となればおめでとうの一言も伝えるのだが、ゴブリンであるからそうもいかない。
 子供たちもかわいいと言うよりは‥‥もうすっかり立派なゴブリンで、畑は荒らす、家畜は盗む、庭には排泄物を落としていく。
 もっと兄弟が増えてくれば、子供をさらっていじめ殺したり、家屋に火をかける事だってし始めるかもしれない。
 追いかけてもすばしっこく洞窟へ逃げてしまう。そして洞窟の入口には、恐ろしい形相でゴブリン・ママが威嚇しているのである。
 たかが一家族と見逃していれば、やがて子は子を産み、孫が孫を作り、この近辺は人間の村ではなく、ゴブリンの巣穴として知られるようになるだろう。
 早急な対処が求められている。断固とした処置が必要だ。追い出しただけでは、別の村が困ることになるかもしれない。
 誰かがこの、迷惑な隣人を退治してはもらえないだろうか。

●今回の参加者

 ea2710 アーヴィング・ロクスリー(45歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6000 勝呂 花篝(26歳・♀・浪人・パラ・ジャパン)
 ea6966 アンノウン・フーディス(30歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8984 アレクサンドル・ロマノフ(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0932 ラズウェート・ダズエル(41歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2045 アズリア・バルナック(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 村についた冒険者は、ゴブリンの活動範囲を調査していた。
 エルフのウィザードであるアディアール・アド(ea8737)は、ドレスタットから春の陽気に誘われて足を伸ばしたこの地で、春先に咲きほころび始めた花をさっそく手にした。
「ふむ、このあたりではこの季節にこういう花が咲くのですか。興味深いです。そのうち、ケンブリッジにも足を伸ばしてみましょう」
 私的な興味に感心していると、真面目に調査している同行者からジト目で見られてしまう。
 アディアールは改めて、グリーンワードを発動し、ゴブリンの活動範囲を訊ねて回った。
 他の者なら退屈で根気のいる作業だったが、植物と親しむアディアールは嫌気も見せず、むしろ楽しんでいた。
「やはり、夜に洞窟へ追い込むのが一番のようですね。その時間なら、パパも中にいるようですし」
 アディアールの案内に従って一同は洞窟の見える位置まで進み、レンジャーのアーヴィング・ロクスリー(ea2710)は弓を携えて樹上へ登った。
「前に出れなくてすいませんね。接近戦は苦手なもので」
 前衛を務める女性陣に声をかける。
 アズリア・バルナック(eb2045)と勝呂花篝(ea6000)は顔を見合わせると、アズリアが返事をした。
「そんな事までされてしまったら、わたくしたちの仕事が無くなってしまうわね」
 3人は微笑みあい、担当個所についた。
 パーティは子供たちも逃がさないようにするため、息を潜めて夜が来るのを待つ。
 女性でありながらナイトでもあるアズリアは、まるで自分を駆り立てるかのようにつぶやいた。
「領民の安寧を考えれば、居住地に近いゴブリンは根絶やしにされなくてはならないのよ」
 アズリアの思いつめるような真剣なまなざしにも関わらず、ジャパン出身の浪人である花篝は、突然ペロンとお尻をなでた。
「キャッ」
「あはは〜、アズリア様のお尻はいい形ですね〜♪ たかが小鬼退治ですよ。自分から、ゴブリン一家惨殺なんて、やな事言っては駄目です♪」
「惨殺なんて言ってない」
 同性でなければ決闘を申し込まれても不思議ではない無礼だったが(ちなみ花篝は同性愛者だ)、アズリアには惨殺という言葉のほうが注意を引いたようだ。
 二人の仲のよさそうなじゃれあいに、ハーフエルフのウィザードであるアレクサンドル・ロマノフ(ea8984) が参加した。
「でもアズリアさんの気持ちもわかるんだよねぇ。目的はゴブリンママの退治だけど、子供もパパも残らず退治した方がいいよねぇ。それでもなんか、すこし考えちゃうよねぇ」
 アレクサンドルの言葉に、アズリアは言葉とぎらせて考える。そのとき、頭上のアディアールから声がかけられた。
「最後の子供が入りましたね。始めましょうか」
 言葉が終わるやいなや、アレクサンドルは子供を出迎えたゴブリン・ママめがけてグラビティーキャノンを放った。高速詠唱を利用しての2連射が、立て続けに炸裂した。二匹はまとめて転倒してしまい、地面にうずくまっている。
「どぶ臭えゴブリンどもめ。母親にそのガキ3匹、残りはだらしねぇオスが1匹の合わせて5匹か。後腐れの無いように家族そろってミンチにしてやるぜ。ふははははははははは」
 アレクサンドルの豹変ぶりにアズリアはもちろん花篝も呆気に取られた。
 しかし、ラズウェート・ダズエル(eb0932)とアンノウン・フーディス(ea6966)の師弟コンビも攻撃を開始した。
 噂どおり、子供に危機が及んだゴブリン・ママの形相はすさまじく、手強い敵になりそうだ。子供の方も、続柄以外はもう子供でもなく、性格の悪そうな目で襲撃者たちを油断なく見ていた。奥から、兄弟と父親が出てくると、包囲しようと奇声をあげながら散開する。
 しかし、ラズウェートも凄惨を越えて狂気に差し掛かった笑みを浮かべると、弟子のアンノウンに言った。
「フード君との強き師弟の絆、鬼どもに見せてやろうではないか!」
 一応師匠扱いはしているが、敬意もなにも持っていないアンノウンは言葉を捜す。
「‥‥私達の何処に『強き絆』などあるんだ?」
「それは戦いに入ってからのお楽しみだ!」
 皮肉を言ったつもりだが、ラズウェートに微塵も応えた素振りは無い。惑い無しである。
 頭痛を覚え、こめかみを押さえた。数秒の思考の後、付き合っていたら同類に思われるのではないかという不安がよぎり、話題を変えることにした。
「母ゴブと父ゴブの行動に注意だな。子供を失った親の怒りは計り知れないものと聞く」
 そうは言ったが、アンノウンは親子の絆というものが、知識としてはあっても実感としては知らないことに気づき、自嘲気味に付け足した。
「‥‥親子の情、か。私には無関係なものだ」
「そんな事はないぞ、フード君! 君には私という立派な父がいるではないか」
 慈父のような表情で微塵の疑いも無く抱擁しようとするラズウェートに、アンノウンは素で怖気を覚え、裏拳を見舞っていた。
「‥‥おぶっ!」
 見事に喰らって、ラズウェートは後ろに吹っ飛ぶ。
 冒険者のパーティ、最初の被害である。
 しかし拳の一発や二発では、ラズウェートの考えを矯正できるとはすこしも考えられなかった。このまま放置していたら、親子にも似た師弟関係というのを、既成事実として接してこられるかもしれない。しかも、ラズウェートに考えを変えさせることなど、ジーザス様でもかなうまい。
 師が父だったら私は遠慮なく家出させてもらう。そして二度と帰らん。
 だとすれば、回答はひとつだった。
 一刻も早く解決しなくてはならない!!!
 ウインドスラッシュに、複数を巻き込むようにトルネードも発動する。
 魔法を打ち始めると、ラズウェートもそちらに興味が移ったようだ。定番のウォーターボムを楽しそうに投げつけ始める。
 思いのほか手強いと判断したのか、ゴブリン一家は洞窟内へ撤退した。
 軽装になって気を取り直したアズリアと花篝は追撃した。
 ゴブリンの最後部を守るのは、ゴブリン・ママである。
「我が名は黒き獅子の魂を受け継ぎしバルナックの騎士アズリア! 我が獅子の牙を恐れぬのならかかってくるがよい!」
 ママは受けて立つように咆哮する。
 アズリアは間合いを見計らい、パートナーへ合図した。
「ゆくぞ花篝! 1、2、3‥‥いまだ!!」
「奥義・獣王奏牙斬 改。敵がゴブリンだけに、御武運を♪ チュッ」
 投げキッスと一緒に、花篝のショートボウから2本の矢が同時に放たれる。
 思いがけない曲射ちに、ゴブリン・ママの動きが一瞬止まった。その隙を逃さず、アズリアのチャージングが捉える。
 重さと勢いの調和した一撃が、ゴブリン・ママを打ち倒した。
 ママの敗北に、ゴブリン一家は壊走する。残るは4匹。洞窟内に入った追撃者も、アズリア、花篝、ラズウェート、アンノウンの4人。
 アズリアは、ゴブリンの子供の一人に追いついた。
 結果のわかりきった一撃が決まる寸前、命あるもの全てに情けをかける優しい義弟のことが頭をよぎった。
 あろうことか、外しようのない一撃は岩壁を叩いた。背を見せて逃げるゴブリンの背中を、追い立てて貫くことはたやすかったが、足が動かなかった。
 麻痺したように動かなくなったアズリアを心配して、既にノルマを果たした花篝が駆け寄る。
「なにかあったの?」
「‥‥気が変わった。‥‥今日は気分が乗らぬ。後の処理はやりたい奴がやるがよい」
「‥‥アズリア様、優しいから」
 思いがけぬ指摘に、アズリアは困惑した。
「この私に‥‥優しさなどあるはずがない。私は甘くなど‥‥」


 洞窟の外で、仲間の帰りが遅いことにアレクサンドルが首を傾げていた。
「普通にやりゃあまず負けるこたぁねぇだろう。なににてこずってやがる」
 アディアールもうなづいた。
「とても、とても意外なことです。大変興味深いです。のぞきに行ってみましょうか?」
 アディアールが無警戒に進みだしそうになったとき、樹上のアーヴィングから注意が飛んだ。
「しっ。誰か出てくる。子供ゴブリンだ」
 梢の間から、弦を引き絞る音が聞こえる。歯の間から息の漏れるような音を立てて、矢が放たれる。アーヴィングのシューティングポイントアタックの研ぎ澄まされた狙いが、違わず鏃を子供ゴブリンの眼窩に埋め込ませた。
 子供ゴブリンは驚きの声のあと2、3度引き抜こうと努力し、眼球ごと引き抜いてしまうと倒れて二度と起き上がらなかった。
 その後で、ようやく追撃に入った仲間が洞窟から出てくる。
 数を足し合わせると、掃討は成功したようだ。不安に怯えていた村人の喜びようは大変なもので、旅程にかかった保存食を補填してくれた。
 これでこの村は、ゴブリンの巣穴などではなく人間の居住地として、これからも平和に暮らせるだろう。
 迷惑の隣人はいなくなったのだ。