欠歯と疵耳
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■ショートシナリオ
担当:鹿大志
対応レベル:1〜4lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月05日〜05月10日
リプレイ公開日:2005年05月13日
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●オープニング
仲の悪いホブゴブリンがいて、しょっちゅうケンカしていた。
欠歯と疵耳というあだ名の原因も、そのケンカの果てにできたものだった。
彼らは、あだ名では判別できなくなるまで戦い合うかとも思われたが、協定を結ぶことにした。
友情が生まれたわけでは決してない。殴るのはいいが、殴られると痛いと言うことにようやく気づいたのだ。
彼らはお互いに殴りあう代わりに、殴り返して来ない者をどちらが多く狩れるかで、ケンカの勝負を決めることにした。
味方は2人までという取り決めに従って、平和に生活している村人に襲い掛かったのだ。
何度やっても、負けたほうが再戦を申し込んで悲劇は止まらなかった。
彼らの争いが原因で、ついに罪の無いイギリス人に死傷者が出てしまった。
怪我人も欠歯と疵耳に追われるように、キャメロット近くの村へ避難してきている。
しかし欠歯と疵耳は、次の競技場をその村にすることに決めたようだ。
彼らのケンカの原因は知らないが、調停や説得など生温い。
迷惑だから、永久ケンカなどできないようにしてあげなさい。
●リプレイ本文
欠歯と疵耳と呼ばれる卑劣なホブゴブリンのケンカに、罪の無い村人が犠牲になった。
この痛ましい犠牲は正義感に溢れる冒険者の怒りに火を着け、彼らは馬を駆って迅速に件の村へと駆けつけた。
いち早く到着したユパウル・ランスロット(ea1389)、レイムス・ドレイク(eb2277)、エカテリーナ・アレクセイ(ea5115)は、村人たちから状況を聞き、ホブゴブリンたちの襲撃方向を知る。
仲間たちの到着を待ちながら、落とし穴やかがり火などを用意した。
集結が済み準備が終わると、彼らは作戦の再確認をした。
今回が初冒険であるシフールのバード、メルシア・フィーエル(eb2276)はすこし興奮しているようだ。琥珀色の瞳をきらきら輝かせ、頬を紅潮させている。
「これが私の初冒険、ゴブリンなんて、あっさり倒して、歌で大儲けするぞ〜」
陽気さと快活が、怒りに張り詰めていた仲間の緊張を、いい感じにほぐしたようだ。これからどうなるかはわからないが、バードとしての初仕事は大成功といえるだろう。
心配する仲間にも『足には自信が有るし、魔法も便利だから、囮は任せてね』と、気楽に手を振ってみせる。
そのとき、咆哮が聞こえた。
狼や野犬ではない。ホブゴブリンたちの襲撃が始まったらしい。叫びは2方向から聞こえた。冒険者たちはかねてから決めていたように、別個に建てた陣地に分かれ、かがり火に火をつけた。
メルシアはエルフのファイターである月紅蘭(ea1384)とだけ残り、近い方のホブゴブリンをひきつけるべく空を飛んだ。
月明かりを浴びて、シフールの四枚の羽根がはためく。ホブゴブリンもそれを認めたようだ。叫び声と足音が近づいてくる。
メルシアは準備した落とし穴の地域へ誘導すると、一番最初に目についた敵に魔法をかけた。
「いっくよ、シャドゥフィールド」
魔法は成功し、あたりは一切の光を通さない真の闇に包まれる。
ゴブリンたちは右往左往し、落とし穴に引っかかって七転八倒する。さらに視力に頼らないムーンアローが、メルシアからちくちくと投げかけられた。
ここで如何に時間を稼げるかが、今回の作戦の要だった。
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もう一方のゴブリンたちを、馬に乗った一隊がかがり火の側で迎え打とうとしていた。ここはまた、ウィザードのレイストール・ロクスリー(ea6976)が守る陣地でもある。
レイストールは、左耳にチーズの切り口のような疵があるホブゴブリンを認めると、魔法の射程内になるまでひきつけた。
プラントコントロールを草にかけて、足止めする。
これで抵抗されれば仲間と合流するまでストーンウォールなどでしのがねばならなかったが、効果は現われた。
手下のゴブリンも、リーダーの疵耳を気にしてうまい具合に突出する。レイストールはこのチャンスを逃がさなかった。
「吹き飛べ、下衆共!」
グラビティーキャノンが発動して、直線上に射程が取れた手下のゴブリンもろとも、疵耳に命中する。手下たちも転倒して、よい先制になった。
そしてこの隙に、騎乗した仲間たちもたどり着く。
漆黒の鎧に身を包んだ神聖騎士であるユパウルが、立ち直る隙を与えずブラックホーリーを放つ。かがり火の照らす中を黒い光が蛇のように伸び、疵耳を打った。
たたみかけるように、ハーフエルフのナイトであるレイムスが襲い掛かった。騎乗からロングソードを高々と掲げて、振り下ろす。
「鼻っ柱をへし折ってやる、ソードボンバープラス」
剣圧が扇状に広がり、ゴブリンたちを打ちのめした。
ゴブリンたちは、これでもう戦意を失い疵耳を見捨てて逃げだそうとする。
「外道に情けはいらない、きっちり叩きのめす」
騎乗の優位があるレイムスは、逃げるゴブリンに継戦を強いて切り殺した。
もう一匹には、ユパウルが追いすがった。
「非道なやつらだ。許してもらえるなどと微塵も思うなよ」
しかし、馬上からのショートソードは、キィキィと悲鳴をあげながら身を丸めて逃げようとする小柄なゴブリンを、捕らえることは難しかった。しかし、ユパウルの武器はショートソードだけではない。再びブラックホーリーが放たれ、ゴブリンを死ぬまで打ちのめした。
「貴様らには、神も情けをかけなかったようだな」
疵耳には、男装の神聖騎士であるエカテリーナが向かった。
疵耳は、相手が女だと思ったことからか、馬鹿にしたように口端を吊り上げる。
ただでさえホブゴブリンの行状へ怒りを募らせていたエカテーリナは、あらかさまな侮りに憤った。彼女は女であり、騎士だった。
マントを翻してショートソードを抜き放ち、怯える馬を捨てて切り結んだ。
ゴブリンよりは手強いといえど、エカテリーナの優勢は明らかだった。なぜ女などにという釈然としない気持ちが、疵耳の顔に浮かんでいた。
エカテリーナはこの外道に通じるかどうかはわからなかったが、一応騎士の礼に則って宣告した。
「我の剣は我と我が盟友を守るための剣 。蛮勇にて奮われる凶器とは違うのです」
通じなかったのは言葉か心か。疵耳は苦し紛れの大振りを繰り出してきた。
エカテリーナはなんなくかわすと、武器を交差させるように突き返した。柄のすぐ上まで刀身が喉に埋まり、疵耳を絶命させる。
「お見事!」
馬が逃げないように引き止めていたレイストールが、疵耳を仕留めたエカテリーナに喝采を贈った。
すこし遠くのうす暗がりから、ユパウルの声が聞こえる。
「獲物は仕留めたか? ならこのまま、メルシアの元へ向かおう」
呼びかけに、エカテリーナもレイムスを同じ馬へ引き上げて走らせた。
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欠歯たちはシャドゥフィールドの範囲を抜け出していた。
欠歯ともう一匹のゴブリンはメルシアがうまくひきつけていたが、ゴブリンの一匹が紅蘭に向かい迫っていた。
弟子の危機を認めたユパウルは、そちらへ向かう。メルシアには、レイムスが向かった。
「メルシアさん、助けに来たよ。ゴブリンども、騎兵隊のお出ましだ」
エカテリーナの駆る蹄の音が、それに続く。
飛び続けだったメルシアは、レイムスの頭に腰掛けて一息ついた。
そのとき後方から、キャンという悲鳴が上がる。
ユパウルと紅蘭の師弟が、早々にゴブリンを一匹仕留めたらしい。
欠歯は、ゴブリンと顔を向き合わせると、逃走を試みた。
「疵耳! 勝負は今度だ。また別の手下を捕まえたら再戦しよう」
同族にも無慈悲な欠歯の言葉に、エカテリーナが激昂した。
「命を何だと思っている。命を物として扱うものには同等の報いをくれてやる」
メルシアが再び飛び立ち、空から逃げる敵の位置を補足した。レイストールがプラントコントロールで逃走を阻害する。
そして追いすがるエカテリーナとレイムスに、止めを刺され、2匹のケンカは永遠に終わりを告げた。
欠歯と疵耳が死んだことにより、追い立てられていた村人たちは、ずっと続く安心を得た。
そして、これらはもう必要ないからと、行きにかかった分と帰りの分の保存食を補填してくれた。
冒険者たちは、安堵した村人の別れを惜しむ声を背中に浴びながら、仕事の報告をしにギルドへ向かった。
メルシアはその途上、成功に終わったこの冒険をどんな歌にしようか、ずっと考えることに忙しかった。