揺れる鳥篭

■ショートシナリオ


担当:鹿大志

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2005年06月11日

●オープニング

 キャメロット近郊にある、悪趣味な貴族の別宅に最近買い手が見つかった。
 購入者は若い夫婦で、新居を探している際に、この破格の屋敷に目をつけたらしい。ここの元所有者であった貴族は、人をさらってきては死ぬまで痛めつけるという悪い趣味があって、善き冒険者に退治された。遺族への見舞金代わりになるかもしれないと、取り壊されずに売りに出されていたのである。
 屋敷には地下室があって、そこには(中身ごと)号もうん用具一式が揃っていた。内側に棘のある棺桶や、内側に棘の突き出た金属製の鳥篭(当然、人を入れるのだが)などだ。夫婦はこの鳥篭がひとりでに揺れるのを不思議に思い、高く売れるのではないかと古物商を招いた。
 商人が鑑定しようと檻を開けたとき、中の骸骨が動き出し、捕まえてくびり殺してしまった。
 遺体は、元貴族への恨みから、スカルウォーリアーとして蘇っていたのだった。
 夫の方は命からがら逃げ出したが、妻の方は捕まってしまった。その日から、貴族が戻ってきたかのように、屋敷の中から甲高い悲鳴が聞こえるようになった。亡者は復讐に、妻を拷問しているのだろう。瞳も脳も無い彼には、もう相手が貴族か別人かの区別はつかないのだ。
 見込みは薄いが、亡者がもし拷問のやり方に慣れていた場合、奥方は助かる可能性がある。万が一にもし救い出せれば、夫が報酬をはずんでくれるだろう。
 そうでなくても、あの呪われた屋敷を取り壊すには、スカルウォーリアーを排除しなくてはならない。鳥篭は今も揺れ、血を滴らせているのだから。

●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1644 ヒンメル・ブラウ(26歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb2276 メルシア・フィーエル(23歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 若夫婦が購入した新居には、スカルウォーリアーというとんだ置き土産があった。
 夫は命からがら逃げ出したものの、妻は捕らえられ拷問を受けている。
 苦境の新婚夫婦を救おうと、キャメロットより冒険者がやってきた。
 シフールのバードであるメルシア・フィーエル(eb2276)と華仙教大国出身の武道家である明王院浄炎(eb2373)は、なんと夫を連れてきていた。
 捕らわれの妻と一刻も早く再会させてあげたいと言う親切からだったが‥‥。
 甲高い悲鳴が屋敷から響き渡る。まだ外観を眺める距離だというのに、連れて来た夫は耳を塞いでしゃがみこんだ。
「うわー。こわいよ〜!」
 黒髪に黒衣の姿に、髪に差した赤い花が映えるヒンメル・ブラウ(ea1644)は、身勝手を通り越して情けない夫の姿に、あきれた声をあげた。
「いまの悲鳴は、キミの奥さんだよね? 普通心配するもんじゃないのかな。怖いっていったら僕だって‥‥」
 お化けは怖いといいかけて、仲間の視線に気づいたヒンメルは、ゲフンゲフンと咳をしてごまかした。
 耳を塞いでいて聞こえなかったか、それとも聞かないために耳を塞いでいるのかわからない旦那は、ヒンメルの言葉にもしゃがみこんで震えつづけた。
 メルシアは琥珀色の瞳を優しく細めると、なだめるように語り掛ける。
「危ないことを、して欲しいわけではありません。旦那さんの身は必ず護ります、苦労を分かち合った奥さんの為に、側に居て下さい」
 メルシアが聖母のような優しさで慰めたとするなら、浄炎は慈父のごとき威厳で励ます。
「奥方は置き去りにされ不安であろう、貴殿も心病んでいるのではなかろうか? 我等が敵を排除するまで、安全な場所にいて頂ければよい。新居での新しい生活を夢に見て、お互いにより一層育まれる絆に胸躍らせていたのではなかろうか? そんな折、夫に逃げられた奥方とすれば、心細さの余り見捨てられたと誤解するやもしれぬのだぞ」
「そ、そうでした。僕は妻を捨てて逃げたんじゃない。僕にはどうにもできなかったから、助けを呼ぶために」
 夫はアンデッドのように青褪めていたが、冒険者の先導に従ってふらふらとついていった。
 冒険者たちは、中庭で一度止まる。ぽけぽけ浪人の倉城響(ea1466)が、長槍「山城国金房」を杖代わりにもたれて、足を止めた。
「由来を聞けば、スカルウォーリアーさんも、気の毒な犠牲者なんですよね」
「え! いきなりなんですか。ここまで来て、やめるというのですか?」
 狼狽する夫にも響はマイペースを崩さず、にっこりと微笑む。
「そういうわけじゃないんですよ。無念な気持ちは判りますが、今生きている者の命が第一ですからね。若い奥さんを助け出す為に私の持てる力の全てでお相手しますよ。ええと‥‥なんで私は立ち止まったんでしたっけ?」
「僕にはわかりませんよ」
「そうですよね。あ、思い出しました。スカルウォーリアーを2体同時に相手するのはしんどそうですから、ここまでおびき寄せて迎え撃つんですよ」
「そ、そうですか‥‥」
 響のペースに、夫はすっかり毒気を抜かれたようだ。
「と言うわけで、浄炎さん、フォーレさん、よろしくお願いします」
 響に名を呼ばれ、浄炎と、レンジャーのフォーレ・ネーヴ(eb2093)は、屋敷の地下室へと向かった。
 浄炎は、フォーレの身を案じて話し掛ける。
「作戦とはいえ、フォーレにはしばらくひとりで1体をひきつけてもらわねばならんようだ。大丈夫か」
 ヒューッ、と、フォーレは気楽に口笛を吹いた。
「どうなのかな? ま、うまくやるよ」
 扉の前まで来ると、優れた浄炎の聴覚は、金具の軋む音と、なにか水滴が落ちるような音を聞きつけた。敵が中にいるのを確信して開けると、金臭い血の匂いが鼻腔をつく。
 2体の骸骨が、赤いドレスを着た女性が押し込められた鳥篭に、取りすがるようにもたれている。
 骸骨は侵入者に首を向けると、立ち上がった。スカルウォーリアーだ。
 下顎を笑うようにカタカタと鳴らすと、鳥篭を一押しする。揺れて軋むと、中でぐったりしていた女性が悲鳴をあげ、赤い液体が籠の下へ滴った。
 あまりの光景に、さすがの浄炎も激昂する。
「拷問したいのは俺であろう!」
 檻を押したスカルウォーリアーが近づいてくる。しかし、もう1体は取りすがったままだ。
 フォーレは銀の礫をスリングに込めると、拷問室に残っているスカルウォーリアーめがけて投げつけた。
 ひゅんと空気を裂く音がして、銀の塊がカコーンと当たる。残っていたほうもフォーレを捕まえようと迫ってきた。
「拷問したいなら捕まえてみなよ♪」
 注意をひきつけるのに、2人は成功した。そして、浄炎は仲間の待つ中庭へ、フォーレはなるべく長い間追い回させるために、屋敷の中へと走り出した。
「来たみたいだね。やっぱり、ぞっとしないなあ」
 ヒンメルが、見たままの感想を素直に述べる。ん? と振り返った響の視線に、なんとはなしに言い訳してしまった。
「遊軍として全力を尽くさせてもらうよ」
「はい。では私は、前衛として務めさせていただきます。はっ!」
 気合一閃。手早くスカルウォーリアーの攻撃力を無くしてしまおうと、前腕部を切り離そうと槍を繰り出す。
 しかし、敵は骸骨の体のせいか、穂先はスカスカと突き抜けてしまって有効打を与えられない。
「あら?」
 仲間の攻撃が始まったので、浄炎も足を止め、オーラボディを発動させた。振り返って、スカルウォーリアーに立ちはだかる。
 メルシアも、同席している夫の気持ちがくじけないよう、勇ましく歌いながら、ムーンアローで攻撃した。
「例え如何なる障害でも〜、天よりの助けが舞い降りる。側に居るのは勇気を秘めた5人の戦士〜、必ず化物を討ち果たし〜、囚われ姫への道を開く〜、進み挑むは、姫に誓いし生涯の君〜、悲しみに沈みし、姫の心を安らげん 」
 夫もやけになったように、メルシアのあとについて輪唱した。歌っている間は、気がまぎれて踏みとどまりそうだった。
 怖さをねじ伏せて、ヒンメルもクルスダガーで攻撃する。スカルウォーリアーが、夫に近づかない牽制になっていた。しかし、ずっとこうしているのは嫌なので、まだ首を傾げている響に愁訴する。
「ねえ、前衛で頑張ってくれるんだよね?」
「そのはずですけど‥‥槍が効かないのでは‥‥‥‥あ! いいものがありました」
 響はシルバーナイフに持ち替えて、戦闘に復帰した。
 パーティーが大きな攻撃力に乏しく、スカルウォーリアーが盾を使うこともあって、時間はかかったがなんとか退治に成功した。
 そこへ、もう1体のスカルウォーリアーに追いかけられた、フォーレが屋敷から飛び出してくる。
「ごめん。もう限界だよ! だってあいつ、全然疲れないんだよね」
 浄炎が笑顔で迎える。
「十分だ。ちょうどこちらも、準備が終わったところだ」
 フォーレを追うスカルウォーリアーを迎えるように、浄炎は向き直る。そして強い踏み込みとともに、拳を繰り出した。スカルウォーリアーは盾で受けるが、浄炎の力はスカルウォーリアーを転倒させた。
 追跡を逃れたフォーレは、一息つくとスリングで援護に入る。
 再び苦労したが、ついに2体目のスカルウォーリアーも退治に成功した。
 歌っていただけだが、息も絶え絶えの夫を、メルシアは急きたてる。
「化物は倒れました、奥さんの所へ行きましょう」
 戦闘を続けて疲労しているはずの浄炎も、夫に近づいて肩を貸す。
「歩けないなら手伝おう。奥方はきっと、誰よりもおぬしを待っている」
「まだ心配なら、私が先行するよ。道はこっちだよね?」
 走りっぱなしだったフォーレまでが、慌しげに夫を招く。
 心優しい冒険者たちの温かい気遣いに支えられ、若夫婦は奇跡的に、感動的な再会を果たした。
 中庭に残った響は、倒したスカルウォーリアーの骨のひとつを、考え深げに手に取っていた。
 様子を見ていたヒンメルは気味悪がる。
「そんなの触って、祟られたりしないのかな?」
「気の毒な人たちなのですよ、この方たちも。墓碑銘は無理でしょうけど、せめて骨の一片でも、共同墓地に埋葬してあげたいですね‥‥さあ、みなさんを誘って、早く戻りましょう」
「そんなに、早く弔ってあげたいの?」
 ヒンメルの疑問に、響は笑って否定した。
「いえそうではなく‥‥あの人たちは新婚さんでしょう。あんまり長居したら、お邪魔虫ではないですか」