少年の遺志

■ショートシナリオ


担当:深紅蒼

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月16日〜09月21日

リプレイ公開日:2005年09月25日

●オープニング

 パリ近郊の村で子供が神隠しに遭う事件があった。妹を捜す兄は別の村の子供が捕まっている小屋を見つけだすが、救出のさなか命を落とす。兄が最期まで気に掛けていたは姿を消した妹の事であった。兄の名をギョーム。妹はアンナと言った。
 最近、パリのセーヌ川沿いの船着き場で男達に連れられた幼い女の子が数人目撃された。それはまだ夜も明け切らぬ朝靄のなかであったらしい。船から男達に引き立てられるように女の子達が降りてきた。どの子供もうす汚れた服装をしていて、妙に怯えたようにおどおどしていた。男達は皆、かたぎではない胡散臭い様子で絶えず辺りを気にしていたらしい。短刀などをこみよがしに何本も腰から下げていたり、頬に傷があったりする。頭だった者はがっしりとした身体をしていて長剣と短剣を帯びていた。なにやら物々しく警戒する様子だったとこれを目撃した行商の老人は言った。その老人の話によれば、男達は船着き場から目と鼻の先にある小さな教会に皆入っていったらしい。
 この老人、実はギョームの住んでいた村の者であった。時折農作物などをパリに運んで売っているのだが、早く着きすぎて休んでいるときにこの光景に出くわしたのだ。そしてこの老人は女の子の中にアンナがいたと言うのだ。さして大きくもない同じ村の子供を見間違う筈はないと言う。老人は散々迷った挙げ句、行商を終えた昼近くにこの教会を尋ねたが、中は無人で男達も女の子等も‥‥この教会の聖職者さえいなかったという。ただ、祭壇の下に地下へと通じる穴がぽっかりと口をあけていた。
 この教会に関して調査依頼がギルドに寄せられた。

●今回の参加者

 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3140 ラルフ・クイーンズベリー(20歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3142 フェルトナ・リーン(17歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8427 シェリー・フォレール(34歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb2581 アリエラ・ブライト(34歳・♀・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 eb3051 斎部 皓牙(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3351 レオパルド・キャッスル(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

マリオーネ・カォ(ea4335)/ ロヴィアーネ・シャルトルーズ(eb2678

●リプレイ本文

●無人の教会
 セーヌ川を臨む位置に立つ小さな教会。この辺りには他にも大きな教会があり、人々がこの教会を利用することはあまりない。

 アリエラ・ブライト(eb2581)に頼まれ、ロヴィアーネ・シャルトルーズは人々がよく利用している大きな教会でここの評判を調べてきた。それによれば、この小さな教会は書類上『もう無いはず』の教会なのだという。
「どういうことなんだろう?」
 アリエラは首を傾げる。しかし考えていても始まらない。友には礼を言い、教会の側を通る人に色々と尋ねてみる。
「あの、この教会について調べているの。最近人相の悪い人が出入りしてるとかって見たり聞いたりしてないかな?」
 買い物帰りらしい婦人はアリエラに声をひそめるよう言う。
「そんな大きな声で言うんじゃないよ。そりゃ胡散臭い奴らが頻繁に出入りしているんだからね。あいつらのおかげで鳩が嫌いになっちまったよ。悪いことは言わないから、あんまり関わり合いにならない方がいいよ」
「え? 頻繁に? それになんで鳩?」
「あいつらは鳩の模様を目印しているんだよ。刺繍したり、剣の柄に描いたりしてね。もういいだろう?」
 婦人はセーヌ川を指さし、そそくさと行ってしまった。

 フェルトナ・リーン(ea3142)は酒場の裏口へと向かった。この時間、まだ酒場が開いていなかったからだ。兄と一緒ではないので心細くはあったが、それよりもラルフ兄様の役に立ちたいという気持ちが強い。
「なんか用かい、お嬢さん」
 扉をあけて中に入ると、酒場の従業員らしい掃除をしていた若い男が顔をあげた。
「はい」
 フェルトナは事情を話して情報を求める。
「あぁ、あそこに出入りしている奴らはマトモじゃない。この店は割と客筋が良いんでああいう手合いが来ることはないが‥‥たぶん、ヤバイ仕事を専門にしている犯罪者集団だと思うよ」
「犯罪者集団‥‥ですか?」
「あぁ。多分誰かが裏で牛耳っているんだろうな。鳩の割り符を使っているって聞いたぜ。ただの誘拐して売り買いって話じゃないらしいんで、まぁ気をつけてな」
 男は脅かしとも本気ともつかない口調でそう言った。

 クレリックであるシェリー・フォレール(ea8427)はツテを使い、教会の図面を手に入れていた。現在あの教会は管理する者もなく廃されている状態だ。しかし、ごく一般的な建築であったので同じ間取りの教会が数多くあった。外観からも判るように本当に小さな教会で、扉をあけてすぐの礼拝堂と祭壇の左右から続く小部屋が2つずつ。そして図面には地下施設はない。
「地下は教会が建った後に何者かが‥‥そういう事なのでしょうか。神の家にも等しい教会を隠れ蓑に悪事を働くとは許せる事ではありません」
 クレリックとしての義憤がシェリーの胸を熱く焦がす。

 フェリシア・フェルモイ(eb3336)はマリオーネ・カォに依頼した『サンワード』の結果を聞いた。答えは『わからない』であった。
「つまり、陽光の届かない場所にアンナさん達はいらっしゃる‥‥その可能性があるという事ですわね」
 教会の祭壇下にある穴。男達や少女達が穴を通った可能性は高い。そして、今も地下のどこかに潜んでいるというのだろうか。
「やはり行ってみなくてはわかりませんわね」
 フェリシアの気持ちはずっと前からもう決まっていた。必ずさらわれたアンナを助ける。それは彼女の亡き兄の死に誓った『重い約束』であった。

 行商の老人を呼び止めたのは斎部 皓牙(eb3051)とタイタス・アローン(ea2220)、そしてラルフ・クイーンズベリー(ea3140)であった。老人の荷台は空っぽであったので、これから村へ戻るところなのだろう。
「わしになんか用ですか?」
「すまないが、あの教会で見たことを聞きたい。あんたが見た男達と子供達は何人ぐらいだったんだ?」
 皓牙は軽く一礼してからそう切り出した。
「人数ですか。そうですなぁ‥‥男が5人ほど、子供は10人はいなかったと思うがまぁソレくらいでしたよ」
「それでその中に同じ村の子供がいたんだな」
 念のために皓牙はもう一度聞く。
「間違いない。アンナだったよ。可愛い子で村の者総出で探したんだがどうにも見つからなかったんだ。きっとはなからあの男達にさらわれていたんだろうなぁ」
「そうですか」
 ラルフは皓牙と老人の会話をイギリス語に訳してタイタスに伝える。
『‥‥子供達をさらうとはなんと卑劣な事か』
 それを聞いてタイタスは唇を噛む。抵抗出来ない弱い者を力で意のままにするなど、あって良い事ではない。
「出来るなら、アンナを連れ戻してやってくれ。兄も死にアンナの親はそりゃあ嘆き悲しんでいるんだよ」
「‥‥わかった」
 皓牙とラルフ、そしてラルフから内容を聞いたタイタスも遅れて頷いた。

 タイタスを別れた皓牙はレオパルド・キャッスル(eb3351)と教会の北側へと向かっていた。
「ここだ」
 皓牙が示したのは枯れた井戸であった。石で囲った四角い井戸は半分崩れている。
「なるほどな。ここが抜け道ってわけだ」
 レオパルドは感心したように言う。
「あぁ。教会が建ったのもこの井戸も古くからあったらしい。だが、どちらも最近は捨て置かれていた。それでちょっと気になってな。ここが教会の北だったし‥‥」
 皓牙はなんでもない様につぶやく。レオパルドが井戸の中を覗いてみると、水のない井戸の底からは道が続いている。
「どうする。塞いでおくか?」
 レオパルドは振り返って皓牙に尋ねる。
「その方が良いだろう。挟撃とかも考えたが戦力分散になるわけだしな」
「わかった。何か手頃な物を探してくる」
 レオパルドはすぐに走り出した。

●祭壇の地下へ
 教会に集まった者達はそれぞれの情報を互いに交換し、そして祭壇の下にぽっかりと口を開けた穴へと降りていった。皓牙としては敵の数が減ったのを確認してから行動に移りたかったが、そうなる保証はない。反対に増員される可能性もないわけではないので、速やかに行動する事に異を唱えなかった。
「これを武器の先端なんかに巻いて音を消してくれ。壁とかに当たってこっちが近づいてるのが向こうにバレちまうのもまずいだろ」
 レオパルドは裂いた布を皆に渡す。自分の武器防具には既に布を巻き付けてある。レオパルドと同等な武器を携帯しているのはタイタスだけだ。
「僕から薦めるよ。布を貸して」
 ラルフはレオパルドから布を受け取りタイタスに説明する。礼を言って受け取ると、タイタスは見よう見まねでレオパルドと同じように布を巻く。
「俺は大丈夫だろう」
 皓牙の武器は丈が短い。
「灯りは私が持ちます」
 フェルトナはランタンを灯す。オレンジ色がかった黄色い光が地下を照らす。地下はまっすぐ北へと続いていた。
「私もランタン持ってきたよ。でもちょっと明るすぎるから、何かで覆って調節したほうがいいかも」
 アリエラは自分のランタンを持ったまま首を傾げる。
「そうだ! その布貸して貰える?」
「あぁ使ってくれ」
 アリエラはレオパルドから余った布を受け取りランタンに掛けてみる。光が少し柔らかくなる。
「それでは私も‥‥」
 フェルトナもランタンに布を掛けると、辺りはぼんやりとした光に照らされることになった。見える範囲もそれだけ狭くなる。
「みんな、そのままでちょっと待って」
 ラルフは『ステインエアーワード』と『ブレスセンサー』を使った。しかし明確な結果は出ない。
「もう少し相手に近寄ったら判るかもしれないけど、次はどの辺りで使うかその判断が難しいね」
 ラルフは難しい表情を浮かべる。魔法には使える限界がある。先の事を考えればある程度は温存しておきたい。
「罠があるかもしれませんから注意しつつ進んでみましょう」
 フェリシアが先頭に立つ。多少は夜目も効く。
「そうですね。皆様、慎重に参りましょう」
 シェリーもそう小声で言うと北へ向かって歩きだした。タイタスは最後尾につく。

 人の気配がした。
「誰かいる」
 少し先行していたアリエラは音をたてずに戻ってきて、小さな声でそう言った。
「もう一度使ってみる」
 ラルフは『ステインエアーワード』と『ブレスセンサー』を再度使った。
「人がいるよ。大人が5人。子供が9人。泣いているみたいだよ」
「呼吸しない物‥‥人ではない物などはいなさそうですか?」
 フェリシアはラルフに問いかける。人ではない異形の物は確かに存在している。そんな敵が悪者と共にいるとは考えたくないが、最悪の事態を考えないわけにはいかない。
「‥‥いや、そういうのはいない」
「よかった」
 小声でフェリシアは言った。魔物は例え最下級でも手強い。それと戦わずに済むと聞くと内心ホッとする。
「さらった人達を倒す事よりも、さらわれた子供達の安全と解放が一番です」
 フェルトナが皆の顔を見る。
「もちろんです。さらわれた子供達の救出が最優先でなくてはなりませんわ。でも‥‥」
 シェリーは言葉に詰まる。
「せめて奇襲出来れば」
 皓牙は北へと目を凝らす。1本道では脇に隠れる事も出来ない。

 扉の開く音がした。
「時間だからな。ツナギに行ってくる。ガキどもしっかり見張っておけよ」
 だみ声がした。
「わかってるって。大事な珠に傷なんかつけねぇよぉ」
 扉の奥から声がする。
「当たり前だ。傷モンになんかしてみろ! てめぇの命ぐらいじゃおいつかねぇんだからな」
「デルスの奴が馬鹿しねぇようにおいらが見張っとくさ」
「なんだよ。キースなんか俺よりガキに手ぇ出しそうじゃねぇかよ」
「まったくだ」
「はしゃぐな! 馬鹿どもが」
 だみ声の男が扉を閉めてこちらにやってくる。

 仄かとはいえランタンの灯りがある。相手がこちらに気が付くのは時間の問題だろう。こんな時は言葉より雄弁に目が語る。小さくうなづくとアリエラは自分のランタンの火を消し背負っていた弓を構える。そっとそっと静かにレオパルドとタイタスが武器を鞘から抜く。皓牙は低い声で『クリスタルソード』を呼び、ラルフとフェルトナはいつでも詠唱出来るよう構える。男の足音が少しずつ鮮明に聞こえ始める。
「う?」
 それ以上男は言葉を話せなかった。フェルトナの『スリープ』に寝かされてしまったからであった。レオパルドが男の身体をそっと横たえると更に進む。
「行くか」
 敵は4人に減っている筈だ。皓牙は覚悟を決めた。今以上の好機は来ない!
「‥‥」
 扉に手をかけシェリーは合図を待つ。矢をつがえるアリエラも武器をかざすレオパルドとタイタス、そして皓牙もうなづく。ラルフとフェルトナ、フェリシアも堅い表情でうなづいた。
「いきます!」
 シェリーは扉を全開にした。
「眠ってください!」
 最も子供達に近い男にフェルトナは『スリープ』を使う。男の身体が崩れる。あと3人。フェルトナはすぐにラルフの側に駆け寄る。
「風の刃よ!」
 ラルフが『ウィンドウスラッシュ』を部屋の最も奥にいる男に使った。
「ぐわあぁ」
 悲鳴があがる。と、同時に子供達の鳴き声が高く響く。
「てめぇら!」
 無傷な男が扉の外へと向かっている。振りかざす剣をタイタスの剣が受け流す。皓牙は部屋の中に素早く入り、子供達を背にしてもう1人の無傷な男に十手を向けた。
「大人しくお縄につきな」
「なにぉぉおおお!」
 男が手入れの良くない剣を皓牙に向ける。
「くそぉお」
 ウィンドウスラッシュにやられた男が立ち上がり、皓牙に向かおうとする。
「あたれ〜〜!」
 アリエラの矢が男を牽制する。しかし敵味方入り乱れての戦いになりつつあり、アリエラも狙って矢を放つことが出来ない。
「俺が叩きのめしてやる!」
 どこからも敵がやって来ないことを確認し、レオパルドが部屋へ走った。手傷を負って折る男を一刀にする。すぐに皓牙も敵を強打して気を失わせる。
「大丈夫でしたか?」
 シェリーも部屋に滑り込み、1カ所に集められていた子供達に声を掛ける。泣きじゃくる子供達は返事も出来ないが、怪我をしている者はいなさそうだ。
「くそぉ!」
 タイタスと戦っていた男が背を向けて走り出した。
「逃がしません!」
 タイタスの剣が男を斬りつける。悲鳴をあげて倒れた男が『スリープ』で眠っていた男の身体にぶつかった。2人はゴロっと転がって、一人は絶命し一人は立ち上がる。
「こ、こいつはぁ」
 眠りから醒めて起きあがった男はタイタスに身構える。そしてゆっくりと後ろにさがっていく。
「させるか!」
 レオパルドは予備に持っていた剣を思いっきり投げた。それは暗がりからいきなり現れたように男には見えた。交わしきれずに左の腕の付け根あたりに突き刺さる。けれど、距離があったので傷は浅かったのか、男は剣を右手で抜くとそれを構えてみせる。
「油断したか。くそぉ‥‥おぼえてやがれ!」
 男はたった1つだけ灯っていたフェルトナのランタンを蹴飛ばして消すと、教会の方へと走っていった。
「こらー! 待て!!」
 アリエラが追う。けれど本当に真っ暗では走ることも出来ない。一人は逃げてしまったが、後の敵は2人を生きて捕縛、2人死亡であった。
「アンナさん! アンナさんはいませんか?」
 フェリシアは怯えて泣く子供達に駆け寄った。
「アンナはこの子だよ」
「この子」
「この子よ」
 口々に子供達は一人の女の子を指さす。
「あたし、アンナ。お姉さんは誰?」
 あどけない女の子がフェリシアを見上げていた。
「お兄さん‥‥ギョームさんですわよね」
「うん。お兄ちゃんのお名前はギョームよ。どうして知っているの? お姉さんはお兄ちゃんのお友達?」
「ごめんなさい‥‥貴方のお兄さんを‥‥わたくしは護れなかったのです」
 フェリシアはギュッとアンナを抱きしめた。

 子供達は皆救出され、生き残った男達は官憲に引き渡された。押収された剣や荷には鳩の絵が描かれていたが、それがどういう意味なのか男達は口をつぐんでいると言う。その夜、ささやかな祝いの会が近くの酒場を借り切って行われた。その際フェルトナが酔っぱらって衣服をどんどん脱ぎ、ラルフがとんでもなく困ったとか新たな展開があったとか無いとか。
 怒濤の1日が過ぎて‥‥数日後レオパルドの元には一降りの剣が届いた。それは無くした物の代わりにと、アンナの親が用立てた剣であった。