鳩の絵が誘う災厄

■ショートシナリオ


担当:深紅蒼

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2005年10月31日

●オープニング

 パリ近郊に暗躍する怪しい集団。彼等は近隣の村々から子供をさらい、どこかへ移送しているらしい。パリの小さな教会などが潜伏先として使われたりもしている。何かが水面下で行われている。事件に係わった者達は、そんな懸念を持たずにはいられなかった。

 この集団は一味の証として『鳩の絵』を使う。武器の柄に鳩の図案を飾りとしたり、服の折り返しに刺繍したりする。

 ギルドに依頼が持ち込まれたのはある絵描きからであった。彼の名をレイモンドを言う。生国を出てこのパリで絵の修行をしている。名の知られた絵描きというわけではないので、喰うためには色々な仕事をした。食堂の下働きをしたこともあったし、荷運びをしたこともある。
「それは私が公園で似顔絵描きをしていたときの事です」
 その辺りにはレイモンドだけではなく沢山の絵描きがいた。しかし、一番貧相な様子をしていたのは間違えなくレイモンドであった。
「見知らぬ‥‥あまり風体のよくない男が金をやるから絵を描いてくれと言ってきたのです。それが『鳩の絵』でした」
 レイモンドは男の言うがままに絵を10枚描いた。その代価の5Gはレイモンドを飢え死にから救ったが、最近になってどうにも気になってきたのだ。
「私の絵がさる大金持ちの家にばらまかれていると聞きました。調べてみるとその家は盗賊に襲われているのです。被害に遭ったのは9件。私にはどうしても偶然とは思えないのです」
 盗賊は押し入った家の金品を全て盗み、家人も皆殺しにしてゆく。
「私の取り越し苦労かもしれませんが、この家を見張っていただけませんか? そしてもし盗賊が現れたなら、盗賊を懲らしめ一体何がどうなっているのか明らかにして欲しいのです」
 レイモンドは生涯で初めて、まっとうに売れた絵の代価をギルドへ依頼金として差し出した。

●今回の参加者

 ea3142 フェルトナ・リーン(17歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8794 水鳥 八雲(26歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9769 ジュスティーヌ・ボワモルティエ(21歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3351 レオパルド・キャッスル(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●準備
 裏口で掃除をしていた男は人の気配に振り返った。
「あんた‥‥たしか」
「こんにちわ。お久しぶりね」
 淑やかに礼をするフェルトナ・リーン(ea3142)の姿を見ると、男は体を起こして向き直る。ごく一般的な服を着ているのだが、深窓の令嬢らしい優雅な所作まで変えることは出来ず、フェルトナは微妙に場から浮いていた。男は浅く溜め息をつく。
「また何かヤバイ事を探っているのかい? おらぁ感心しねぇぞ。お嬢さんはお嬢さんらしくしてるのが一番だぜ」
 男は迷惑げにフェルトナを見る。店に馴染めない客は上客だろうと屑だろうと、大概なんらかのもめ事をもたらす。それが面倒なのだ。
「まぁそう言わずに協力してくれないか? 俺が見張ってて店に迷惑が掛かるようなことは起こさないから‥‥な」
 フェルトナの背後から姿を現したのはレオパルド・キャッスル(eb3351)であった。格式張った事が苦手なせいか、こういう場所に居ても違和感がない。男はレオパルドがナイトだとは思わなかった。
「‥‥まぁそっちの兄さんが保証してくれるなら、お嬢さんの事は目をつぶろうか」
「ありがとうございます」
「助かったぜ」
 フェルトナとレオパルドから視線をはずし、男はもう1度ため息をついた。

 パリの街を歩く長い金髪の武道家、水鳥八雲(ea8794)は手にしたリストをもう一度確かめ、店に入っていった。ここは古物を扱う店であった。調査に時間をたっぷりかけられるわけではないので、店の評判までは調査していない。
「何かお探しですか?」
 初老の男が声を掛ける。
「えぇ。さるお屋敷から流出した美術品や高価な家具を捜しているんです。ご協力いただけないでしょうか?」
 八雲は出来るだけ丁寧な口調で穏やかに頼む。男の眉間に細かい皺が寄る。
「あなたはうちが盗品を扱っている、とでもお疑いですか?」
「いいえ、そうではありません。けれど、知らずにあちこち巡ってこちらのお店にたどり着いたりすることもあるかと思ってお邪魔しました。ご不快かもしれませんが、調べさせてもらえま‥‥」
 八雲の視線は目の前にある洒落た木製の椅子に注がれる。特徴が襲われた家から消えた家具とピッタリと一致するのだ。
「あの、この椅子は‥‥」
 男がすごい勢いで店の奥へ姿を消す。八雲は男を追った。

 描き上がった絵を見せられて、ジュスティーヌ・ボワモルティエ(ea9769)は困惑する。一体どういう反応をしたら良いのだろう。すぐ目の前にはこの絵を描き上げたばかりのレイモンドがいる。ニコニコとした表情から察するに、満足出来る絵を描き上げたつもりなのだろう。しかし‥‥これを似顔絵と言ってよいのだろうか。
「レイモンドさん。これが鳩の絵を描いてくれって言ってきた男の似顔絵なの?」
 思わずもう一度確かめたくなる。
「そうです。もう完璧! ばっちりです」
 得意げにレイモンドは胸を反らす。公園中の似顔絵描きの中で何故レイモンドが一番貧乏っぽいのか、その謎がジュスティーヌには解けた気がした。へたくそなのだ。ハッキリ言って全然似てない‥‥どころかこれが人の顔だというのかというレベルである。間違っても似顔絵を描いて欲しくない類の絵描きだ。
「あ、ありがとう」
 言葉少なに礼を言うと、ジュスティーヌは公園をあとにした。

 フェリシア・フェルモイ(eb3336)はこれまでの経緯を皆に語ると、一足先に狙われているだろう別荘へ向かった。ここには管理人の夫婦しか住んではいない。フェリシアは事情をかいつまんで説明した。知っている事を全て話せば、夫婦を不必要に脅かしてしまいそうだったからだ。『盗賊が狙っているという情報を得たので警護させて欲しい』というと、夫婦は困惑したように顔を見合わせた。そして、男の方がフェリシアに向き直る。
「ご存じのようにわたくしどもはただの管理人です。その様なお話は主にしていただかなくては困るのですが‥‥今夜にもここが襲われるかもしれないのですね」
 不安そうな顔をした男にフェリシアは小さくうなづく。
「その通りです。事後報告ではお立場が悪くなるかもしれないのは理解しておりますが、こちらにある美術品や高価な家具、そして何よりお二人の安全が危ぶまれます。しばらくの間、私達にこちらの別荘を護衛させていただけませんでしょうか?」
 男は妻に視線を移す。2人は多分フェリシアの申し出を断らないだろう。しかし、フェリシアは幾分目を伏せたまま2人の決断を待った。

●夜襲
 何事もなく2日が過ぎ、そして3日目の朝を迎えようとしていた。真っ暗であった室内もぼんやりと視界が効くようになってくる。
「来ました!」
 明かりのない室内にいた八雲は、まっ先にその気配に気が付いた。
「わたくしは皆様を起こし、フェルトナ様と管理人のご夫婦を避難させます」
「承知!」
 八雲と共に当番であったフェリシアは急いで部屋を出る。そしてすぐ近くの部屋の扉に密やかなノックをし、返事も待たずに開ける。
「レオパルド様。賊が参りました」
「わかった」
 ぐっすり眠っていた筈のレオパルドは飛び起きる。フェリシアは別の扉を同じようにノックしてすぐに開いた。
「フェルトナ様、ジュスティーヌ様。賊が襲ってきました」
「はい」
「とうとう来たね」
 2人ともすぐに夜具から飛び出した。

 八雲のいる部屋にレオパルドが駆けつけると、もう戦いは始まっていた。窓は外側から鉈か斧の様なモノで破壊され、そこから男が侵入しようとしているところであった。八雲は先に入ってきたらしい男と戦っている。
「この外道どもが!」
 レオパルドは侵入しようとしている男を強引に中に引き込み、鼻先に剣をつきつける。
「何故だ! ここは爺婆しかいねぇ筈なのに‥‥」
 わめく男に答えもせずレオパルドは当て身を喰らわせる。
「大丈夫か?」
 振り返ると八雲も蹴り技で敵を失神させたところであった。そこへジュスティーヌが部屋の入り口へ顔を出す。
「玄関から敵が来てるの!」
「管理人ご夫妻とフェリシアさん、フェルトナさんは?」
 八雲が早口に尋ねる。
「入ってきた敵は寝かせてあるの。外を!」
 屋敷の奥からフェルトナの声がする。八雲とレオパルドは正面玄関に走る。確かに扉が壊されていた。速度を緩めずそのまま外へ出る。
「貴様か! 現れやがったな! 少年の家族の無念を受けたこの太刀を受けやがれ!」
 そこには3人の人相が悪い男達がいた。しかしレオパルドの目には腰の両側に武器を吊した体格の良い男しか見えない。走りながら剣を抜き『二刀流の男』に斬りかかる。
「冒険者か」
 男も武器を抜き、レオパルドの剣を受け止める。まだ明け切らぬ空に剣と剣が打ち合う澄んだ音が高く響く。
「かしら〜」
「てめぇ!」
 側にいた男2人がレオパルドに向かって剣を抜く。しかし、その2人の前には八雲が立ちはだかる。
「行かせません」
 更に音が響き渡る。

 戦いの気配と音は納戸部屋まで伝わってくる。管理人夫婦は部屋の隅で震えていた。
「ご安心下さいませ。仲間が戦っていますからお二人に危害が及ぶことはありません」
 務めて優しくフェリシアが言葉を掛けるが聞こえているかどうかさえ、さだかではない。フェリシアの申し出を受けはしても、夫婦は本当に盗賊が押し入ってくるなど想像さえしていなかったのだろう。
「寝ている男を縛っておいたほうが良いわね」
「あたしも手伝うわ」
 部屋の前にいたフェルトナとジュスティーヌは納戸部屋から麻縄を見つけ、それで眠っている男を縛り上げる。さらに気絶した男2人もその縄でグルグルと縛ってしまった。これで3人を生け捕った事になる。
「‥‥もう出てきていい」
 様子を窺っていると、外からレオパルドの声がした。屋敷の中にいた者全てが外に出る。2人の男が血に染まって倒れていた。夫人が声もなく倒れる。
「2人は倒しましたが、首領格らしい男には逃げられてしまいました」
 八雲は刀身を布で拭き鞘に納めると、皆に向き直って淡々と言う。
「あいつ‥‥手下を盾にして逃げやがった」
 レオパルドは吐き捨てるようにそう言った。

●尋問
 屋敷を襲った6人は3人生け捕り、2人死亡。そして1人逃亡であった。八雲の言うとおりにすると、生き残った賊どもはごく簡単に知っていることを話した。『チャーム』を使いフェルトナが尋問する。
「あなた達の規模は?」
「知らない」
「普段はどこを根城にしているの?」
「パリの近くにあるもう人の住まない村だ」
「もっと上の者から指令は来るの?」
「来る。かしらに鳩が来る。そうするうとどう動くかかしらが言う」
「何故鳩の絵を配り、そこを襲う等という回りくどいやり方をしていたの?」
「上の者が襲う場所を決めていたが、かしらは絵を引き渡す時に下見をしていた」
「絵ならなんでもよかったのね。でももうちょっと絵師を選ぶべきだったと思うな、あたしは‥‥」
 ジュスティーヌは素直な感想を言う。レイモンドが目の前にいなければ、思うままに言葉に出来る。
「誘拐した子供達は今どこにいるの?」
「知らない。生け贄に使われる筈だが、気に入って貰えなくて困っている」
 尋問役であったフェルトナの顔色が変わってゆく。
「奪った品は金に換えましたね。金目当てにこのような事をしたのですか?」
「そうだ。儀式を執り行うには金がかかる」
「儀式?」
 盗品の販売経路を調べた八雲は眉を寄せる。正規の商人達にも噂が広まるほど、急いで品物を金に換えているらしい。
「廃村に隠れ住み、あの野郎だけがパリを徘徊してやがるのか‥‥」
 旨い酒を置く酒場に時折『二刀流の男』は姿を見せている。これはフェルトナとレオパルドが調べてきた事だ。
「当局へ引き渡し、その村も調べていただきましょう。そうなればこちらのお屋敷も安泰でしょう」
 フェリシアは重い口調でそう言った。