人さらい一味、一網打尽計画?
|
■ショートシナリオ
担当:深紅蒼
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月29日〜11月03日
リプレイ公開日:2005年11月06日
|
●オープニング
●私は聞いてしまった
パリ近郊の村で子供がさらわれる事件が多発した。幸い、幾人かはパリで保護され各村々へ戻ったのだが、また少しずつ子供が消える事件が起こっている。やはり場所はパリに近い村で、さらわれるのは10歳以下の子供達だ。女の子も男の子も消えている。大概は顔かたちの優れた美童であった。
ギルドに依頼が来たのはある旅人の目撃証言からであった。旅人はパリからドレスタットを目指していたのだが、夜通し歩いてきて夜明け前、街道そばの木の陰で一休みをしているとどこからか低い声が聞こえてきたのだ。
「わかったよ、兄貴。俺の仕事に抜かりはない。これまでだってそうだったろう?」
「それはそうだが、過信は禁物だ」
「ほっんと兄貴は心配性だぜ。わかった。10日後のこの時刻にキッチリここへ荷を運んでくるさ」
「こんな時刻とはいえ、どこに人の目があるかわからねぇ。荷が騒いだらどうするのか決めているのか?」
「大丈夫。ちゃ〜んとガキどもには言い含めてある。その上でさるぐつわをかませて手足をふんじばっておけば、見つかる道理はねぇよ」
「‥‥わかった。最低でも20カ所は儀式をやらねぇと猊下がむくれなさるんでな。しっかり集めて来いよ」
「任せてくれって。この『鳩』に賭けてもおいら、頑張るぜ!」
その後は草を踏む音、走り去る足音などが聞こえたそうだ。旅人はすっかり怖くなって、陽が高くあがるまでピクリとも動くことは出来なかった。ようやく勇気を出して木の陰から街道まで這うようにして出てくると、大急ぎでパリへ戻り仔細を友人に相談した。そして話は巡りめぐってギルドへ依頼として持ち込まれることになったのだ。
彼等がそこで何をしようとしているのか‥‥もしそれが犯罪であるのならば、これ以上おおごとになる前にここで食い止めて貰いたい。それがギルドに出された依頼であった。
●リプレイ本文
●正義を貫くために
9日前の朝、この場所で密談が行われたらしい。現場はなんてことはない三叉路だ。木がまばらに生えていて、辺りは草が茂っている。葉や茎は枯れた色をしているから、もう少し時期が遅ければここは土が露出して身を隠す事など出来なかっただろう。
「冬ではなくてよかった‥‥と、思うべきなのでしょうか」
ロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)は三叉路に立ち、辺りを見渡していた。茶色の髪を風がくすぐる。明日の朝の事を考えれば、付近の地形を把握しておくことは必ず有利となるだろう。その為の下見であった。木陰と草原の中以外に身を隠す場所はない。建物などはなく、3方向に続く道がずっと遠くまで見通せる。道と草原との境に段差はない。
「子供達を人質に取られたままじゃ思うように動けませんわ。一時的にでも隠す場所があれば良いのですが‥‥」
子供の数と敵の数、そして味方の人数を考えロミルフォウは表情を曇らせた。
シルフィリア・カノス(eb2823)はまだパリにいた。鳩の紋様はシルフィリアを不安にさせる。何がどう動いているのか、まだ表面上には現れていないが誰もが判るようになってからでは何かが手遅れとなってしまいそうな気がする。
「きっと、この事件もあの聖職者の方を殺した人達と関係があるのでしょうね。これ以上は喰い止めないと‥‥」
何について誰にどう尋ねていけば求める情報に辿り着けるのか明確な方策は立たないけれど、何もせずにはいられなかった。
フェリシア・フェルモイ(eb3336)が問題の三叉路についたのは、空がほんのり赤く染まる頃であった。まだまだ充分に明るいがそろそろ野営の準備をし始めなくてはならない。馬や驢馬を隠しておける場所がないので、パリから歩かなくてはならなかったからだ。パリで情報集をしていたシルフィリアも同行している。
「荷物はどうする? ここに降ろしていいのか?」
レオパルド・キャッスル(eb3351)が荷を降ろすと、フェルトナ・リーン(ea3142)と皓月花影(ea7262)が駆け寄ってくる。
「ありがとう、レオパルドさん」
「忝なく存じます。お陰様でさしたる疲労もなくこの場に到着することが出来ました」
花影もピンとした姿勢をかがめ、お辞儀をする。
「ここが問題の三叉路だね。あ、ロミルフォウさん」
ラルフ・クイーンズベリー(ea3140)はフェルトナの荷を持ち上げようとして、ロミルフォウの姿に気が付く。
「皆様、お待ちしておりました」
木陰から姿を現したロミルフォウは淑やかかに一礼をした。
リウ・ガイア(ea5067)がパリを出たのは前日の夕刻。丁度フェリシア達が現地に到着したころであった。たっぷりと昼寝をしたので、明日の夜明けまで睡魔に襲われる事はないだろう。身軽で小さなシフールであり、しかも種族的には稀ではあるが忍耐強いリウには、今回の様に長く身を潜めて敵が現れるのを待つのは有利であった。
「何が次に繋がるかはわからないが、奴らの話す内容は一字一句違えずに覚えておこう。悪しき行いは正さなくては‥‥」
優雅に羽根を広げつつも、リウは大急ぎで目的の三叉路へと急いでいた。
●晩秋の野営
気配を殺して悪漢どもが現れるのを待つ。夜明け前は最も気温が低くなるのだが、それでも火をおこすことは出来ない。
「待ち伏せだから火は使えないが‥‥結構冷えるな」
レオパルドはゆっくりと体を起こし動かして、強張った腕や足をほぐしてゆく。戦いに備えての事だ。
「そろそろ心しておかねばなりません」
見張りをしていたフェリシアがそっとつぶやく。吐く息は白い。
「フェル‥‥そろそろ時刻だ」
とても暖かい装備のままフェルトナと毛布にくるまっていたラルフは、そっと肩を揺らす。瞳を閉じていたフェルトナはそっと目をあけた。その蒼い目は夜明けの色の様に美しいとラルフは思う。
「これ、レオパルドさんからです」
シルフィリアはワインを入れた器をラルフとフェルトナに差し出した。寒さしのぎになればとレオパルドが持参したものだ。
「美味しい‥‥それに暖まります。レオパルド様、有り難う御座います」
ほんの少しの量だが、冷え切っていた体には何よりだったようだ。ロミルフォウは微笑んで礼を言う。
「黙って」
密やかな声が頭上から聞こえた。リウの声に間違いない。
「私はあちらに‥‥」
花影が音もなく道の反対側へと移動する。止めることも、引き留める声を発することももはや出来ない。皆は黙り込み、動きも止めて可能な限り気配を殺そうとする。
遠くで馬のポクポクと足音が聞こえてきた。ドレスタッドへと向かう道の方からだ。続いて車輪の音がする。馬車かもしれないが、まだ見えてはこない。パリ方面からも馬の足音がしてきた。こちらは単騎らしい。
「兄貴ぃ〜」
馬車の音と共にのんびりとした若い男の声がした。金属片が触れあう時の高い小さな音がする。武器を帯びているのだろう。
「来たか。刻限通りとは進歩したな」
パリ方面から来た単騎の男が低い声で答える。こちらはやや年輩の様だ。ラルフは頃合いを見計らって『ブレスセンサー』を使った。馬車には御者台に男が1人、荷台の中には子供が10人と男が2人。馬車の背後に馬に乗った男が2人いた。パリ方面から馬に乗った男が1人来ているから、計6人だ。フェシリアから借り受けた指輪の効果もあるのか、失敗はしなかった。
「あったりまえだぜ。でもよ、兄貴。猊下のお眼鏡にかなうガキなんてこの近辺じゃもういないぜ。ガキなら誰でもいいじゃねーの?」
「さぁな。俺達は言われたままにするだけよ。それより荷をあらためるぞ」
馬車と馬は皆が姿を隠している場所のすぐ近くで止まった。兄貴と呼ばれている年輩の男は関心なさそうに返事をすると、馬から降りて馬車へと向かった。御者台にいた若い男も降りて荷台の方へと向かう。後方にいた男2人も馬から下りて、荷台に歩み寄った。
今しかない! と、花影は思った。勢いよく飛び出して馬車の荷台へと乗り込む。足音と馬車の揺れが男達に異変を気付かせる。
「何だ!」
若い男が叫ぶ。行動する時が来たとリウは決断し木の陰から出て上昇し、若い男に向かって『グラビティーキャノン』を使う。男は転倒し地面に転がる。
「子供達をここから避難させます!」
花影はそれだけ叫ぶと手綱を取り、馬車に鞭をあてて走らせる。
「しまった!」
年輩の男が舌打ちをする。急発進する馬車から男が一人転がり落ちる。
「私も参ります!」
シルフィリアは覆いを被せていたランタンを捨て、もう走り始めている馬車の荷台にしがみつく。年輩の男もシルフィリアに続いて荷台に乗り込もうとするが、フェルトナが男の進路を阻むように立つ。
「子供達を‥‥守ります!」
「邪魔だ! 荷を!」
武器を持たないフェルトナを年輩の男は斬りつけ、横に突き飛ばす。
「フェル!」
ラルフは地面に投げ出されそうなフェルトナを抱き留める。
「行かせん!」
レオパルドが年輩の男に斬りかかる。男も剣を抜きレオパルドの武器を受け止める。フェリシアは戦況全てが見える場所に移動していた。敵は6人。しかし、何時どこでどのような新手が来るかわからない。フェリシアは3本の交差する街道に気を配り、また人外の敵の出現にも留意していた。遠くなる馬車まではどうすることも出来ないが、それは心の中で祈るしかない。
「花影様、シルフィリア様‥‥子供達をお願いします」
それは切なる祈りであった。
ロミルフォウは降りた馬へと向かって走り出す男2人の前に立ちはだかった。
「皆さん、こんな早朝からお仕事熱心ね。どうでしょう、私と一緒に剣舞を踊ってはいただけませんか? せっかく美しい暁なのですもの」
「どけ! 女!」
「邪魔だ!」
男達の視線の先には遠ざかる馬車がある。焦りが見て取れる。
「行かせないよ!」
ラルフは『ストーム』を使った。瞬間的に風が起こり、それは暴風となってラルフから吹きつけてくる。敵も味方もなく強い風にさらされる。転んでいた若い男が飛ばされた。
「次!」
リウは馬に乗ろうとしていた男にも『グラビティーキャノン』を使う。男が転倒した。もう1人の男は仲間を助けようともせず、ロミルフォウに斬りかかる。
「望むところですわ」
ロミルフォウも剣を抜く。レオパルドの『オーラパワー』がまだ剣に宿っているかもしれない。
斬られた傷はそう深いものではなかったが、激しい痛みを伝えてくる。フェルトナは唇を噛みしめる。
「大丈夫。これくらい‥‥なんともない」
大好きなラルフに心配はかけられない。フェルトナはポーションを使った。まだ戦える‥‥そう思う。剣を持つ戦いではないが、くじけない戦いなら出来ると思う。
「鳩め! 観念しろ!」
レオパルドは強い力を込めて剣を振り下ろす。年輩の男は受け流し気味に剣を合わせ、立ち位置を移動する。年齢よりは身軽な様だ。すぐさま男の剣がレオパルドに迫る。切っ先が脇腹をかすめていく。
「小僧だな」
「何を!」
男の軽口が心に火を付ける。遅れて脇腹に痛みが走った。
「きゃあ!」
ロミルフォウの足を転んでいた男が掴んだ。バランスを崩したロミルフォウを打ち合っていた男が斬りつけてくる。思いっきり体をひねって転がったが、左上腕に傷が出来ていた。斬られた服地の奥から血がにじむ。
「とどめだ!」
男がロミルフォウに剣を突き立てようとする。
「甘過ぎますわ」
下から付きだしたロミルフォウの剣が男を貫いていた。ドウッと地面に倒れる。
「このぉ! よくも‥‥」
倒れていた男が起きあがり、ロミルフォウに迫る。
「ご免!」
その声は花影であった。馬車はいつの間にか旋回し戻ってきていた。御者台から飛び降りた花影はそのままの勢いでロミルフォウに迫っていた男を切り倒した。一瞥しただけで絶命したのがわかる。
「中の男は縛り上げてあります。勿論、子供達は皆無事です」
馬車の荷台からシルフィリアが笑顔で報告する。
「くそっ‥‥」
年輩の男は自分が乗ってきた馬へと走る。
「待て!」
レオパルドが叫ぶが待つ筈もない。男は一人でパリへ向けて逃げていった。
終わってみれば、敵は逃亡1名、死亡2名、行方不明1名、捕獲2名であった。傷はフェリシアが癒し、その後でフェルトナが尋問をする。2人はともに『猊下』とは顧客の事であり、『儀式』は『猊下』がやろうとしていることだと言った。子供達はその『儀式』で使われる生け贄の様だが、どこでどのような儀式をするのかは知らされていなかった。
開放された子供達は皆10歳ほどであり、種族はエルフが多く薄い髪の色をした者が多かった。依頼は成功した。