●リプレイ本文
●偵察
ルーロ・ルロロ(ea7504)はフライングブルームを使い、村を上空から見下ろしていた。人の住まない村の建物は荒れるままであった。修繕などをした形跡はない。
「こりゃかなりの数じゃな。『ブレスセンサー』も使いでがあるというものじゃて」
ルーロはソルフの実を1つ持参してきていた。万が一の時を想定してのことだが、出来ればそんな危険な目には遭いたくない。
「まぁしっかり索敵せねばのぉ。ボスはでっかいだろうし、盗賊はオークよりは小柄じゃろう」
ルーロは『ブレスセンサー』を使った。
ラルフ・クイーンズベリー(ea3140)も空から偵察をしていた。リトルフライを使っているのでルーロほど容易く移動出来るわけではないが、目的遂行に支障はない。
「手薄なところを調べなくては‥‥すぐには仲間が駆けつけられないような場所‥‥ないかな?」
最初の一撃はその後の戦況を左右する。ラルフは厳しい表情をしたまま『ブレスセンサー』を使った。
ロヴィアーネ・シャルトルーズ(eb2678)とクロード・レイ(eb2762)は村はずれにいた。2人とも得物以外の荷を後方の野営地に置き、ごく身軽になっている。この場所は大きな岩と木々によって身を隠すことが出来た。すぐ目の前に納屋が見える。ここから先は村の中になるのだろう。遠くに歩き回るオークの姿も見える。
「かなりいるね。これだけのオーク達を退治する‥‥って中々骨が折れそうだね」
ロヴィアーネは表情に少しだけ苦笑めいたものを浮かばせる。よほど味方に有利となる様な要因を見つけておかないと、戦いは厳しいものになりそうだ。
「もう少し中に入るか?」
クロードはごく涼しげな顔のまま低い声で言った。常に冷静であろうとするクロードは常日頃から表情をあまり変えない。不安も戸惑いも恐怖も、その表情からは読みとることが出来ない。
「そうだね。せっかく来たんだし‥‥もうちょっと進んでみよう」
「‥‥わかった」
敵に見つかっては元も子もなくなる。ロヴィアーネとクロードはそっと身を低くしたまま岩陰から飛び出した。
村から充分に離れた高台が拠点となる野営地であった。ここで4人が偵察に出掛けた者達を待っていた。
「ラルフ兄様‥‥ご無理はなさらないでね」
離れていると尚更、片時も心を離れない。フェルトナ・リーン(ea3142)は野営地の最も村に近い端に立ってじっと彼方を見つめていた。今は誰の言葉も耳に入ってこなかった。ただ、ラルフの事だけが心を占めている。道中でのひとときが夢の様に儚く感じる。
「村はシュバルツ城の騒動があった少し前に放棄された様です。低級のデビルが村を襲い、物資を度々強奪していったことが直接の原因だということです」
シルフィリア・カノス(eb2823)はツテを頼んで調べて貰った事を皆に話す。
「やはり‥‥あの村でしたか。わたくしも聞き及んだ事があります。あのデビル達はカルロスの配下であったとか‥‥『猊下』とやらもカルロスに縁の者なのでしょうか」
フェリシア・フェルモイ(eb3336)はそっとホーリーシンボルに触れ、祈りの聖句を口の中で唱える。
「こんなもんで良いか?」
テント設営をしていたレオパルド・キャッスル(eb3351)が作業を終えて顔を出した。なにせ敵の数が多い。長期戦になるかもしれないとなると、テントも必要なモノであった。
「‥‥とにかく、村に行った奴らが帰ってくるのを待つしかないな」
レオパルドは村の方へと顔を向ける。僅かばかりの灌木とどんよりと曇った空しか見えなかった。
●最終日の戦い
初日は偵察だけで終わった。2日め、3日めと少しずオークの数を減らし、残りは多分10体ほどになっているだろう。今日で終わりにするつもりであった。少なくとも、レオパルドはそのつもりだ。朝から気合いが入る。
「行くぜ!」
レオパルドは得物を手に村へと走る。
「やる気満々じゃのぉ。ど〜れ、わしももう一働きするかのぉ」
はやりフライングブルームに乗って空を行くルーロが独り言をつぶやく。今朝の攻撃ポイントはもう打ち合わせ済みだ。そこから一気に村の中心部へと向かう。行く先々はクロードとロヴィアーネが誘導する手筈だ。
「行くよ」
「あぁ」
言葉少なにクロードとロヴィアーネも進撃する。
「僕は今日も上にいる。いつも見てるから‥‥だから安心して」
「ラルフ兄様も気をつけて‥‥」
ラルフはリトルフライで空へと浮かび、フェルトナは地上から少し下り気味に進む。
「わたくし達も参りましょう」
「はい」
フェリシアとシルフィリアも裾を乱して走り出した。
村のはずれ付近にある建物はここ数日の戦いで半壊していた。放置されたままのオークの死体が野ざらしにされている。レオパルドは更に奥へと進んだ。
「もっと左じゃ。左にデカイのがおるようじゃ」
「右奥にオーク多数」
空からルーロとラルフの声が降ってくる。『ブレスセンサー』で知り得た情報がその場で伝えられる。
「わかった」
レオパルドは左側にあった家と家の間をすり抜け、素早く移動する。連日の戦いであるが疲れはない。
「その家じゃ。デカイのと、それからちっこいのが数体いるようじゃ!」
ルーロから更に情報が降る。道に出るとそこには大きそうな家があった。レオパルドの目の前に裏口らしいこぢんまりした扉がある。
「中に入る!」
鍵はかかっていなかった。レオパルドは難なく扉を開き中へと進む。続いてクロードが進む。
「右の敵がこっちに向かってくるよ。数は5。すぐ‥‥見える!」
ラルフの声は固い。敵の息は荒い。走ってくる様だ。
「任せて!」
クロードの次に家に入ろうとしていたロヴィアーネは体を起こし、得物を構えて敵に備える。両手でしっかりと柄を握る。フェルトナ、シルフィリア、フェリシアがロヴィアーネの背後に回る。
「行くよ!」
ロヴィアーネの蒼い瞳が輝く。先頭のオークに向かって走りつつ、素早くステップを踏んで攻撃を回避する。さらにそのまま流れる様な動きで剣を振りかざす。舞いの様に自然な動きが剣先にまで優雅な動きを伝え、斬りつけられたオークは武器防具のない部分からざっくりと傷口が広がる。悲鳴の様な大きな鳴き声が響き、オークがドゥッと倒れる。しかし、後方から猛進してくるオークの戦意は旺盛だ。ロヴィアーネめがけて大振りの武器が振り下ろされる。
「援護じゃ!」
空からルーロの『ウィンドスラッシュ』が敵に命中する。1体が顔を抱えて転がる。
「離れて! 風が行く」
ラルフの『ストーム』が敵の最後尾めがけて吹きつけられた。最後尾のオークが転がる。
「オークさん眠って!」
フェルトナは『スリープ』を使った。1体のオークがグラリと倒れる。残る1体がロヴィアーネを大斧で横薙ぎしようとする。それを剣で受け止めるが純然たる力勝負ではオークの方がロヴィアーネよりも勝る。
「‥‥っつ」
ロヴィアーネが吹き飛んだ。
「ロヴィアーネ様!」
フェリシアがロヴィアーネとオークの間に立つ。その間にもシルフィリアは高速詠唱で『リカバー』を唱える。
顔を覆っていたオークが武器を持ち直した。転んでいたオークも立ち上がった。1体は絶命している。1体は眠っている。
家の中にもオークがいた。クロードがダブルシューティングで敵を先制攻撃し、更にレオパルドがスマッシュを使う。倒れざまの剣を回避し、更に攻撃をする。オークが床に転がった。
「ボスはどこだ」
ラルフの声もルーロの声もここまでは聞こえない。
「‥‥奥だろう。こっちだ」
クロードの進む方へレオパルドも向かう。この手の家に独創的な間取りはない。大概どこも似たり寄ったりだ。クロードは足早に進み、扉を開けてゆく。納戸には何もない。台所にも人もオークもいない。
「‥‥うっ」
そこは最も広い部屋であった。倒れている沢山の男達‥‥そしてその向こうに巨大なオークがいた。
「こいつがボスか」
レオパルドは唇を噛み剣を掴み直す。
「援護する」
クロードの声が低く聞こえたが視線はオークから外さない。
「行くぜ!」
レオパルドが巨大オークに向かって走った。
4日に及ぶ戦いはなんとか冒険者達の勝利に終わった。盗賊らしい身なりの男もいたが全て絶命していた。数は10人ほどであったので、盗賊団が全滅したとは考えられない。別の拠点に移動したのだろうか。
「駄目ですわ。皆絶命しております。それもかなり以前の様ですわ」
フェリシアは倒れていた男一人一人を調べ、それから皆に向かって力無く首を横に振った。悔しいが手の施しようがない。
「オークにやられたか‥‥まぁ盗賊全員が手練れというわけでもないからな」
レオパルドは死んだ男達の手の平を見る。あまり武器を持ち慣れている様には見えなかった。一味に加わったばかりなのか、それともどこかの村から強制的に連れてこられた様な境遇だったのか‥‥それももうわからない。
「誰か一人でも生きていたら‥‥何か聞き出せたのに」
フェルトナは下を向く。聞きたいことは山ほどあった。猊下とは誰なのか、儀式とは難なのか‥‥それなのに何も掴めない。哀しかった。
「いや、頑張ったよ」
ラルフはフェルトナの額に軽く唇を押し当てる。
「少しこの辺りの建物の中でも漁ってくるかのぉ」
ルーロは首や肩をもみほぐしながら歩き出す。戦闘中、ソルフの実1つで魔力が持ったのは幸いだった。
「私もご一緒させてください、ルーロさん」
シルフィリアがルーロの横に並ぶ。自分も何か手がかりを探しに行きたかったのだが、やはり単独行動は控えるべきだと思っていたのだ。
「私も一緒に行くよ。その方が心強いよ‥‥クロード、あんたもだよ」
ロヴィアーネは井戸で矢を洗っていたクロードにも声を掛けた。
「‥‥わかった」
手早く矢をくくると、クロードも一行に加わった。
幾つかの羊皮紙が見つかった。どれも同じ様な簡単な地図が描かれており裏のは鳩の刻印がある。地図には1カ所に印がしてあった。
「これは‥‥この印の場所はシュバルツ城ですわ」
フェリシアがつぶやく。かつてのカルロスが夢の跡‥‥今は国が警護と管理をしている筈の場所だ。その筈であるのだが、ここにまだ何かあるのだろうか。
「とりあえず、引き上げるしかなさそうじゃな」
ルーロはそう言って野営地の方へと歩き出した。