薔薇の騎士

■ショートシナリオ


担当:深紅蒼

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月10日〜10月15日

リプレイ公開日:2007年10月15日

●オープニング

 花が売れるモノだと認識されはじめたのは何時の頃だっただろうか。
それまで小麦や大麦、寒さに強い根野菜などを作ってきた村のいくつかが売り物にするための花を作り始めた。今もその村では真っ赤な薔薇の花が大きな蕾をつけている。いずれ花開けば祭の式場を飾ったり、贈り物にされて貴婦人達を喜ばせるのだろう。

 その村も薔薇作りが盛んであった。けれどパリへと向かう途中に荷車ごと花を奪われてしまったのだ。逃げ帰った村人はとても怯えていたのだが、なんとか事情を聞き出すと村人総出で現場へととって返した。けれど、そこには空の荷車だけが残され、薔薇の花はなくなっていた。
 盗賊達は5人。誰もが立派な武器防具を身につけ、剣を抜いて村人達に荷車を置いていけと言った。特に頭だった1人は部下らしい4人に対して普段から命令しなれている様な‥‥揺るぎない声を出していたらしい。その防具の胸には大きな薔薇の花が華麗に浮き彫りにされていたという。

 盗難事件なのだから役所に訴え出るべきなのだろうが、村長はそれをしなかった。目撃者である村人はその事件以来家から出てこないし、痛くもない腹を探られるのは願い下げだ。また、事を公にして、もしその盗賊が高貴な身分であったり、上得意の関係者であったら巡り巡って村が困ることになる。

 そこで冒険者ギルドへ次回薔薇をパリへと運ぶ際の護衛が依頼された。今度も薔薇を奪われては村人達は生活が立ちゆかない。村の平凡だか当たり前の生活を守るために‥‥今、冒険者達の力が求められていた。

●今回の参加者

 eb6675 カーテローゼ・フォイエルバッハ(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ec2152 アシャンティ・イントレピッド(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2830 サーシャ・トール(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ec3299 グリゴーリー・アブラメンコフ(38歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)
 ec3793 オグマ・リゴネメティス(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

諫早 似鳥(ea7900)/ アルシャイン・ハルベルド(ea8982

●リプレイ本文

●薔薇を売る村
 パリから遠ざかる旅人が2人、少しばかり足早に街道を歩いている。秋の空はどこまでも青く高く、うっすらと長く伸びる雲が描かれている。
「前回荷車が襲撃されたのはもっと先だったよね」
 鮮やかにも深い紅色に染められた頭巾を目深にかぶったサーシャ・トール(ec2830)は半歩後ろを付き従うかのように歩くアシャンティ・イントレピッド(ec2152)に声を掛けた。武器などは巧みに衣服に隠してあり、一見すると旅商人の様にしか見えない。
「そうだね。この辺りはまだパリに近いから時間によっては人通りも多いけど‥‥盗賊達って土地勘があるのかな?」
 アシャンティはサーシャよりも地味で粗末な身なりをしていた。商家の奉公人を装っているのだろう。
 辺りに人の姿はなく、草原からは虫の声や鳥に鳴き声が遠く響く。強奪や襲撃といった殺伐とした事件には全く結びつきそうにないのどかな光景が続く。けれど過日この辺りでパリへと運ばれる筈の薔薇は持ち去られた。それだけは動かすことの出来ない事実だ。
「ちょっと急ごう。向こうで色々と話も聞きたいしね」
「うん」
 サーシャとアシャンティはまた少し歩を速めた。

 パリの防具を扱う大店の奥でグリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299)は店主と話をしていた。店先でちょいと尋ねるのははばかられたからだ。
「それで何をお聞きになりたいんで?」
 初老の店主は人の良さそうな笑顔で聞く。けれどその眼光だけが鋭い。
「俺は薔薇の紋章を鎧に刻んだ奴を捜してる。ある事件の下手人だが、あんた程の大店の店主なら心当たりがあるんじゃないかと思って来た」
 グレゴリーは包み隠さず正直に来意を告げる。手練手管や駆け引きは苦手というよりも嫌いであった。店主は顎に手をやり首をひねる。
「薔薇の鎧を作る洒落者はこのパリではそう珍しくありませんからねぇ」
「構わん。全部教えてくれ」
「やれやれ‥‥冒険者ギルドからではなかったら門前払いをしていたところですが」
 しぶしぶと店主は顧客の名を連ねた書き付けをグレゴーリーに渡してくれた。10を越える名が並んでいる。
「諫早! 手分けして調べるぞ」
 グレゴーリーと似鳥はパリの街を右と左に別れて走り出した。

 薔薇の搬送よりも半日ほど早くオグマ・リゴネメティス(ec3793)は村を出立していた。移動の道順、前回襲われた場所は村長から聞き出した。村長はオグマとは関わり合いになりたくないようでごく素っ気ないながらもオグマの質問には答えてくれた。オグマは薔薇を運搬する者達より先行し、襲撃に備えるつもりだった。
「う〜ん」
 現場に着くとオグマは低くつぶやき首をひねる。村長の答えはあまりに素っ気なくて、実際にその場所についてみても、一体どの辺りが襲撃場所なのかさっぱりわからない。まばらに立木の並ぶ小道がパリの方角へと向かって延びるだけだ。
「仕方がありません。少し探ってみましょう」
 道を外れオグマは丈の長い草むらへそっと分け入っていった。

●緊迫の邂逅
 早朝、次々と薔薇が荷車に積み込まれていく。実際に作業をしているのは村の男達だが、その作業をカーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)はじっと見つめていた。今は普段着用している防具は外し村人達の普段着と似たものを着込んでいる。寒さ避けの様に粗末なマントをまとい、武器はその下にそっと忍ばせてある。実はカーテローゼが普段愛用している防具にも、胸の位置に薔薇の意匠が鮮やかに彫り出されている。まるで自分が薔薇盗人と間違われたかのような居心地に悪さがある。なんとしてもこの一件を早急に解決したいと思うのはそのせいでもあるのだろう。
「私は先頭のロバの近くで警戒に当たるつもりよ。だから安心して頂戴ね」
 カーテローゼが僅かに笑みを浮かべると村の男達は何度も礼をいい、ホッとしたかのように雑談をしながらも薔薇の積み込みを急いだ。
 まだ朝靄の消えぬ早朝、村は3台の荷車に薔薇の花を積み込みロバに引かせて出発した。先頭のロバの横にカーテローゼ、そして2台目と3台目の荷車の間にアシャンティとサーシャがさりげなくついている。言葉もなくどこか緊張した様子で出荷の一行はパリへと動き出した。

 真昼の太陽が空に輝いている。夏の激しさはないがそれでも充分に暖かくまばゆい。そろそろ前回の襲撃場所にさしかかるとあって荷車を守る村人と冒険者の一行には更なる緊張が走る。
「そろそろ現れる頃です」
 数刻前に一行にはオグマが合流していた。オグマは既に相手の姿を確認していた。だが、相手がどのように振る舞うつもりなのかはわからない。その相手にこちがはどのように立ち回るか‥‥それが村の運命を決める。
 不意に振動が伝わってきた。前方、パリの方角からだ。続いてガラガラと軽い荷車の車輪の音、更に馬の足音‥‥続いて金属の触れあう音が響いてくる。
「来るわよ」
「来るね」
「その様ね」
 3人が顔を見合わせる。音の正体はすぐに現れた。立派な装束の騎馬騎士が1人、もっと身なりが簡素な従士が4人。大きな荷車を引いて走って来る。騎士の鎧は銀色で大きな薔薇の意匠が刻まれている。
「助太刀します! パイヤン卿!」
 草むらから大きな声が響いた。と、同時にその丈の高い草をかき分けグレゴーリーの大きな姿が現れる。その手には既に三日月の様に曲線の美しい斧の刃がぎらぎらと陽光を受けて光っている。カーテローゼ達へと向けられたグレゴーリーの刃は振り下ろそうとして不自然にねじ曲げられ騎士へと向かう。
「何?」
 兜をつけていない馬上の騎士は最前から不思議そうにグレゴーリーを見ていたが、その表情が驚愕に変わる。騎士と従士達が腰の剣に手を掛けるが間に合わない。
「またこんな事に‥‥」
 オグマは隠し持っていたダーツを投げる。牽制の為だ。
「みんな下がって!」
 アシャンティは両手を広げ村人達の盾となる。サーシャはロバの手綱を取り小声でなだめつつ騎士達をキッと睨む。
「待って!」
 カーテローゼが風の様に走り、間に入ってグレゴーリーと騎士の手を止める。
「危ない!」
 斧はカーテローゼをかすめて大地を穿つ。
「どういうつもりだ! 俺の手元が狂ったら、あんた真っ二つだぞ。薔薇盗人のエセ貴族を庇う気か?」
「盗人?!」
 馬上のまま剣を封じられた鎧騎士が眉をあげる。
「誤解なの。そうらしいのよ」
 カーテローゼは一礼して騎士の剣から手を離す。

●なんという真相
 サーシャは村で事細かく前回の襲撃事件の事を聞いて廻った。そうでなくては今後類似に事件が続くことになり兼ねないと諭すと村長も村人達もサーシャの問いに進んで答えてくれた。荷運びの道順、種類や配送先、売値。薔薇の紋章について。前回荷を運んだ村人にも1人1人に会って話を聞いたのだ。
「前回逃げ帰ってきた村人がすっかり話してくれた‥‥事が大きくなりすぎてしまって怖くなって口をつぐんでいたらしい」
 サーシャは少々呆れた様な突き放す口調で言う。その目は逃げ腰でアシャンティの背後にいる村人達へと向けられている。誰も悪気はなかったのだろう。納品が遅れていて受け取りに出向いた買い手も、それを盗賊と勘違いして逃げ出した村人も、知らせを聞いて大騒ぎしてしまった村の人々もだ。
「私は‥‥私は盗人ではないぞ。買い手が品を取りに来て何の不都合があるというのだ?」
 馬上の騎士ユーグ・ド・パイヤンは困った様な様子で言った。
「それならちゃんと代金ぐらい払ってやればいいだろう」
 グレゴーリーは左手の羊皮紙をぐちゃっと握り潰す。それは丁寧に書き上げた薔薇盗人の人相書きであったが、どうやら使い道はなくなりそうだ。
「支払ったのだ」
「家に閉じこもってた村人さんが持っていたよ。なんか思い詰めていたみたい」
 アシャンティが苦笑しながら言う。生来気弱な村人は盗人騒ぎの喧噪の中、村長にさえ真相を言えずに困り果てて家に籠もっていたのだった。サーシャとアシャンティが尋ねると泣きながら話してくれた。
「‥‥事件は起きていなかったのですね。よかった」
 オグマはそっとつぶやいた。村に悪意を持つ者も、村の薔薇を悪事に使おうとする者達もいなかったのだ。よかった‥‥と、心からそう思う。安堵の溜め息が漏れるのを抑えられない。
「はっ‥‥よかったではない。我が家は祭の準備で大量の薔薇を使うのだ。こうしてはおれん。のんびりと語らっている暇はない。急ぎその荷をパリへと運ぶのだ!」
 ユーグは従士達と村人を急かす。いや、それだけではない。
「そこもと達は村から仕事を請け負った者達‥‥ならば、パリへと薔薇を運ぶ手伝いをせよ。手が足りぬのだ」
「おい、嘘だろ?」
「えー」
「私達もですか?」
「あの、私達の仕事は‥‥」
「聞いてないよ」
「四の五の言わずロバをせかせ。パリは間もなくだ」
 ユーグは馬を巡らせとっととパリへと取って返す。従士達は3台の荷車から少しずつ薔薇を引いてきた荷車に移し、荷を均等にする。
「さ、参りましょう」
 ガラガラと騒々しい音を立てて荷馬車を引き駆け戻っていく。
「あの‥‥すみませんが、パリまでご一緒していただけませんか?」
 村人がおそるおそる言う。
「どうしますか?」
 オグマは仲間達1人1人に視線を移す。
「仕方ないわね。パリまで薔薇を届けるのが仕事なんだから」
 大きな溜め息の後でカーテローゼが言った。
「そうだね。これで別件の盗賊でも現れたら困るし、売り買いが成立するまでは同行したほうが安心だもんね」
 サーシャは苦笑混じりに言う。
「じゃ、行こうか」
 サーシャが笑って腕まくりをする。
「ったく‥‥しょうがない仕事だぜ」
 斧を納めグレゴーリーもパリへと向かってガタガタ走る荷へと向かう。無謀な強行軍のおかげで薔薇は普段よりも数刻早く華やかな祭ムードのパリへと到着し、買い手であるパイヤンの屋敷へと運び込まれた。