消えた子供

■ショートシナリオ


担当:深紅蒼

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月16日〜08月21日

リプレイ公開日:2005年08月25日

●オープニング

 パリから馬で1日程度の農村地帯で最近子供の行方不明が起こっている。数はまだそう多いわけではないが、ギルドへ捜索の依頼が数件舞い込んできた事によりあちこちで行方不明が起こっていることがわかった。消えてしまう子供は10歳前後で、男の子も女の子もほぼ同数だ。村はずれで親や大人がちょっと目を離した隙にいなくなる。子供同士で遊んでいて、気が付いたら1人だけいなくなっていた事もある。
 村の古老は悪い妖精が取り替え子をしているのかもしれない等と言っていたが、どうやら様子が違ってきたのは数日前の事だった。それは男の子を抱きかかえて走り去る人相の悪い男を見たという少年がいたのだ。この少年も消えた妹を捜していたのだが、それで余計にその子供や男の様子を見て不審に思ったのだという。少年は勇気を出して男の後を追ったところ、半日ほどの距離にある森の古い薪小屋に入っていったというのだ。中には他にも人がいるようだったが、少年は1人ではどうしようもないと思い、大急ぎで村に戻ったのだという。少年は確かに薪小屋に連れ込まれてのは近くの村の子供だと言う。そして、その子供は確かに家に戻ってはいない。
 この件は村の男達では手に余ると言うことでギルドへ依頼が来た。薪小屋を調べてもし子供達がいるのなら取り返して貰いたい、というのだ。子供達が村から消えた子供達かどうかは少年、ギョームが同行して判断する。子供を案ずる親たちの為に、尽力をして欲しい。

●今回の参加者

 ea8223 竜崎 清十郎(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9557 ミハイル・プーチン(21歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1627 フィア・ハーヴェント(29歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2968 アルフィン・フォルセネル(13歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●偵察
 遠くに小さく薪小屋が見える。ここは葉の生い茂った草むらだから向こうから姿を見られる心配はない。一行はここを拠点とし、薪小屋を伺っていた。そう、ギョーム少年が子供をさらう男が入っていったのを見た、あの薪小屋であった。
「うん、間違いない。あの薪小屋だよ。あそこに隣村のミシェルは担ぎ込まれたんだ」
「わかりました。ですから、もう少し声を抑えてください、ギョームさん」
 フィア・ハーヴェント(eb1627)は低い小さな声でそう言った。いくら姿を隠していても、音を立てては小屋に潜む者達に悟られてしまう。それでは元も子もない。
「‥‥ごめんなさい」
 ギョームは素直に謝った。
「わかってくれたらエエんでゲスよ」
 すぐにミハイル・プーチン(ea9557)が言った。かぶり物をしているので、顔の表情などはわからないが、口調からは『おどけてみせてギョームを気遣う』様子が伝わってくる。
「本当に誘拐なんだね、これ。村の人達はまだ『妖精の取り替えっ子』だって言う人もいたけど‥‥子供が消えちゃうのは確かなんだよね」
 やはり小さな声でアルフィン・フォルセネル(eb2968)が聞くと、ギョームは大きくうなづいた。
「本当だよ。モーリスもポールもシモンもジャンも‥‥みんな居なくなってる。みんな、アルフィンさんくらいの年の子供だよ。僕の妹もアンナもだよ。ねぇ、なんとかみんなを助けてくれるでしょう?」
 ギョームは皆を1人1人見て言う。フェリシア・フェルモイ(eb3336)はその細く白い手をギョームの肩に置いた。
「勿論です。か弱き子供達の為に‥‥聖なる母の僕としてこの身を賭して戦いましょう。ですから、涙をお拭きなさいませ」
 フェリシアは優しく笑ってギョームにハンカチーフを渡した。
「おい。小屋の扉が動いたぞ」
 低い声で竜崎清十郎(ea8223)が言った。皆一斉に口を閉ざし視線を遠くの小屋へと向ける。清十郎が言うとおり、小屋の扉が外向きに開いた。そこから1人の男が出てくる。

「じゃあ行ってくる」
「あぁ。頭によろしく言ってくれ」
「わかった。そっちも予定通りにな」
「言わずもがな、だぜ」
 中からもう1人、先に外に出た男を見送る男が扉の外まで出てきた。

「あいつだ! あいつ……」
 ギョームが叫ぶ。立ち上がった更に何か叫びそうになるのを必死で止める。
「静かに! 見つかるぞ!」
「そうでゲス。ここは堪えて」
 清十郎とミハイルがギョームの身体と口を制していた。
「見つかったかな?」
「いえ‥‥どうやら平気そうです」
 小屋の様子をじっと見つめていたアルフィンとフィアがそっと溜め息をつく。
「けれど見張りが出ましたわ。どうやら夜には外に見張りを置くようです」
 フェリシアが言うとおり、辺りは暗くなり始めていた。そして小屋の扉付近には男が1人あたりを気にしながら立っている。
「夜を‥‥それも夜更けを待つべきかもしれないな」
 清十郎は呟くように言った。

●奪還
 荷物を全部置いた状態でアルフィンは詠唱に入った。『グッドラック』の魔法を使うのだが、これは効果時間が割と短い。全員に使ってから戦闘に入ったのでは、最初にかけた者の効果がすぐに切れてしまう。まずは清十郎に、そして相談の末にミハイルに使うことになった。アルフィンは蒼い宝石のはめ込まれた十字架を手にして、そっと『詠唱』する。祝福された者には加護が与えられる。
「これで聖なる加護が2人を守ってくれると思う」
「‥‥すごい」
 初めて目の前で神聖魔法を見たのか、ギョームが目をまんまるくする。
「お気を付けて‥‥ください」
 フィアが思いを込めてそうつぶやく。この場所でフィアとギョームは待機をする。どのような不測の事態が起こってもギョーム少年を守るためだ。
「お任せ下さい」
 フェリシアは揺るぎない口調でそう言い、アルフィンと共に少しばかり前進する。何かあったときにはすぐにフォローをするためだ。そして清十郎とミハイルは更に前進をし、木陰に身を隠す。
 小屋の中には何人いるかわからない。しかし、確実に1人は減っている。外に1人。清十郎の計算では、中に3人以上はいないと予測している。
「いくでゲスよ」
「あぁ」
 それでも少しでも戦力を減らすべくミハイルは『声音』を使った。
「アンナぁ〜アンナあぁ〜〜僕だよ。お兄ちゃんだよぉ〜どこにいるんだぁ〜」

「え? 僕の声?」
「えぇ。あれはミハイルさんの特技ですわ。色々な方の声を真似てしまえるのです」
 フィアがギョームに説明をする。

 見張りの男がすぐに動き出した。ミハイルがいる木陰に向かって歩き出す。けれど、少しも廻りを警戒していない。子供の声に油断しているのだろう。
「どこにいる坊主」
 男が声を掛ける。その背後に清十郎が忍び寄った。手にした刀で『スタンアタック』を決める。しかし、無傷の男を一撃で気絶させることは出来ない。
「な、なんだ! てめぇ!!」
 男が怒声をあげる。
「やばいでゲス」
 ミハイルは急いで片手で印を結び『詠唱』に入る。仄かな光を放つ矢が生まれ、清十郎と切り結ぶ男に当たる。
「うおぉ! こっちにもいたのか!」
「どうした!」
 小屋の扉が開き、男が顔を出す。
「まずい! ここは頼む!」
 清十郎は刀を捨て小屋へ走った。見張りの男は清十郎をちらっと見たが、ミハイルへと目を向け短刀を閃かす。
「あぶない!」
 アルフィンが声をあげる。魔法を使ったばかりのミハイルは隙だらけであった。短剣を避けることが出来ない。
「うわああぁ」
 血が流れる。
「ミハイル様!」
 フェリシアが走る。『リカバー』の魔法は対象となる者に触っていなければならないからだ。

「フィアさん。僕はいいから‥‥だからみんなを助けに行ってよ!」
 ギョームはフィアの衣の裾をぎゅっと握る。けれど、フィアは首を横に振った。
「いいえ。それは出来ませんわ。わたくしは皆様を信じております。ですから、ここであなたをお守りします。それがわたくしの使命ですわ」
 フィアの口調は固かったが、キッパリとしていた。
「そんな‥‥」
 ギョームは真っ青になりながら、戦いを見つめる。

 ミハイルは怪我でまとまらない心を必死に集中させようとしていた。しかし、逃げるだけで手一杯になる。見張りの男は執拗に短剣を繰り出す。フェリシアとアルフィンは何とか加勢しようと思うが、手が出せない。

 小屋の中では武器を捨てた清十郎が足技を使って敵を攻撃していた。中にはやはり3人の男がいた。
「ぐあああぁ」
 最初に外を覗き見た男が腹を蹴られて小屋の中に転がる。
「なんだ!」
「貴様ぁ〜」
 2人の男が立ち上がる。頭に血が上ったのか、そのまま殴りかかってきた。しかし清十郎の足の方が長い。更にもう1人が蹴り倒された。
「くそぉ〜」
 残る男が武器を抜こうとするが、それよりも清十郎の攻撃は早かった。すぐに3人を倒すと中にいた子供達に声を掛ける。
「大丈夫か?」
「うん、僕ポールだよ。さっき頭の中にお話してきた人?」
 聡明そうな顔をした子供が話し掛けてきた。戦いの前にミハイルが『テレパシー』を使ったのだが、それを言っているのだろう。
「いや、だけど仲間だ」
「よかった。僕たち、怖かったけど我慢してたよ」

「あああああああぁぁ」
 その時、悲鳴があがった。幼い声だ。あわてて清十郎は小屋の外に出る。子供達もそれに続く。
「ギョーム!」
 ミハイルの叫びが聞こえた。見張りの男の短剣がギョームに刺さっている。
「このぉぉおおお!」
 いつ短剣を抜いたのかわからない。けれど、ミハイルはそれで見張りの男を切りつけていた。
「わああぁ」
 男が悲鳴をあげて地面を転がる。
「ミハイル様、『リカバー』を‥‥」
「おいらよりもギョームを!」
 ミハイルは腕を掴むフェリシアから逃れようとする。それよりもギョームの事が気になっていた。
「‥‥だめ」
 アルフィンは目に涙をためていた。ギョームの傷は致命傷であった。
「ギョームさん‥‥何故、こんな‥‥」
 フィンは呆然としていた。ギョームはいきなり走り出し、ミハイルと男の間に飛び込んだのだ。
「‥‥ごめん、ね。フィンさん‥‥みなさん。おねがい、アンナを‥‥」
 ギョームは血に染まったままこときれた。

 小屋から助け出された子供の中にアンナはいなかった。
「ちょっと前に連れて行かれたんだ」
 ポールは小さな声で言った。
 小屋にいた5人の子供は村に帰っていった。