●リプレイ本文
●待ち伏せ
小鬼に物資を略奪されている村はここで2つめになる。1つめの村は全てを奪われ、人々はその村を捨てた。このまま手をこまねいていれば、この村も同じ運命を辿るだろう。
「どうもありがとう。これ、絶対無駄にしないから」
深くフードを被ったままでマリー・ミション(ea9142)は村の老人に礼を言った。この老人は囮となる小屋と小麦を提供する事に同意してくれていた。
「もうわしらではどうにもならん。あんた達だけが頼りじゃ。なんとかあの忌々しい奴らを退治してせがれの無念を晴らしてくれ」
老人は涙を浮かべながら言った。先日小鬼どもに殺されたのはこの老人の息子であった。
「どのような苦しい試練も必ずや乗り切る術はあるはずです。ご協力を感謝致します」
フェリシア・フェルモイ(eb3336)は祈りの聖句を唱え、それから老人に『保証金』だと言って革袋を差し出した。
「この件が終わるまで預かっていてくれ」
芦品 慈恩(eb1835)が言葉を添える。中には慈恩の5Gとフェリシアが出した2Gが入っている。
「‥‥あんたらの気持ちはわかった」
老人は革袋を手に村の西側へと歩いていった。そこにほぼ全員が避難している。
「俺はもう一度罠の様子を見てくる」
慈恩は村の東へ向かって歩く。
「わたくし達は小屋へ参りましょうか」
「そうね。あっちの準備も気になるしね」
フェリシアとマリーは連れだって老人の小屋へと向かって行った。
小屋の中は大きな袋が5つほど置かれていたが、他には何もない。この中身は小麦で先ほどの老人の持ち物であった。小鬼をおびき寄せる『餌』になる予定だ。
「やっぱりワインもあった方がよろしいですわね。インプがお酒を飲んで酔うのかはわかりませんけれど‥‥」
アリシア・キルケー(eb2805)は小屋の内部を見回しながら言った。村の東のはずれからここまでは転々と食料も置いた。確実に敵をおびき寄せるためだ。
「もっと食料を置いた方がいいかな。でも、この村もそんなに裕福じゃなさそうだしあとは幻影でいいかなぁ〜」
碧色の羽根を持つシフール、ライラック・グッドフェロウ(eb3304)は顎に手をやりしかめっ面をして考えていたが、すぐに結論を出した。
そして明け方近く。夜の闇もあと数時間で太陽にかき消されてしまうだろう頃。村の東が騒がしくなってきた。木片同士がぶつかり合う音も混じる。
「鳴子にひっかかったか」
慈恩は淡い笑みを口元に浮かべた。
「来たわ。やっぱりオーガじゃない。インプね」
茶色の羽根を持つパナン・ユキシアル(ea6131)は真っ先に村へと入ってきた小鬼の群れを見つけ、それを鑑定した。最下級のデビルではあるが、それでもデビルはデビルである。小柄だが通常の武器による攻撃は効かない。
「ジョン! その『アイスチャクラ』なら敵に攻撃出来るわ」
「わかった」
ジョン・ストライカー(ea6153)はパナンに作ってもらったばかりの武器を手にしていた。そして、じっとインプの様子を見守っている。
「ジョン殿!」
慈恩が声を掛けるとジョンは軽く肯いた。そして『オーラパワー』を慈恩に使う。
「かたじけない‥‥参る!」
慈恩は音もなく闇に消える。
「ジョン。俺のサイズにも頼む!」
ルシファー・パニッシュメント(eb0031)は右手に持つ鎌を軽くジョンの方へと向ける。
左手のナックルには銀のネックレスが巻き付けてある。これもデビル対策の1つであった。
「ちょっと待ってくれ」
ジョンはルシファーのすぐ前まで飛んでゆく。
「あ、奴らが小屋に入っていきますわ」
マリーが小さな声で言った。なるほど、先頭のインプ達が小屋の中へと入っていく。
「よ〜し」
ライラックは片手で印を結び『詠唱』する。すると小屋の中に豪華なご馳走の幻が浮かび上がった。
「キキィー」
「キー」
奇声をあげながらインプ達が小屋へと入る。
●全面戦闘
幻を見たインプ達は先を争って小屋に入った。その時点でごちゃごちゃになっているが、だいたい半分ほどがまだ外にいた。
「ジョン・ストライカー出る!」
ジョンは身を潜めていた建物の影から躍り出た。そして『アイスチャクラ』を敵に投げつける。
「ギャア」
攻撃が当たったインプが耳障りな声をあげた。一斉にインプ達が振り返りジョンを見る。
「扉が‥‥扉が!」
フェリシアは後方から叫んだ。インプ達の半数ほどが入った小屋の扉はまだ開け放たれたままだ。
「扉が開いたままですわ」
アリシアも悲鳴の様な声をあげる。
「え?」
比較的小屋の近くにいたライラックは急いで扉へと飛ぶ。
「ジョン!」
ルシファーはサイズを振ってジョンを援護する。ジョンの周りはインプで一杯だった。一刻も早く加勢しなくてはジョンが危険だと判断した。
「援護を!」
「わかりました」
敵の攻撃を一手に受けるジョンには声を出す余力もない。代わってパナンへ声を掛けたのはルシファーであった。パナンが魔法の詠唱に入る。
「だ、駄目だよ。こいつらの力のが強くて扉が閉まらない!」
ライラックは必死に扉を閉めようとしていた。しかし、数にも体格にも勝るインプを閉じこめるに至らない。しかも、触ろうとしてはじめてご馳走が幻だとわかり、インプ達は興奮していた。無闇に小屋の中で暴れたり、小麦の袋を投げつけたりしている。
「これでも喰らいなさい!」
パナンの『アイスコフィン』がインプを捉え氷の中に封じ込める。
一方、慈恩も厳しい戦いをしていた。小屋にはまだ至っていなかったインプ達を強襲したのだ。最初に1撃で1匹に深手を負わせたが、その後は移動しながらの戦いになった。囲まれる不利は避けたかったからだが、ほぼ1人で戦う状況では防戦一方になる。ただ、『疾走術』のおかげでなんとか均衡を保っている。
「なんとかオーラパワーの効果がある間に‥‥」
膠着状態では駄目なのだ。慈恩は唇を噛む。
アリシアとフェリシアは後方で戦いを見守っていた。1匹、2匹とインプが倒される。しかし、ジョンやルシファー、そしてライラックも消して余裕のある戦いではない。
「当たらなければ、いくら手数が多くてもどうと言うことはない!」
ジョンは『アイスチャクラ』を敵に投げつける。それは確実に敵を傷つけるが、なかなかインプは倒れない。
「があぁぁ」
歯をむき出しにしたインプが防御もなしに襲ってくる。
「わっ」
ジョンが体当たりを喰らって地面に落ちる。
「危ない!」
ルシファーがナックルを繰り出す。ライラックは『ムーンアロー』の詠唱に入る。
「怪我をなさったかもしれませんわ」
アリシアが蒼い顔で言う。
「参りますわ」
言うよりも早くフェリシアが走り出していた。周りにはインプがうようよいる。けれど、接触をしなければ『リカバー』の魔法は使えない。
「ジョン様!」
「危ない、フェリシア!」
ルシファーは警告を発するがジョンの側を離れられない。
「いっけ〜!」
ライラックの『ムーンアロー』が朧な光を放ちながら飛ぶ。しかし、それは1匹のインプに当たって退かせただけだ。
「凍えちゃいなさい!」
パナンが『アイスコフィン』の魔法を使う。
「きゃああ、フェリシアさん!」
アリシアは顔を伏せた。それでも敵の攻撃を封じきれない。
10匹のインプが退治された。しかし、小麦1袋が強奪され小屋も半壊した。逃げていくインプ達を追撃する余力は誰にもなかった。老人は『保証金』を受け取らなかったので、預けた金は戻ってきた。
後日、この村の近くからシュバルツ城方面へと物資を運ぶインプ達の姿が目撃された。2つの村から奪った物資はカルロス側の軍事物資として活用されるのかもしれない。