故郷への旅

■ショートシナリオ&プロモート


担当:神羅晩翔

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2008年10月27日

●オープニング

「すみません、冒険者の方に依頼をするのは、こちらでいいんでしょうか?」
「はい、そうですよ。どんなご依頼ですか?」
 老婦人連れの男性の声に、ギルドの受付嬢は笑顔で答えた。
「ええと、護衛と言えばいいのかな? わたしと妻の代わりに、母の旅行についていってもらいたいんですが‥‥。ああ、すみません、先に椅子をお借りしてもいいですか? 母は右足が悪いもので」
「まあ、それはそれは。どうぞ、こちらの椅子をお使いください」
 受付嬢が勧めた椅子に、老婦人は、
「まあまあ、すみませんねえ。よっこらしょ」
 と、杖をついて座る。
「母さん、大丈夫かい?ほんとにその足で旅するつもりかい?」
 隣の椅子に座った息子が、気遣わしげに言う。その言葉に、老婦人は胸を張って答えた。
「大丈夫ですよ。杖があれば、ゆっくりだけど歩けるんだし。私はまだまだ元気なんですから」
 そう言うと、老婦人は受付嬢へ笑いかける。
「私は1人でも大丈夫だって言ったんですけどねえ。息子夫婦が心配しちゃって。まあでも、息子や嫁が心配してくれるうちが花かしらねえ。こんな風に、冒険者の方々に依頼を出してくれるなんて」
「ええと、それで、依頼の内容というのは‥‥?」
 小首をかしげた受付嬢に、老婦人はふふふ、と笑う。
「ちょっとだけ、おばあちゃんの長話につきあってくださいな。ええと、何から話せばいいかしらねえ‥‥」
 老婦人は、遠い目をして、自分の半生を話し始めた。
 老婦人が故郷の村から、初めてキャメロットへとやってきたのは、今から30年前、結婚したばかりの頃だった。結婚相手は、故郷の村の幼なじみ。若い2人は、キャメロットでの豊かな生活を夢見て、懸命に働いた。
 そのおかげで、数年のうちに、下町に小さな中古の家を買い、息子にも恵まれ‥‥、自分でも、十分に幸せだと思える人生を送ってきた。
「でも、去年、長年連れ添ってきた夫が病気で亡くなってねえ‥‥」
 自分ももう、老いてきた。人生の残り時間を数える歳になってきた。
 そう思ったとき、老婦人の心に浮かんだのは、「もう一度、故郷の景色が見たい」という思いだった。
「私と主人が故郷を出てから、もう30年が経ってるわ。故郷の村も、ずいぶん変わっていることでしょう。でもねえ」
 老婦人は、手に持った布鞄から、一通の手紙を大切そうに取り出した。
「先週、この手紙が届いたの。私や主人より、何年かあとに村を出て、別の街へ行った幼なじみの夫婦でねえ。余生を故郷で過ごすことにしたので帰ってきました、って。よかったら、思い出話をしに遊びに来てくださいって、書いてきてくれたの」
 老婦人は、宝物を抱きしめるように、大切そうに手紙を胸に押し当てた。
「私も主人も、親の葬式の時くらいしか帰ったことのない故郷なのに、この手紙を見たらもう、居ても立ってもいられなくなっちゃって‥‥。長年離れていても、生まれ育って‥‥主人と出会った故郷は、あの村だけだから‥‥」
 亡くなった主人のことを思い出したのだろうか、老婦人は目の端に浮かんだ涙をそっとぬぐった。
「やだ、ごめんなさいね。やあねえ、年をとると涙もろくなっちゃって‥‥。故郷の村までは、徒歩で1日くらいなの。でも私、3年ほど前に患った病気のせいで、右足が思うように動かなくてねえ。杖を使っても、人よりゆっくりしか歩けないのよ。だから、息子も心配しちゃって‥‥。おばあちゃんの一人旅だなんて、追いはぎや詐欺にあったらどうするんだって。本当は息子夫婦がついてきれくれたらいいんでしょうけど、今はちょうど仕事が忙しい時期でねえ。私のわがままに付き合わせちゃ悪くて‥‥。かといって、冬まで待ったら、今度は旅が辛くなるでしょう?寒いと、足だって痛むし‥‥」
「すみません、ほんとはわたしや妻がついていくべきなんですが、今の時期はどうしても仕事の都合がつかなくて‥‥。こんなことを人様に頼むのは心苦しいのですが、母の願いはかなえてあげたくて‥‥」
 老婦人の隣で、息子が頭を下げる。
 母親思いの息子の様子を、嬉しそうに見ていた老婦人は、視線を上げると受付嬢に微笑んだ。
「というわけで、私が故郷へ帰る旅に一緒についてきてくれるように、冒険者の方に依頼したいの」

●今回の参加者

 ec4929 リューリィ・リン(23歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ec4989 ヨーコ・オールビー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●旅立ち
「どうぞ、母のことをお願いします」
 早朝のさわやかな日射しの中、依頼人の息子夫婦は、3人の冒険者達に深く頭を下げた。
「大丈夫! おばあちゃんに危ないことがないように、あたしが空から見張っておくからね」
 シフールのリューリィ・リン(ec4929)が羽をはばたかせ、息子の隣に旅装姿で立つ、老婦人の周りをくるりと回る。
「そうですわ。おばあさまは私達が必ずお守りいたします。ご安心くださいませ」
 クレリックのラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)が、にっこりと息子に微笑みかける。
「大船に乗ったつもりで任せてや。ところで、おばあはんは馬には乗れるんやろか?」
 エルフのヨーコ・オールビー(ec4989)が老婦人に問いかける。
「故郷の村では農耕馬もいたから、馬は怖くないけれど、乗ったことはないわねえ。でも」
 と、老婦人はヨーコに微笑んだ。
「馬に乗る機会なんて、初めてだもの。よかったら乗せてほしいわ」
「お、お母さん‥‥!」
 母の言葉に、息子が心配してうろたえる。そんな息子に、老婦人は悪戯っぽい表情で笑いかけた。
「だって、こんな旅をする機会は滅多にないんだもの。挑戦してみなくっちゃ」
「どうや、おばあはん。大丈夫かな?」
 助けてもらって馬に乗り、鞍に横座りになった老婦人に、ヨーコが尋ねる。
「高くて怖かったら、あたしが隣を飛ぶよ?」
 リューリィが、鞍に座った老婦人の目の高さまで舞い上がり、顔をのぞき込む。老婦人はリューリィの小さな顔ににっこり笑いかけた。
「ありがとう、大丈夫よ。いつもと同じ景色なのに、視線が高くなるだけで新鮮に感じるわねえ」
「おばあはんが馬を気に入ってくれたみたいでよかったわ。リクオー、おばあはんをよろしく頼んだで」
 ヨーコの声に応え、ペットのリクオーがぶるる、と鼻を鳴らす。
「乗っているのが辛くなったら、いつでも言ってくださいましね」
 ラヴィサフィアが老婦人を見上げる。
「ほな、出発しよか。楽しい旅の始まりや♪」
 「お気をつけて」と見送る息子夫婦をあとに、4人はキャメロットを出発した。

●旅はのんびりと
「空に上がって行く先を見てきたけど、怪しいものはなかったよー」
 索敵から戻ってきたリューリィが、ヨーコとラヴィサフィアに報告する。
「おおきに、助かるわ」
 リクオーの手綱を引いて歩くヨーコが礼を言う。
「それにしても、よいお天気ですわねえ♪ 絶好の旅日和ですわ」
 伸びをしながらラヴィサフィアが辺りを見回す。
 秋の日射しは穏やかで、渡る風は肌に心地よい。遠くの山々まで木々は色づき、目にも鮮やかだ。
「おばあちゃん、疲れてない? 大丈夫?」
 リューリィが老婦人を見上げる。
「ありがとう。馬のおかげで、全然疲れていないわ。それより、あなた達は大丈夫?」
「あたし達は冒険者だもん、これくらいの距離、へっちゃらだよ」
 羽をはばたかせ、リューリィが空中でくるりと一回転する。
「そうやで。うちらは、おばあはんのペースに合わせるさかい、疲れたら遠慮せんと言うてや」
「そうですわ。女の子4人ですもの。余計な気遣いはいりませんわ」
 ヨーコとラヴィサフィアが顔を見合わせてうなずく。老婦人はふふふ、と笑った。
「まあまあ、私も女の子の仲間に入れてくれるのね。嬉しいわ」
「大丈夫♪ 女の子はいつまでも女の子だよ♪」
「そうですわ。リューリィさまの言う通りですわ♪」
 力説するリューリィとラヴィサフィアの言葉に笑いがこぼれる。
「そういえば、おばあさまの故郷はどんなところですの?」
 ラヴィサフィアの問いに、老婦人はそっと目を閉じた。
「そうねえ。もう何十年も昔に出てきたところだけど‥‥目を閉じれば、昨日のことのように思い出すわ。木組みの家々、両親と一緒に耕した畑、世話をした家畜達‥‥。なんてことのない小さな村だけれど、私にとってはかけがえのない故郷なの」
「素敵な村だと思うよ。あたしもおばあちゃんの故郷、早く見たくなっちゃった」
 リューリィがぱたぱたと羽をはばたかせる。
「亡くなられた旦那様も、同じ村の出身でしたのよね?」
「そうなの。家が近所で、3つ年上のお兄ちゃんで‥‥。初恋の人だったから、結婚を申し込まれた時は、夢かと思ったわ」
 ラヴィサフィアにうなずいた老婦人は、頬を染める。
「幼なじみとの初恋かあ‥‥ええねえ」
 バードであるヨーコがしみじみとうなずく。
「初恋の君との結婚かあ。ロマンチックだね♪」
「本当ですわ。私はまだ恋をしたことがないので、憧れてしまいます」
 リューリィとラヴィサフィアが、それぞれ、うっとりした表情で呟く。
「あらあら、3人とも可愛らしいもの。心配しなくても、男の人がほうっておかないと思うわ」
「おおきに、おばあはん。でも、そんなこと言われたら照れてしまうわー」
 ヨーコの言葉に笑いが広がる。楽しくおしゃべりしながら、4人はのんびりと道中を過ごしていった。

●夕餉の時間
「おばあはん、座って楽にしといてな。すぐにテントを組み立てるさかい。あ、ラヴィ、そこの紐取ってくれる?」
「これですの? ヨーコさま?」
「うん。おおきに」
 夕方。夜道は危ないということで、早めに野営の準備を始めた4人は、せっせと準備にいそしんでいた。
「ねえねえ、おいしそうなキノコを見つけたよー」
 見回りもかねて近くの林に行っていたリューリィが、両手いっぱいにキノコを抱えて戻ってくる。
「まあ、素敵ですわ。ただの保存食ですと味気ないですものね。これで一工夫ができますわ。夕御飯は、私が腕によりをかけて、温かくておいしいものを作りますわね」
「楽しみねえ。私もお料理なら手伝えるから、できることがあれば言ってちょうだいね」
 ラヴィサフィアに、老婦人が申し出る。
「じゃあ、あたしはもう少しキノコと、あと薪を拾ってくるねー」
 リューリィが、再び林へと飛んでゆく。
 日が暮れる頃には、4人は焚き火を囲んで温かい夕御飯を前にしていた。
「どうですか、おばあさま。お味はいかがでしょう?」
「とってもおいしいわ」
「ふふ、お口にあって嬉しいですわ」
 老婦人の答えに、ラヴィサフィアが嬉しそうに笑う。
「最近、夜は寒くなってきたもんね。あったかい御飯がおいし〜」
「リューリィの採ってきてくれたキノコの食感がいい味出してるわー。おおきにやで」
「どういたしまして♪」
 リューリィとヨーコも夕御飯を味わう。
「外で食べる御飯は格別ね。素敵なご馳走をありがとう」
 食べ終えた老婦人が、3人に頭を下げる。
「さて‥‥おなかがくちたところで、うちの出番やね。一曲、どうや?」
 ヨーコが、荷物の中から竪琴を出してくる。
「わあ、弾いて弾いて♪」
「ぜひお願いしますわ」
 リューリィとラヴィサフィアが拍手する。
「ほな、一曲‥‥」
 ポロン、と弦をつまびいて音程を確認すると、ヨーコは竪琴を弾き始めた。
 郷愁を誘うような優しい音色が流れ出す。3人は、うっとりとヨーコの奏でる音色に聞きほれた。
 ぱちぱちとはぜる焚き火の炎が、4人の顔を赤く染める。空に瞬く星々も竪琴の音に耳を傾けているかのようだ。
 ‥‥ポロロン。
 余韻を残し、ヨーコの演奏が終わる。終わった瞬間、3人は惜しみない拍手を注いだ。
「素晴らしい演奏ですわ!」
「うん、胸にじーんってきちゃった」
「そんなに褒められたら照れるわ。ご静聴、おおきに」
 ヨーコが優雅に一礼する。
「ほな、気分も安らいだとこで、そろそろ寝よか。おばあはんも慣れへん旅で疲れたやろし、ゆっくり休んでもらわなな」
 そう言うと、ヨーコはリクオーの背中から予備の毛布を下ろし、老婦人へと渡す。
「おばあはん、これ使ってくれてええさかい。あったかくして寝てや」
「夜は寒いから、風邪とか引かないようにしなきゃね」
「リューリィの言う通りですわ。さあ、おばあさま。こちらへどうぞ」
 ラヴィサフィアが老婦人が立つのに手を貸し、テントの中へと案内する。
「火の番は3人で交替すればいいかな?」
「リューリィさま、もしよろしければ、私は明け方を担当したいですわ」
 テントから戻ったラヴィサフィアが2人に頼む。
「ええよ。ほな、リューリィが最初、うちが2番目、ラヴィが3番目ってことでええかな?」
「了解〜。みんな、何か怪しいことがあったら、すぐに起こしあおうね」
 リューリィの言葉に、ヨーコとラヴィサフィアはこっくりとうなずいた。

●故郷の村へ
「ねえねえ、村が見えてきたよ〜」
 空へ上がっていたリューリィが報告に下りてくる。
翌日、4人は午前中に老婦人の故郷の村へと着いた。
「幼なじみさまのおうちはどこでしょう?」
 ラヴィサフィアが小首をかしげる。
「村の人に聞いたらええよ。おーい、すみませーん」
 ヨーコが近くの村人に尋ね、4人はすんなりと幼なじみの家に到着した。
「あらあら! 手紙を出してから、こんなに早く来てくれるだなんて! さ、どうぞ入って入って!」
「遠路はるばる、お疲れだっただろう」
 幼なじみの老夫婦は、驚きに目を丸くし、両手を広げて歓迎する。
「あなた達からの手紙を見たら、いてもたってもいられなくなって‥‥、こうして冒険者の方々に連れてきてもらったの」
 幼なじみの腕に飛び込んだ老婦人の目は、懐かしさに濡れている。その様子を満足そうに見ていた3人を、旦那さんが手招きした。
「さあさ、戸口じゃなんだから、中へどうぞ。狭いですが、今日はうちに泊まっていって下さい」
「さあ、あなたもこっちへ来て。今までどうしていたのか、話をたくさん聞かせてね」
 奥さんが老婦人を奥の部屋へと連れていく。
「どうする? お言葉に甘えちゃう?」
 リューリィが2人に囁く。
「そやな。帰り道のこともあるし、今日はここでゆっくり休ませてもろて、英気を養おか」
「賛成ですわ」
 ヨーコの言葉に、ラヴィサフィアが笑顔でうなずく。
 家の中へと入っていく3人を、秋の日射しが優しく照らしていた。