灰色の暴君

■ショートシナリオ&プロモート


担当:神羅晩翔

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月26日

リプレイ公開日:2008年11月27日

●オープニング

「すみません、冒険者に依頼を出すのはここですか?」
 冒険者ギルドの受付に現れた男は、旅装だった。キャメロットへ着いて、まっすぐギルドへ来たのだろう。怪我をしているのか、マントの下の左腕を吊っていた。
「はい、御依頼をうかがうのはこちらですが?」
 受付係の言葉を聞くと、男は矢も盾もたまらないといったように話し出す。 
「わたしは、キャメロットから片道2日ほどの村で猟師をしています。村の近くには大きな森があり、色々な動物が棲んでいるのですが‥‥。そのなかには熊もいます。大きなグレイベアで、気性が荒く、森の主みたいなヤツなんですが‥‥。そいつが最近、冬眠前のエサを求めて、村の近くまで姿を見せるようになりました。村外れでは、放牧していた羊が襲われたりもしています」
 そこまで一気に話した猟師の男は、言葉を止めると、怪我をした自分の腕に視線を落とした。
「本来なら、猟師であるわたしが、ヤツを倒さなくてはならないのですが、先日、猟で不注意から腕を怪我してしまい‥‥しばらく、弓を持つことができません」
 男の言葉には悔しさがにじんでいた。
「ですが、このままグレイベアを放っておけば、村が襲われないとも限りません。そうなったら、どれほどの被害が出るか‥‥。グレイベアが巣にしている洞窟の場所はおおよそわかっています。怪我をしているので、森の奥まで入って案内することはできませんが‥‥。冒険者の方には、ヤツの退治をお願いしたいのです」

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec3660 リディア・レノン(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●顔合わせ
「地のウィザード、リディア・レノン(ec3660)よ。よろしくね」
「レンジャーのアシュレーだ。よろしく」
「リアナ・レジーネス(eb1421)です。よろしくお願いいたします」
「‥宜しくお願いします」
 リディア・レノンの言葉に、他の3人、アシュレー・ウォルサム(ea0244)、リディアと同じくウィザードのリアナ・レジーネス、メイド姿のマイ・グリン(ea5380)が口々に挨拶をする。
「熊退治かあ。久しぶりのイギリスだ。‥‥まあ、熊ぐらいならこっちでの肩慣らしにはちょうどいいかな」
 アシュレーが指をぱきりと鳴らす。
「‥森の中の獲物だけでは冬支度に足りないと見たのか、村を手軽な餌場だと判断したのか、‥どちらにしても、被害が出る前に退治する必要がありますね」
「そうですね」
 マイの言葉にリアナがうなずく。
「でも、よく見ると、このメンバーって、前衛がいないんだよな」
 一行を見回したアシュレーが苦笑をもらす。
「まあ、ウィザードにとっては、魔法を撃ちやすくはありますが‥‥」
 リアナも苦笑する。
「これは、きっちりと作戦を立てないといけないわね」
「‥もし、前衛が必要なら、私が前に立つことも可能です」
 リディアに、マイが抑揚の無い口調で答える。
「俺のペットの鷹のランスと柴犬のリキも、前衛に立てるからな。まあ、なんとかなるだろう」
アシュレーがメンバーの不安を消すように笑う。
「じゃあ、現地へ向かう道すがら、詳しい作戦を立てましょうか?」
「‥私は馬がありますので、移動手段のない方には、セブンリーグブーツを貸し出しましょう」
 リディアにうなずき、マイがぴかぴかに磨かれたセブンリーグブーツを差し出した。

●下調べ
「グレイベアが巣にしているという洞窟は、どんなところなの?」
 グレイベアが棲む森にほど近い村外れ。
リディアの問いに、猟師は森の奥を指差した。
「ヤツが棲んでいる洞窟は、森の西側にあります。そばに、大きい樫の木が立っているのが目印になりますが‥‥」
 移動手段を駆使し、予定よりも早く村に着いた一行は、森のそばで猟師の説明を聞いていた。道中も聞いてはいたが、やはり現地での説明となると具体性が違う。
「洞窟の前は、どんな感じなのかしら? ひらけている? もし、木々がうっそうとしていたら、魔法によっては不向きなんだけど‥‥」
 リディアが猟師に尋ねる。
「それは大丈夫でしょう。木々が密集しているわけじゃありません。季節柄、枯れ草も多いですしね」
「あとは、どうやって洞窟に近づくかだな。グレイベアと接近戦なんて、ぞっとしないからな。できれば、罠にはめたい。が‥‥先に相手に気づかれたら厄介だ」
 アシュレーが首をひねる。
「‥熊は鼻がいいらしいですから。できれば、風下から近づきたいですね」
 マイがうなずく。「ああ、それなら」と猟師が説明した。
「ちょっと迂回することになりますが、森の東側から回れば、風下から近づけると思います。ただ‥‥時々、急に風向きが変わることがあるので、注意してください」
「迂回することになるのか‥‥森の地理を確認しておかないといけないな」
 アシュレーが腕を組む。
「あの」
と、リアナが小さく手を上げた。
「ブレスセンサーの魔法で、グレイベアのおおよその位置ならわかります。間違っても、鉢合わせすることはないでしょう。それと、フライングブルームで森の上を飛んで、様子を確認しようと思うんですが‥‥」
「‥それなら、私もフライングブルームで同行しましょう」
 リアナにマイが申し出る。
「それじゃあ、空からの偵察は2人にお願いするわね。私とアシュレーは、もう少し、森の様子やグレイベアの生態について確認しておくわ」
「ええ。任せてください」
 リディアにうなずき、リアナとマイがフライングブルームで飛び立つ。
 木々の上に出ると、さっそくリアナがブレスセンサーの呪文を唱えた。呼吸の大きさからグレイベアの位置を探すのだ。 
「森だけあって、たくさんの呼吸がありますね。一つ、大きな呼吸が動いています。たぶん、それがグレイベアかと‥‥洞窟がある辺りからはゆっくと離れていっているようですね」
「獲物を狩りにいったんでしょうか? 村の方向とは逆ですね」
 リアナに示された方向を、マイが目を細めて見やる。木の葉を落としてた木々の枝の合間からは地上が見えるが、さすがにここからでは、動く灰色の影は見えない。
「どうしましょう? グレイベアを追いますか?」
「‥それよりも、洞窟の周囲を確認しましょう。明日にはそこまで行きますし、実際に目で見ておいた方が、戦いやすいでしょうから」
「そうですね。太陽が出ているうちに、偵察をすませてしまいましょう」
 マイの提案にリアナがうなずく。
「グレイベアを警戒させないように、風向きには注意しないといけませんね」
リアナとマイは、フライングブルームを操りながら、森の西側へと飛んでいった。

●グレイベア現る!
「グレイベアは洞窟の奥にいます」
 ブレスセンサーで、洞窟の中の呼吸の様子を調べたリアナが、メンバーに報告する。
翌日。一行は、グレイベアの棲む洞窟の前まで来ていた。昨日、時間をかけて下調べをしたおかげで、ここまでの道中は順調である。
「アシュレー、それじゃ頼んだわね」
「任せとけ」
 リディアの言葉にアシュレーが腕まくりし、グレイベアを足止めするための罠を、洞窟の入り口付近に設置し始める。
洞窟に近づくと、獣特有の臭いがアシュレーの鼻についた。幸いに、今はアシュレーの方が風下だ。風向きの変わらないうちに、罠を仕掛けてしまいたい。
 アシュレーのペットのランスとリキが、主の動作をじっと見つめている。
「‥風が」
 髪を押さえ、マイが呟く。不意に風向きが変わったのは、アシュレーが罠を設置し終わった直後だった。
 と同時に、洞窟の中から、くぐもったうなり声が聞こえてくる。アシュレーは洞窟の前から下がると、弓を構えて近くの木の陰に身を潜めた。
「気づかれたみたいね」
 リディアの表情が緊張に引き締まる。
「作戦通りにやれば、問題ありませんわ」
 リディアの側に並び、ワンドを構えたリアナが言う。
「‥‥」
 マイも無言でレミエラで強化されたダガーを構えた。
「リキ、ランス、いいな」
 アシュレーは矢をつがえ、ペットの2匹に目配せする。
 地の底から響くような低いうなり声が近づいてくる。
「皆さん、私の前には立たないで下さいね」
 注意を促し、リアナがライトニングサンダーボルトの詠唱を始める。リディアも呪文の詠唱を始めた。
「リキ! ランス! 下がっていろ!」
 アシュレーがペットに指示を飛ばす。
 薄暗い洞窟の入り口に、低い呻り声を上げながら、灰色の大きな影が姿を現す。
「いきます!」
 リアナが一瞬、緑の淡い光に包まれたかと思うと、その手から雷光がほとばしる。
「グガァッ!」
 雷光を浴びたグレイベアが後ろ立ちになって身をよじる。そこへ。
「くらいなさいっ!」
 リディアのグラビティーキャノンが飛んだ。黒い帯が一直線にグレイベアへ走る。
「グアァ!」
 ずずんっ、と地響きとともにグレイベアの巨体が横倒しになる。しかし、それだけでは決定打にはならない。
グレイベアは怒りの咆哮を上げた。怒りに目がらんらんと輝いている。人くらい簡単にへし折りそうな腕を振り回し、立ち上がろうとする。
「リキ、ランス! 行け!」
 アシュレーが指示を出す。2匹の勇敢なペットが、グレイベアに対峙する。
 2匹を襲おうと、グレイベアが一歩踏み出す。2匹に誘導されたそこには、アシュレーが仕掛けた罠があった。
「よしっ! 罠にかかったぞ!」
 木の陰から飛び出し、アシュレーがもがくグレイベアに矢を放つ。
「‥‥」
 マイのダガーがグレイベアの喉近くの毛皮を切り裂き、再びマイの手元へ戻ってくる。
「もう1度、ライトニングサンダーボルトを撃ちます!」
 リアナが、再び呪文の詠唱を始めた。
「リキ、ランス、下がれ!」
 2本目の矢を放ちながらアシュレーが叫ぶ。
「動かさないわよ」
「‥‥」
 起き上がろうとしたグレイベアを、リディアのサイコキネシスの魔法が封じ込め、マイのダガーがグレイベアの動きを牽制する。
 その間に、リアナの呪文が完成した。目を射る雷光が再びほとばしり、グレイベアが苦悶の声を上げて身をよじる。
 「これで‥‥とどめだ!」
 アシュレーが引き絞った矢を放つ。
「グガァ!」
 狙いあやまたず、矢はグレイベアの右目に刺さった。
 再び、森の中に地響きが響く。
「‥‥倒せたのかしら?」
 リディアが呟いたのは、森に静けさが戻ってからだった。
「ええ、そうみたいですわ」
 リアナがおっとりとうなずく。
 グレイベアへ近寄った柴犬のリキがくんくんと臭いをかぎ、主人のアシュレーへ「わん!」と鳴く。
「ああ、完全にあの世行きだ」
「‥個体によって味の差は大きいと聞いていますけど、これだけの獲物を放って帰るのは勿体ない気がしますね。‥絨毯に積めるなら、村まで運んで分け合ってもらうことも出来そうですけど‥‥」
 アシュレーの隣へ行き、マイがグレイベアを見下ろす。
「確かに、これだけの大きさだもの。色々役立ちそうね」
「毛皮は、多少傷つけてしまいましたけれど‥‥」
 リディアとリアナもうなずく。
「‥熊鍋、なんていかがでしょう?」
「うまいのか、それ?」
 マイの呟きにアシュレーが聞き返す。
「‥試してみる価値はありかもしれません」
「じゃあ、村へ戻って、みんなで熊鍋で祝杯をあげましょうか!」
 リディアがぱんっと手を打ち合わせる。
 勝利を祝う4人の声が、平和を取り戻した森にこだました。