●リプレイ本文
●顔合わせ
「シャロン・シェフィールド(ec4984)です。よろしくお願いします」
「ルザリア・レイバーン(ec1621)だ。よろしく」
おっとりと挨拶をしたシャロンに、ルザリアが生真面目そうな表情で頭を下げる。
「うちは藤村凪(eb3310)ちゅーねん。仲良うしたってな」
凪が独特のイントネーションで挨拶し、にこりと笑顔を見せる。
「俺はリース・フォード(ec4979)だ。こう見えても男だから、よろしく。しかし‥‥バグベアとは、これまた可愛くないクマさんだねえ」
リースが小さく溜息をつき、長い髪をかきあげる。
「村の人達はずいぶん恐ろしい思いをしているでしょうね。早く助けに行かなくては‥‥」
「早く着くことには賛成だ。私達が村に着くまで、バグベア達がおとなしくしている保証はないからな」
シャロンの言葉に、ルザリアがうなずく。
「うちは韋駄天の草履があるさかい、それを使うわ」
「ああ、それなら俺も持っている」
「私はセブンリーグブーツがあるので、それを使おう」
凪とリース、ルザリアが口々に言う。
「では、私は馬で移動します。馬なら、みなさんの荷物を積むこともできますし‥‥」
「それはありがたいな」
シャロンの申し出にリースが笑顔をこぼす。
簡単に挨拶を済ませると、4人は依頼人の待つ村へと出発した。
●バグベア襲来!
「そちらが依頼人の村長殿ですな。私はルザリア・レイバーンという。この度は、バグベア退治のためにこちらへうかがった。さっそく話を聞かせてもらいたいのだが‥‥」
韋駄天の草履やセブンリーグブーツなどの移動手段を駆使し、予定よりも早く村へ着いた一行は、まず村長を訪ねていた。
依頼人である村長からなら、バグベアが住処としている小屋のことなどのくわしい情報を得られると判断したためだ。
「おお、あなた方が冒険者ギルドから来られた‥‥。どうぞ、よろしくお願いいたします」
一行を迎えた村長は、4人を拝まんばかりである。
「村長さん、今までさそかし不安だったことでしょう。ですが、御安心ください。バグベアは私達が退治してみせます」
「おお、なんと頼もしい‥‥」
シャロンの優しい言葉に、村長は感極まったように声を震わせる。
「では村長。さっそく、バグベアのことを教えてもらいたいんだけど‥‥」
と、リースが口をはさんだところで。
「そ、村長! 大変ですだ!」
「や、やつらが! やつらがまた!」
数人の村人が、血相を変えて飛び込んできた。
「やつら!? バグベアか!?」
ルザリアがとっさに腰の剣の柄に手をかける。
「バグベアはどこに現れたんや!?」
その手を押さえ、凪が村人達へ声をかける。
「そ、その‥‥」
「落ち着いてください。ほら、深呼吸して‥‥。バグベアはどこへ現れたんですか?」
動転のあまり、とっさに声の出ない村人をシャロンがなだめる。
「む、村の西外れです‥‥! 森に近い家畜小屋に‥‥!」
「あちらさんから御登場、ってわけか」
村人の言葉をリースが引き継ぐ。
「村の西外れだな! 行くぞ!」
ルザリアが先陣を切って走り出す。
「村長はん、村の人に家から出えへんように言うてや! うちらはバグベアを抑えるさかい、村人の避難は任せたで!」
凪がその後を追い、シャロンとリースも扉から駆け出して行く。
●決戦!
村外れの家畜小屋は、恐怖に駆られた馬や牛達の鳴き声に満ていた。
「村の人はもう逃げてるみたいやね。助かったわ」
凪の言葉の通り、村人の姿はない。バグベア達が森から出てきたのを見た途端、逃げ出したようだ。
「それなら、攻撃に集中できそうだ」
杖を手にし、バグベア達との距離を慎重に測りながらリースが言う。
エサとして持ち帰ろうというのだろう。2匹のバグベアは、家畜小屋の中で、1頭の牛を殴り倒していた。殴られた牛の悲痛な鳴き声と、逃げたくてもつながれていて逃げられない他の家畜たちの憐れな悲鳴が不協和音を奏でている。
「もし可能なら、バグベア達を小屋の外へおびき出してもらえませんか?」
弓を構え、矢をつがえたシャロンが前衛のルザリアと凪に頼む。
家畜達がひしめく小屋の中では、バグベア達も大きな動きをとりにくいが、こちらも戦いにくい。前衛の2人はもちろん、弓を武器とするシャロンや、ウィザードのリースにとってはなおさらだ。
「うむ。善処しよう。私としても、小屋の中で戦うのは避けたい」
ルザリアがバグベア達から目を離さずにうなずく。
だが、わざわざおびき出すまでもなかった。
家畜小屋の前に立つ4人を敵だと認識したらしい。バグベア達が威嚇の唸り声を上げながら、家畜小屋から出てくる。手に持っているのは、小さな子どもの大きさくらいはありそうな太い棍棒だ。
「藤村殿は、向かって右のヤツを頼む。私はもう一方を」
「うん、任せてや。前衛はうちら2人だけやからな。ルザリアも、無理せえへんようにな」
「ああ」
「来ます!」
バグベア達が棍棒を振り回しながら駆けてくるのと、シャロンが弓の弦を引き絞ったのが同時だった。
「はっ!」
気合の声とともに、2本の矢が同時に放たれる。
狙いあやまたず、矢は凪に向かおうとしていたバグベアの右肩に突き刺さった。バグベアが一瞬よろめく。だが、毛皮のせいで深手にはならなかったのか、棍棒は落とさない。
しかし、ルザリアがバグベアの懐にもぐりこむのには、それだけの隙で十分だった。
「たあっ!」
ルザリアの剣が一閃する。狙いはシャロンと同じく、棍棒を持つ右腕だ。
「グォッ!」
右腕を斬りつけられ、バグベアが棍棒を取り落とす。しかし、バグベアにはまだ鋭い爪がある。
バグベアは無事な方の左腕で、ルザリアにつかみかかろうとした。しかし、ルザリアは冷静に相手の動きを見切ると、軽やかな動きで爪をかわす。
「ルザリアさん、左へ!」
そこへ、後方からシャロンの援護の矢が飛んだ。態勢を崩したバグベアを、ルザリアがさらに攻撃する。
一方、凪とリースはもう1匹のバグベアを相手に戦っていた。
呪文が完成したリースの体が、一瞬、淡い緑の光に包まれる。次の瞬間、その手からはまぶしい雷光が一直線にほとばしっていた。
「ギャウッ!」
稲妻に射抜かれたバグベアが悲鳴を上げる。その隙に、凪がバグベアとの距離を詰めていた。
「やあっ!」
凪の小太刀が、2度目の雷光のようにきらめく。
「ギャアッ!」
肩口を切られたバグベアがうめく。だが、まだ致命傷にたいたらない。
「凪! もう一発、魔法を飛ばす!」
リースが再び呪文を唱え始める。
「了解や」
凪が跳びすさり、バグベアとの距離をとる。その隙にバグベアは後方に控えるリースとの距離を詰めようとした。が。
「後衛さんには手出しさせへんで! あんたの相手はうちや!」
凪がたくみな攻撃で、バグベアの意識を自分へと集中させる。その間に呪文が完成した。
「もう一発コイツをくらえ!」
リースの手から、再び稲妻がほとばしる。
ルザリアとシャロン、凪とリースとのたくみな連携によって、バグベア2匹はまもなく地に伏した。断末魔の唸り声が、すぐに静かになる。
「ルザリアさん、凪さん、怪我はありませんか?」
矢を矢筒にしまいながら、シャロンが前衛の2人に駆け寄ってくる。
「ああ、カスリ傷ていどだ。このくらいなら、問題はない」
ルザリアがリカバーの呪文を唱え、自分と凪の傷を治していく。
「ルザリアはん、ありがとう。ほな、村長はんのとこに、バグベア退治の報告に行こか。家畜に被害は出たみたいやけど、村の人には怪我人が出えへんかって、よかったわあ」
ルザリアにリカバーをかけてもらった凪が、体の調子を確かめるように、うーんと伸びをする。
「そうですね。早く、村の方達を安心させてあげたいですし‥‥」
「あ、ちょっと待って。提案なんだけどさ‥‥」
村長の家へと引き返しかけたシャロンをリースが止める。
「バグベア達が根城にしていた、狩人の小屋なんだけどさ。またモンスターの根城になりかねないし、使う目的がないなら壊してしまえばいいんじゃないか?ウィンドスラッシュを2、3発も打ち込めば壊れるだろうし」
「確かに。後顧の憂いは絶っておいた方がいいだろうな」
リースの提案にルザリアがうなずく。
「ほな、その提案もふくめて、村長はんに話そか」
「そうですね。あ、村長さん達がこちらにやってきましたよ」
バグベアが倒されたことを知ったのだろう。家の中に非難していた村人達が徐々に外へ様子を見に出てくる。その中には、こちらへ駆けてくる村長達の姿もあった。
村人達の感謝の言葉を受けながら、4人の冒険者達はお互いの健闘をたたえあった。