The life object lurking in a lake

■ショートシナリオ


担当:しんや

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月14日〜08月22日

リプレイ公開日:2004年08月23日

●オープニング

 湖は、多くの生物を潤してくれる貴重な存在。
 多くの生物は其の肉体を水で構成されており、決して損なわれてはいけないもの。もし損なえば、死が待っている。
 其の為、生物は水を常に求め、身体を潤さなければいけない。旅行者は勿論、未踏の地へと赴く冒険者や探検家には必需品だ。
 そして、モンスターにも。

 悲鳴が轟く。
 各地を旅する旅行者か、又は冒険者か。彼は湖の中央でもがいていた。
 深いところでも水深一メートルといった浅い湖。大の大人が溺れる筈がない深さだ。彼がどうしようもないカナヅチならば、どうかは判らないが。
 男の身体は既に水中に没し、外気に触れているのは必死に伸ばしている両手と顔だけだ。水深一メートルでは説明が付かない、不自然な状況である。
 そして伸ばした手は何も無い虚空だけを掬い、彼の身体は完全に水の中へと沈んでいった。其の瞬間、水中の中で何かが蠢いた様な気配が感じられたが、気のせいだろうか。
 其れがどうであれ、是で犠牲者は六名と成った‥‥。

「怪奇、人を喰らう湖といったところか。笑えんな」
 自分が口にした言葉に自嘲し、ギルド員が依頼書を冒険者の前に出した。
「どうせモンスターの仕業だろう。軽く蹴散らしてくれ」
 彼は簡単に言って、羽根ペンを依頼書の横に置いた。
 彼は受けてくれると思っているが、サインをするしないは、貴方の自由である。

●今回の参加者

 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea2868 五所川原 雷光(37歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3002 ジュラン・オーディア(44歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3188 クリス・ハザード(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4340 ノア・キャラット(20歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea5384 シャルク・ネネルザード(24歳・♀・レンジャー・ジャイアント・エジプト)

●リプレイ本文

●湖の魔手
 其の湖は、街道から離れた場所に湧いていた。何の変哲もない、旅人が渇きを潤すのに適した湖が。
 だが、彼の湖に足を踏み入れた者は、全て消息を絶つという奇怪な事件が起きている。モンスターの仕業と判断した冒険者ギルドは、其れを明らかにする為に八人の冒険者を彼の地へと赴かせた。
「さぁ、あんたたち、今回もガッチリ稼ぐよ!」
 湖を目の前にして、ジュラン・オーディア(ea3002)が先頭に立って気合を入れる。こういう女性を姐御というのだろうか、非常に男勝りな女性だ。
 他の冒険者は彼女のまるで女頭領のような迫力に押される形で、調査の準備を始める。
「《ブレスセンサー》!」
 魔法を発動させたのは、ラシュディア・バルトン(ea4107)だ。百メートルの範囲に居る者の情報を得る魔法だが、反応は帰ってこない。呼吸を必要としない生物なのか、今回の目標であるモンスターを特定するには至らなかった。
 だが、其れが本命ではない。是から行う作戦の引き立て役のようなものだ。彼等は改めて、準備に掛かる。非常に手軽で効果的なものを。
 まず、五所川原 雷光(ea2868)が持参した二本のロープを繋ぎ合わせて距離を伸ばし、其れを自分とシャルク・ネネルザード(ea5384)の腰にしっかりと縛った。そして彼女を残して、全員が湖から離れて茂みへと身を隠す。ロープは雷光とランディ・マクファーレン(ea1702)が握り、彼女を何時でも引き戻せるように神経を研ぎ澄ませた。準備は是で完了。
 彼等の作戦は、次の通りだ。
 囮役となったシャルクを湖に侵入させ、発見又は何かしらの反応があれば、彼女を引き上げるというものだ。
 危険が伴う作戦であるが、どのような種類のモンスターなのか判らない以上、この手の方法以外に有効的なものはないだろう。
「シャルクさん、気を付けてくださいね。無理はしないように」
 茂みから顔だけ出して、ノア・キャラット(ea4340)が声援をかけると、シャルクは振り返って親指を力強く立てて応える。
 そして彼女は、湖へと足を向けた。
 大地をしっかり踏み締めて湖に近づくシャルクの額には、暑さによるものか緊張によるものか判らないが、汗が滲んでいた。彼女は神経を集中して一歩一歩近づき、漸く湖の畔に立つ。が、彼女に何者かが近づく様子はない。水面は、規則的且つ静かに揺れているだけだ。
 其れを確認したシャルクが後方に居る冒険者たちに手振り身振りで知らせると、ノアが詠唱を始め、魔法を使用する。
「火の精霊たちよ、炎と成りて武器に集い、炎の力を開放せよ。《バーニングソード》」
 ノアの魔力が込められた言葉は自然界の精霊に届き、まずは雷光のロングロッドに炎を具象化させた。更にジュランと、接近戦を行う者たちの得物に炎の力を宿らせる。
 其の傍らに座るクリス・ハザード(ea3188)も、同じく魔法の詠唱を行っていた。しかし其れは、氷の力だ。彼女の魔力は氷の戦輪――《アイスチャクラ》を造り出し、手にする。
 彼女たちが魔法を使っている丁度其のとき、シャルクは警戒の視線を周囲に向けながら、意を決して湖へと侵入した。肌から伝わる水温は心地良く、水浴びをしても気持ちいいぐらいだ。ゆっくりと水へと進入する彼女。ジャイアントであるシャルクの身長は百八十センチメートルも在り、この湖の最大水深である一メートルの箇所に立っても、水面は彼女の腰に及んでいない。
 そんなことなど気にせずに周囲を見回すシャルクだが、怪しい影はない。水中に目を配らせてもモンスターの姿はなく、水面には彼女を中心に波紋が何度も刻まれるだけだ。
 其処で彼女は、不審な点に気が付いた。
 生物が、全く存在していないのである。本来ならばこの季節には蛙や何らかの昆虫が生息している筈なのだが、そういった者たちの姿が見られない。
 引き返そうと踵を返した其のとき、彼女の足に痛みが走った。柔らかい感触が足に巻きつき、肌が焼けるような痛みが。シャルクは必死に逃れようともがくが、其れは外れる気配はない。
 彼女の異変を感じ取り、ノアがふたりに呼びかけた。
「シャルクさんに変化が! ランディさん、雷光さん!」
「ああ‥‥!」
「御意!」
 シャルクに繋がれたロープを持っているランディと雷光は、互いの力を一斉に手に込め、思い切り引っ張った。男ふたりの凄まじい膂力で牽引され、シャルクの身体は水面を滑るように湖から抜け出る。足に執拗に絡みつく存在を残しながら。
 其れは、水色の生物だった。
 全身が水色の半透明な身体で構成され、中心には血のように赤い核を持つモンスター――ウォータージェルである。
 其の存在は、もう一体居た。ゆっくりとした歩調――と言うべきか、判別不明だが――水面から岸に上がり、威嚇するように其の軟体を持ち上げる。
 まるで釣りのような感じで釣り上げたジェルは、一気にシャルクを捕食しようと圧しかかろうとした。其れを阻止したのは、氷の一撃だった。
 クリスが投擲した青の戦輪がウォータージェルを襲い、一瞬では在るが隙を作り、シャルクが逃げる暇を与える。
 次に繰り出されたのは、闘気を纏った一撃。
 ランディは自らの得物であるフレイルに《オーラパワー》を付加させ、威力が向上させたのだ。其の一撃は青い肉体を軽々と吹き飛ばし、地に這わせる。
 そして最後に、雷光の炎を纏う杖が、渾身の力を以って振り下ろされた。
 彼の膂力はやはり凄まじいの一言で、ジェルの核など容易く打ち砕き、彼の肉体を意思も持たない只の液体へと還元する。
 もう一体のジェルも、同様の運命を辿ることになった。
 だが、此方は更に凶悪で、魔導の力による三連撃だ。
「大気に眠り精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 火玉と化し敵を破壊せよ! 《ファイヤーボム》!」
「風の刃を其の身に受けろ! 《ウインドスラッシュ》!」
「雷に打ち砕かれなさい‥‥《ライトニングサンダーボルト》!」
 ノア、ラシュディア、そしてカレン・シュタット(ea4426)が放った火、風、雷の其れはウォータージェルの身体を焼き、切り裂き、感電させ、悉く痛めつけた。三重苦を其の身に受け、ジェルの身体を構成する水分が殆ど消えてしまい、彼は湖に逃げようとする。
「さっさと沈みな、邪魔なんだよ!」
 最後のトリは、やはり彼女だった。
 ジュランが振るった刃が、真空の刃を生み出す。《バーニングソード》を付加したことによって炎の力を纏った其れは、ウォータージェルの薄くなった半透明な身体を易々と斬り裂き、構成する為の核を断った。すると、身体は飛沫となって弾け、息絶える。
「面妖な妖でござったな‥‥」
 ウォータージェルの屍である潰れ、切断された核を見下ろして呟いた。

 
 陽が傾き、パリの街が黄昏の色に染まるとき、冒険者たちはギルドに帰還した。
「人間のほうから相手の生息圏内に侵入したのが悪いんだが、此方も其れ相応の被害をこうむっているからな。お互い様だろう」
 冒険者たちの報告を聴いたギルド員が、難しい顔をして言った。
 人間の生活圏が拡大すればするほど、モンスターの生息圏に接近することになる。両者が対立することは必然。尤も、其れが過去の時代より刻まれた図式であり、人々の常識となっている。死した彼等に同情する者は、居ないだろう。居たとしても、数少ないだろうが。
「兎に角、お前たちは見事依頼を完了させた。報酬だ、受け取れ」
 無造作にカウンターに置かれた皮袋を、冒険者たちは黙って受け取った‥‥。