馬を追い求めて‥‥

■ショートシナリオ


担当:しんや

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月21日〜06月26日

リプレイ公開日:2004年07月04日

●オープニング

 馬とは、貴重な存在だ。
 ある時は家畜として田畑を耕し、ある時は騎兵を乗せて戦場を駆ける足となる。東洋の島国では『馬刺し』為るものがあるが、其れは別。
 兎も角、馬は時として人よりも重要視される場合が多々あるのだ。
 其の馬が、近年減少傾向にあった。
 度重なるモンスターの襲撃によって、其の数を徐々に減らしているのである。このままでは様々な悪影響が及び出てくるのは必然だ。
 馬を失うという事は財産を失う事と同義。
 特に軍馬に至っては、育てるのに多大な時間と費用が掛かる。先の言葉は全く誇張ではないのである。
 軍馬を手に入れるには、もうひとつ手段がある。
 其れは――戦争だ。
 戦場というのは「合法的に相手の馬を奪える絶好の機会」であり、古今東西、この不文律だけは世界中の何処でも変わる事はない。其れは勿論、このノルマンでも同じだ。
 しかし、近年は其の戦争自体も少なく、得られる数は少ない。
 事態を重く見た冒険者ギルドは、ある依頼を張り出した。
 「馬を捕まえてくれる者求む」、と。

●今回の参加者

 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1754 ギルツ・ペルグリン(35歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea1880 ルシード・ウィンディア(35歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2082 ラマ・ダーナ(45歳・♂・レンジャー・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3397 セイクリッド・フィルヴォルグ(32歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●広大な草原を駆ける足
「いいか、絶対に傷つけるなよ! もししたら、報酬は無しと思え! 馬刺しなんてもっての他だ!」
 と、冒険者ギルドから口を酸っぱくして忠告された九人の冒険者は、ギルドの薦めで野生馬が多数生息するとある草原地帯に訪れていた。馬を手に入れる為に。
 馬の用途は、様々だ。
 農耕に於いては、人の代わりに田畑を耕して大地に緑を育み、人を代表とする生命を潤す恵みを与え、伝達手段に於いてはその俊足で彼方の人へ情報を伝える韋駄天と化す。
 そして戦場に於いては、逞しい肉体で敵を吹き飛ばし、自己の判断で身に迫る危険から遠ざける最高の《兵器》として活躍する。
 即ち、今現在は勿論、これからの未来に於いても馬という存在は人類にとって無くてはならない存在と言えるだろう。
 ちなみに、馬刺しにすると言ったのはオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。更には同じくジャパンの料理である『桜鍋』なるものを作ろうと言うのだから、人は見かけによらない。
 兎も角、彼等は食べる為ではなく、純粋(?)に依頼を全うする為、この緑溢れる大地へと赴いたのだ。
「《バイブレーションセンサー》!」
 草原へと訪れた矢先、エル・サーディミスト(ea1743)が魔法を唱えた。彼女を中心に、生命体が放つ目に見えぬ振動を捉える魔力を波紋の如く周囲に放つ。そして、その魔力がある振動を捉えた。
「あっち。いい具合に、木がまばらだね」
 オイフェミアがギルドから仕入れた情報は確かで、エルの精霊魔法はかなりの速度で移動する十余りの存在を感知した。ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)、ルシード・ウィンディア(ea1880)、セイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)が目を凝らして、茶色っぽい影を十二、確認する。更にガブリエル・プリメーラ(ea1671)はうち四頭が小さく、この春に生まれた子馬であろうと見て取った。
 ただし群れは彼らに気付いて、遠方へと駆け去るところだった。
「‥‥すごいな」
「もっと誉めていいわよ」
 少々たどたどしいゲルマン語で、ウリエル・セグンド(ea1662)が皆の視力に感嘆する。それに最初に反応し、胸を反らして得意気な仕種をしたのはガブリエルだ。目前で図に乗られたミリーは、瞬間鼻白んだが、馬についての知識を披露し始めた。
 野性馬は、通常身を守るために群れを形成し、リーダーに率いられている。行動範囲は広いが、無作為に駆け回っているわけではない。よって。
「適当な場所に追い込んだほうが、目的は果たせるだろうな」
 ルシードの言葉に、皆は馬の知識のあるなしに関わらず、頷いた。オイフェミアの提案で、馬が草を食んだ跡や排泄物を捜し、川に行き着いたところで夕暮れを迎える。水場に馬が現れることを期待して、彼らは木の多い場所を選んで休息をとることにした。
 けれども、野営だと薪を拾いに行こうとしたエルは、連れのギルツ・ペルグリン(ea1754)とラマ・ダーナ(ea2082)に思い切り制止された。他の者は知らなくとも、彼らはエルが薬草好きで、一人で歩かせようものなら一晩だって帰ってこないことを身を持って理解している。
 幸いエルが何もしなくとも、野営の準備に困ることはなく、彼らは無事に朝を迎えたのだった。
 その間、草原を駆け去った野生馬の姿は捉えられないでいたが。

●馬を追い求めて
 翌朝、九人の冒険者は三組に別れて行動を開始した。揃って水場を見張っていても、確実性に欠けるからだ。
 もともとの仲間であるウィザードのエルとナイトのギルツ、レンジャーのラマは能力的にも配分が良いのでそのまま。同様に気心が知れているとバードのガブリエルが主張する彼女とファイターのウリエルに、神聖騎士のセイクリッドで一組。レンジャーのルシードとウィザードのオイフェミア、ファイターのミリーが最後の一組となった。
 そして、彼らはそれぞれに馬を捜しに出る。

 野生馬を捕えるには、もちろんこちらも全力を出せる状態になくてはならない。そう宣言して、野営地に荷物をほとんど置いてきたミリー達は、まず馬を追い込む場所を決めていた。野生馬を捕えるには、多少乱暴な手段に訴える必要がある。その際に怪我をさせないよう、転倒しても大丈夫な場所を事前に選ばねばならないからだ。
 これはレンジャーのルシードが言い出したが、良い場所を見付けたのも彼自身だ。さすがはレンジャーというところ。当人は、毒草の類で適度に麻痺を起こさせれば楽に捕まえられるのではと考えていたようだが、麻痺毒は致死率が高いと聞いて諦めている。その分、こちらに力が入ったことだろう。
 後はオイフェミアの魔法と、ミリーの知識、それから三人の観察力とで、昨日見失った群れの移動先を追っていく。やがて、遠方にその姿を見出した彼らは、速やかにいずれを捕えるかの狙いを定めると二手に別れた。ルシードが密かに近付いていくのを、ミリーとオイフェミアは背丈の高い草の中に伏せて待っている。
 ルシードが、草を食む群れを迂回して反対側に回るまでは、非常に長かった。けれど。
 一斉に走り出した群れが、彼らの選んだ方向に向かう。子馬も懸命に地を蹴って、群れに遅れまいとしていた。と、しばらくしてよろめく馬がいる。
「これで転べば、桜鍋だったかしら」
 ルシードが毒の代わりに用意した罠に掛かったと理解したオイフェミアが、他の馬が駆け去ったのを確認してから身を起こした。今度は不穏当な発言もなく、呪文の詠唱にかかる。彼女の役割は、選んだ柔らかい草地でよろめいた馬の足を止めることだ。
 足は魔法で絡め取られた馬は、それでもひとしきり暴れていた。その首にミリーが縄を掛け、器用に引き摺って地面に倒す。馬の動きを利用してのことだから、怪我などさせない。
 後は駆けつけたルシードも押さえ込みを手伝い、馬が疲れて身動きが取れなくなったところで、逃げられないようにきちんと縄を掛け直した。
 彼らが捕えた一頭は、三、四歳位の若い雌だった。

 我々はウリエルの補助だからと、ガブリエルに高らかに宣言されたセイクリッドは、あまりに高圧的な態度に目をしばたたかせた。ほんの一瞬だけ。
 ガブリエルは馬が見付かれば、シャドウバンディングでその場に釘付けにしてみせると自信満々だが、自ら見付けるつもりはない。よって馬捜しはウリエルとセイクリッドの役目になった。
 彼らはどちらも言葉の多いほうではないが、母国語ではないゲルマン語で訥々と役割分担など語り合っているうちに多少打ち解けた。その最大の理由は、二人ともに馬を力ずくでねじ伏せる気がなかったことだ。
 馬は賢く、人間の意向を理解して、その役に立ってくれる生き物だ。そう認識している彼らは、可能ならば縄を掛けることすらせずに済ませたいと考えてもいた。野生馬相手にそれは無理だろうと、多少残念な気持ちで思ってもいるが。
 ちなみにガブリエルは、ウリエルが良ければなんでもいいとばかりに、二人の後をついて歩いているだけだ。わざわざついてやっているのだから感謝しろとくらい、そのうちに口にするかも知れない。
 そんな三人の中で、馬を最初に見付けたのは、しかしながらガブリエルだった。彼女は自分の視力と勘の良さを、十二分に喧伝したかったことだろう。
 彼らの前、とは言え相当離れた場所でうろうろとしているのは、母子らしい馬が二頭。三人には分からなかったが、ルシード達によって追い立てられた群れからはぐれたものだ。
 そんなこととは知らず、ウリエルとセイクリッドは全身を汗で濡らした子馬の様子に気を引かれていたが、ガブリエルは仕事をした。母馬にシャドウバインディングを掛けて、二人の安全を確保したのだ。
 子連れの雌が危険なのは、どんな動物でも変わらない。
「手のかかる子たちよね」
 子馬は母馬の傍らで、おそらく初めて間近に見るだろう人間を眺めている。母馬が影を縫い止めらたことで興奮しているのが伝わるのか、時折地面を蹴り立てた。
 もちろん、セイクリッドやウリエルの言葉が、何語であれ、馬に理解出来るはずもない。ウリエルなど言葉を尽くして語りかけているのだが、傍らに寄れるほどには相手の興奮を沈められなかった。
 背後で、仕方なさそうにガブリエルが肩をすくめる。その気配すら感じない、馬にだけ集中している『男の子』達を、彼女は応援してやった。
「水を飲ませてあげたらいいんじゃないの」
 手が掛かると、またはっきり口にしながら、ガブリエルはテレパシーで読み取った子馬の気持ちを伝えてやる。そんなことも分からないなんてと、厳しいお言葉付きだった。
 鈍いと評された男どもが子馬の欲求を叶えてやっている間、魔法で繋がれていた母馬は、最後まで歯を剥くことを止めなかったが‥‥子馬が人間の側にいるので、逃げることはしなかった。
 縄を掛けられると暴れたが、それとて三人を蹴り上げるほどではない。野営地までの道程で、何度となく抵抗しても、ともかくも三人の後をついては来たのだった。

 野営地近くの川のほとりで、エルが悲鳴を上げたのは、他の二組が首尾よく馬を捕えた頃だった。ギルツとラマ、そして彼女の三人では、馬の姿が見えたら足止めを掛けるのはウィザードのエルの役割だ。
 それが悲鳴を上げていては、もちろんどうにもなりはしない。しかし、彼女も馬が自分目掛けて駆け込んでくるとは予想だにしていなかった。していれば、ほんの何メートルのことでも、持ち場を離れることはしなかっただろう。幾らそこに、薬草らしいものが見えたとしてもだ。
 追われ、興奮して駆け込んできた馬は六頭。うち一頭が、エルの悲鳴と姿に更に気を荒くしたのか、前足を振り立てた。足下にしゃがみ込む邪魔ものを、蹴りつけようとしている。
 エルが口は開けたが、どんな言葉も声も出ないでいる間に、急激に加えられた力で彼女の視界は二転、三転した。
 ギルツがこの日も用心で腰に着けていたジャイアントソードの腹で、エルの腰を押して引き倒す。馬の蹄が目標を失って、地面を蹴った。その足を、幾重にも絡んだ縄が打つ。
 エルが呆然としている間に、六頭はラマに縄で足や首を打たれて、当初の勢いを無くしていた。リーダー格の一頭は、それでもまだ耳を伏せ、歯を剥いているが、敢えて向かってこようとする気配はない。そもそもが野生だから、無闇と敵に立ち向かう習性はないだろう。
 対するギルツとラマも、この時は受けた依頼のことなど頭になかった。腰部を押されて、痛みにへたり込んでいるエルが踏み殺されないようにと、それだけを警戒している。
 ミリーが『こういうのは威嚇』と話していた行動を収めて、リーダーが彼らとも間合いを計り始めた。まずは双方、このまま別れることになるかとラマとギルツが期待を心に浮かべる。
 馬の半数は確かに彼らの期待に添って、示し合わせたように首を後方に向けた。しかしながら、いなないてその場に踏み止まった馬もいた。リーダーに呼ばれても、足を動かせない。
「違うわよ〜、私」
 まだ声の出ないエルの魔法ではないと、二人が訝しんでいると、本人非常に不本意そうな表情で、ガブリエルが少々離れた茂みの中から這い出してきた。捕えた馬を引いてきて、彼らの苦境を見付けたウリエルが願うので、エルに一番近い馬を魔法で絡めとったと言う。
 おかげで髪に枝葉がついているが、それはようやく正気付いたエルが礼を言いながら外すのを当然のように待っていた。ギルツとラマからも謝意を受けて、ガブリエルは鼻高々である。
 更に、彼女のおかげでまた母子二頭を得られたので、ガブリエルの荷物はギルツが担いでいくことになった。
 なんにしても、五頭の馬を手に入れた九人は、意気揚々とパリへと戻ったのである。

●今後の知恵
 そうして、パリ郊外。人馴れしていない馬を市街に入れるのは問題だと、ギルドから指定された場所で、ミリーが不満の唸りを上げていた。
「せっかく、五頭捕まえたのに〜」
「最低四頭、それ以上捕えた場合の追加条件はないのだから、報酬は当初の指定通り」
 五頭も捕えたのだから、ぜひとも追加報酬が欲しい。そうしたことをやや婉曲に告げたミリーに返ったのは、つれない言葉だった。ルシードが捕えた馬のうち三頭が若いことを上げても、やはり同じだ。
 どちらかと言えば、今後の調教がやりやすい子馬のほうを、着いてきた牧場の者は大事にしている。ここまでの道すがら、せっせと世話をしていたエルが別れがたいと子馬を撫でているのを見て、ほくほくと喜んでいた。
 兎も角も、当初の約束通りの報酬はその場で間違いなく支払われ、馬は牧場の人間に引き渡された。彼らがかなり苦労を強いられた扱いづらい馬達も、慣れた者には暴れることもなく引かれていく。
『あぁ、桜鍋‥‥』
 思わず母国語で呟いたオイフェミアに、ギルドの係員が人の悪い笑みを向けた。もしかするとジャパン語が分かるのかも知れない。
「ここで馬肉が食べたいと言う度胸を評して、一杯だけ飲ませてあげようか。雌三頭の追加報酬がわりに。破格の扱いだけど?」
 その程度で誤魔化されるのはと、不満に思った者もいるのだが‥‥なんにもないよりはと応じた者も少なくはない。
 どうせ、戻る先にたいした違いはないのだ。ギルドも彼らの居場所も、同じ冒険者街にあるのだから。


(代筆:龍河流)