Grimoire

■ショートシナリオ


担当:しんや

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 17 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月21日〜07月01日

リプレイ公開日:2004年07月04日

●オープニング

 ノルマン王国と友好的な関係を持つ、イギリス。
 其れは今から九年前に現国王であるウィリアム三世と多くの騎士たちが興した、神聖ローマ帝国から祖国を復興する為の戦争にて援助を行った事からも伺える。
 今でも其の姿勢は変わらず、――ジャパンとも――積極的に交流を続けている。

 ノルマンの首都・パリへと向かう荷馬車が、此処に在る。荷に乗せられているのは、イギリスから送られてきた六つの魔法書だ。
 精霊魔法の先進国といっても過言ではないイギリスの魔法書はどれも貴重で、とても庶民には手が出ない代物――一冊で五十Gはくだらない――である。
 しかし、何処で嗅ぎ付けたかは知らないが、其れを狙って一時の富を得ようとする愚者も存在する。
 其れを危惧し、騎士団を動かすという意見も出たが、動かせば大事に至ってしまう可能性も高く、敵対国――神聖ローマ帝国など――に大きな隙を作ってしまう。
 其処で、冒険者ギルドを通じて冒険者に対象の護衛依頼を斡旋した‥‥。

●今回の参加者

 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1882 アウル・ファグラヴェール(48歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)
 ea1899 吉村 謙一郎(48歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2030 ジャドウ・ロスト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2615 ヴァス・デュメニ(32歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea3770 ララ・ガルボ(31歳・♀・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 ea3824 ネージュ・ブランシュ(35歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3855 ゼフィリア・リシアンサス(28歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 逞しい肉体を持つ馬が荷車を引き、荷車は其の車輪を回しながらパリへと続く街道をゆっくりと進む。
 荷馬車の周囲には、八人の冒険者が荷を護衛する為に警戒していた。
 荷馬車を先導する形で最前を進む、馬に揺られるシフールの女性騎士、ララ・ガルボ(ea3770)。彼女と荷馬車の中間に位置する場所を馬に乗るのは、まだ若干十六歳でありながら大人びた雰囲気を醸し出す少年、ランディ・マクファーレン(ea1702)。
 このふたりからやや下がり、左側面からの襲撃に備えるのは、ララやランディと同じくナイトのネージュ・ブランシュ(ea3824)だ。其の後方には東洋の騎士であり、《神皇》に仕える者、志士である吉村 謙一郎(ea1899)が馬に跨っている。
 荷馬車の後方を護るのは、四名。
 人間の身長は勿論、体重すら遥かに超える巨漢、ジャイアントのひとりであるアウル・ファグラヴェール(ea1882)。彼の重量では馬が耐え切れない為、両隣を歩くレンジャーのロックハート・トキワ(ea2389)と、聖職者でありながら闇を纏うヴァス・デュメニ(ea2615)と共に徒歩での移動だ。このふたりは視力が優れている為、後方からの襲撃に備えてこの位置に居る。
 そして最後尾には神に仕える聖なる騎士、神殿騎士であるゼフィリア・リシアンサス(ea3855)がのほほんとした雰囲気を漂わせながら、のんびりと彼等の後を追う。彼女は極度の方向音痴である為――優良視力も持ち合わせているが――、自らこの位置に付いたのだ。賢明な判断だろう。
 荷馬車の中にも三名の冒険者が控えており、人数的には万全に近い状態だ。
 其の三人の内のひとり、ジョセフ・ギールケ(ea2165)は憮然とした表情で黙していた。この護衛の任に就く前、魔法書を閲覧出来るよう交渉したのだが、結果は不可。
 当然と言えば、当然である。
 尤も、彼以外にも閲覧希望者は居た様だが。しかし、ジョセフは他にも目的があった。なんと、密に写本しようとしていたのだ。ある意味、良い度胸をしていると言えなくもない。
「‥‥おや? 何か‥いらしたようですよ?」
 街道を進むヴァスが、突如何かに気付いたのか、足を止めた。其れと同時に、先頭を歩くララも何か感じ取ったのか、馬の歩みを止めて全体を停止させた。ふたりだけではなく、外で護衛に就いている大抵の者が気付いていた。
 自らに注がれる、殺気を帯びた視線を。
 だが、其れは手練が放つ極限まで研磨された鋭い殺気ではなく、家畜が敵に対して剥き出しにするお粗末な殺気だった。
「‥‥どうやら、囲まれてしまったようだな」
 御者の呟きが合図だったかの様に、殺気の正体が姿を現す。茂みや木々の陰から荷馬車と冒険者たちを包囲する様に現れた、ダガーやショートソードなどで武装している見るからに粗暴な男たち。
 恐らくは、何処からか件の荷物の噂を聞いて現れた盗賊だろう。数は五。
「ふん、やはりか」
 どうやらロックハートも勘付いていたらしく、山賊の出現に全く動揺した気配がない。其の冷静さは、大人顔負けだ。
「護衛と言っても餓鬼共の集まりだ。やっちまえ!」
 山賊たちの頭と思われる壮年の盗賊が得物であるロングソードを勢い良く振り下ろすと、待っていましたと言わんばかりに跳び出した。
「ランディは前方、左からの敵はネージュと謙一郎、ヴァスとロックハートは右、アウルとゼフィリアは後方の敵を!」
 指示を出しているのは、荷馬車の上空を自らの羽で飛ぶララだ。自分たちが置かれている状況を的確に判断し、適切な指示を送る。
「‥‥盗賊風情が!」
 御者を狙って前方から走り寄る盗賊に、ランディが吐き捨てて疾風の如く肉薄する。彼の騎士は馬に跨ったまま、盗賊が攻撃態勢に入る前に間合いを消滅させ、其の巨体を山賊へと衝突させた。如何に訓練を充分に施されていない馬の体当たりと言えど、凄まじいものがある。接触と同時に盗賊の身体から鈍く厭な音が響き、大きく吹っ飛ばされて地面に横たわる。幾度か痙攣するが、是も幾度か血塊を吐き出して、息絶えた。
「襲うなら、普通もっと日が傾いてからだろう‥‥」
 山賊の襲撃に呆れ気味に呟いたのは、アウルだ。其の彼にダガーを振り翳した盗賊が迫る。お粗末な突進で。徒手空拳に近い間合いの狭さでは、アウルの懐に入って攻撃を行う前に迎撃されるのは目に見えている。
 しかし、彼は魔法の詠唱を行っており、発動には未だ時間が掛かる状況だ。其の間にも盗賊は接近してくるが、其れを阻んだのがゼフィリアだった。彼女は先ほどとは違い、真剣な表情をして馬から降りて構える。横からの出現に盗賊は多少狼狽しながらも、構わずに小振りの刃を振り下ろした。自らの身体を傷つける刃に対し、彼女はライトシールドを刃の軌道上に向けて力を込める。鉄同士がぶつかり合って甲高い音が響き、ダガーの刃は停滞した。停滞の隙を突いて、ゼフィリアは盾を持つ手に更なる力を込めて勢い良く弾き返す。
「伏せろ!」
 声は、突然だった。
 ライトシールドで盗賊を弾いたと同時に背後から発せられた言葉に反応して、ゼフィリアは咄嗟に身を屈める。そして次の瞬間、声すら掻き消す炸裂音が現実と化した。
 アウルの掌から放たれた聖なる気が不可視の破壊の力――《ディストロイ》へと顕現され、盗賊の左腕が木っ端微塵に砕かれる。飛沫となった血と肉と骨は煙の様に宙を漂い、盗賊の身体は衝撃によって後方へ大きく吹き飛ばされた。失神でもしてしまいそうなものだったが、其の身に走る激痛は盗賊の意識をよりはっきりさせ、地べたで血液を撒き散らしながらのた打ち回る。
 もう一方の神――東洋に於いて神と同等の立場とされる《神皇》に仕える者、謙一郎は馬から飛び降り、
「禁裏欧州見聞役! 志士・吉村謙一郎、お相手致す!」
 と、猛々しく名乗りを上げて斬りかかるが、ゲルマン語が未熟な彼の言葉は相手に余り通じず、困惑させた。其の隙を突いて振り抜かれた銀の刃は、盗賊の胴を斜めに斬り裂く。肉を斬り、骨を断った一撃は致命傷に近いものがあり、血液と共に生命まで噴き出してしまいそうな感覚に囚われる。
 だが、其れも次の瞬間で解放された。
 間合いを詰めていたネージュのダガーが煌き、喉笛を掻き切ったのである。喉に付けられた第二の口からは血液が大量に吐き出され、山賊の衣服は瞬く間に赤黒く染まり、絶命した。
「餓鬼と弱っちぃクレリックから狙え!」
 自分は前線に立たず、後方から偉そうに指示を送る頭。一応は彼に従うのか、餓鬼とクレリック――ロックハートとヴァスにふたりの盗賊が向かっていく。
「さっさと来い。相手になってやる」
「下賎な輩に敗れる私ではありませんよ」
 此方も其のつもりなのか、各々の得物を持って挑発する。言葉を聞いた盗賊ふたりは顔を朱に染め、猪の様に愚鈍な突進をかけた。盗賊が持つショートソードがロックハートに届く範囲に達したとき、風が流れる。
 しかし、只の風ではない。意思を持ち、殺傷力を秘めた死の風が。死の風が盗賊の身体を薙ぐと衣服を斬り、其の下に隠れた肉を裂いて血が止め処なく噴出して盗賊は倒れる。風を放ったのは、荷馬車で待機していたエルフのウィザード、ゼルス・ウィンディ(ea1661)だった。彼は得意げそうに片手を持ち上げて笑みを作る。
 もう一方の盗賊はヴァスへと向かうが、彼の魔力が産み出した闇――《ダークネス》に囚われ、彼の視界には漆黒の闇が広がっている。
 世界が闇に包まれた様な感覚に襲われていた山賊だが、次に襲われたのは痛みだった。痛みは、ダガーの柄が彼の鳩尾に矢の如く突き刺さって産まれたもの。そして矢を放ったのは、ロックハートだ。衝撃という矢は横隔膜を的確に貫き、呼吸困難に陥らせ、其のまま大地に崩れ落とした。
 冒険者たちの攻勢は、盗賊たちには思いも寄らぬ事態だった。其の証拠に、残った盗賊の頭の顔は青褪め、
「‥‥チッ、覚えてろよ!」
 頭がお決まりと化している捨て台詞を吐いて、逃亡する。逃げ足だけは一流らしく、瞬時に其の姿は冒険者の前から姿を掻き消した。冒険者たちも流石に深追いは危険だと判断したらしく、追う者は居ない。
「大した事のない連中だ。‥‥ところで、残ったこいつはどうする?」
 ロックハートは、足元で呻き声を上げて昏倒する盗賊を指差す。其の答えは、御者が答えた。
「捨て置け。連れて行く余裕など無い」
 彼の冷徹な言葉には誰も異論はなく――ある筈も無い――、所定の位置について再び歩を進める冒険者たちだった。


 何時如何なる刻も時間は流れ、世界は廻る。
 世界に闇を齎す時刻、夜。河川の近くで休息を取る冒険者一行は、三つの班に分けて交互に見張りに付いていた。
 現在はC班であるアウル、ゼフィリア、ジャドウ・ロスト(ea2030)の三人が焚き火を中心に囲んで暖を取っており、残りの者はテントを張ったり、荷馬車の中で眠りについている。
 この空間では、河のせせらぎ、虫の鳴き声、火が爆ぜる音、そして夢の世界に旅立った者たちの寝息程度のみが鳴っていた。
 其のとき迄は。
 突如轟音と共に青白い雷が産まれ、侵入者に罰を下す。雷撃は数秒の間侵入者の全身を貫き、収まったときには身体から黒煙が昇り、魂も天に昇っていった。
 ゼルスが就寝する前に設置しておいた罠――《ライトニングトラップ》が発動したのである。迂闊にも其れに掛かったのは――盗賊だった。
 前回の事を反省してか数も七人に増やし、夜間に襲撃を行う。確かに、適切な判断だ。襲撃時刻は。戦闘で数が劣っているというのは、圧倒的に不利だ。其れこそ、一騎当千の実力を持つ者が居ない限り。しかし、彼等はどう見ても昼間に現れた面子と変わらない感じがする。現に、其の中のひとりは既に天に召されているのだから。
 雰囲気だけでなく、唯一ひとりだけは昼と変わらない者も居た。壮年の盗賊だけは。
 必死に仲間を掻き集めたのだろうが、どうやら数で勝る事も出来ないほど人望も無いらしい。山賊に身を堕とす者は、大抵はそうだろうが。
「全く、懲りもしない連中だな」
「蛆虫共が‥‥。消してやる」
 流石にあれほどの轟音が鳴れば気付かぬ者などおらず、休んでいた冒険者すらも既に夢の世界から帰還し、得物を持って戦闘態勢に入っていた。
「構わねぇ、やっちまえ!」
 又もお約束的な台詞を吐くが、突然風が吹き荒れて言葉が彼方へと飛ばされる。天候が悪化したのか。否。夜空には月と多くの星たちが大地を覗き込んでいた。だとすれば、風の源は自ずと判明する。
 魔法、である。
 大気が震えて風を作り、更に勢いを増して小型の竜巻を産み出した。竜巻は怒り狂った獣の如く盗賊たちに襲い掛かり、猛る風で身体を次々と持ち上げる。
「先は出番が無かったからな。派手にやらせてもらおう」
 竜巻を起こしたのは、ジョセフの魔法《トルネード》だった。彼の魔力が風に凶暴性を持たせ、盗賊たちを襲わせたのである。竜巻が通った跡には身体を三メートルほど持ち上げられた盗賊たちが落下していき、受身を取れなかったのか鈍い音と短い悲鳴を上げていく。中には打ち所が悪い者もおり、頭部から血を流す者も居る。辛うじて軽症で済んだ者も二、三名ほど居たのだが、其の内のひとりの胸部に巨大な氷柱が突き刺さった。
 心臓を確実に貫いた其れを放ったのは、ジャドウである。
 水に近い所に居る事を利用し、《クーリング》によって氷の武器を作り、盗賊へと放ったのだ。
「さて、さっさと殺してやろう‥‥」
 ジャドウの赤い瞳は氷の冷たさを秘め、睨め付けられた盗賊は自分がどれほど危険な者たちを敵に回していたかを、余り使われていない脳を漸く働かせて理解した。今更無駄な事だが。
 今宵、彼等の断末魔が虚空に木霊した‥‥。


 護衛の日々は続き、其の後も度重なる――盗賊を始め、モンスターなどの――襲撃を受けたものの、彼等の活躍によって六冊の魔法書は全て無事だった。
「長旅ご苦労。どうやら、荷物共々無事の様だな」
 パリ市街に入る門を潜ろうとしたとき、冒険者たちに労いの言葉が投げかけられる。声の発生源に目を向けると、其処にはギルドの人間と王国に属する騎士数名が立っていた。
「後はこっちでやっておく。報酬はギルドで受け取ってくれ」
「すいませんが‥‥」
 騎士たちが荷馬車を先導していこうとしたとき、ゼルスが彼等を呼び止めた。
「できれば、魔法書の中身を見せて貰いたいのですが」
「其れはならない」
 ゼルスの申し出は、きっぱりと却下された。其の理由は、次の通りである。
「お前たちの役目は荷馬車の護衛、そして其の報酬は金銭だ。魔法書の知識じゃない」
 ギルド員の言葉を受けた冒険者たちは、押し黙る。納得いかないという思いと、契約上の事だから仕方が無いという思いが頭の中で葛藤しているのだろう。だが、彼等の思いを知らないギルド員は更に続ける。
「其れに、アレの所有は王国に在る。俺に言っても無駄だ。じゃあな」
 彼はそう言い残して、騎士たちと共に荷馬車を送りに向かう。
(「まぁ、予想できた事だ」)
 彼等の背中を見送りながら、そう結論づけた冒険者たちは、今回の依頼の報酬を受け取りにギルドへと足を向けた。
 何日にも及ぶ護衛に疲れた身体に、鞭を打って‥‥。