Magic Exercise

■ショートシナリオ


担当:しんや

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月25日

リプレイ公開日:2004年07月26日

●オープニング

 魔法とは、恐らく人間――エルフなど全て纏めて――が扱える能力に於いて、最強の能力だろう。
 主に戦場にて用いれる魔法は、相手を死に至らしめるものが占める。一度発動した魔法は有機、無機を問わず破壊し、命を刈り取る死神の鎌そのものだ。
 更には地形、天候さえも変動させ、理すらも凌駕する力。其れが、魔法である。
 しかし、其れ等の事象を起こせる様になるのも、極めればの話だ。
 他の技能と同じく、如何に魔法の術を身につけたとはいっても、鍛錬も無くして扱えるものではない。だが、只鍛錬だけを闇雲に行っても効果は薄い。
 魔法技術を向上させるには、実戦が最も効果的なのだ。実戦に於いて勘を掴み、如何に効率的に発動できる様にする。
 魔法の有用性を重く見ているギルドは、国の未来を考えて下記の資料と共に依頼を張り出した。冒険者に、彼等の演習相手になってもらうが為に。そして、冒険者の技術向上の為にも。


 名前:ウィザード(Lv.1/人間♂)
 使用魔法:マグナブロー、ファイヤーバード、ファイヤーボム

 名前:ウィザード(Lv.1/エルフ♀)
 使用魔法:アイスチャクラ、ウォーターボム、アイスブリザード

 名前:ウィザード(Lv.1/シフール♀)
 使用魔法:ウインドスラッシュ、ライトニングサンダーボルト、ストーム

 名前:ウィザード(Lv.1/人間♀)
 使用魔法:ストーンアーマー、クリスタルソード、グラビティキャノン

 名前:クレリック(Lv.1/人間♀)
 使用魔法:ホーリー、コアギュレイト、レジストマジック

 名前:神聖騎士(Lv.1/人間♂)
 使用魔法:ブラックホーリー、ロブライフ、ディストロイ

●今回の参加者

 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4276 アクア・メイトエル(23歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea4433 ファルス・ベネディクティン(31歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4792 アリス・コルレオーネ(34歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5038 ピチュア・リティ(30歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

「では、是より実戦型魔法演習を行う」
 壮年のギルド員の言葉が、気持ちのいい風が流れる草原に放たれた。彼の傍らには羊皮紙と羽根ペンを持った若いギルド員と、万が一に備えて随行してもらったクレリックが立っている。
「六人同時に行う、早く準備しろ」
 其の言葉を受けて、四人の魔法使いとふたりの神の使徒は草原に散り、冒険者も自らが希望した相手の前に立つ。先ほどまで穏やかだった空気が、突如緊張と言う冷厳な空気に支配された。例え模擬戦だろうとも、魔法とは強大な力。油断すれば死に繋がる危険な存在だということを、彼等は自覚しているのだ。
「始め!」
 嚆矢の言葉が放たれ、場は魔の力が交錯する空間と化した。
 

●二匹の炎鳥
 火の精霊魔法を扱う青年は火を示す印を片手で作り、詠唱を行う。しかし、魔法が発動する前に彼と同じく火を操る羽根妖精――ピチュア・リティ(ea5038)が空を駆って間合いを詰めた。魔法戦闘でなければこのまま殴りつけるところだが、依頼書に記されている規約によって反則になってしまう――殴ったとしても、シフールの腕力では高が知れているが――。勿論、彼女はそんなことはせず、素早く青年の背後に回り込み、詠唱を開始した。
 ピチュアの風の如き敏捷さに動揺し、詠唱に失敗した青年は、彼女の後を追う様に再び初めから詠唱をやり直す。だが、先とは内容が異なるものだ。
 そして、炎が産まれる。ピチュアの身体から。
「火の鳥、いっけー!」
 紅蓮の炎は彼女の小さな身体を忽ち飲み込み、言葉通り自身を火の鳥と化した。火の精霊魔法、《ファイヤーバード》だ。
 彼女は火の粉を軌跡として空高く舞い上がると、一気に急降下して炎の鉤爪で獲物を狩ろうとする。
 その時、炎が顕現された。今度は青年の身体から。
 彼もまた、自らを炎で身を纏う鳥となり、其の赤き翼を以って空へと羽ばたく。そして、二匹の火の鳥は空中で勢い良く激突した。ピチュアは蹴り、青年は翼による打撃。両者の攻撃は同時に互いの肉体にダメージを与え、まるで血が噴き出す様に身体から炎が飛び散り、両者は左右に吹き飛ばされた。だが、すぐに態勢を立て直し、再び接近して攻撃を加える。
 炎と炎の激突は幾度か繰り返され、互いの炎が消えようとしていた。己の闘志諸共。
 あと一撃で、勝敗が決まる。
 どちらもそう考えていた。そして、先に動いたのは青年だった。風に乗ってピチュアの間合いに侵入した彼は、翼を打ち付ける。
 赤き軌跡は、空だけを叩いた。
 攻撃を予測していたピチュアは翼の軌道から逃れ、青年の隙だらけの背後へと回ったのである。
 彼女はスピードを殺さぬまま、青年の背中に蹴撃を見舞った。背から全身に伝わる衝撃は彼から自由を奪い、重力の手に引かれて大地に叩き付けられる。同時に彼が纏う炎が消失し、意識すら掻き消えた。
 ピチュアは勝利を喜ぶ様に、大きく虚空を旋回した。


●雷の先駆者
 相手が悪い。
 ふたりの構図を表す言葉には、是が適切だ。
 エルフのウィザードが放つ《アイスブリザード》は、カレン・シュタット(ea4426)には何の効果も示さない。彼女が発動した《レジストコールド》が放たれる水の精霊魔法を無効化しているのだ。
 この時点で、既に勝負は決していると言っても過言ではない。
 《レジストコールド》の影響を受けない《アイスチャクラ》による攻撃も大した訓練もしていないエルフのウィザードの投擲では高が知れており、回避することは難しくはない。
 既に勝敗が決した戦い。しかし、ウィザードは諦めてはいない。劣勢を覆す策を考える為、カレンの魔法の射程となる百メートルから離脱して策を練る。
 だが、カレンは不敵な微笑を口の端に乗せ、詠唱を始めた。そして、彼女の掌から雷鳴が轟き、其れは空気が切り裂かれて悲鳴を上げているかの様にも聴こえる。
 届く筈がない。ウィザードは、そう考えていた。其の考えが甘かったことを知ったのは、数秒後の事。
 カレンが放った《ライトニングサンダーボルト》は百メートルを悠に超え、雷の魔手は其の先に立つウィザードの身体に喰い付いた。蒼き輝きを放つ雷が全身を駆け巡り、毛細血管を次々と破裂させる。雷が終わると彼女の身体は自らの血液で濡れ、至る箇所から白煙を吐いて草原の海に倒れ込んだ。
 専門の域に達している彼女の雷となれば射程は倍となり、其の一撃で相手を仕留めることなど容易いのだ。尤も、もう少し威力が高ければ彼女の絶命は免れなかったが。
 随行していた女性クレリックが急いで駆け寄る様を見たとき、流石のカレンも自分の顔が青褪めたことをはっきりと覚えた。


●冷然たる魔女
 アリス・コルレオーネ(ea4792)は、多少苛立っていた。
 其の理由は、ひとつ。自分が放つ魔法が、悉く防がれている為だ。
 クレリックは魔法を完全無効化する神聖魔法・《レジストマジック》を発動し、アリスの水の精霊魔法を防いでいるのである。其のことを考慮していた彼女ではあるが、流石にこうまで防がれると頭にくるのも無理はない。
 だが、アリスは苛立っていながらも、冷静さを保っていた。氷の如き其れを。
 そして、彼女は詠唱を開始する。魔法を放とうとするアリスに、クレリックは警戒して構えた。尤も、《レジストマジック》を発動している間は自身も魔法は使えないのだから、其れ位しか出来ないが。
 詠唱が終わるとアリスの手からは冷気が溢れ出し――彼女は力強く大地を蹴った。遠距離からの魔法攻撃が、ウィザードのセオリーとも言うべき戦法だ。其れを逸脱した彼女の行為は、クレリックを動揺させるに充分だった。しかもアリスは今まで自らが魔術を放つと同時に徐々に接近しており、彼女が駆け出した頃にはクレリックとの距離は僅か五メートルにまで縮んでいた。
 殆ど逃げる暇を与えず、クレリックの腕を掴んだアリス。《クーリング》によって冷気を帯びる彼女の手から衣服が凍り付いていく。既に《レジストマジック》の効力は失われているのだ。其処まで計算した上でアリスはこの戦法を取っていたのだから、賞賛に値する頭脳である。
 更に其の間にも彼女は次の魔法を放とうと、詠唱を始めていた。自らが窮地に追い込まれていることを悟ったクレリックは必死にアリスの手を引き剥がし、再び《レジストマジック》を展開しようとする。が、遅い。
「《アイスコフィン》」
 アリスは冷たく言い放つと、クレリックの身体を簡単に収めることが出来る冷たい棺が出現し、彼女を有無を言わさず葬送した。透明な氷に包まれたクレリックは一見凍死したかの様に微動だにしないが、何れ時が経って氷が溶ければ何時も通りに活動できる。
「ふん、他愛もない‥‥」
 氷の棺に納められた神の使徒を一目して、アリスは哂った。


●地を操る知の求道者
「宜しくお願いします」
 ウォルター・ヘイワード(ea3260)はこの一礼の言葉から入り、駆けた。相手はシフール、スピードでは圧倒的に劣るのは仕方がない。其処で彼は、戦闘開始直後に出来るだけ接近しようと判断したのだ。
 其の意図を予見したのか、シフールのウィザードは自らの羽を用いて空高く舞い上がり、詠唱を開始する。
 だが、其れもウォルターの予測のうちだった。
 彼は空を飛ぶシフールの真下に移動すると、《高速詠唱》によって詠唱を簡略化し、すかさず《グラビティーキャノン》を発砲した。真下からやってくる重力の一撃を詠唱中にまともに受けたシフールは大きく吹き飛ばされ、十数メートルの地点から草原へと落ちていく。
 勝敗は決したかの様に思えたが、ウォルターは手を休めずに詠唱を行っていた。シフールが草原に落下したとほぼ同時に、彼は魔法を発動する。
 全身を襲う痛みに悶えるシフールを、突如草が蠢き始めて彼女を束縛する。《プラントコントロール》だ。ウォルターの魔力によって操られる草は、瞬時にシフールの身体を束縛した。魔法の発動に必要な、印を作ることも不可能にして――だからと言って、腕を圧し折ったという訳ではない――。
「申し訳ありませんが、勝負を急がせて貰いました」
 ウォルターは本当に申し訳なさそうに、終わりの一礼として頭を下げた。


●神の如き力を操る者たち
 神に仕える騎士の身体から淡い黒の光に包まれると、其れは彼の掲げる右の掌に収束され、一気に放たれた。神から与えられた制裁の力――《ブラックホーリー》はファルス・ベネディクティン(ea4433)に命中し、神の鉄槌を下そうと試す。
 邪悪な存在――悪魔など――には魔法抵抗も出来ずにダメージを被るが、善性なる存在――天使――には無害な神聖魔法。其の中間に位置する存在には、魔法抵抗によって被害を減少させることが可能だ。善と悪の中間を行き来し、どちらの可能性も秘めている人間が其処に位置するのである。
 そして今回、神の審判はファルスを赦した様だ。
 黒き光は粒子となって霧散し、彼の身体には全く無害な存在と化す。其れを見たファルスは、口の端に微笑を刻んだ。今度は此方の番だ、と言いたげに。口から放たれたのは其の言葉ではなく、魔を操る詠唱の言葉。雷撃を操る、破壊の言葉を。
「《ライトニングサンダーボルト》!」
 先人が神の怒りと思っていた雷をファルスは放ち、其れを神に仕える騎士に天罰を下す。雷撃が神殿騎士の体組織を破壊しようと縦横無尽に暴れ回り、痛めつける。
 しかし、彼は倒れない。逆に、ファルスへと駆け出した。詠唱をしながら。自らが負ったダメージを回復させる為、彼に《ロブライフ》を発動させる為に。ファルスは迎撃しようと詠唱を始める。
 発動の瞬間は、同時だった。
 充分に接近した神殿騎士は、すかさず《ロブライフ》を発動させる。黒い光がファルスを取り込むと、其れは彼の生命力と共に神殿騎士の下に舞い戻った。途端、神殿騎士から火傷の後が消え、傷が癒える。
 生命力を奪われた反動か、ファルスは神殿騎士に凭れる様に倒れ込んだ。
 其れが、彼を勝利の女神から遠ざけることとなった。
 突然、神殿騎士の身体を雷撃が走った。だが、ファルスは魔法を使っていない。このときは。
 彼が先ほど発動した魔法は、《ライトニングアーマー》。身体を帯電させ、接触した者に相応のダメージを与える魔法である。ファルスは接近されたときのことを考慮して、この魔法を使用したのだ。
「手札は、何枚も持っておくことが大切だよ」
 気障ったらしく笑みを浮かべながらファルスは言うと、彼を掴む手に更なる力を込める。神殿騎士は逃れようとするが、全身を襲う電撃が身体の自由を奪い、まともに身体を動かすことも出来ない有様。非力なウィザードも払い除けることも出来ない。
 数十秒後、神殿騎士は意識を失い、白煙を吐いて倒れた。


●蒼き魔蝶
 蝶の如き羽を用いて優雅に舞う蒼き羽根妖精、アクア・メイトエル(ea4276)は其の小さき手で印を結ぶ。刹那、自らの裡に宿る魔力が彼女の身体を青白く輝かせ、其れを以って氷の力を発動させる。《高速詠唱》によって詠唱によるタイムラグを消滅させた彼女は、小さき掌から凍れる風を巻き起こした。扇状に放たれる氷の風――《アイスブリザード》は詠唱の最中にある地のウィザードを襲い、氷の抱擁を与える。長く伸びた髪は凍り付き、露出している肌には薄氷が覆う。其れに伴い、針が突き刺さる様な痛みが走るが、彼女は詠唱を中断することなく、発動の儀礼を終える。
 そして、叫んだ。
「《ストーンアーマー》!」
 彼女の声に呼応して魔法が発動すると、身体中に岩の装甲が幾つも備わっていき、名の通り岩の鎧が完成する。しかし、動きを抑制するということはなく、体力の無いウィザードの彼女でも扱える堅牢な鎧だ。
 大地の加護を得た彼女は、次に攻撃の為の詠唱に移る。其れを阻止する為、アクアも詠唱を開始した。
 先に詠唱を終えたのは、ウィザードだった。
 掌を虚空を駆けるアクアに向けると、其処から黒き波動――《グラビティーキャノン》を放った。重力に逆らって伸びる重力の黒い帯を、アクアは詠唱を中断することなく、自身の羽で重力の束縛から解放して重力波から逃れる。
 そして、妖精の詠唱が終わった。
 アリアの掌から生まれる水弾は一直線にウィザードに向かっていき、彼女に接触と同時に勢い良く弾ける。其処から生まれた衝撃は凄まじく、岩の鎧の一部を粉々に吹き飛ばし、更には彼女の身体を後方へ大きく転倒させたたことからも威力の高さを伺える。
 うつ伏せに倒れたウィザードは立ち上がろうと四肢に力を込めるが、積み重なったダメージが其れを許さず、彼女は地に伏した。


「其れまで!」
 全ての模擬戦が終了した時、ギルド員の言葉が魔力が静まり返った草原に木霊する。
 勝敗は、冒険者の全勝という圧倒的な結果で幕を閉じた。
「まぁ、初の実戦としてはよくやれたほうでしょう。とは言っても、依頼を受けた冒険者にも未経験者は居ますが」
 若いギルド員は手にしている羊皮紙に羽根ペンを用い、模擬戦の内容を記録しながら言った。
「どちらにとっても、いい経験にはなった筈だ。ご苦労だった」
 最後にギルド員は冒険者たちに労いの言葉を与えると、用意していた報酬を手渡す。手に入れた勝利と報酬に、冒険者たちは歓喜の声を上げた。
 後日、ギルドから特に優秀な戦績を収めた三名のウィザードに、称号が授与された。其の名に恥じぬ活躍を期待して‥‥。