Those who sprinkle a dangerous flame

■ショートシナリオ


担当:しんや

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月08日〜08月13日

リプレイ公開日:2004年08月17日

●オープニング

 突如産まれた炎の魔手は、忽ち民家を絡め取って全てを燃やし尽くしていく。其れ等を食していく炎は喜んでいるのか、更に炎を拡大させて近隣にも其の魔手を伸ばそうとしていた。
 パリの夜空を焦がす炎は更に燃え上がり、場を黄昏の色に染め上げる。其の家の主と思われる男は辛うじて脱出しているが、眼前に燃えている我が家を見て失意の淵に堕ちていた。
 数分後、冒険者を初めとするウィザードが現場に到着し、水の精霊魔法によって消火を開始。火が完全に消えたのは、最初に炎が上がった民家が完全に焼失した後であった。
 其のとき、誰かの笑い声が微かに響いた様な気がした‥‥。

 パリの住民の間で囁かれる原因不明の火災は、既に恐怖の対象として扱われていた――元々火災は恐ろしいものだが――。
 突然やってくる火の手に、冒険者ギルドも頭を悩ませている。其処で――
「謎の火災は既に四件に達している、是非とも犯人を捕まえて解決して欲しい。住民もいい加減五月蝿いからな」
 抗議の声と手紙の山に嫌気が差したのか、ギルド員は投げやり気味に依頼書と共に資料を冒険者に渡す。住民から火災時の証言を纏めたものが記されている資料である。
「何処まで本当から判らないが、闇雲に捜すよりはマシだろう。受けるつもりなら、しっかり頼むぞ」
 彼はそう言って、再び机に置かれた紙に目を向ける。途端に顔を顰めたのは、何か嫌味でも書かれていたのだろう。
 冒険者は彼を無視して、依頼書にサインをしようか悩んでいた‥‥。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1944 ふぉれすとろーど ななん(29歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea2771 ウィレム・サルサエル(47歳・♂・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 ea3677 グリュンヒルダ・ウィンダム(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4532 レティシア・ハウゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5067 リウ・ガイア(24歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea5118 ティム・ヒルデブラント(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●魔の炎を操る者
 火が人為的に産まれた瞬間、共に文明が産まれた。
 其れは生命の輝きにも例えられ、人々に様々な恩恵を与えるものとして扱われてきた。
 だが、火にはもうひとつの顔がある。
 全てを燃やし尽くし、灰塵と化す破壊の象徴。其れは扱う者すら滅ぼしてしまうかも知れない、危険性も備えている存在だ。
 創造と破壊――ふたつの力を持つ存在、火。
 現在、パリで起きている事件も、彼の存在が関わっていた。後者の力として。

「僕は火を使うウィザード‥‥しかも新米だ、どれだけ役に立てるかは判らない‥‥。でも! 火を、火の精をこんな風に使ってほしくないんです!」
 まだ年端もいかぬパラの少年――ミカエル・テルセーロ(ea1674)が、幼さが充分に残る顔を憤怒の色に染めて言った。
 ミカエルの隣に立つ金髪の女性も、声に怒気を乗せて言った。
「放火は殺人に比類する重罪だと、判ってやっているのでしょうか!」
 端正な顔立ちに朱が差し、翡翠の双眸には怒りが宿っている。彼女、グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)は普段は非常に温厚で、怒ることなど知らないような女性に見える。が、ノルマンの騎士である彼女にとって、自国の民を嘆き苦しむ様を見るのは自らが受ける痛みよりも辛いのだろう。
「俺に怒るな。其の怒りは、犯人にぶつけてやれ」
 ふたりの怒声に襲われながら、ギルド員が目撃証言が記された資料を渡した。送られてくる抗議の手紙の山に目を通すのに手一杯なのか、視線は山の麓に在る開かれた手紙に注がれる。
「ま、頑張ってくれ」
 ギルド員はそう言って、再び手紙の山に向かい合う。
(「どうせなら、是を燃やしてほしい‥‥」)
 彼は、哀願するように胸の内で呟いた。

「狙われた住宅の特徴、犯人の外見特徴及び放火の手口‥‥。調べることは、大まかに分けてこのふたつですね」
 レティシア・ハウゼン(ea4532)が、確認するように言った。神聖騎士である彼女が身に纏う鎧に記された目にも鮮やかな赤い十字架は、自らが神に仕える者としての証だろうか。
「他には、各自必要と思われる物を用意しておいてください」
 何時もの冷静さを取り戻したらしく、グリュンヒルダが静謐な声音で言った。尤も、裡には犯人に対する憤怒の炎が未だに燻っているだろう。
「私は染料と笛の調達をしておきます」
「じゃあ、私は何か美味しいもの作っておこうかな」
 冒険者たちは自らの予定を口々に述べる。中には「寝てよう」という言葉も在ったが、夜に備えてと言う意味であれば重要なことだろう。
「では、夜になったらギルドに集合し、其の間は自由に行動しましょう」
 再びグリュンヒルダが言うと、皆も異存は無い様子で頷き、蜘蛛の子を散らすように街へと駆けていった。


●炎が蠢く刻
「遅刻しちゃうよ〜? 起きて♪」
 エル・サーディミスト(ea1743)が、彼の顔の間近で目覚めの声を紡ぐ。
 彼女の声は、酒場のテーブルに突っ伏す形で寝ていた、ウィレム・サルサエル(ea2771)に向けてのもの。彼のように夜間の巡回に備えて寝ていた者も居たが、酒場で寝ていた者は彼だけである。
 陽は既に西の地平に没し、ノルマンは夜を迎えていた。酒場も活気に溢れ、談笑している者たちで溢れ返っている。中には、罵声を浴びせ合っている者も居るが。
 彼女の声は夢の世界に旅立っていたウィレムに僅かに届いたらしく、顔をエルに向けて「今起きる‥‥」と小さな呻き声を上げる。彼は隙を狙うようにして、エルの顔に近づけた。
 そして次の瞬間には、ふたりの唇は重なっていた。其れを見ていた周りの客からは、「おー」だの「やるぅ」だの、様々な感嘆の声が上がる。
 突然の出来事にエルは頬を赤らめ、何が起こったのか判らない様子で呆ける。其処に――
「‥‥愛の炎は、火事よりはマシでしょうか。見てるこっちが恥ずかしいですけど」
 タイミングを見計らったように、そしてふたりをからかうように、隣のテーブルでグレープジュースを飲んでいるティム・ヒルデブラント(ea5118)がこそばゆい台詞を呟く。其れに過剰に反応したのはエルだけで、彼女の頬だけではなく顔面全体が火が噴き出そうなほど真っ赤になった。一方のウィレムは、余裕の表情を浮かべている。三十六年という年季が成せる業だろうか。
「そろそろ時間ですから、ギルドに向かいましょう」
 コップの中身を飲み干し、椅子から立ち上がってティムが言うと、彼に釣られるようにふたりも席を立った。

 ギルドの前に集結した、八人の冒険者。是から炎を撒き散らす犯人を捕らえようと向かうところだ。
「さ、ご飯は元気の元だからネ♪ 美味しいものなら心も元気♪」
 ふぉれすとろーど ななん(ea1944)は笑顔を以って、皆に布で包まれた夜食を手渡した。布の隙間から微かに香る香ばしい匂いが、彼等の食欲を促す。
 今回の巡回は長丁場になるであろうと予測した彼女は、体力と精神どちらも正常に保つ為、身銭を切って全員分の夜食を作っておいたのだ。使用人だけあって(?)、料理の腕は中々らしい。
 夜食を受け取った者たちが礼を述べ――
「では、参りましょう」
 昼間のときのようにグリュンヒルダが嚆矢の言葉を発し、二手に分かれて夜の街へと消えていった。

 
 闇の空から密かに覗く三日月だけが、彼等の凶行を目撃していた。無意味なことだが。
 鞴(ふいご)を手にした、少年の如き小さな姿がふたつ。彼等は闇に乗じて裏路地に回り、本来は風が出る鞴から炎を吐き出させる。
 其のとき、音が響いた。甲高い笛の音が。
 突然鳴り響いた笛の音に戸惑うふたり組みは、其の発生源を見つけようと首を廻らせる。しかし、笛を吹いている者の姿を捉える事はできない。其れもそうだろう。発生源は、宙を飛んでいるのだから。
 地上から十メートルほどの高さだろうか、妖精に見紛う小さき少女が自らの翼を羽ばたかせて、自らの背丈と同じくらいの笛を吹いている。彼女の名はリウ・ガイア(ea5067)、羽根妖精のシフールのひとり。笛の名は、尺八。ジャパンの虚無僧が主に所持している楽器だ。独特の音色を奏でる其れは、警鐘の役割をものの見事に果たす。
 彼女の笛の音に誘われるように冒険者たちが二方向から集結し、犯人を挟撃する形で現れた。右手からはななん、グリュンヒルダ、レティシアの三人。左手からはウィレム、エル、ティム、ミカエルの四人が。
 ランタンを持って先頭を歩くななんが光を犯人に向けると、否応なく彼等の姿を露見させる。
 グザファン――地獄の竈を預かる下級悪魔。背は子供のように低く、耳は尖り、猿のような風貌をしている。
 冒険者たちは目撃証言から犯人をパラではないかと推測していたが、彼等悪魔による犯行だったのだ。自らと同じ種族であるパラでないと知ったミカエルは、内心で胸を撫で下ろす。
「悪魔ですか‥‥ならば、遠慮をする必要性はありませんね」
 グリュンヒルダは剣呑さを孕んだ言葉を呟くと、得物であるホイップを右手で力強く握る。彼女に続くようにして、他の冒険者たちも各々の得物を手にして構えた。
 最初に動いたのは、ティムだ。彼はバックパックからひとつの瓶を取り出すと、其れを思い切りグザファンへと投げつけた。だが、グザファンは造作もなく其れを回避する。瓶は悪魔にではなく、民家の壁にぶち当たり壁に大輪の赤い華を咲かせた。内容されていたのは、染料と混合させた油である。
 ティムの狙いは彼等に油塗れにさせて火を使えなくさせる他に、万一逃がしても染料が目印の役割を果たし、追跡を容易にすることにあった。
 しかし、其の行為が裏目に出てしまった。
 壁に附着した液体を油と知ったグザファンは、其の醜い顔に笑みを湛えて本来の目的を遂行する。
 赤い炎が、闇の中で咲いた。
 グザファンが持つ鞴から紅蓮の炎が放たれ、其れは油が附着した壁に注がれる。炎の威力もさることながら、油が其れを手伝って壁は瞬く間に炎に侵食されていく。ミカエルは弾かれたように走り出し、火の勢いを止めようと《ファイヤーコントロール》を発動しようとする。
 皆も、ほぼ同時に大地を蹴っていた。
「如何に素早かろうと、足を止めればっ‥‥!」
 神に仕え、魔を滅ぼす神聖騎士であるレティシアにとって、本来の役目に戻ったと言ってもいいだろう。
 柄頭にジーザス教の聖像が刻まれた十字の短剣を手にし、グザファンへと駆ける。月明かりを吸収して冷たい銀光を放つ刃は、グザファンの足を刈り取ろうと闇を進む。其の軌道を見切ったグザファンは軽々と跳躍し、白銀から逃れる。そして鞴を彼女の顔面に叩きつけようと其の細腕で振るうが、鞴は悪魔の手から離れて石畳の大地に転がった。
「是以上はやらせないヨ!!」
 ななんが自らの気を凝縮した一撃を言葉と共に放ったのである。吐き出された不可視の拳打、《爆虎掌》は空中に居たグザファンを捕らえ、小さな身体を直撃した。小柄な身体は衝撃に耐え切れずに吹き飛ばされて鞴のように自身も転がっていく。
 ジ・アースにかかる引力の数倍にも及ぶ重力が、其の身に降り注がれた。リウが放った《グラビティーキャノン》によって。
 身体に叩きつけられる重力波にグザファンの小さな身体は石畳に埋め込まれる。重力の楔を受けたグザファンは、既に虫の息。其処にレティシアが持つ短剣が、神の鉄槌の如く振り下ろされた。
 炎が蔓を灰塵と化し、迫る長剣は空を切った。
 エルは《プラントコントロール》によって操作した蔓でグザファンを拘束しようとしたが、放たれた炎が其れを全て燃やし尽くした。当然、炎は自らにも及んだが、全く影響はない。地獄の竈を番しているだけあるのか、彼等は炎に完全な耐性を持っているのだ。次にティムの得物であるロングソードがグザファンに振り下ろされたが、小柄な上に身軽な悪魔は其れを難なく避け、反撃の一撃を与える。其の細腕から一体どれほどの力が込められているのか、振るわれた鞴による一撃は革の装甲で身を纏うティムの腹部を襲い、彼を後方へ転倒させた。装甲を通して響く痛みに、ティムは苦鳴を漏らす。
 彼に止めを刺そうと炎を三度作り出そうとするが、背後から伸びた触手がグザファンを絡め取り、動きを束縛した。グリュンヒルダのホイップだ。
 グザファンは又も炎によって縛めから解き放たれようとするが、其れより早く彼の身体が宙に放り投げられる。落下地点に待っているのは、ダガーを構えているウィレムだ。
 迎撃に炎の魔手を放つグザファンだが、ウィレムはマントを盾にして其れを凌ぐ。耐熱性など微塵もないマントだが、一時を凌ぐには充分だった。
 マントで炎を払い除け、落下してくるグザファンの腹部に切っ先を突き立てる。断末魔が轟き、幾度か痙攣した後、グザファンの姿は霞のように消失した。レティシアが止めを刺したグザファンと同様に。
 彼等の消滅とほぼ同時に、ミカエルの手によって民家を襲う炎も其の姿を消した。


「今回被害を受けた民家だが、ミカエルのお陰で壁が焼けただけで済んだ。ご苦労」
 ギルド員の労いの言葉に、ミカエルは頬を赤らめて頭を掻く。
「で、お前の申し出だが、本当に良いのか?」
「はい、報酬は要りませんので被害に遭った方への援助に回して下さい」
「まぁ、此方として余計な出費が減って助かるが――」
 ぼそりと呟いたギルド員だが、彼の言葉を聴き取った冒険者から白い視線を受け、取り繕うように咳払いをする。
「兎に角、ご苦労だった。是からも頑張ってくれ」
 そう言う彼だが、やはり注がれる冷たい視線は、冒険者たちがギルドを出るまで止むことはなかった。