A pig should die silently!
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■ショートシナリオ
担当:しんや
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月31日〜08月07日
リプレイ公開日:2004年08月05日
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●オープニング
蛮族――未開の民族、野蛮人という意味だが、是は彼等に当たる言葉だろう。
通行人を有無を言わさずに襲い、犯し、殺した者たちには、この言葉が相応だ。
ジャイアントほどの背丈ではあるが、まるで中年男性の様に弛み切った醜い肉体を持つ者――オークである。
攻撃的ではあるが、自分よりも強い者には決して牙を向かない臆病者でもあり、卑怯者の彼等は、交易を生業としている者を主として狙い、私腹を肥やしているのだ。
彼の蛮族の蛮行に街道を行き来する者たちは戦々恐々とし、其の数を徐々に減らしていた。
是以上の事態の悪化を懸念したギルドは、即座に冒険者に依頼を公布、事態の収拾に向けて動き出した。
「新米の冒険者でも、オーク如きに遅れを取る筈も無い。確実に処理してくれ」
ギルド員の言葉通り、オークは『オーガ』に分類されるモンスターでは最も弱い部類に位置付けされる――例外も勿論居るが――存在。まるで新米の為に用意されたかと思われるほどの依頼だ。
冒険者の刃が血に染まり、彼等が地に伏すのは時間の問題だろう。
●リプレイ本文
●The setting sun of pigs〜豚どもの落日〜
幌馬車が、ゆっくりと街道を進む。気ままに漂う雲の様に、聴く者を癒す調べに乗って。
御者である男性――傍目から見てもやる気が感じられない男は馬に負担をかけない為か、其れとものんびりと寛ぐ為か、馬の歩をゆっくりと踏ませる。後ろの荷台には、長い艶やかな黒髪をひと括りにして全身をマントで包んだ女性と、プラチナかと見紛う銀髪を棚引かせるエルフの女性の姿が在った。銀髪の女性の装いこそ黒髪の女性と同じだが、彼女たちとは違う気品さを感じさせる。危険性も。
美しい音を奏でるのは、荷台から身を乗り出している目にも鮮やかな赤い装束を纏う少女だ。彼女の細くて綺麗な指が竪琴の弦を滑らかに弾き、この調べを紡いでいる。
彼女たちは行商、又は旅の一座を生業としているのか、荷台には布で包まれた大量の荷物が乗せられており、揺れていた。もし、少女が其の手の商売をしている者ならば、其れだけで金を稼ぐ事も可能だろう。
彼女が奏でる音色は、人を惹きつける何かが在る。
今回ばかりは、人ではなかったが。
生い茂る雑草から飛び出し、幌馬車の行く手を遮る四つの巨躯。後方にも退路を絶つ為、同じく四つの巨躯が現れた。数は全部で八、依頼に記されていた一味と同じ数だ。
神の性質の悪い悪戯によって産み出された、人間と豚を掛け合わせて産まれた存在――オークが。手には無骨な剣や斧が握られている。オークに見られる、典型的な装備だ。
彼等の狙いは金品と、弱者の命。護衛もつけていない行商人を度々狙っている件のオークの一味である。ちなみに、うら若き女性は只管犯してから殺害するという外道ぶりだ。
悠然と歩み寄る一体のオークもそう思っているのか、エルフの美女に醜い顔を更に醜くして近寄る。薄汚れた手が彼女の透き通る様な肌に触れようとしたとき、オークの動きが止まった。彼が止めたのではない、止められたのである。エルフが唱えた魔法、《シャドウバインディング》によって。
「はんっ! 私はまだ強くはないけどね‥‥其れでも豚に触られるのは勘弁なのよ」
エルフ――ガブリエル・プリメーラ(ea1671)は心底厭そうに言って肩を流れる銀髪を手で払うと、身を屈めた。次の瞬間、先ほどまで彼女が立っていた場所の後方から、白銀が飛来する。鋭利な刃を持つ其れは、影によって拘束されたオークの額に突き刺さった。何が起きたか判らないオークは確かめようと頭部に触れようとするが、拘束されている為、其れすらも出来ない。
其処に、幌馬車から黒髪の青年、ウリエル・セグンド(ea1662)が風の如く現れた。ショートソードを手にした彼は、其の切っ先を迷う事無くオークの首筋に死という烙印を突き立てる。切っ先は骨髄を砕き、赤黒い液体を剣身に纏わせながら反対側から飛び出した。剣を引き抜くと、堰を切った様に血液を撒き散らし、崩れ落ちる。
「さぁ‥‥やろう‥‥」
彼は自らが殺害したオークの頭部から血塗れのダガーを引き抜くと、同じく血糊が附着したショートソードを共に勢い良く振り上げた。狼煙を上げる様に。
朱が混じった銀の狼煙が昇ると、幌馬車に積まれている荷物が動き出し、飛び出す。荷物‥‥もとい彼等は冒険者。多発している襲撃事件に終止符を打つ為に赴いた猛者たちである。
「熱血必中! 《グラビティーキャノン》!」
飛び出してきた東洋の志士、杜乃 縁(ea5443)はすかさず手を翳して叫ぶと、魔力が黒き重力の咆哮となって放出される。黒の穂先はオークの腹部を鈍器で殴られたかの様に大きな痣を作り、吹き飛ばした。どうやら気絶したらしく、口から泡が吐き出している。せめてもの情けか、彼は気絶している最中、ダガーで首筋を掻っ切って命を絶つ。
自らを死に追いやる存在が突然出現した事にオークたちは、逃走を図る。
「ギュー君お〜いで〜♪」
女性が東洋独特の印を作り、呪文を唱えると、突如白煙が音を立てて発生する。白煙はすぐに空へと昇り、霧散した。すると、先ほどまで其処には存在していなかった者が鎮座している。彼は出現と同時にオークの退路を塞いでおり、同時に一体のオークを昏倒させていた。
東洋の忍者が使用する忍術、《大ガマの術》だ。彼女は大ガマ――ギュスターヴの頭に飛び移り、得物である忍者刀とホイップを手にして言い放った。
「夜駆守護兵団《華麗なる夢追い人》にして《鴉》の業を背負う者‥‥又の名を夜 黒妖(ea0351)‥‥参る!」
女忍者――黒妖が名乗りを上げると、更に続けた。
「俺は、ゴブリンもオークもオーガも差別しない‥‥。全て‥‥平等に価値が無いからだ!」
死刑宣告とも取れる言を無慈悲に告げ、近くに立つオークへと飛んだ。空中に於いてホイップで得物を絡み取り、更には手裏剣を素早く投擲する様は、忍者ならではの芸当だろう。高速で放たれた鉄の刃は見事オークの眼球に突き刺さり、視界を閉ざした。其の隙に黒妖は近くに着地し、刃を振って脂肪が溜まり切って弛み切っている腹部を薙ぐ。口腔からは悲鳴、腹腔からは血液を大量に吐き出す。其れに味を占めた黒妖は、赤く濡れた刃を更に赤くしようと切っ先を突き立てる。
「あはははは! ほら‥もっともっと豚らしく悲鳴を上げろ!」
得物と視覚を失って身動きの取れなくなったオークに、黒妖は悪魔の如き残忍な笑みを浮かべながら、鈍く光る切っ先を目や口などに何度も突き刺し、嬲った。昏倒しているオークも同様の運命を辿らせる彼女に、見ている此方が寒気が走る。
彼女の凶行に完全に恐れを為したのか、残ったオークはやはり逃げる事しか頭にないらしい。同族の事など構う事無く。だが、彼等は逃れる事は出来ない。罪には罰を与えられるのが常なのだから。
赤き吟遊詩人――マリアステラ・ストラボン(ea4607)が竪琴ではなく、自らの美声で魔法の詠唱を紡ぎ、一体のオークを夢の世界へと誘う。決して覚める事のない夢の世界へ。
其の道案内を努めるのは、鉄槌を手にした男だ。
「豚は黙って、死ね!」
自らの背丈と同等の巨大さを誇るラージハンマーをトール・ウッド(ea1919)は高々と持ち上げ、鉄槌を振り下ろした。神の裁きとも取れる其れは、眠りに付くオークの頭頂に直撃する。トールの膂力とハンマーが持つ重量が凄まじい衝撃と圧力を生み、鉄槌と硬い地面に挟まれたオークの頭部は厭な音を立てて完全に潰された。赤黒い大輪の花を咲かせて。
彼のすぐ横では、神の戦士が裁きを与えようとしていた。
「死者すら縛る、呪縛の楔を!」
スケル・ハティ(ea3305)が神の力による束縛――《コアギュレイト》がオークの肉体から自由を奪い、逃走を阻止する。凍り付いた様に微動だにしない身体を必死に動かそうとするオークだが、神経と共に断ち切られた意識が其れを完全に不可能のものにした。スケルが放った斬撃はオークの首と胴を断ち斬り、血に沈める。
「グロテスクな事になってるねぇ。‥‥《ウインドスラッシュ》」
彼等の血腥い戦闘を傍観するやる気が全くない魔法使い、アルビカンス・アーエール(ea5415)は徐に詠唱を始め、風の刃を生み出した。不可視の鋭利な刃は最後の一体の醜い身体を切り裂き、命を刈り取る。
殺戮は、終幕を迎えた。
「皆、怪我は無い〜? ウリ〜大丈夫〜? 囮怖かった〜」
全員の安否を気遣うガブリエルだが、かなりワザとらしい演技をしてウリエルの胸へと飛び込む。やはり、其れが本命らしい。ウリエルは何時も通り良く言えば涼しい、悪く言えば無感の表情で彼女を受け止めた。
「怪我人も居ない事だし、行きますか」
オークの返り血ですっかり血塗れになった黒妖が言うと、冒険者たちは頷いて幌馬車に乗り込み、馬を進ませる。
本来ならばギルドに戻って報酬を受け取るのだが、幌馬車の進路はパリとは逆方向だ。
「おい、何処へ行く気だ!」
彼等の行く手を遮ったのは、後方から放たれた声だった。
冒険者たちは声が発せられた方向へ目を向けると、馬に乗って此方へと向かってくるギルド員の姿が飛び込んできた。どうやら、念の為に監査をしていたらしい。
彼の登場に些か驚いた冒険者たちであるが、
「何処って、オークの巣」
と、冷静にギルド員の詰問に答える。其れを聴いたギルド員は、疑問符を頭の上で発生させ、再び訊ねた。
「そんな事、依頼書に提示した覚えはないぞ。何でそんな事をする?」
「自己判断」
再び同時に発せられた冒険者たちの言葉を聞いたギルド員は、嘆く様な呆れる様な溜め息をついた。
「言っておくが、オークにも其れ相応の実力を持った奴が居る。そいつは今のお前たちより遥かに戦闘能力が高く、悪知恵も働く連中だ。そんな連中がわんさか居るところにたった九人で行ったところで、返り討ちに遭うだけだぞ」
冒険者たちの行動を抑止する為、多少言葉を厳しくして忠告する。前途有望な彼等の命を無残に散らせる訳にはいかないのだ。様々な理由で。
「悪い事は言わん、考え直せ。機会が在れば依頼として出すから」
彼の説得に考えを改めたのか、冒険者たちは。マリアステラはゲルマン語が理解できない為、トールに翻訳してもらって漸く理解した。
しかし――
「じゃあ、是等を買い取ってくれ」
冒険者たちは只の肉塊と化しているオークから得物を取り上げた、剣や手斧などを差し出す。其れを見たギルド員は露骨に厭な顔をして数秒間黙して考慮する。そして答えは、
「‥‥判った、買い取ってやる」
冒険者の熱烈な要求に、渋々ながら応えるギルド員。承諾を得た歓喜の声を上げた。
「最近の冒険者はがめつい連中ばかりだ‥‥」
と、ぶつぶつ愚痴を漏らしながらオークたちの遺品を受け取った。
オークたちも、さぞかし無念だろう。自業自得だが。