荒地の魔犬

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月04日〜03月09日

リプレイ公開日:2005年03月12日

●オープニング

 夕闇迫る荒地を、身をかがめ目立たぬように歩く、小柄な姿がある。
 女は、立ち枯れた葦の中に立てられた、粗末な小屋に近づくと中へ声をかけた。
「あたしだ! いるのかい?」
 辛うじて雨風を防げる程度の、隙間だらけの小屋の中から髭だらけの男が顔をだす。
「見られなかっただろうな?」
「もちろんだよ、ふふふ‥‥ なんだ似合ってるじゃないか その格好‥‥」
「よしてくれ!」
 2人はあたりを見回した後、小屋へ入った。
「あの黒いのはどうしたの?」
「散歩だろ」
「物騒ねぇ」
「で、わかったのか? 屋敷の様子は」
「ええ、7日後に主人がやってくるのよ、その日の晩が狙い目ね!」
「そうか、いよいよだな」
 この2人組は何者であろうか?
 太陽は地平に消え、急に気温が下がってくる、どこかで犬の不気味な遠吠えが聞こえた‥‥。

 朝、ここは冒険者ギルド、その日一番の客は、なんと2人の子供であった。
「そこのお嬢さん!」
「は? はい? 私ですか?」
 10歳に成るかならないかの少年に、いきなりお嬢さん呼ばわりされてしまって戸惑う受付。
「そうです! ギルドはもう始まってますか?」
「はい‥‥ もしかして、ご依頼ですか?」
「はい、僕はフランク、こっちは友人のベンジャミン君です」
 ベンジャミン君と呼ばれた同じくらいの年の少年が、礼儀正しくお辞儀をする。
 ベンジャミンは普通の町の少年風の服装をしているのだが、フランクのほうはかなり上等な服を着ている、どうも良家の子息らしい。
 ただし、二人とも泥だらけで、ひざには穴が開いており、フランクもベンジャミン同様に町のやんちゃ坊主の遊びを堪能しているようだ。

「依頼と言うのは、ベンジャミン君の家で飼っている番犬ウイルヘルムの決闘の助太刀をしてくれる冒険者を探しているんです」
「犬の喧嘩の助太刀ですか? いますかねぇ‥‥ よほど物好きでないと‥‥」
 受付が困った顔をすると、フランクは嘆かわしそうな顔をして
「決闘です! この決闘には名誉と義の心がかかっているんです! きっとわかってくれる人がいます! 僕は信じています!」
 フランクの話はこうだ。
 一月ほど前から、どういうわけか近くの荒地に黒い大きな犬が住み着いた、彼らはそれを魔犬と呼んでいる。
 魔犬には手下が大勢いて、いつも集まっては悪さをしている。
 ベンジャミンの家の番犬、ウイルヘルムとアーサーは、忠実無二の賢い番犬で、彼らの家と馬屋を守ってきたのだが、魔犬達は狙ったようにベンジャミンの家に悪さをしにやってくる。
「3日前、アーサーが大怪我をしたんだ、やつら集団で闇討ちにしたんだよ」
 耳を食いちぎられ、前足も折れて重症なのだそうだ。
 それ以来、ウイルヘルムの目つきが変わった、毎日門の柱を相手に、噛み付く訓練をしたり、尻尾を噛み付かれないように身を交わす特訓を続けているのだそうだ。
「ウイルヘルムの気持ちが俺にはわかります! 仲のいい兄弟犬なんです! でも‥‥ 相手は集団だし、魔犬には人間の仲間までいるんです!」
 ベンジャミンは下唇を噛締めて涙声になる。
「僕も、友達としてほおってはおけません!」
 フランクはベンジャミンの手を握る。
「名誉と義‥‥ ですか、まあそこまで言われるのでしたら募集してみましょう」
「ありがとうございます! やっぱりわかってもらえたね! ベンジャミン君」
「うん!」
 ちょうどそこに、もう一人の来訪者が現れた、今度は14〜15才の少女だ。
「すいません〜 こちらに10才くらいの男の子が2人、お邪魔してませんか? あ‥‥」
 2人組が目に留まったらしく、そばに足早にやってくる。
「あーいた! フランク坊ちゃん! だめじゃないですか! 勝手にこんな所までいらしては!」
 どうやら、この2人を探しにきたようだ。
「今朝は、ウイルヘルムまで様子がおかしくなって大変だったんですよ」
「え! 何があったの?」
 ベンジャミンが驚いて詰め寄る。
「吐いたのよ、何度も何度も、大変だったんだからぁ」
「毒だ! きっと毒だよ! あの魔犬の仲間の男がやったんだ」
「毒とは穏やかではないですね?」
 受付も話の成り行きに心配になり口をだした。
「ああ、いえ、そんな大げさなことではないと思うんです。でも最近、近くの荒地に浮浪者が住み着いたり、馬小屋の鍵が壊れたりしてちょっと怖いのは本当です」
「もし困ったことがありましたら、相談に乗りますよ」
「はい、でも大丈夫だと思います。あ、私ドリーといいます! こっちが弟のベンジャミンで、こちらは私たち一家がお使えしているスタン家の坊ちゃんです」
 3人は仲よさそうにしている、使用人の子と主人の子供という感じはあまりしない。
 この様子では、主人のスタン氏は、息子の遊び相手選びに干渉するほど野暮ではないようだ。
「私たち一家は、スタン様のお屋敷、冬の別荘ですけど、そこで馬番をしているんです。 今年はお嬢様の馬でアードウイックという美しい馬をお預かりしていて大忙し。綺麗なんですよアードウイックは、体は真っ白で、足の先にだけ灰色の模様があるんです! なんでも金貨200枚もしたそうなんですよ!」
「お姉ちゃん! 駄目だよそんなことしゃべっちゃ」
 ドリーはしまったという顔になり、舌を出した、もともとおしゃべりな性格なのだろう。
「でも、もうじきお嬢様がお帰りになって、本宅へお連れになるんです、ちょっと淋しいなぁ‥‥」
 淋しいとは言っているが、ドリーの表情はいたって明るい。
「何か楽しみにしている事があるようですね?」
「あ、わかります? そうなんです! だんな様がお戻りになった日は、決まって使用人に夕食が振舞われるんです! あといろいろプレゼントがもらえたり‥‥」
 少女は羽織っているショールを広げて見せる。
「これ、昨年いただいた物なんです! お嬢様の古着なんですよー、とっても暖かいんです」
「お酒もでるんだろ、また父さん酔っ払って泊まりだね」
 三人は結局、他のお客が来るまで、受付と話を楽しんだ。
「フランクさん! もう戻りましょう、今から帰れば昼食には間に合いますよ」
「うん、そうだね じゃあお嬢さん、よろしくお願いしますよ」
 どうも、一番しっかりとしているのはベンジャミンらしく‥‥ おしゃべりに夢中になっているドリーと、大物だがおっとりとしたフランクを引き連れて朝日の中へ帰っていった。
 受付は、子供たちから預かったお金をしまいながら、番犬ウイルヘルムが魔犬に勝ってくれれば良いな‥‥ と、思った。

●今回の参加者

 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9142 マリー・ミション(22歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0932 ラズウェート・ダズエル(41歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb1052 宮崎 桜花(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1186 ラグナス・ランバート(25歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1205 ルナ・ティルー(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1229 リオス・ライクトール(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 月のない夜空、暗がりの中で声がする。
「どうしてばれたんだ!」
「知らないよー、ともかく連中が屋敷にきちゃったのよ!」
 女と男が荒地の小屋の中で話をしている。
「しばらく隠れてたほうがよくない?」
「そうだな‥‥当日まで隠れているか」
 男は荷物をまとめると、夜明け前の闇の中へと姿を消した。

「なんでしょう? あれ」
 宮崎 桜花(eb1052)は怪しい小屋を発見し指差した。
 ラグナス・ランバート(eb1186)と桜花は、午前中の割り当てられた警備の当番が終わったあとも2人で組んで、広大な荒地を探索していた。
 小屋には人の気配はない‥‥二人は思い切って中へ入ってみることにした。
「もぬけの殻ですね」
「ああ」
 つい最近まで誰かが住んでいた形跡がある。
「話にあった奴かしら」
「うむ」
 しかし、手がかりになりそうな物は残されていない‥‥。
「おや?」
 先に外へ出たラグナスがしゃがみ込む、地面に落ちているものを調べ始めた。
「どうしました?」
「糞だよ」
「本当だ‥‥魔犬の?」
「うん‥‥これは大収穫だな」
 流石はレンジャーである、目の付け所が違う。
 二人は、糞を回収すると仲間の元へと向かった。

 冒険者たちの予定はかなり狂ってきていた。
 彼らがやって来た日から、忽然と魔犬の姿が消えてしまったのだ。
 荒地の小屋に住んでいた男も同様だ‥‥いくら動物の勘が鋭いといってもタイミングがよすぎである。
「内通者がいる! まちがいない! 探そうぜー」
 カエン・ヴィールス(ea1727)が番犬ウイルヘルムを相手に特訓の真っ最中のリオス・ライクトール(eb1229)に話しかけた。
「よし! もう一度だ! こんどは木刀ではなくてロングソードを使う! よけてみろ!」
 ウイルヘルムは唸り声を上げると、リオスに立ち向かう。もともと優秀な番犬なのだから、リオスも手加減はできない。
「いいぞ! その調子だ! もう一回!」
 この特訓をベンジャミン少年と、昨日帰ってきたフランク坊ちゃんが瞬きもしないで見つめている。
「もう一回!」
「ま、頑張ってくれ、俺は屋敷の様子を見てくるぜ」
 リオスも子供たちも、特訓に夢中になっている。カエンは仕方なく、屋敷へ一人で向かった。
 
「大丈夫だよー! こんなの軽いよー」
 ルナ・ティルー(eb1205)は、情報収集中‥‥である。
 先ほどから、屋敷の炊事場で使用人達と一緒に仕事をしている、今は水汲みだ。
「助かるわー ルナちゃん!」
 炊事のおばちゃんと、すっかり打ち解けてしまったルナ。
「でー さっきの話なんだけど」
「怪しい奴の話ね」
 炊事のおばちゃんは情報通‥‥館の情報の宝庫である!
「怪しいといえば! 庭番のジョンとメイドのミリーね! あれは怪しい! 絶対夜中会ってるわね」
 しかし‥‥残念な事に、専門は不倫と熱愛情報であった。
 
「大丈夫ね」
 マリー・ミション(ea9142)は犬の餌の匂いをかいだ後、念のため浄化をかけておく。
「完璧に安心できるとは言えないけれど‥‥こんなことしか出来なくてごめんね」
「ご苦労じゃのう」
 そこにマッカー・モーカリー(ea9481)が通りかかり、声をかけた。
 二人は傍らで淋しそうにしている重症の番犬アーサーの様子も見る。
「可哀想に‥‥この傷は完全には治らないでしょうね」
「そうじゃな、なんとかしてやらねばな」

「魔犬の糞とな!」
 ラズウェート・ダズエル(eb0932)は、戻ってきたラグナスと桜花が持ち帰った、魔犬の形跡に興味を示した。
「よーしよし! 私が、珍獣学の見地から考察してしんぜよう!」
 どうやら彼の学者肌の食指が敏感に反応したようだ。
 マリーと別れたマッカーも合流し、活発な討論会となる。
「小動物の骨か! 肉食で、アゴの力が強力! 骨ごと丸呑みか!」
「これは、牛の筋じゃな? 牛の骨はないから、これは誰かに切り身をもらったのかのう?」
「消えた男か‥‥」
 集まった4人は、これらの情報を元に、魔犬の正体に迫る!
「体重は100〜110kg! 牙は短剣のようだ!」
「まさに魔犬じゃな」
「うん‥‥しかし、サイズは異常だが」
 桜花が全員の意見をまとめる。
「大きいけど、たしかに普通の犬ですね」

 翌朝。
「ご飯なんだよー」
 犬に餌を与えている者を監視する‥‥予定が、犬のご飯係りになってしまったルナが、朝食を運んできた。
 しかし、小屋にはアーサーしかいない‥‥と、目を真っ赤したウイルヘルムがふらふらと帰ってきた。
「徹夜で特訓!? ふらふらなんだよー!」
 ウイルヘルムはルナの膝の上に倒れこむと、疲れ果てたのか、そのまま寝てしまった。
「あの‥‥僕はまだお仕事が‥‥うー」
 犬の安らかな寝顔、おこすのは可哀想である‥‥しかし、この大型犬は50kgもあるのであった。

「くそー 何でこんなに使用人が多いんだ!」
 カエンは独り言をいいながら馬小屋の前を通りかかった。
 すると、マリーと出くわす。
「よー! おはよう!」
「お早うございます‥‥」
 マリーは、距離をとり、横歩きでカエンとすれ違った‥‥警戒されている!
 どこからか噂になったのか、彼の女性への独特の挨拶の話が広がってしまっているようだ。
「やりにくいぜ」
 と‥‥馬小屋の窓から中を覗き込んでいる女性がいる‥‥。豊満な胸元といい腰つきといいグラマラスで魅惑的だ!
「おお!」
 カエンはすかさず俊敏な、そして慣れた手つきでスキンシップだ!
「ちくしょう! 何しやがる!」
 予想したものとまったく違う反応である!
 メイド姿の女性は、身を鮮やかに翻すと、隠し持っていた短刀を引き抜いて身構えた!
「な‥‥なんだおまえ!」
「あ! しまった!」
 この女は、屋敷のメイドの一人だ、普段は言葉遣いも丁寧でまったく疑われていなかったのだが‥‥。
「馬脚を現しやがったな!」
 騒ぎを聞きつけて、マリーが、そして警戒中だったラズウェールとリオスが駆けつけ、御用となった。

 すぐさま、全員が集められた。
 女は、本名をルイーズといい、もともとは辻強盗の一味にいたのだが、上品そうな容姿を買われて、今回は内通者として屋敷に入り込んでいたのだった。
 観念したルイーズは、魔犬の居場所をあっさりと白状した。
「うむ、カエン殿の悪癖も役に立つこともあるんじゃな」
「悪癖じゃない、スキンシップだ!」

 魔犬の居場所は、荒地の反対側にある洞窟である。
 途中、野宿の後を見つけたが、焚き火の後は冷え切っている。ラズウェートは舌打ちした。
「諸君! 私は思う所あって馬小屋へと戻る。ウイルヘルムを頼むぞ!」

 洞窟の周りは林になっていて、そこには手下の野良犬たちがたむろしていた。
「尋常な一騎打ちに手出しは無用ですっ! 散りなさい、取り巻き共っ!」
 桜花は、わざと目だって手下の野良犬たちを洞窟から巧みにおびき出していく。
 残りは魔犬だけである‥‥。
 ウイルヘルムが、洞窟の正面に立つと、中から強烈な殺気が放たれた! ‥‥そして、まるで漆黒の闇が、いま新たに形をえたように、暗闇の中から魔犬が現れた。
「いけ! ウイルヘルム!」
 フランクが叫ぶと、ベンジャミンは手綱を外した。
 ウイルヘルムは弾けるように、魔犬へと飛び掛っていく! 両雄の対決が今始まったのだ!

 番犬が出払った馬小屋の鍵は壊れたままである。足音を忍ばせて、馬泥棒は中へと入ってきた。
「はぁ‥‥ 私でもウットリしてしまうわ。 なんて綺麗なんでしょう」
 人の声に、一瞬驚いたが、無用心にも一人マリーが馬の背中をなでているだけだ。
 アークウィッドに見とれているらしく、こちらに気がついた様子はない。
 泥棒は、自分のマフラーを取ると、マリーの後ろに回りこむ‥‥絞め殺すつもりだ‥‥。
「迂闊であったな! 泥棒君!」
 突然! 干しわらの山の陰から白いローブを翻し、男が魔法のように現れた! ラズウェートだ!
 マリーも振り向き、馬泥棒を睨みつける。
「アークウィッドは渡しません。 大怪我したくなかったら去りなさい。 まったくぅ」
「くそ!」
 泥棒は、出口にむかって走り出そうとしたが、目の前の柱に、矢が突き立った!
 あたりを見回したが射手の姿はない‥‥ 馬小屋の中の無数にある暗がりの中に溶け込んでいるのだろう。
「次は心臓を狙う‥‥」
 小さな押し殺したラグナスの声が響く。
 泥棒はナイフを抜くと身構えた‥‥が、その行為をラズウェートは鼻で笑った。
「馬に蹴られて地獄に落ちろとはよく言うが‥‥ 君はまだ死ぬのは早いと思うがな!? 降伏したまえ! それとも私の無慈悲にして超絶的な魔法の餌食になるかね?!」
 泥棒は、ナイフを地面にたたき付けると降伏した。

 その夜、スタン卿が屋敷へとやってきた。
「父上! 見事、このウイルヘルムは、弟アーサーの敵を討って魔犬をやっつけましたよ」
 包帯でミイラのようになった番犬の手柄を誇らしげに父親に報告するフランク。
 会食の中、馬泥棒の話を聞いて、この屋の主人は、冒険者一同の前にやってくる。
「すばらしい活躍であったな! どうだ、この屋敷の専属の用心棒にならぬか?」
 マッカーが代表してうやうやしく礼をすると、答えた。
「スタン卿、興味深いお誘いですな、では月々20金貨いただこうかの、どうじゃな?」
「なんと!」
 驚きの表情の貴族に、マッカーはしたり顔で話して聞かせた。
「安全は安くないのじゃよ、あの美しい馬を守りたいなら、番犬をもっと大切にすべきじゃな。 アーサーとウイルヘルムは立派に馬を守れるが、20金貨も請求はせんじゃろ?」