【怪盗と花嫁】怪盗と放蕩息子

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月11日〜03月16日

リプレイ公開日:2005年03月19日

●オープニング

 その派手な身なりの男が、ギルドに姿を現したのは、昼を少し回ったことであった。

「やあ、こんにちわ」
 受付はこの顔に見覚えがあった、最低でも数回見た顔である。
 だれだったろう? しかし、どうも良い印象は湧いてこない。
「僕、覚えていない? いやだなぁ、この前、依頼を断られた‥‥」
「あっ ああ‥‥ はい、思い出しました」
 一週間ほど前に、父親が外国から取り寄せた極上の酒を、倉庫の床にこぼしてしまったので何とかしてほしい‥‥という依頼を持って来た男である。
 それまでにも、割れた壷の修復や、親を騙して遊ぶ金を絞る手伝いなど、とかく冒険者の仕事とは考えられない依頼を持ってくるのだ。
 家は大きな商家で、なに不自由しないで育ったボンボンである。
 確か名前は、アルマンゾだ。
「で、今度はどんなご依頼ですか?」
「ああ、うん、そう、依頼なんだよ」
 アルマンゾはにこやかに答えたが、なにやら落ち着きがない。
「どうかしました?」
 受付の問いに、アルマンゾは真剣なまなざしになる。
「君‥‥いいかい、驚いちゃいけないよ。 僕はね、どうやら命を狙われているんだよ」
 こそこそと小声でそういうと、また落ち着きなく背後を気にしている。
 少々滑稽なのだが、笑わぬように努力して、受付はやはり小声で聞き返した。
「だれにです? だれに命を狙われているのですか?」
「うん、それが、困ったことに大物なんだ。 今度ばかりは僕も驚いたね」
「はぁ それで?」
「相手は、あの‥‥怪盗マスカレードさ」
「はぁ?」
 受付は、相手の顔をじっと見てみる、締りのない、実に頼りない顔だが‥‥ 一応、酔っ払ってはいないように見える。
 アルマンゾは、相変わらず周囲を気にしながら、小声で話し続ける。
 彼の話によれば、事の発端は数年前にまでさかのぼるそうだ。
「マント領のクラリッサ嬢を知っているかい? 美しい人なんだ、以前ある所の舞踏会で二人は出会ったんだ!」
 二人は出会ったんだ! と‥‥ アルマンゾは言っているが、詳しく聞くと100人はいる来客の一人で、遠くから見ただけらしい。
 目が合って見詰め合ったらしいが、それもどうだか‥‥。
 しかし、彼はそれで一目ぼれしてしまい、今までずっと恋焦がれていたのだ。
「あの金髪に映える青い瞳! 豊満で魅惑的な物腰‥‥ おしとやかな立ち振る舞い! あれこそ高貴なる姫君の姿だ! ああ! 会いたい!」
「アルマンゾさん? 私の聞いたクラリッサ嬢の特徴とまったく違うんですけど‥‥」
「なんだって? ギルドの情報力もたいしたことないんだなぁ」
「うーん、人違いじゃないですか?」
 受付の話など耳に入らないアルマンゾは、心の姫君への賞賛と賛美を続ける。
 これが普通の町娘だったら、とっくに家へ乗り込んでいるのだが、彼にも僅かばかりは常識と言うものがあったらしく、高貴すぎる相手と半ばあきらめていたのだ。
 ところが、そんなある日、今回の結婚話が耳に飛び込んできた。
「こう‥‥他人に盗られるとわかると、どうしても諦め切れなくてね、手紙を出したんだよ」
 手紙には、いかに自分がクラリッサ嬢にふさわしいかと、自分がどれだけ愛しているか、そして結婚などやめて地の果てまで二人で逃げよう! といった内容を書いたらしい。
「返事はあったんですか?」
「無かった‥‥ でも、それいらい誰かにつけられているんだ」
 最初は彼も気のせいかと思っていたのだが、彼の身辺を調べまわっている者がいたり、街中の雑踏で馬車の前に突き飛ばされたりと、そんなことが続き彼も危険を感じるようになったという。
「怪盗マスカレードがクラリッサ嬢の婚儀で花嫁を奪うって予告状を出したそうじゃないか! そこで僕はピーンときたね」
 彼は、すぐに理解? した‥‥ つまり、怪盗もクラリッサ嬢を好いているのだ! そして彼と同様、今回の婚儀を認められず、予告状を出したに違いない!
「つまり、僕は彼のライバルというわけだよ! 断然僕は決心したね! 奴には負けられない!」
 アルマンゾは、直にクラリッサ嬢に会って、今の結婚を取りやめるように説得し、怪盗マスカレードを出し抜いて彼女を幸せにしてやろうと決心したのだ!
「それが出来るのは世界広しといえ、僕だけなんだ!」
 陶酔しきった瞳で、一連の演説を終えたアルマンゾは、しばらく余韻に酔っている。
「うーん、きっと勘違いですよ」
「なんだ君! 失敬だなぁ 僕が奴より小物だとでもいいたいのか?」
「いや、でも、にわかには信じられない話ですから‥‥」
「うん、まあ、いいだろう‥‥ ともかく腕利きを集めてくれ! 相手は一流だ! こっちも超一流で迎え撃とう!」
 彼は懐から小さな皮袋を出すとカウンターの上に投げ出した。
 拾い上げ中身を確かめる受付。
「‥‥超一流を集めてほしいと言われましたが、その報酬がこれっぽっちですか?」
「うー‥‥うん それがね、昨日父にこの話をして、金を無心したのだが、危うく勘当されそうになってね、慌てて逃げ出してきたのだよ」
 アルマンゾの計画では、マント領に出向いて城に潜入し、クラリッサ嬢の部屋を探し出し、彼女を説得して自分との結婚を承諾させようという大胆なものだ。
「お金も最低ぎりぎりですが、いただきましたし、超一流の冒険者が集まるかはお約束できませんが、一応募集はしてみましょう」
「いやぁ ありがとう! そう言ってくれると思っていたよ! あはは! じゃ、頼んだよ! さあ、僕も旅支度しなくっちゃ!」
 アルマンゾは、もうすべては解決した! という勢いで帰っていった。

「あの放蕩息子さんにも困ったものねぇ」
 しかし受付は、ふと思う、もし本当に怪盗マスカレードが関係していたら、事は重大だ、無視できないことである。
 マスカレードの情報は少ない、普通に調査したのでは今までのように暗中模索なのだ。
「意外な盲点かもしれないわね‥‥ まあ、まさかとは思うけど」
 カウンターに別の客がやってきた。
 受付はすぐにアルマンゾの事など忘れて応対に向かった。

●今回の参加者

 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0896 ビター・トウェイン(25歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1052 宮崎 桜花(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1107 ユノーナ・ジョケル(29歳・♂・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 eb1205 ルナ・ティルー(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1361 ブリジット・ベルナール(26歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 マント領までの道は、天候にも恵まれて暖かい日が続いた。
 旅は実にのんびりしたもので、アルマンゾが父の店の名前で宿をとってくれるので、野宿しないですんだし、ちょっとおだてるとすぐにおごってくれるので、食費もかからない。
「切られると痛いんだぜ! 止血できないと、桶一杯くらいはすぐに血が出るしよ」
 カエン・ヴィールス(ea1727)が、さっそく脅しにかかっている。
 アルマンゾに戦闘の怖さをいろいろ吹き込んで、早めに諦めさせようという作戦だ。
「マッカーさん、やはりつけられてますよ」
「うむ」
 ユノーナ・ジョケル(eb1107)は最後尾のマッカー・モーカリー(ea9481)に小声で話しかける。
 すでに3時間はつけられている。それも空からのユノーナが、やっと気づくほどの巧妙さだ。
 そのへんのゴロツキや、追いはぎの類ではない‥‥ かなり熟達したプロだ!
「なーなー骨の折れる音って知ってるか?」
「勘弁してくれよー! なんか吐き気してきた」
 アルマンゾはカエンの話に脅えて、逃げ回っている。
 と、マント領との境界線にやってきたようだ。衛兵らしいのが検問をしている。
「マント領にようこそ! ご旅行かな?」
 衛兵の対応は、上流階級の旅行先として有名な場所だけあって丁寧で好感が持てる。
「ご苦労様ですね お城に用事があるのです」
 ビター・トウェイン(eb0896)は衛兵とにこやかに応対する。
 そして他愛のない世間話をしてた。
 別れ際にブリジット・ベルナール(eb1361)が後ろを指差して言う。
「僕達を、怪しい男がつけて来てるんだよ」
「怪しい男! わかりました、ここを通るときに調べてみましょう」
 衛兵は、快く受けあってくれた。
 官憲も旅人に好意的とは、マント領はよいところなのかもしれない。

 少し進んだ所で引き返し、検問の見える木陰にそっと身を隠したマッカーと宮崎 桜花(eb1052)は、尾行者が現れるのを待った。
 10分ほどで、怪しい男が現れた。
 衛兵たちが取り囲む‥‥ が、そこに隊長らしい人物がやってくる。
 隊長は、衛兵たちを追っ払い、男と二人だけになると親しげに話しだした‥‥。
「あの隊長も仲間なのね‥‥」
 最後に、隊長は親切にも我々の進んだ道を指差している。
「官憲に顔が利く奴が黒幕らしいのう」

 日が傾き、夕闇が迫る。
 今日中に城に行くと言われずに済んで、皆にはありがたいことだ。
 ちょうどよいことに、宿らしい建物も見える。
「今晩のお泊りは、あそこで決まりなんだよー」
 ルナ・ティルー(eb1205)は可愛らしい作りが気に入ったのか、漆喰の二階家を指差した。 
 ところが、中に入ると、外から眺めた時と少々様子が違っていた。
 宿屋に入る‥‥ 主人がにこやかに応対し、他の客達も笑顔で挨拶してきた。
 まったくおかしな点はない! ごく普通の宿屋の夕食前のくつろいだ風景だ。
 しかし‥‥ 殺気に近い緊張感が全体を凍りつかせている‥‥ まるで見せしめ台の上の罪人になった気分だ! 複数の冷たい視線を感じる! しかし目を合わせる者はいない。
 これは気のせいか? 我々は監視されているのではないか?

 ブリジットは、暖炉の上に若い女性の肖像画を発見する。どうやらクラリッサその人のようだ。
「アルマンゾさん、あれがクラリッサ嬢ですか?」
 雇い主は、その絵を一瞥すると、大きく頭を振って否定する。
「本当に違うんですね?」
 桜花も確認すると、絵の額にはクラリッサ・ノイエンの名前がある‥‥ どうやら、アルマンゾの恋しい人は姫ではないようだ。

 部屋に荷物を置き、食堂で夕食を注文する。
「どんどん注文して! 全部おごりだ!」
 アルマンゾは、城まであと僅かとあって上機嫌だ!
 料理が運ばれ、皆が口に運ぼうとした時、ブリジットが小さな声で呟いた。
「まってください」
 スープを少しだけ舌に乗せる‥‥ ピクリと眉が僅かに動く、ブリジットは手で口を隠すと吐き出した。
「味が変です、毒だと思います」
 気のせいではなかったのだ、一同は食事を中断して部屋へと戻る。
 
 全員が一つの部屋に集まっている。
「さて、これからどうするかじゃ 敵は個人じゃないのう‥‥敵味方の区別もつかんわい」
 マッカーは、外には聞こえないように小さな声で言った。
 腕組みをして、考えをめぐらしていた桜花は、何気なく窓の外を見る。
 月の明るい夜‥‥ 通りには宿屋の影が横たわっている‥‥。
「!!」
 口の前に指を立てて、全員に目配せした桜花は、窓の外を見るように促した‥‥ 地面に映し出された影絵の宿屋の屋根には、数名の影が動いている。
 ブリジットはそれを見ると、そっと扉に耳をよせてみた‥‥ 廊下にも気配がある! それもかなりの数だ!
「囲まれてます」
「どうやら、生かして城まで行かせるつもりはないようだぜ」
 ソードを引き抜いたカエンは、なぜか楽しそうだ。
「明かりを!」
 ビターがランプの明かりを吹き消す。
 ここは二階だが、逃げ道は窓しかない! 一刻の猶予もない!
「飛びましょう!」
 ビターが叫ぶのと、扉が蹴破られるのは同時だ!
「アルマンゾさんを頼んだよー!」
 最初に入ってきた一人目を、回し蹴りでけり倒すと、ルナはテーブルをひっくり返し、水差し、毛布と手当たりしだい投げつける。
 このすきに、仲間は、窓から外へ飛び降りた。
「ルナさん! バトンタッチ!」
 次にしんがりを交代した、ユノーナは心得たもので、屋根の上の襲撃者の前へ飛び出すと、目障りに飛行して気を引く。

 下は柔らかい地面だった、怪我人はいないようだが、通りには新たな脅威が待っていた!
「通りぐるみの大歓迎だな! 楽しくなってきたぜ!」
 カエンが皮肉に笑う。
 町人風の格好をした者達が、ナイフを手に包囲を狭めてくる。
「あちらの通りへ! 手薄です!」
 上空から巧みに誘導するユノーナ、転げるように言われた通りへ逃げ込む一行、その後を襲撃者達が追う!
「あっちへ逃げたぞ! 殺すな! 生かして怪盗の居場所を吐かせるんだ!」
 群集を指揮している者がいる‥‥ 暗くてよくわからないが衛兵の姿も混じっているようだ。

 夜中中走り回り、街を抜け小川に出た。
 追跡者達はうまくまけただろうか?
「はぁはぁ 意外な展開ですね」
「うん。でも、そうでもないですよ 僕も一時は疑ってました」
 ビターとユノーナが、川の水で喉を潤しながら、息を整える。
「皆、勘違いしているのね」
「アルマンゾさんも姫様は勘違いだったし」
 桜花とブリジットも背後を気にしながら少し笑う。
 どうやら、アルマンゾは怪盗本人かその関係者と思われているようだ。
 ユノーナも同じ疑いをもち、出発前に彼の店で、両親に確かめていたのだ。
「しかし、追ってる連中、怪盗じゃないとすると何者なんだ?」
「この領地は怪しいのう 裏の顔があるのかも知れぬな」
 カエンとマッカーも背後を警戒しながら話しに加わる。
「こっちにもお水おくれよー アルマンゾさん白目むいちゃってるんだよー」
 冒険者ではないアルマンゾは、この強行軍ですっかり参ってしまい言葉もない。
 それをかいがいしく介抱しているルナ。

 昼ごろまで歩き通して、城の近くについた。
 しかし、城へ直行するのはためらわれる。敵の正体がわからない以上、官憲との接触も危険だ!
「まずは様子をみましょう」
 ビターは、一軒の雑貨屋に目をつけて、情報収集をすることにする。
 しかし、この行動が、さらに意外な展開を呼ぶのであった。
「あー!」
 店にはいると、アルマンゾが奇声を上げた。
 店内には、店員が一人、商品を棚に並べているところだ。
 金髪に映える青い瞳、豊満で魅惑的な物腰‥‥ おしとやかな立ち振る舞い。
「もしかして‥‥」
 桜花はアルマンゾを見る、アルマンゾの目は釘付けだ‥‥どうやら間違いなさそうである。
 彼女の名前はスーザン・トラバースといい、つい先日までお城でクラリッサ付の侍女の一人だったそうだ。
 もちろん、彼女はアルマンゾの事はまったく覚えていない‥‥ しかし、絶望的だった彼の恋の未来がかなり明るくなった事は間違いない!
「なぜ、お城勤めを辞めたのじゃ?」
「それが‥‥」
 マッカーの質問に、彼女は自分でも分からないと答えた、突然クラリッサ嬢のお付の者が、ほとんど入れ替えになったそうだ。
 城で何かが起きている事は間違いない。
「きな臭いぜ!」
 と、それとなくスーザンに接近するカエン。
 しかし、そこから遠ざけるように、ルナが手を引いてアルマンゾの隣へ連れて行った。
「アルマンゾさん、自分で話すんだよー」
「キザ過ぎるのは嫌われますよ」
「誠意です誠意!」
「頑張ってください」
 ブリジットとビター、そして桜花もエールを送りその場を離れた。

 さて、冒険者達は、危険な城への侵入をする必要がなくなったことに安堵していた。
 二人の未来がどうなるかはともかく、後は安全につれて帰るだけである。

 翌朝、まだ暗いうちに人目を避けて出発した。
 しかし、帰りはそれほど危険はないかもしれない。
 本物の怪盗が活躍しだせば、こちらにかまってる暇はないからである。
「くそー 仕損じたか‥‥」
「どうしました? 悩みなら相談にのりますよ」
 カエンがなにやら落ち込んでいる、ビターが悩める者に救いの手を差し伸べた。
「いや、あんたじゃ駄目なんだ、女じゃないとね、仲間同士のスキンシップは重要だぜ!」
 ビターが、声をかけたことを後悔したのは言うまでもない。