無骨者の手紙

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月29日〜04月03日

リプレイ公開日:2005年04月06日

●オープニング

 昼なお暗い、裏通りの怪しげな界隈を、みすぼらしい身なりの男が歩いている。
 一軒のうらびれた酒場に入ると、すでに席をとって酒を飲んでいる青年が声をかけた。
「見られなかっただろうな?」
「へい、坊ちゃま」
 青年はこの場にふさわしくない、こざっぱりした服装で、目鼻立ちの整った長身の美男子である。
「その呼び方はよせ! お前が僕の屋敷を追い出されてから10年もたってるんだぞ」
「へへへ そうでしたね で、何のようです?」
「いい儲け話だ! ところでベルフォールの屋敷の厩舎は警戒厳重か?」
「はあ? ええまあ、あっしを含めて3〜4人は夜も詰めてますが‥‥」
「そうか‥‥ そこでだ‥‥」
 貴族的な匂いのする青年は、男の目の前に金貨を取り出すと、左右にちらつかせた。

 
「すいません!」
 ギルドに14〜15才ほどの、その少女が現れたのは、昼後の昼下がりである。
「なにか御用でしょうか?」
「はい、お願いがありまして、参りました ‥‥ちょっと変わったお願いなのですが‥‥よろしいですか?」
 少女は服装こそ質素だが、どこか凛とした気品めいたものを感じさせた。
「どんな依頼ですか?」
「その‥‥ 恋文の代筆をお願いしたいのです!」
「‥‥恋文の、代筆?」
「はい‥‥」
 はいとは答えたものの、さすがに恥ずかしいと見え、ほほが赤くなり目を伏せた。
「うーん いろんな冒険者がいますからねぇ‥‥そういうのが得意な人もいるかもしれませんね」
「よかったぁ‥‥ 私は読み書きできないし困り果ててたのです」
 少女の名前はロレッタという。
 騎士オッタボーンの従者の娘で、今日はその騎士の弟子ユーリの用事なのだそうだ。
「つまり、その弟子さんの騎士見習いユーリさんの恋文の代筆ですね?」
「そうです! 代筆と言うより、一から全部作ってほしいんです」
 騎士オッタボーンの弟子は2人おり、二人はベルフォール家の次女ロバータ・ベルフォールを、同時に見初めた。
 もう一人の騎士見習いのドナルドは、なかなかの美男子で、ユーリは見栄えのしない無骨者である。
 周囲は、この勝負、ドナルドの圧勝と見ているようだ‥‥。
 ところが、ドナルドが意外な提案をしてきた。
「2人はちょうど、数日後にベルフォール家主催の馬上試合に出場するのですが、初戦で対戦する事になってるんです」
 ドナルドの提案とは、この試合で勝った方がロバータへ先に告白しようと言うものなのだ。
「試合会場には当然ロバータ様も観戦にいらっしゃっています。試合に勝利したほうが、その場で告白できるわけです」
「友にもチャンスをって‥‥ 騎士道精神というわけですね、良い方じゃないですかドナルドさん」
「はい‥‥ そうだと良いのですが‥‥」
 手紙は、その時手渡すものである。
 観衆の中、勝者とは言え、優勝したわけでもないので長々と話をするわけにはいかない、手短に話した後、手紙を手渡すのだ。
 ロバータは箱入り娘で、滅多に外出をしない。魅力的な手紙で興味を引かねば、それ以後あってもらえる保証も無い。
「ユーリ様は、お顔は怖いですけど、まじめでとっても心の優しい方なんです! 私は子供のころからお使えしてますから、良くわかります!」
 しかし、残念なことに彼には文才が無かった! そしてめっぽう話しべたである‥‥。
「わかりました、募集してみましょう」
「お願いします! それともう一つ‥‥ 気になる事があるんです」
 ドナルドは少々自信過剰のところがあるが、それにしても決着を馬上試合でつけようなどと言い出したこと事態おかしいと言うのだ。
 恋文は、経験豊富なドナルドにとってお手の物なのだが、馬術では師匠のオッタボーンを凌駕するとまで言われているユーリに到底かなうものではない。
 どんなにうまく恋文が書けていても、試合に負けてしまえば渡す機会がないのだから、ドナルドには不利なわけである。
「まさか毒は入れないと思いますが‥‥ 当日の食事に下剤を入れたり、武具を盗んだりくらいは、やりかねないと思うんです」
 ドナルドはユーリほど清廉潔白な人柄ではないらしい。 
 つまり、ドナルドはなにか企みがあって、今回の提案をしたのではないか? と言うことだ。
「護衛ですか?」
「はい 試合の前日まで、身辺でおかしな事が無いようにしてあげたいのです。馬と馬具は試合会場のベルフォール邸の厩舎に預けてしまうから大丈夫だと思うけど‥‥」
 手続きを済ませてロレッタはギルドを後にした。
 心から、心配そうな彼女の姿を見て、もし‥‥恋文を受け取るのがこのロレッタだったら‥‥ ユーリは自分の文才の無さを一生気にすることは無かっただろうにと、受付は思った。

●今回の参加者

 ea4263 ホメロス・フレキ(34歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea8574 常倉 平馬(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0896 ビター・トウェイン(25歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1205 ルナ・ティルー(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1229 リオス・ライクトール(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1321 シュゼット・ソレンジュ(23歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 試合前日、ここはベルフォール家の別宅、ユーリに用意された小屋の前、常倉 平馬(ea8574)とマッカー・モーカリー(ea9481)の姿がある。
「マッカー殿、良い文ができましたか? 私自身、無骨者なもので」
「いや、わしも同じじゃよ」
「どうでしょう、ロレッタ殿にお見せする前に、互いのを見せ合って批評しませぬか?」
「おお、そうじゃな」
 二人は手紙をだして、見せ合う。
 まずはマッカー作。
「拝啓 一目見た時から、貴方の事を忘れられませぬ。今度一緒に散策でもどうじゃろうかな?」
 そして平馬作だ。
「花の如く麗しき君へ 私の心を捧げます。もし、私を哀れと思うなら、貴方の心の片隅に想いを留めてくださいますよう‥‥」
 読んだ後、お互い渋い顔で見合う。
「お互い、硬いですなぁ」
「うむ‥‥ おや?」
 門の陰に何者かがいるのに2人は気づいた。
「リオス殿、どうしたのじゃ? そんなところで」
「手紙は書いたんだが、まだだれも来てないし ‥‥一番乗りするのは恥ずかしいだろう!」
 人影は、リオス・ライクトール(eb1229)だ、決まり悪そうに出てくる。
「一番乗りは、リオス殿じゃないよ」
 と声がして、更にもう一人生垣の陰から現れた、シュゼット・ソレンジュ(eb1321)だ。
「私も一応うら若き乙女のはずだが、乙女心がさっぱりわからん! 完成はしたけど‥‥ ロレッタ殿に相談しようと思って、暗いうちから来ていたのだ」
 そして、入りにくくてここで朝を迎えたのだ。
 皆、不慣れな手紙と悪戦苦闘したようだ、一様にやつれている。

 中ではロレッタが皆がの来るのを待っていた。
 挨拶の後、各人の手紙を吟味する。
「親愛なるロバータ嬢。この勝利は貴女に捧げよう。私は騎士として生涯の愛を貴女に誓う」
 シュゼット作。
「清潔で騎士らしい文ですね」
 最後になったのがリオスの手紙だ。
 恐ろしく短い。
「お前が好きだ。俺に一生ついて来い!」
 リオス作。
「ウフフ、私がもらうならこれが一番かな」
「だろ! やっぱりシンプルだよな」
 手紙を渡し終えて、皆が安堵していると、どこからか声が聞こえてくる。
「親愛なるロバータ・ベルフォール様 私は貴女の事を愛している‥‥」
 扉が開き、赤毛の見た事のない騎士が入ってきた。
「私は不器用だが力はそれなりにあると思う。 だから、私に出来ない事は貴方が、貴方に出来ない事を私が‥‥そうやってこれから共に生きていかないか?」
 芝居めいたポーズを決め、夢見るような瞳で朗読を終える。
「だれだ こいつ?」
 リオスは騎士に詰め寄る。
 騎士はクリクリとした青い目で、悪戯っぽく笑っている。
「あー! お前ルナだろ!」
「なんでわかったの! ユーリさんに完璧に変装したのに、なぜなんだよー!」
「ユーリに変装? おまえ実物見たか? あれは熊か牛だぞ!」
「でもでも同じ赤毛だし! 鎧だって借りてきたんだよー」
 騎士はルナ・ティルー(eb1205)の変装であった。

「おほん! 失礼」
 いつの間にか、また戸が開いていてビター・トウェイン(eb0896)が入ってきた。
 しかし、どこか様子がおかしい。
「手紙‥‥ 書きました」
「はい」
 異常なまでに真剣なまなざしに、ロレッタも姿勢を正す。
 と、ビターは懐から手紙を出し、音読しだした‥‥。
「あ‥‥ 貴方は僕に出会った時のことを覚えていらっしゃいますでしょうか? 僕は、今でも鮮明に覚えています。 たった一瞬の出来事。たわいのない日常の一コマ。 でも僕にとってそれは世界が変わった瞬間でした。 それは、貴方というすばらしい女性に出会えたからです。 今ここに僕の思いを打ち明けることをお許しください。 す‥‥ す‥‥ す‥‥ 好きです」
 真っ赤になり、大粒の汗を額ににじませ、震える手で手紙を持ながら、ビターは最後の言葉を搾り出した‥‥ そして‥‥ ばたり!
「ビター殿!」

 夜になり、一同は、ユーリの身辺や厩舎を見張るため出かけていった。
 それに入れ替わるようにホメロス・フレキ(ea4263)がやってくる。
「あ、ホメロスさん 手紙はできましたか?」
「出来ましたよ、キミのために書きました 一所懸命にね ‥‥フフフ」
 ホメロスはロレッタの横に座ると、優しくささやくように手紙の文面を読み上げる。
「私‥‥ユーリは‥‥ロバータさん‥‥貴方が好きです‥‥」
「ス、ストレートなんですね」
「ストレートが一番‥‥ おや、キミの唇は可愛いね」
 ホメロスはロレッタの手を握り、瞳を覗き込む。
 ロレッタは猛獣の前の小動物のようだ、あらがうこともできない。
「あ‥‥」
「大丈夫、俺に任せて‥‥」
 ホメロスにとって、うぶなロレッタなど食事の前の軽い飲み物のようなものだ。 物足りなさを感じた瞬間、扉の開く音がした。
「手紙ー! あら、失礼、やっぱり、ホメロス?、手が早いというか‥‥」
 入ってきたのは大宗院 奈々(eb0916)である。
 ロレッタは我に返ると、涙を浮かべて部屋から飛び出していった。
「あーあ、泣かした」
 奈々は悪戯っ子のように笑った。

 早朝、ここはベルフォール家の厩舎である。
 試合参加者の馬が、預けられている。
「おい! 関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「僕は騎士ユーリだ! 馬を見に来たんだよー」
 見張の男が、華奢な騎士を呼び止めている。
 この美男子ユーリは、もちろん偽者、ルナである。
「そんなわけで関係者だ、入るぞ」
 平馬はルナと強引に中へと入る‥‥ すると、中では数名の男が、ユーリの馬の足になにかしようとしている所だ!
「動くな! 現行犯だな」

 同じころ調理場である。
 暗い厨房に男が入ってくる、用意してあるワインになにやら小瓶から液体を流し込んでいる。
「下剤か?」
 男に突然、暗がりから声がかかる。
「だ! だれだ!」
「あなたこそだれ?」
 姿を現したのはリオスとシュゼットだ。
 二人の態度は威圧的だ。
「いや‥‥ なんでもねぇ」
 男は、小瓶を隠し、そ知らぬ顔をする。
「なんでもない? ふーん じゃあそのワイン飲んでみなよ?」
「いいなそれ! 飲んでみろよ」
 リオスはソードを抜き放つと、男ののど元へと当てた。

「全員買収されていたとはな」
 護衛で残っていたホメロスが呆れる、ここはユーリの部屋だ。
 4人馬番が縛られて床に転がっている、もう一人厨房の下男は ‥‥トイレだ。
 ユーリの表情は冴えない、不正があった事より、友に裏切られた事がショックなようだ。
「ドナルドの策略がこれで終わりとは思えんな、試合中にも目潰しくらいは用意してあるじゃろう‥‥ そこで策じゃ」
 マッカーはユーリの耳元で囁いた。

 試合直前、ビターが奈々を呼び止める。
「お願いがあるのですが」
「なに?」
 ビターは奈々に何か耳打ちする。
「ふーん、私もね、それ考えてたんだよ」

 ファンファーレが鳴り響き、トーナメントの開始を告げる! 屋敷には多くの見物客が集まっている。
「第一試合! 騎士オッタボーンの弟子ユーリ! 対するは、同じくオッタボーンの弟子ドナルド!」
 左のコーナーから白馬にまたがったドナルドが現れる、観客の中から黄色い歓声が上がった!
 対して、右のコーナーからユーリが無愛想に現れる、馬の足の調子が悪いのか、よろけているように見える。
「友よ! いざ勝負だ! ワハハ!」
 その様子を見定めたドナルドは、余裕の笑みで宣言した。
 両者合図を待つ‥‥ 
「試合開始!」
 合図と共に、いままでふらついていたユーリの馬が俄然シャンとしたかと思うと、まったく別の生き物のように猛然と突撃を開始する!
 白馬が、数歩も進まぬうちに、両者は激突した!
 大人と子供の勝負である、ドナルドは、ろくに構える暇もなく4〜5mも跳ね飛ばされ、地面に落下した。
 観衆は、あまりの圧勝に、しばらく言葉を失っていたが、徐々に徐々に拍手が沸き、大歓声が渦を巻いた!
「よしよし」
 マッカーは、作戦成功に満足そうだ。

 その時! 意外なことがおきた、落馬し泥まみれになっているドナルドに駆け寄っていく女性がいる‥‥ なんとロバータだ!
「ああ何てこと! 美しい騎士様!」
 倒れているドナルドを助け起こすと、ユーリを睨み付けて叫んだ!
「野蛮人! 顔も見たくないわ! どこかに消えなさい!」
 突然の事にユーリは唖然とする。
 勝利の女神と恋の女神は別人らしい‥‥。 
 ユーリは無言のまま、その場を去った。
「あーあ、無残だな‥‥ 目も当てられやしない。 人生の負け犬ってやつだな ほらユーリ! 手出しな」
「?」
「恋文の代筆が今回の依頼だったろ、まったく世話が焼けるな」
 奈々が手渡したのは、ロレッタからの手紙である、勿論本人が書いたものではない。
 ビターと相談して、先ほど奈々が書いたものだ。
 しかし、そこにはロレッタの気持ちが書きつづられていた。
 ユーリは、手紙を読み終えると、意を決して、馬をロレッタのもとに走らせた。
 会場は喧騒に包まれている、声は聞こえない。
 何事か言うユーリ‥‥ 目を輝かせてうなずくロレッタ‥‥。 

 遠くでそれを眺めている一同。
「困ったんだよー!」
 そこへ、ユーリの変装のままのルナがやってくる。
「どうした?」
「貴族のおばちゃんにファンレターもらっちゃったんだよー! 僕は女の子なのにぃ」
 ロレッタを馬に乗せ、静かに会場を後にするユーリの姿が見える。
「ルナ殿のユーリくらい、本物も美男子だったら、手紙なしでもロバータはふり向いただろうに」
 シュゼットが言うと、皆が笑った、ルナもなんとなく笑った。