勇者ゴルチャーク

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月08日〜04月13日

リプレイ公開日:2005年04月17日

●オープニング

 ジャン! ジャン! ジャン! ジャーン!
「進むことを知って、退くことを知らぬ勇者ゴルチャーク!」
 ジャン! ジャン! ジャン! ジャーン!
「3mの大剣を振りかざし 悪のドラゴン・ボボルガーノに立ち向かうー!」

 英雄ゴルチャークと言えば、この界隈の子供達で知らぬ者はいない。
 毎年、この季節になると、雪解けに合わせて南の巡業地からやってくるのだ。
「さぁさぁ! ここからが凄いよ! ボボルガーノは火を吐く竜だ! 口の大きさなんかこーーんなに大きいんだ!」
 ここはセーヌ川沿いの、ごみごみとした下町の一角である。
 あたりに集まっているのは、派手なおはやしと口上に、つられて集まってきた子供達だ。
 ジャン! ジャーン! ジャン! ジャーン!
「見る間にパパンの森は焼け野原だー! 四方八方に炎を吐き出すボボルガーノに流石の我輩も困ったね! しかし、そこで名案がひらめいた! 聞きたいかい? 聞きたいかー!!」
 物語は佳境だ! シーサンセンの皇女様を救えるかどうかの瀬戸際! 子供達の目が輝く! 買ったお菓子にしゃぶりついて、聞きたい! 聞きたい! を連呼する!
 日は西に傾いている、興行の一日の最後は、悪のドラゴン・ボボルガーノの話をやるのがいつもの通例だ。
 にぎやかな音楽、子供の喝采、そして笑い声があたりに響いている‥‥。

 翌日、ギルドの戸を潜ったのは、華奢で色白の少年と立派な髭をはやかしたい偉丈夫であった。
「いらっしゃいませ、ご依頼ですか? あら‥‥」
 受付は、その髭の男を見てすぐに誰だかわかった、あの勇者ゴルチャーク‥‥ いや、ゴルチャーク一座の団長である。
 近くで見るゴルチャークは髪も白く少なくなり、舞台でのイメージよりずっと老けて見える。
「こんにちわ、ゴルチャ−クさん どうかしましたか?」
「ああ、いや どうも‥‥」
「しっかりしろよー」
 少年に背中をこずかれたゴルチャークは、背を丸めて歯切れ悪くゴモゴモ言った後、懐から派手に装飾された木箱を取り出した。
「あ、これ知ってますよ! 子供の時よく見に行きましたからね、ボボルガーノの牙が入っているんでしょう?」
 すると、少年がゴルチャークの手から木箱を取り、目の前にうやうやしく掲げると叫んだ!
「これぞ! 悪のドラゴン・ボボルガーノの牙! 断末魔の溶岩が噴出す怪物口の中から、取り出した英雄の証! ‥‥ってね」
「あなたは?」
「僕は団長の娘だよ アナスタチア・ゴルチャークよろしくね!」
 そう言うと帽子をとって芝居めいた挨拶をする ‥‥ショートの髪の毛がこぼれる、確かに女の子だ。
「あ、はい娘さん‥‥でしたか」
「ほら、そんな事より 箱の中をお見せするんだ」
 ゴルチャーク団長の指示でアナスタチアは箱を開けて見せた‥‥ しかし中は空である。
「盗まれました」
「え! ドラゴンの牙をですか?!」
 ゴルチャークは、力なくうなずいた。

 昨日の興行の時には使ったので、盗まれたのは昨晩だということになる。
「僕は、犯人はヤンじゃないかと思うんだ」
「いや‥‥しかしなぁ」
 アナスタチアがそう言うと、ゴルチャークは辛そうな表情になる。
「ヤン?」
 最近仲間になった、そのヤン少年が昨夜から姿がみえないらしい。
「実は‥‥ もともとそのヤンは、フェイギンというスリの頭目の一人息子でしてね。 更正したいというので、仲間にしてやったのです。 真面目な子だったのですが‥‥ 信じたくないですね」
「とっても手先が器用なんだよね、あいつ 木箱の鍵くらい開けちゃうと思う」
「ともかく、子供達をがっかりさせてしまうわけにはいきません! ドラゴンの牙を取り返してください!」
 信じていた少年に裏切られた事と、牙をなくしてしまった事で落胆する子供達の姿を思ってのことだろう。
 ゴルチャークは、長いため息をついて肩を落とした。
「あの‥‥ つかぬ事をお伺いしますが」
「はい?」
「ドラゴンの牙は金目の物なのですか?」
 流石に、本物ですか? とは聞きにくかったので、少々回りくどく聞いてみる。 無論、本物なら途方もない財産なのだから、こんな質問は愚問なのだが‥‥。
「ああ‥‥ いや、もう40年も使っている物です。 別なのを作るわけにはいきませんよ、子供は敏感ですからね」
 動物の骨でも削って作ったものだろうか? 受付は子供の時、舞台で何度も見た白い鋭い牙を思い出していた。

「そのヤン少年が犯人だとすると、親の所に戻ってる可能性が高そうですね」
「そうなんです 手下を大勢持った恐ろしい男だと聞いています」
「勇者ゴルチャークは、ご自分では悪人を倒しに行かないのですか?」
「え?」
「いえ、冗談ですよ 私は子供のころ、本当に勇者なんだと思ってましたからねぇ 毎年見に行ってました」
「そうですか、うれしいですね、そう言っていただけると‥‥ わたしも若いころは、本当の勇者になりたくて諸国を放浪したものです。 結局そのチャンスはありませんでしたけどね」
「ちっとも甘くないお菓子も、何が入ってるのかわからないジュースも、ボッタクリでインチキな勇者様セットも買いましたよ。今は良い思い出です。あなたがいなかったら、私もこういう仕事はしてなかったかも知れませんね」
「はぁ‥‥ははは」
「英雄の依頼を断ったら、子供達に恨まれてしまいます。お任せください、募集してみます」
 ゴルチャークが感謝の握手を求めてくる、大きな優しい手だ。
「うーん、やっぱり原因は僕かなぁ?」
「どういう事ですか? アナスタチアさん」
 アナスタチアは、少女らしく頬を赤らめると、先ほどまでの威勢はどこへやら、小さな声でしおらしく言う。
「いきなりさ‥‥ ヤンのやつ、昨日キスしようとするから蹴っ飛ばしてやったんだよ」
「蹴飛ばした? やれやれ女の子のする事じゃないな‥‥ ヤンは内気な子だからなぁ それで飛び出しついでに、牙を持って出て行ったのかもしれん」
「まあ、ともかく、ここからは本物の勇者達が解決してくれますよ 事によっては、そのヤン君も戻ってくるかも知れません」
 2人は、ほっとした表情になると礼を言って帰っていった。
 ちゃんと食べてるのだろうか? 受付は、ゴルチャークの痩せた後姿を見て思った。
 服装もみすぼらしく、生活は苦しそうだ。
 子供達に、インチキなお菓子や秘密の道具を売りつけて、悪いやつだと思った事もあったが‥‥。
 子供達の英雄‥‥ゴルチャーク、夢を売るのも大変な商売である。

●今回の参加者

 ea1169 朝霧 桔梗(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7027 リオン・ルヴァリアス(35歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ea9655 レオニス・ティール(33歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0865 ライラ・エアリューテ(22歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb1107 ユノーナ・ジョケル(29歳・♂・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 eb1321 シュゼット・ソレンジュ(23歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 ここは貧民街。
 露店を覗きながら、ユノーナ・ジョケル(eb1107)はショッピングを楽しんでいる。
 完全に無防備な後ろから、音もなく忍び寄る影がある。
「あ、ごめん」
 ユノーナは、不意に後ろから軽くぶつけられてよろめいた。
「いえ、大丈夫です」
 ユノーナが、そう言って振り向いた時、雑踏の中にそれらしい者の姿はなかった。

「うん、すごいや」
 朝霧 桔梗(ea1169)はユノーナからスリ盗った財布を2人の少年に見せる。
 この二人は、桔梗が探し当てたスリの少年だ。
「フェイギンに会いたいんだって?」
「うん‥‥」
「どうしようか?」
 二人が顔を見合わせる。
 その時、少し離れた通りで騒ぎが起きた。
「財布がない! スリだー!」
 ユノーナの声である、少年達はしかたなく桔梗について来るように合図した。

「おい! あんた! ヤンって小僧をしってるか?」
 カエン・ヴィールス(ea1727)は、通りで出会った人達に手当たりしだい、ヤンの居場所を聞いている。
「どうだ? 知らないか?」
 少しは離れた所で、露天商相手にシュゼット・ソレンジュ(eb1321)が、やはり聞き込みをしている。
 二人は、わざと目だって、敵の出方を見ようという作戦だ。
 
「兄ちゃん! ヤンの事、嗅ぎ回っているそうじゃねぇか!」
 程なく、ゴロツキ風の男4人が、2人を取り囲んだ。
「待ってたぜ!」
 カエンは待ってましたとばかりにロングソードの柄に手をかけた。
「久しぶりに暴れられるぜ!」
「カエン! ちょっと待て、やばそうだ」
 やる気満々のカエンをシュゼットは止める、暴走気味のカエンとは良いコンビのようだ。
 目の前の4人以外に、裏道から続々とゴロツキ風の男達が集まってきている。 凄い数だ‥‥。
「ちょっと薬が効きすぎたか? 逃げるぞ!」
 ロングソードを抜き放ったカエンは数回振り回すと、クルリと方向転換し、走り出した。

「へー 財布に紐つけたんだ 考えたわねぇ」
「何故ついてくる」
 貧民街の通りの一つをリオン・ルヴァリアス(ea7027)とライラ・エアリューテ(eb0865)が歩いている。
「囮作戦なんでしょう? なら怖い騎士様一人より、女連れの方がいいじゃない? 美人連れならなおさらよねぇ‥‥ それにぃ! 今日は鈍より曇り空!」
 リオンが、呆れて口をつぐむのと同時に、彼の腕に巻かれた紐がピンと引かれた!
「!」
 何者かが、彼の財布をスリとったに違いない! 振り向いた時、厳つい無精ひげの男が、紐に気づいて、財布を投げ捨て、逃げ出した所だった。
 リオンが追いかけようとした時、彼を押しのけて前に出る物がいる! ライラだ! 
「やめろ! ライラー!」
「ヘブンリィライトニンーーグ!!」
 ビシャーーン!! ゴロゴロゴロ‥‥
 直撃を受けた男は、一瞬にしてオレンジ色の光に包まれたかと思うと、地面にワンバウンドして、倒れた。
 白昼堂々、それも往来のど真ん中である!
 通りにいた者全員の注目が集める!
 実はライラは、誰がリオンの財布を盗もうとしたのかまで見ていない、ぱっと見、一番人相の悪いやつに照準してみたのだった。
 当たったのは偶然である。
「うーん 良いわねぇ やっぱりこの魔法!」
 周りが騒がしくなってきた、勿論、この男がスリだとは誰も知らない。
「くそ! お前のせいだからな! 手を貸せ!」
 レオンはそう言うと、まだ煙を上げて痙攣している重傷の男を担ぎ上げ、その場を走り去った。

 レオンとライラは、マッカー・モーカリー(ea9481)とレオニス・ティール(ea9655)と合流する。
「お手柄じゃな」
「でしょう!」
 はしゃいでいるライラを尻目に、レオンは無言のまま、男を介抱している、死なれては元も子もない。
 しばらくして、男は意識を取り戻した。名前はビルらしい、ここからはレオニスとバトンタッチだ。
「さて、ビル君‥‥ 君には色々と聞きたいことがあるのだよ」
 薄暗い室内、レオニスの足音が響く、ここは貧民街に近い放棄された倉庫である。
「えらく楽しそうじゃな」
 マッカーはやや呆れ顔だ。
「何を言うのですマッカーさん、これも人助け‥‥ 心を鬼にしているのです、本当は辛いのですよ」
 レオニスは天使のような笑顔になる‥‥ すごい迫力だ、それを見たビルは蒼白になっていく。
「わしは隣におる、終わったらよぶのじゃよ」
 マッカーが部屋からでると、背後でビルの悲鳴が上がる。

 ビルからの情報では、フェイギンのアジトは複数あって、毎日移動しているらしい。
 奴が知っていた場所は3ヶ箇所で、手分けする事となった。

 ここはビルから聞いたアジトの一つである。
 やってきたのは、マッカーとレオニスだ。
「あれ? レオ二スさんだ!」
 そこに現れたのは、物陰に隠れていたユノーナだ。
 桔梗に財布を盗られる演技の後、ここまで尾行してきていたのだ。
「桔梗さんは、中ですよ」
「しかし、見張りの姿がありませんね」
「それがね、突然全員、出はらってしまったんだ」
 レオニスの問いにユノーナが不思議そうに答えた。
「ほー じゃあ、カエンとシュゼットの作戦は大成功じゃな」
 しばらくすると、中から桔梗が出てきた。
「ヤン様はいないけど、フェイギンはここにいます」
「直接会ったのですか? よく正体がばれませんでしたね」
「いいえ、ばれました、でもヤン様を助けに来たと言ったら、解放してくれたわ」
「うむ‥‥、そうか、ではこちらも礼を尽くさねばならぬなぁ」

 マッカーとレオニスは、残りの2人を見張りに残して、アジトへと入り込んだ。
 中はもぬけの空だが、ほどなく地下室への階段を発見する。

「わしがフェイギンだ」
 レンガ作りの地下室には、小さな明かりが一つあるだけで暗い、ゆれる灯火のせいで、立ち並ぶ柱の影が生き物のように蠢く。
「あんたを一角の人物と信じて、わし達は話し合いに来た、息子はお天道様の下をまっとうに歩ける者にしてやれ。ヤンは泥棒には向かん、そうじゃろ?」
 声のする方には、人らしいおぼろげな影がある‥‥ しかし、ただの柱の影にも見える。
「マッカーさん!」
 レオニスが、足元の壁を指差す。
 そこには暖房用の小穴が開いている、穴は無数にあるようだ‥‥ 奴はこの部屋にはいない! 穴を通して、別の部屋から話しているのだろう!
 老獪な奴だ‥‥ ここは巧妙にセッティングされた騙しの舞台なのだ!
「いいだろう、お前の言う通りかも知れん。 一つ交換条件といこう、そちらが飲めば、牙も返してやる」
「条件とはなんです?」
 レオニスは、背後を油断なく警戒しながら、フェイギンと話す。
「条件とは‥‥」
 フェイギンの声は、何重にも反響する。厳かな口調は、催眠術にでもかかりそうな気分にさせた。

 1時間後、約束どおり、ヤンは解放された。
 ちょうどそのころに、逃げ回っていたカエンとシュゼットも合流する。

「カエンさん、ヤン君はまだ、アナスタチアの事で落ち込んでいるようなんです。 何か言ってやってください」
 ユノーナは、しょげ返っているヤンに見かねて、カエンに相談を持ちかけた。
 カエンはヤンの肩に手を置くと‥‥
「その事なら心配ない! アナスタチアは怒っちゃいないぜ 帰ったらまずスキンシップだ!」
「スキンシップ?」
 不思議そうな顔をしているヤン、カエンはシュゼットに向き直る。
「ところで、シュゼット あんた女だよな?」
「分類学上、女だが、それがどうしたか?」
 カエンは、ヤンに向き直り、笑顔になると、スキンシップを実行した。
「!! ‥‥蹴りますよ?」

 ジャン! ジャン! ジャーン!
「さー! 勇者ゴルチャークの物語が始まるよー!」
 幕が開いた、子供たちは一斉に立ち上がり、待ちに待った英雄の登場を拍手で迎える!
「憧れの、勇者ゴルチャークだぁ!」 
 そして、その中で一番目を輝かせて、歓声を上げたのはユノーナだった!
 ユノーナは、英雄のセリフ、一挙一動すべて覚えている! 一緒に名ゼリフ叫び、手に汗握り、子供たちと手を取り合って喜ぶ!
「楽しいな‥‥」
 子供達に混じって、お菓子をしゃぶっている桔梗が、口の中で小さく呟く。
「ここからは新しいよー! あのボボルガーノの牙が悪漢の手に渡ったんだ! さあ大変だ!」
「僕はゴルチャークの息子、騎士アレクセイだ! 牙を盗み取った悪漢はいずこ!」
 出てきたのは鎧姿のアナスタチアだ。
 ヤンは愛馬の役、一生懸命に自分のお姫様をサポートしている。
「あーあ、やっぱり書き直してしまったのですね」
 台本の担当したレオニスがため息をつく。
 レオニスは、アナスタチアを可憐なお姫様として登場させたのだが、当人が書き直してしまったらしい。
「牙は頂いた! わはははー! わしは魔術師フェイギンじゃ!」
 そでから出てきたのは‥‥ なんと! フェイギンに扮装したマッカーである! 今日は特別出演。
 フェイギンの出した条件とはこれだった。つまり自分もゴルチャークの物語に出せと言うのだ。
 もちろん、牙を盗み出したのはフェイギン自身という事になる。
「きゃー! きゃー!」
 子供達は、大悪党の登場に大騒ぎだ! それを見てまんざらでもないらしいマッカー、演技は熱がこもる。
「わしは絶対つかまらぬぞー!」
 興行は大成功! 新しい演目も子供達に新鮮な驚きを与えることができたようだ。
 また来年、雪解けにあわせて勇者ゴルチャークの一座はやってくる! 新しい豪傑達の演技にも磨きがかかっている事だろう。

 そして、奴も‥‥ 自分の晴れ舞台を見に来るに違いない、何よりも馬の活躍を見に‥‥。