ゴブリンの足跡
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■ショートシナリオ
担当:白樺の翁
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月16日〜04月21日
リプレイ公開日:2005年04月24日
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●オープニング
日が沈み夜陰が迫る。風景の彩色が失われ、濃淡だけの世界になった。
夜はまだ寒い。
その夜、ギルドの戸を叩いたのは、日に焼けた純朴そうな老人と、背の低い中年の男、そしておっとりとした感じの目立たない女性である。
純朴そうな男と、もう一人の男は、身なりからして農民だろう。
「なぁ、やっぱりやめねぇか? ちっと大げさじゃねぇかなぁ」
中年の男は小心そうに作り笑いをしている。
「まあ、話だけでもしてみましょうよ こんにちわ!」
女性が、先頭に立つと受付に声をかけてきた。
「こんにちわ、ご依頼ですか?」
「はい」
そういうと女性は、後ろの老人に話すように促す、老人はちょっとしどろもどろするが、小さな声で話し出した。
「ゴブリンが、ワシらの働いてる農園に最近出てですね、悪さをするんですわ」
「はい、ゴブリンですか」
「ええまぁ、その、ゴブリンを退治してもらえねぇでしょうか?」
老人はウォルター、中年の男はドプチャク、最後の女性はウォルターの孫で、エメルダという。
ウォルターの話によれば、ドプチャクと2人はラトラー様の領地にある、直轄の果実農園で働いているのだが、その農園に、一月ほど前からゴブリンがでるようになったそうだ。
用水路の堰を壊したり、果物の木を傷つけたり、家畜を盗んだりしているらしい。
「ゴブリンが用水路を? 本当にゴブリンなんですか?」
「あれはゴブリンだよ! 俺は見たんだ、それに足跡だってあちこちで見つかってるだろ!」
ドプチャクが、何故か必死の形相で説明する、直接ゴブリンを見たのは、農園の者たちの中では彼だけなのだそうだ。
「それに、隣のアレクト様の農園の人たちだって、近くでゴブリンを見たって言ってたぜ」
ドプチャクは、大げさなジェスチャーも交えて、ゴブリンだと強調する。
「うーん‥‥ アレクトの農園の連中の話はなぁ‥‥どうも信用できねぇなぁ」
ウォルターは、アレクトの名前によい顔をしない。
なんでも、一箇所しかない水源から、この2つの農園は水を引いており、水源の水量が不安定なためか、いさかいが絶えないのだ。
4キロほど離れた、アレクトの農園のほうでは、ゴブリンの被害はでていない。
ここ数年、雨が少なかったり病気が流行したりで、農園の経営は大赤字になっている。
持ち主のラトラー様も、今年がだめなら手放すしかないと言っているそうだ。
そこへきて、最近のゴブリン騒ぎで、農民たちの苦悩は大きい‥‥ 特にこれから水の必要な時期に用水路が壊れていたのでは、秋の収穫は望めない。
そうなれば、そこで働く者とその家族120人が、路頭に迷うことになる。
自分たちで捕まえられない以上、冒険者に最後の望みをかけたと言うわけだ。
「なるほどね、で、ゴブリンは何匹くらい出るんですか?」
「いやぁ それが良くわからんのです‥‥ 見たのはドプチャクの奴だけだしなぁ」
困った顔をするウォルター、受けも一緒に困った顔になる、正確な数がわからなくては、いくら相手がゴブリンでも危険がある。
「ほらな、やっぱり止めようや 金の無駄だ 冒険者なんて‥‥だいたいよそ者に頼るのはよくない」
ドプチャクはウォルターとエメルダにしきりに難色を示す、しかし金の無駄と言われては、こちらも黙っていられない。
「でも、ゴブリン退治のお話は良くありますから、冒険者たちは手馴れてますよ きっと大丈夫です」
「そうですか、じゃあ、お願げぇします」
受付の自信に満ちた笑顔にウォルターは、決心したらしく頭を深々と下げた。
手続きを終えて、男達は外へ出たが、エメルダだけはその場に残り、受付に小声で話しかけてきた。
見かけはどこか頼りなさげなのだが、話してみると第一印象が間違っていたことがわかる。
「私は、領主のラトラー様のお側にお使えしているのですが、ラトラー様がおっしゃるには‥‥ あの農園は確かに田舎にあるが、周辺には町も多いし ゴブリンが出たなんて話は祖父の代から聞いていない、本当にゴブリンなのかちゃんと調べて欲しい‥‥との事です」
「そうなんですか、そういえば目撃者が1人しかいないのも変ですね」
「隣のアレクト様は親戚でいらっしゃるのですが、水の問題で仲が悪いのです、もしかすると調査を邪魔されるかもしれません。 もしかすると‥‥この騒ぎに乗じて何かしてくるかもしれません」
エメルダは、本当はクールで頭の切れる女性のようだ、ラトラーは、そこを見込んで今回の事件のお目付け役にしたのだろう。
「冒険者の人選が決まりましたら、ご連絡ください 私も同行します」
エメルダはそう言うと連絡先をメモしたものをおいて出て行った。
「先に宿に戻っていてくれ、ちょっと寄るところがあるんだ」
ギルドの外では、2人が待っている、ドプチャクはそわそわと落ち着きない表情だ。
「あれ? ドプチャクおじさんって、パリは初めてだったんじゃないんですか? 道わかります?」
「あ、うん」
ドプチャクは生返事をすると、2人と離れて裏通りに入っていった。
「なぁ エメルダ、婆さんへの土産は何がいいかなぁ」
ウォルターは久々にかわいい孫娘と一緒であるので上機嫌だ、エメルダはドプチャクが気になったが、ウォルターに促されるまま、商店街のほうへと歩いていった。
一時間後、ドプチャクはどこかの屋敷の一室にいた。
「急用とは何だ!」
部屋に現れたのは、恰幅の良い大柄の中年の男である、身なりからして貴族のようだ。
「へぇ ラトラーの農園のやつら冒険者を雇いました」
「なんだと! 馬鹿者! もう金は渡してたのだぞ! ちゃんと働かんか! 何で止めなかった!」
男は大きな体をゆすって怒りをあらわにする。
「申し訳ねぇです」
小心なドプチャクは平謝りである。
「しかたない、証拠は隠せよ! 気づかれてはまずい、計画は慎重にやれ」
「へぇ わかってます」
男は壁に掛けられた地図を見上げた、そこにはラトラーの農園周辺が記されている。
ラトラー農園の隣にはアレクト農園の名前が太字で誇らしげに記されていた。
●今回の参加者
ea1045 ミラファ・エリアス(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
ea1169 朝霧 桔梗(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
ea7841 八純 祐(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
ea8223 竜崎 清十郎(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
ea9142 マリー・ミション(22歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
eb0896 ビター・トウェイン(25歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
eb1743 璃 白鳳(29歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)
●リプレイ本文
斜面を蛇行する道を登りきると、そこはラトラー農園であった。
「わー 綺麗!」
マリー・ミション(ea9142)は傾斜地に広がる、手入れの行き届いた農園を眺めて叫んだ。
「確かに水不足ですね、土のせいもあるかな‥‥」
ミラファ・エリアス(ea1045)が、ナシの木の根元にしゃがみ込むと、根の張り具合を指で確かめながら呟く。
一行は、まず老人の家に招待され、昼飯を取りながら、今までの詳しい推移を聞くことになった。
「気楽にしてくれ。俺達はプロだからな。仕事はきっちり終わらせるぜ!」
竜崎 清十郎(ea8223)が、集まった農場の人達に、開口一番大きな声で宣言し、分厚い胸をドンとたたく。
人々の真剣な眼差しが、期待の大きさを物語っている。
紹介の後、集まった農夫達からの情報収集となる。
朝霧 桔梗(ea1169)は、まずエメルダに一番怪しい人物について、ストレートに質問してみた。
「桔梗さんの言うとおり、ドブチャクおじさん、少し変ですね」
エメルダは、心当たりがあるようだ。
「おじさんには、娘がいましてね、すごく勉強ができて、有名な魔法使いの弟子になれたんです。 でも学費が高くて、借金もあるみたい」
エメルダは、その娘と知り合いなのだろう、チラッとパリの方角を見る。
「借金‥‥ ね」
「果物の木なのに、虫の被害がないなんて感心しましたわ」
「ほー 詳しいのかね?」
ミラファは、ウォルター老人に挨拶した。
「ええ、一応‥‥その、植物が専門で、自称木のお医者さん‥‥ なんて‥‥その」
「おお! 冒険者ギルドも気が利くのう! 木のお医者さんまでよこしてくれたか!」
「あの、まだ自称の段階で‥‥」
「よく来てくれたのう! おおそうじゃ‥‥」
老人は専門家と知るや、もう狂喜乱舞! 半世紀の渡る果実栽培の薀蓄の嵐が始まった! 容赦はない!
ただの老人の自慢話ではない、高度な知識と専門用語を知らなくては、相槌も打てない。
「ああ、待ってください、それは何処かで読んだと、えーと‥‥」
必死に応対する、ミラファだが、彼女も楽しそうだ。 結局、外へ出て農場中の木を見て回ることになった。
勿論、パトロールも兼用できるので、一石二鳥だ。
一同は、その後、ドプチャクの家へ向かう者、水路の上流を探索する者、そして‥‥ アレクト農場へ偵察に向かう者とに分かれた。
ドブチャクの家の前にマリー・ミション(ea9142)と、八純 祐(ea7841)が立っている。
「こんにちわ!」
「だれだ?」
扉を少し開けて顔をだしたドブチャクに、マリーは笑いかけた。
二人が身分を明かすと、ドブチャクは仕方なく招き入れる。
家の中は妙に、綺麗に片付けられている。
「大掃除かしら?」
ドプチャクは、目をそらす。
「農園に働いてる人々全員に関わることだからな、いろいろ聞かせてもらうか?」
祐とマリーは、質問を開始する。
「見た時の時刻は? あなた一人だったのか?」
「用水路をゴブリンが‥‥?」
「ゴブリンの数は?」
どの質問にも、ドプチャクは曖昧にはぐらかす。
「ゴブリンてのは、水かきがあるんだよな?」
「どうだったかな? 良く見えなかったな」
時々、引っかけ質問をするのだが、なかなか引っかからない、後半は主に祐が質問し、マリーはやり取りを観察していた、そして‥‥。
「ご協力ありがとうございます」
マリーは笑顔に戻って、祐に合図すると、家を後にした。
「どう思う?」
「嘘をついているわね‥‥ でも、それなりに筋が通っているから、入れ知恵した人がいるんじゃないかしら?」
「黒幕か‥‥」
竜崎 清十郎(ea8223)とビター・トウェイン(eb0896)は、水路をさかのぼっている。
分岐点から上流はあまり手入れされていないようだ。
更に歩きつづけ、とうとう水路の終わりにやってきた。
そこは絶壁になっており、壁面には幅2m高さ7〜8mの亀裂が走っている。
水源地といえば、泉のようなものを想像していた二人は、やや驚きを感じた。
水はこの穴から流れ出ている。
「奥へいけそうですよ」
「入ってみるか」
裂け目は狭く、2人は入り込むのに苦労した、中はかなり広くなっており、壁面には緑色の分厚いコケがびっしりと生えている。
そして‥‥
「見ろよ!」
コケは、ある程度成長すると自重に耐えられなくなって、壁面から崩れ落ちてくる。
それが底にたまると、水がせき止められてしまうのだ。
特に、洞窟の出口付近の狭くなっている所に岩があり、それが大量にコケをせき止めている。
「ここを大掃除すれば、水量も増えるかもしれませんね」
「あと2〜3人いれば、この岩がどけられるのだがな」
「戻ったら人を集めましょう、これで無駄な争いが回避できます!」
「水量が増えれば、いがみ合う必要もなくなる、‥‥俺の出番も減るがな!」
清十郎がポツリという‥‥真顔の清十郎に、ビターはちょっと冗談なのか戸惑った。
「このスクロール何だかわかりますか?」
璃 白鳳(eb1743)は、農夫達を広間に集めると、パッドルワードのスクロール取り出し、効果について説明しだした。
「さて、誰か手伝ってもらいましょうか? えーとあなた」
無作為に数人選び出し‥‥勿論、その中にドブチャクは入っていたが、白鳳の見えないところで、水溜りに一人だけ足を踏み込ませて、後で誰が水溜りを踏んだのか当てて見せた。
説明だけでは、半信半疑だった農民達も、実践を目の当たりにして、感心する。
「この魔法を水溜り、用水路の水、そして朝露の水滴いたるまでにかけてしまえば、水路上のすべての場所を完璧に監視できるのです! ゴブリンだろうが、何だろうが一網打尽です」
「おおー!」
農民たちから拍手が起こった、白鳳の術のすばらしさを絶賛する。
しかし、実のところ、完璧に監視、というのは嘘である。
無数にある水溜り全部に術をかけるのは不可能だし、朝露にまでかけられるというのも、今思いついた出まかせである。
もちろん、そんな事はどうでもいいのだ。
白鳳はドプチャクの顔色が蒼白なのを見て、満足げにそう思った。
そして‥‥その夜、アレクト農園の農夫頭の小屋には続々と人が集まっていた。
ここで働く農夫、用心棒風体の男たち、そして‥‥
「ほー あれはここの領主じゃな」
馬車で到着したのは、貴族風の男、おそらくアレクト卿だろう。
対策会議といったところだろうか? 明かりを煌々と点して、話し合っている。マッカー・モーカリー(ea9481)が見張っているとは、思ってもいないらしい。
「おや?」
最後に到着したのは、ラトラー農園で見かけた男、ドブチャクだ。
「マッカーさん」
暗闇から、呼ぶ声がする、桔梗だ。ドプチャクをつけてきたのだ。
「ここじゃよ」
「やっぱり、ここへ来ましたね」
「うむ 質問攻めにあって、進退窮まったのじゃろう」
「あと、白鳳さんの作戦がとどめになったみたいね」
マッカーと桔梗は、周囲に人がいないのを十分に確認した後、小屋の窓の近くまで前進した。
「つまり、水源地の岩をどかして、掃除すれば水の問題は解決します! きっとゴブリン騒ぎも終わるでしょう」
ビターと清十郎は、昼間調査してきた事を、皆に説明していた。
「根本的な解決ってわけですね! 水さえあれば‥‥ 農園の木々が喜ぶでしょうねぇ」
一日中、農園の中を歩き回っていたミラファが身を乗り出していう。
その時、マッカーと桔梗が、足早に戻ってきた。
「アレクト農場の連中が、こちらに参るぞ! 実力行使じゃな」
「領主のアレクト殿もご一緒みたいね」
「岩をどかそう」
清十郎がビターの方を向くと、強く言う。
「今から、行ってきます! 人を集めましょう」
「その間、水路は我々が守る」
祐は、全員に目配せした。
数時間後、分水点の小屋に冒険者は集まっていた。
それを遠巻きに、アレクトの連中が囲む。
「用心棒といっても町のゴロツキだ、それに数も5〜6人だろう、後は農夫、数は問題じゃない」
祐は、外の松明を見る。
「たしかにそうだが‥‥」
「怪我人を出すわけにはいきません」
白鳳とマリーは窓から相手の様子を伺っている。
と、その時、水路の上流から轟々と水音がし始めた。
「なんだ!?」
なんと、激流が水路の中を流れてくるではないか! 水量はいつもの5倍はありそうだ。
水路で破壊作業しようとしていたアレクトの農夫達は危うく流されそうになる。
「うわ! どうしたんだ! こんなに沢山の水が!」
彼らの叫びは、悪態ではない! 歓喜の叫びだ!
「今のうちに、ボスを!」
小屋から一気に飛び出した冒険者は、水に気を取られている、アレクトを難なく捕らえてしまった。
「なぜだ!? どうなっているのだ?」
縛られても水の流れから目を離さないアレクト‥‥ 彼の表情は泣き笑いだ。
彼も、水がふんだんにあれば、こんな暴挙に出る事はなかったのだろう。
数日後、パリからラトラー卿も到着し、事の決着をつけることになった。
アレクトは、ドプチャクと共に、老人の家に監禁されていた。
「どうじゃろう? 今回の騒ぎは無かった事にせぬか?」
沈黙して睨み合っている両農場主の間に入ってマッカーが仲裁する、しかし両者の表情は固い。
「なぁ 水も噴出した事だし、水に流さんか?」
下らない駄洒落にアレクト卿がぷっと笑うとラトラー卿も笑った、二人も子供のころは仲良しだったのだ。
ドプチャクの借金はアレクト卿が肩代わりすることになり、ラトラーのナシの栽培の秘法の一部がアレクトに公開された。
今度は秋、この地を訪れてみよう‥‥
冒険者達の目には、たわわに実ったナシの実が見えた。