宝石の塔

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月09日〜05月14日

リプレイ公開日:2005年05月19日

●オープニング

 パリからかなり外れたセーヌのほとりに、宝石の塔と呼ばれる、どことなく異国風の建物が建っている。
 もとは白く塗られていたらしいのだが、現在は住民の手で極彩色に塗られ、けばけばしい様相をていしていた。
 塔の持ち主は、シャスボーという老人で、10年位前までは宝石鑑定士として有名だった人物である。
 今はすでに引退して、パリの郊外に住んでいる。

 宝石の塔と呼ばれているのは、そのシャスボーが、店を出していた建物だったためで、昔は貴族や金持ち達でにぎわった場所であった。
 塔全体が金庫のようになっており、預かった宝石は絶対安全だというのが自慢であった。
 ところが、難攻不落の塔にも落城の日がやってきた‥‥ とある貴族から預かっていた宝石が消えたのだ!
 鑑定前から金貨100枚以上と言われていたその宝石は、完全な警備の中消えうせてしまった。
 無論、捜査は大々的に行われた、しかし犯人も宝石も見つからなかった。
 それどころか、何度調べても塔から持ち出すことは不可能だと言う、結論しか導き出せなかった。
 シャスボーは弁償し、店を閉めた。

 それから10年‥‥。
 シャスボーは隠居すると一転して、商売から手を引いてしまった。
 今は変わり者の老人として、若者たちと親交があり、特に食えない芸術家や音楽家の卵達を支援している。
 このタワーも、店を締めた後、そういった若者たちに貸し出されている。
 家賃は恐ろしく安く、月たった銅貨7枚である。
 シャスボー自身、若いころジプシーとして放浪し、宝石の目利きができるようになるまでは苦労したようだ。
 そういった経験が、この激安の家賃に反映されているのだろう。

 冒険者ギルドに訪れたのは、背の高いなかなかの美人と、ぼさぼさの髭と髪の痩せた男だった。
「おはようございますー」
 すでに外は夕日がさしているのだが、女は風変わりな挨拶をした。
「ああ、どうも、こんにちわ」
 女はキャシーといい、男はアッソだと自己紹介した。
 アッソは全部で12人の弦楽器を中心にした演奏団のリーダーで、キャシーはその専属の歌姫なのだそうだ。
 と言ってもまだプロで食べていくほどの知名度がなく、自称団長と自称歌姫なのだが‥‥。

「ご依頼ですか?」
「はい、助けてほしいんです」
 キャシーはそう言いながらアッソに目配せする。
 アッソは布袋をテーブルおいた。
 中は全部銅貨だ。
「依頼料ですね?」
「はい」
 話はこうである。
 彼らは他の仲間達と、宝石の塔に住んでいる。
 現在の入居者は全員アッソ楽団のメンバーである。
 ところが最近、大家のシャスボー老人の孫というのが乗り込んできて、立ち退くように言われたのだと言う。
「実はとある大きなお店で、専属の楽団を募集してて、オーデションが来月にあるんです! 俺達、いままで落ち続けてて‥‥ でも今度こそ行けそうなんです!」
 アッソはこぶしを握りしめると力説する、お金もつき、精神的にも肉体的にも今回が最後と思っているようだ。
「でも、塔から追い出されたら、まとまって練習することもできなくなってしまいます。 第一ほかに行く場所もないから‥‥」
 キャシーは、その美しい顔を悲しげに曇らせる。
 まだ若い、ほかに道もあるだろう‥‥と言ってしまえばそれまでだが、彼らには一生の問題である。
 
「家賃の未納はないんですよ! 全員ちゃんと払っています! だから、いきなり追い出すのは不当です!」
 アッソが、さも、すごい事だという感じで、強調した。
 大家のシャスボー老人に直談判しに行ったのだが、老人は病気とかで門前払いされてしまった。
 奇妙なことに、ジャンのやとった用心棒らしいのが屋敷に沢山いたと言う。

「それにですよ! シャスボーさんの孫のジャンは、我々を追い出した後、あの塔を売ってしまうつもりなんです!」
 アッソの話によれば、シャスボー老人の孫のジャンは、祖父の名前を利用して社交界に出入りしており、最近浪費家で有名な金持ちの娘と婚約をしたそうだ。
 しかし、その婚約を取り付けるまでに、かなりその娘に貢いだものだから、大きな借金ができているらしい。
「結婚相手の親が出した条件に、借金がある者と、犯罪の前科がある者は婿にはしないといのがあるらしくて‥‥」
「なるほど、借金の返済に、塔の売却金をあてるつもりなんですね‥‥ しかしジャン氏は確かに自分勝手ですけど、違法なわけではないですね」
 受付としては、個人的には同情するが、ジャンに不当なところがない以上、助けるのは難しいと説明した。
「なにか約束事でもあれば別ですよ」
 がっかりしていた二人が、急に目を輝かせる。
「あ! あります! あります! 入居の四ヶ条!」
「四ヶ条?」
 10年前、最初に入居した若者達相手に、シャスボー本人が定めた、入居の時の約束事である。

 第一条、家賃の未納は厳禁。
 第二条、全室はつねに満室であること。
 第三条、入居者はジーザス教徒に限る。
 第四条、タワーが、年間金貨12枚以上の収益を上げていこと。

 当時のいきさつはすでにわからなくなっているが、この四ヶ条が満たされていなければ、塔は大家が接収することになっていた。
 また、満たされている間は、大家は一切干渉しない約束になっている。
 この四ヶ条は、タワーの門前に石のレリーフとして飾られており、当時の入居者やシャスボー本人の署名もある。
「それじゃ、安心ですよ! この条件を満たすようにすればいいわけでしょう? そうすれば追い出されませんよ」
「そ‥‥そうですね ‥‥うーん」
「2号室のサスケさんって、ジャパン人だよね? あの人仏教徒?」
「最上階の3部屋空いてるね‥‥」
「それ以前に利益って??」
 二人の様子からして、問題山積のようだ‥‥。
 受付に、ちょっと待ってと合図すると、二人は小声で話し合い始めた。
 20分後、キャシーが代表して、依頼の内容を伝えた。
「えーと、なんだが変なお願いになるけど‥‥ 四ヶ条の条件をそろえるお手伝いの冒険者をお願いします」
「それで良いんですね? わかりました募集してみましょう‥‥ ところで」
 受付は、最初から気になっていた事を口にしてみた。
「ところで、宝石の塔は売り出すと、そんなに高く売れるんですか?」
 アッソが、ちょっと苦笑いして、答える。
「いやぁ 無理でしょうねぇ この10年で痛みが酷いし、皆勝手に改造するから、酷いありまさまですよ!」
「うふふ そうねぇ 雨漏りもするし お化けの出る開かずの間まであるんですよ」
「開かずの間? 幽霊つきの物件は安いですからねぇ」
「幽霊は誰も見たことないから、いないんじゃないかな? でも塔は四階建てで全部で16室のはずなんだけど、4階は部屋が3つしかないのよね」
「だから、気味悪いので四階は空き部屋なんだ」
 手続きがすんで、ほっとしたのか二人には普通の若者らしい闊達さがもどっている。
 お願いしますと頭を下げた後、冗談を言い合いながらギルドを後にした。

 宝石の塔は、若者達の希望に満ちた瞳で、いまも輝いている。

●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2792 サビーネ・メッテルニヒ(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 eb0389 モイフ・クラフトン(41歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 eb0896 ビター・トウェイン(25歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1205 ルナ・ティルー(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1966 玖珂 鷹明(35歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 満天の星空、アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)は、天を見上げて感嘆の声を上げる。
「あ! 流れ星です! 部屋の中にいて星空を眺められるなんて、なんて贅沢なんでしょう」
 サビーネ・メッテルニヒ(ea2792)は、アンジェリーヌの横に腰を下ろすと、ちょっと小首をかしげた後話し出す。
「うーん、じゃあ、わたくしの部屋は動物園ね 小さなお友達が沢山いるわよ」
「ここはすごい! まるで遊園地です‥‥」
 最後にビター・トウェイン(eb0896)が部屋に入ってきた。
 ここは宝石の塔の最上階、アンジェリーヌの部屋である。
 老朽化した天井が崩れ落ち、室内から天体観測が楽しめる‥‥ 隣のサビーネの部屋はネズミの大家族が先住してるし、ビターの部屋にいたっては、床が傾き穴が開いていて3階へ滑り降りられる。
「幽霊が出なくても、人が住まない訳ですね」
 ビターがしみじみと言うと、後の二人もうなずいた。

「へいへい、帰えりゃいいんだろ!」
 カエン・ヴィールス(ea1727)はシャスボー老人の屋敷を訪れていた。 正面玄関で予想通りの門前払いを受ける。
「そっちはどうだった?」
「裏も見張りは厳重だよ」
 生垣の隙間から、姿を現したウィル・エイブル(ea3277)は笑顔でそう告げた。
「やっぱり爺さん、閉じ込められてる感じだな」
「だとすると裏庭の離れじゃないかな? 特に厳重だったよ」
「目ざといなぁ‥‥ まあ、あんたと来て正解だったな」
 カエンの発言はいつもストレートだ、ウィルはちょっと照れくさそうである。
「夜になったらまた来よう! それまで聞き込みだね」
「おう! 捜査は足だからな! 行こうぜ!」

「聖書!」
 高価な聖書を配られて当惑しているアッソとその楽団員達を眺めながら、モイフ・クラフトン(eb0389)はうなずく。
「立派な本だなぁ あ、楽譜がのってる‥‥ 聖歌だ!」
「曲のレパートリーに加えてはいかが?」
「音楽が必要なのは酒場ばかりではありませんよ」
 4階から降りてきたサビーネとアンジェリーヌが話に加わる。
 アッソと仲間は楽器を持ってきてさっそく演奏しだした。
「この曲ならわたくしも知ってますわ、楽器貸して下さらないかしら?」
 サビーネまで加わり、いつの間にか塔の一階は即席演奏会になってしまった。
「あ、そうだ! ジャンさんが来たら、サスケさんも一緒に、聖歌の練習をしてましょうよ! 異教徒には見えないですよ。きっと!」
 アンジェリーヌは、さっそくラテン語の歌詞を翻訳するとサスケ氏に教える、わからない所はジャパン語で説明と、至れり尽くせりだ。
 そこへちょっと変わった衣装のルナ・ティルー(eb1205)が入ってくる。
「わーにぎやか! 見て見てー!」
「うん?」
「主役の衣装だよー! 今晩、劇をするって言ってたでしょ? モイフさんも出演するんだよ!」
「何? 自分もか? で、どんな話だ?」
「推理もの! 僕が名推理で、宝石消失事件を鮮やかに解決するんだよー!」
「うむ で、どんな解決をするんだ?」
「うん! それでね、モイフさん台本書いてー」
「何? 自分が考えるのか?!」

 夕日の中、ジャンが塔の明け渡しを要求しにやって来る。
「ふん! 相変わらず汚いところだな!」
 ジャンは一人だ。
 最初アッソが応対していたが、だんだんいらついてきたジャンが大声をだす。
「さっさと出て行け!」
「まて」
 そこに奥から現れたのは、玖珂 鷹明(eb1966)だ。
「何だお前は?」
「旅のもんだ‥‥ 話は聞いた。 おたくの言ってる事はめちゃくちゃだよ」
「何!」
 鷹明は、警戒して睨んでいるジャンを一瞥すると、面倒そうに説明を始めた。
「いいか? よく聞いてくれ。 こんな面倒な事は二度といいたくないんだよ。この塔は今満室だ! そして全員ジーザス教徒だ! そりゃ熱心だよ、毎晩賛美歌うたってらぁな 何の事言っているかわかるよな? そこの石版見な」
 鷹明は顔をふせたまま、指だけで壁に掲げられている石版を指差した。
「最後に収入だが‥‥ 月の家賃銅貨7枚だろ、これが15部屋だから月1金貨5銅貨、これが一年で12倍、12金貨は超えてる計算だな、全部クリアだ‥‥ 文句があるなら、出る所へ出るんだな」
 簡単に塔の住人を追い払えると思っていたらしいジャンだったが、次第に事態が飲み込めたと見え‥‥ 顔色が変る。
「雇われたのか? くそ! どうだ? 2倍出すから、貧乏人の味方なんてやめろ!」
 呆れ顔になった、鷹明はそのまま奥へ引っ込んでしまう。
「くそ! 覚えてやがれ!」
 ジャンは棄て台詞を残して塔から出て行った。

 塔の4階では、壁の一部を壊して、隠し部屋を探す作業が始まっていた。
 アンジェリーヌ、サビーネ、モイフの三人だ。
「私の推理ではこのあたりだと思うのよね」
 サビーネはすっかり楽しんでしまっている。アンジェリーヌと壁の向こうの秘密の部屋について楽しげに話う。
「推理がはやってるんだな さあやるぞ!」
 サビーネの指定した場所は、他の壁と違ってやや白っぽい、モイフが何度かたたくとひびが入り崩れ落ちた。
 小さな入り口が塗こめられていたのだ、これは大人には入れそうにない‥‥。
 中を覗き込む3人‥‥。

 夕闇、ジャンがもう一度現れた。
 ただし、多数の手下を連れてである。
「住人は全部追い出せ、冒険者がいるようだが、かまう事はない!」
「ちゃんと分け前はもらえるんでしょうね?」
「当たり前だ! いくぞ!」
 手下達は、武器を手に扉を蹴破り、塔の中へと乱入した。
「皆さん! 拍手!!」
「な、なんだ?!」
 突入したジャン達は、暗い室内に待ち伏せを受けたかと、一瞬立ち尽くした! しかし‥‥
 なぜか、出迎えたのはわれんばかりの拍手だ!
「容疑者諸君! よく来たね、自己紹介しよう! 僕は社交界の推理の名手、その名もルイ・テナル卿だ!」
 ここは、特設の舞台の上である。
 主役のルナが、男装してきめポーズを取りながら、ジャン達を迎える。
 客は、ほとんどが近所の住人だが、中にはこの塔から巣立った有名な音楽家や町の有力者、役人なども含まれている。
「まずい‥‥武器をしまえ」
 ジャンは慌てて部下に命じる。
 ルナ、いやテナル卿は、最前列にいた紳士からパイプを借りるとそれをふかすまねをしながら、事件のあらましを説明する。
「というわけだ、諸君! 消えた宝石はどこだと思う?」
「な、な、なぞは解けたのか? テナル」
 続いて登場したのは、モイフだ。 テナル卿の相方の医術士の役だ。
 台詞がしどろもどろだが、無理もない‥‥ 台本が間に合わなかったので、すべてアドリブなのだ。
「犯人は子供だよ モイフ君」
「なんでだ?」
「初歩的な推理だよ! えーとね‥‥」
 その場限りのぶっつけ本番! オールアドリブの演技は続く‥‥ ルナは楽しそうだが、モイフは倒れそうだ。

 話は進み、一同は4階へと移動してきた。
「ねー 宝石見つかった?」
 ルナは秘密の部屋を調べているアンジェリーヌ、サビーネに声をかけた。
「わたくしたちじゃ無理です、もっと体が小さくないと」
「ウィルさんはまだ帰りませんか?」
 奥に何かあるのは見えるのだが、そこまで取りに行ける者がいないのだ。
「ええ!」
 さて、困ったことになった、ルナの予定では、ここで宝石が出てきて、ハッピーエンドのはずだったのだ!
「宝石は‥‥」

「わりーな 遅れて! ヒーローは最後に現れるってな」
「シャスボー老人つれて来たよ! ジャンの手下がいなくなったんで、救出は簡単だったよ」
 白髪の老人が現れる、その後ろにはカエンとウィルだ。
 アンジェリーヌが手短に事の次第を話すと、ウィルは得意げに狭い入り口へともぐりこんで行った。
「まかせて! 鍵開けも得意なんだ!」
 しばらくすると、子供物の上着に包まれた小箱をもって出てくる。
「これが、金貨百枚の宝石なのね?」
 サビーネは箱を手に取るとまじまじと見つめた。
「よこせ! 俺のだ!」
 そのとき、ジャンが飛び掛ると、サビーネの手から箱を奪いとった。
「俺の宝石!」
 箱をあけ、中にあった赤い石をつかみあげると、ジャンはそれを照明にかざそうとした‥‥ が‥‥
「なんだこりゃ!」
 赤い宝石は、まるで乾いた粘土のように手の中で砕け散ってしまった。
「ど、どうなってるんだ?」
 全員の目が、砕けた宝石から、それを鑑定したはずのシャスボー老人へと移って行く‥‥。
 老人は、後悔のため息をつく。
 シャスボー老人は、10年前、とある有力な貴族から家宝の宝石の鑑定を依頼された。しかし、その宝石はずっと昔に盗難にあい本物ではなかった、事実を隠すためにシャスボーに圧力がかかった。
 宝石の鑑定士といえども、客商売である。
 結局彼は圧力に屈して、偽の鑑定書を作った。
「最初から偽物‥‥」
 そこまで聞いていたジャンが声を上げた。
「ジャン、お前が隠した宝石は、粘土で作った偽物じゃったのだよ」
 老人は、孫の犯罪に気づいていたが、最愛の孫である‥‥ それに宝石は偽物だ。
「わしは間違っていた‥‥」
 ビターは駆け寄ると、倒れこむ老人を抱きかかえた。
 そしてジャンに向き直ると
「ジャンさん、よかったですね。偽の宝石でなかったらあなたは犯罪者でした。結婚は借金を返済するまで待ってもらいましょう。あなたならやり直せますよ」
 部下は去り、ジャンだけが残る。どこからか拍手が起こり、大歓声となった。

 後日、結局オーディションに落ちてしまったアッソ楽団は、余興で演奏した聖歌が大受けして‥‥ 教会専属になったのはまた別の物語である。