白昼夢

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月20日

リプレイ公開日:2005年05月22日

●オープニング

 ファルマンは変わり者だ、彼の住む村では知らぬものはいない、背も高く顔立ちも整っているのだが、やせすぎているし、髪の毛はのばし放題、風体といえば左右大きさの違う靴をはき、穴の開いた帽子、雑多なボロ布をはぎ合わせた不恰好な服、一見してミノムシを連想してしまう。
 しかし、これらすべての物を、どこで手に入れたのか真っ赤な染料で染色してあった。
 奇妙な格好のファルマンだが、けっしてふざけているわけではない。
 道化師のようにふらふらと通りを歩き回り、たまに奇声を発したりするが、彼はいたって真面目であった。 
 
 そのファルマンが、村からまる1日も歩き通して、パリの冒険者ギルドまでやってきた。
「こんにちわ! 水車村からやってきたファルマンといいます」
 水車村というのは、彼の住む村の通称だろう。受付は奇抜ないでたちに少々動揺したが、いつものように笑いかけると応対した。
「御用ですか?」
「夢を見ました‥‥」
「はい? 夢ですか?」
 ファルマンは、ぶっきらぼうに切り出した。
 彼は、天気の良い日には、4〜5時間もかけて村の周囲を散歩して回る。
「あんまり天気が良いんで、昼寝をしたんですよ 良くある事なんです」
 10日ほど前、小川のほとりにある大きな岩の上で昼寝をしていると、その夢をみた。
「はぁ その夢? ですか‥‥」
 綺麗な長い髪の美女の夢‥‥ そこは石造りの室内で、薄暗く、かなり狭かった。
 美女は何かしきりに訴えているが、この夢に音はない。

 最初の日には、それほど気に止めなかったファルマンだったが、夢は毎日続いた。
 夢の人には、彼の言葉も届いていないようだった、そこで彼は身振り手振りで、なんとか情報の交換を試みてみる。
 長いことかかって、少しずつお互いのことがわかり出した。
 彼女は何者かに閉じ込められていて、命の危険がありそうな事、その部屋には細長い窓がひとつあって、そこから朝日が差し込んでくるらしい事。
「その窓から、森の向こうに水車小屋が見えると言ってました 6つ水車が並んでいるとも言ってました」
 水車村の水車小屋はたしかに6つ並んで建っている、もしそこなら近くということになる。 それに水車小屋の周囲は森だ。
 彼女は彼の風体を笑わなかった! いつも優しい目で見つめてくれた。
 美しい人との時間はあっという間に過ぎてしまう。
 彼は、今までの人生で経験したことのない安らぎを感じていた。

「彼女はとっても困っています! 助けを求めているのです!」
 ファルマンは受付をまっすぐ見つめ、真剣そのものである。
「もしかして、ご依頼とは、その‥‥女性の救出ですか?」
「そうです!」
 困ったことになった‥‥ 受付はちょっと考え込んでしまった。
 この人は、嘘は言ってなさそうだし、真面目に夢の女性をあんじている。
 何とかしてやりたいのだが‥‥相手が夢の中では手の出しようがない。
「信じてないですね‥‥」
 受付の様子を見てファルマンは、うつむいてしまう。
「話は信じますが、相手が夢の中ではねぇ‥‥」
「夢の中?」
 うつむいていたファルマンは、不思議そうな表情でしばらく受付を眺めていたが‥‥。
「ああ、なんだ! 僕はてっきり、この僕が嘘を言ってると思われているのだと思ってた!」
「いえ、そうではないですよ。 お話は信じます。夢の中で美女に出会って、その人が助けを求めているんでしょう? 疑ったりしてません!」
 表情が一変した、そしてニコニコしながら、懐から丸められた布の切れ端を出した。
「これが、3日前届きました! カラスがくわえてきたんです!」
 布を広げると中から女物の指輪が転がり出てきた、それをテーブルにおくと、得意そうに胸を張った。
「ほらね、あの人は実在するんですよ!」
 指輪はなかなかに高価そうな物だ。
「この指輪は、彼女がくれた物だというのですか?」
「そうです! 夢の中で約束してたんです! そしたら目が覚めたらカラスがいて‥‥ これを売って依頼料にします」
 不思議な話だ。もしかすると、本当にその女性は実在しているのかもしれない。
「うーん‥‥ 捜索するとなると目印は水車小屋ですよね? かなり目立つのですか?」
「いえ、周りは森なんで、遠くからは見えません」
「え? じゃあ、森の向こうに水車小屋が見えたというのは変ですね」
「僕もそう思って、昔水車村にあった塔の事を話しました。 火事で焼け落ちてしまったのですけど、もしあの塔に登って眺めたら、きっとそんな風に見えたんじゃないかなと」
 5年前、領主の屋敷にあった、その石造りの塔は、火事が原因で崩れ落ちてしまった。
 それ以来、領主一家も引っ越してしまい、屋敷は廃墟である。

 彼女はその日を境に、様子が変わってしまった。
 なにか思い出したのか、彼に隠れて泣いているようでもある。
 優しい彼への態度には変わりはないのだが、以前のように、あまり熱心に助けに来ることを望まないようになった。
 しかし、彼女を助けたい、直接会いたいというファルマンの思いは募る一方だ!
 とうとう、冒険者を雇い、捜索することを決心した。
「夕べの夢で、その話をすると、助けに来る時は夜中来てほしいと、彼女が‥‥」
「なぜ夜なんでしょう?」
「さぁ わかりません 昼間は見張りがいるのかもしれませんね」
 念のため、周囲に別の塔や丘の上の建物がないか、聞いてみたが、ないとの答えだった。
 6つ並んだ水車小屋は珍しいと思うが、もし違う場所だったら、ノルマン中、いや世界中を探し回らねばならないかもしれない。
「窓から見えているのが、ファルマンさんが住む、水車村の水車だといいですね、そうじゃないと大変です」
「そんな事ないですよ あの人は、すぐ近くにいます」
「なぜ近いと思うんです?」
「だってカラスはすぐに飛んできましたよ」
 ファルマンは、手続きを済ませると、手数料分だけ支払うと、急いでギルドを出た。
 もちろん、成功報酬分のお金を作るために指輪を売りにいくのだ。

●今回の参加者

 ea3184 ウー・グリソム(42歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea4324 ドロテー・ペロー(44歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8574 常倉 平馬(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ea9655 レオニス・ティール(33歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0168 御玲 香(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1205 ルナ・ティルー(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1972 アニー・ヴィエルニ(31歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 暗い図書館の片隅、ウー・グリソム(ea3184)は、ページを閉じると、目をつぶり疲れた目を擦った。
「ふー 暴力の連鎖だな、人とは欲深いものだ」
 アミオ家の血塗られた歴史、ここ40年間を、グリソムは苦労してまとめたが、今は後悔している。
 しかし、もし問題の女性が実在しアミオ家の者なら、この資料が命綱になるだろう。
「さて合流だ」
 グリソムは、メモを大事に荷物に入れた。

 抜けるような青空! 陽光が降り注ぎ、気持ちのよい風が吹く‥‥。
「これが水車小屋だな。しかし、昼寝したくなる気持ちもわかる」
 常倉 平馬(ea8574)が、ゆっくりと回っている水車を見上げながら、道端の大きな岩の上に腰を下ろした。
 岩肌は程よく熱せられ、平馬を夢の世界へと誘う。
「あー! 平馬さん見つけました! サボっちゃだめですよ!」
 見上げるとアニー・ヴィエルニ(eb1972)が西の方角から飛んでくるのが見える。
「ははは、寝てませんよ」
 アニーは、昔塔があったという、屋敷の廃墟の上空へ行ってきたところだ。
 その廃墟は、今はほとんど草に覆われている。
「あ! この岩暖かいんだー 気持ちいい‥‥」
 平馬の座っている岩に降りてきたアニーは、コロンと転がると横になってしまった。
「ファルマンさん、ここで寝てたのかな?」
「かも知れないな」
 眠そうなアニーを眺めつつ、平馬は西の方角へ目をやった。

「こんにちわ!」
 ドロテー・ペロー(ea4324)とルナ・ティルー(eb1205)は、水車村の村長の家へとやってきた。
「ああ、ファルマンの事ね」
 村長は、ファルマンの話になるとうつむき加減に応対した。
「あいつは、可哀想な子でしてね。 いや、あれほど酷い人生も無いでしょう」
 ファルマンの家は大家族だったそうだ 兄や姉が合わせて14人もいて、その上ファルマンは3つ子だった。
 目の悪い母親は、子供たちを間違えないようにと、違う色の帽子を被せていた。
 青赤黄色、ファルマンは朱に近い赤だった。
 母親に甘えたかったファルマンは、帽子をめいっぱい高くかかげて目立とうとしていたそうだ。 
 ファルマンが5才の時、村に疫病が流行って沢山の人が死んだ。
 その中にファルマンの家族もいた。
「いや‥‥ ファルマン以外全員なんだがね」
 病気が蔓延したとき、不思議とファルマンは元気だった、そこで彼だけ、知り合いの家に預けられたのだ。
「ママが迎えに来たとき、この帽子がないと駄目なんだ!」
 家族が死に絶えてしまっても、彼は帽子を放さなかった‥‥ 何年も何年も‥‥。
「それで、赤い色にこだわってるのね‥‥」
「ううう‥‥かわいそうだよー」
 ファルマンの心の時計は、その日で止まっている。
 明日になれば、ママが迎えにきて、あの騒がしい大家族の日常に戻れると信じているのだ。

 ここはパリに近いアミオ家の屋敷である。
「レオニス殿!」
 レオニス・ティール(ea9655)が、ちょうど玄関から出てきたところだ。
「おや?」
 振り向くとマッカー・モーカリー(ea9481)である。
「ここがアミオ家じゃな。ファルマン殿の売った指輪は、すでに転売されておってな」
 その売却先が、この屋敷だったのだ。
「火事で行方不明の娘がいるそうですよ」
「ほほー いかにもじゃな」
 玄関の前で二人が情報交換をしていると、屋敷の裏門が開き誰かが出てくるのが見えた。
 中からは、用心棒風の男が5〜6人出てくる。
「では、いってきやす! アミオの旦那!」
「殺すなよ! どこで手に入れたか吐かせるんだ!」
「へい」
 リーダー格らしい男と、家の主人らしい者の会話が聞こえてくる。
 男たちの目的はファルマンだろう、捕まえて拷問し、女の居場所を聞き出す魂胆に違いない。
「慌てておるな、女はアミオ家の者で、間違いないようじゃ」
「そして、今の頭首には邪魔な、継承順位の高い人のようですね」
 二人は男達を追う。

「‥‥ふん、5年もたっていると難しいか」
 御玲 香(eb0168)は、朝早くから屋敷の廃墟、水車、村の周辺と、予定していた地域の調査をしていた。
 すでにその大半を終えている。
 残念ながら、女性に繋がる情報は見つかっていない。
「おや?」
 村の外からの街道を、馬で疾走してくる者がいる。
「レオニス!」
「あ! キミか! ちょうど良いところで会えた! 手伝ってほしいことがあるんだよ」
 馬上の者はレオニスだった。
 レオニスは馬からりると、香に耳打ちした。

「そろそろ合流の時間ですよ」
「え? あ‥‥」
 アニーは平馬に起こされて、はっとあたりを見回す。
 どうやら、一眠りしてしまったようだ。
「髪の長いお姉さんには会えました?」
「うーん、覚えてないなぁ」
「さぁ、行きましょう」
 合流場所である酒場前である、夕焼けが美しい。
 突然、酒場から勢いよく飛び出してくる者がいる、ファルマンだ。
「ねぇ! ママが迎えにくるんだよ! あー! もう水車小屋の前まできているかもしれない! また後でね!」
 そういってファルマンは走り去っていった。
 アニーは平馬が唖然としていると、中からドロテーが出てくる。
「どうでした? 塔は見つかったかしら?」
 店に入ると、ルナが奥で泣いている。
「どうしました? ルナ殿」
 返事がないルナの代わりに、ドロテーが平馬に答える。
「若い子にはちょっと酷な話だったの 後で話すわね。 それよりレオニスさん達は遅れるそうよ。後で屋敷跡へ直接来るんだって」
「じゃあ、ファルマンさんが戻ったら、出発ですね」

「おい! 間違いないんだろうな?」
 渡し舟が夕焼けの川を下っている。 中には6人のがらの悪い男達と、商人風のエルフ、そして小柄な船頭がのっている。
「水車村へ行きたいのじゃろう? それなら船が早道じゃよ」
 男達は、アミオ家からやって来た6人組である。
 船頭は黙々と船を漕ぐ‥‥
 大きな橋が見えてきた、上には貴族風の青年が一人たたずんでいるのが見える、レオニスだ。
「お客さん泳げるか?」
 小柄な船頭が、うつむいたままポツリと言う。
「いや、なぜだ?」
「じゃ、今度は練習しておくんだね」
 船頭は、そういうと上着をぱっと脱ぎ捨てる! なんと香だ!
「ではたっしゃでな」
 マッカーは、橋の真下まで来ると欄干へ飛びついた、香も足元の船底に空けた穴の栓をポンと抜くと欄干へとジャンプした。
「帰ったらアミオ氏に伝えるんだな! スキャンダルがお嫌なら、もうこの件から手をお引きくださいとね」
 沈み行く船の中で右往左往している6人に、橋の上からレオニスが笑顔で宣言する。レオニスが笑っている時が一番怖い。

 暗くなった。夜だ。
「出発しましょう」
 平馬を先頭に、それぞれ警戒を怠らず、屋敷跡へと進んでいく。
 屋敷跡へ近づくにつれ、なぜか全員ぼんやりとしてきた。
「なんか変だよー」
「寝不足じゃないわよね」
 ルナが泣き腫らした目で、周囲を警戒しながらアニーと話す。
 小川がある‥‥ まるで何かの境界線のように‥‥。
 小さな橋がある、ランタンの明かりに、水面がキラキラと輝く‥‥ 
 闇の中に輝く小川の反射、何気なく目が行ってしまう‥‥
 輝きは最初オレンジ色であったが、そのうち青や黄色の輝きが混じる‥‥ 町の明かりのようであり、星の瞬きのようでもある‥‥ その輝きが、振動し、回転し、自分の周りを回りだす!
「あ、塔だ!」
 ファルマンの声に、一同は上を見上げようとした‥‥ が、そこで意識が溶けてしまった。

 平馬は気がつくと、螺旋階段を上っている。頭がはっきりしない‥‥。
「ここはどこだ?」
「塔の中だよ」
 だれの後ろ姿だろう? 前を登っている者が教えてくれる。

「ありがとう! ほんとにありがとう! よく来てくれました!」
 髪の長い女性‥‥ ファルマンの言っていた美女に違いない。
 ファルマンの姿もある、幸せそうだ。
 今までの不幸など、どこかへ飛んで消えてしまったような表情だ!
「よかった」
 ドロテーはそうつぶやいた。

 これは何のスープだろう? ルナはふと手を止めてあたりを見回した。会食中だ、沢山のご馳走‥‥。
 さすが貴族の家だ、楽しい気分、いくら食べても減らないが、そんなことは気にならない。

 アニーは、楽しくダンスを踊る‥‥ 音楽が心地よい。
「ファルマンさん、ずっと一緒にいてくれますよね?」
「もちろんだよ! ああ、なんて安らぎだろう‥‥ 明日の朝には、僕のママや兄弟を紹介するよ! 沢山いるんだ」
「はい‥‥ きっと会えますよ 仲良く暮らしましょうね」
 急激にあたりが暗くなる、舞台の照明が落とされたように‥‥ 暗転。
「あ! まってファルマンさん! お姉さん!」
 アニーは闇の中を全力で進んで、二人を止めようとする。
「ありがとうございました‥‥」
 闇の中で声がする 心なしかそれは塔の上かどこか、高い場所から聞こえたような気がした。

「で、野原で寝てたって?」
 グリソム呆れた顔で、一同の話を聞いている。あれからどのくらい時間がたったのだろう?
 遅れてきたグリソムとレオニス、マッカー、香が合流し、遺跡の跡にやってきてみると、そこでは4人が倒れて眠っていた。
「みんな倒れてるからびっくりしましたよ」
「ファルマン殿はどこじゃ?」
 ルナが泣き笑いで上を指差す。
 ポト‥‥ アニーの目の前に何か天から落ちてきた。
「あれ? これファルマンさんの赤い帽子」
 見上げると満天の星空! ドロテーは手の届きそうな星に手を伸ばしてみる。
「ママが新しいのを作ってくれるのよ きっと」