紫色の子猫

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月30日〜06月04日

リプレイ公開日:2005年06月06日

●オープニング

「あー! またやっちまった!」
 空き巣見習いのこそどろサンチョは、散らかった室内で目が覚めた。
 目の前には弟分のペコスの大の字になって寝ている姿がある。
「おい! おきろペコス 俺たちまたやっちまったぜ!」
 サンチョはペコスを蹴飛ばすと、転がっている酒樽を苦々しく眺めた。
「あー おはよう! サンチョじゃないか? 元気か?」
 ペコスは寝ぼけ眼を擦りながら、のんきな事を言っている。
「馬鹿やろう! よく見ろよ! ボスの大切にしている酒だ‥‥ 俺たち昨夜酔っ払ったついでに、この酒まで飲んじまったらしい」
「あ‥‥ あー! やべえよー! 見つかったら大事だ!」
 二人は、二日酔いの頭を抱えて考え込んでしまった。
 ボスというのは、パリッレという男で、どちらかと言うと知能犯の詐欺師、百面相のパリッレで知られる、やはり泥棒である。
 サンチョとペコスの二人は、パリッレの名声に引かれて弟子になるために転がりこんだのだが、不器用でお人よし、とても詐欺などという上等な技は覚えられない。
 仕方なく、雑用兼空き巣の見習いとうことで、厄介になっている。
「高そうだなぁ‥‥ この酒」
「困ったな、俺たちは無一文だ、買って返すことはできねぇ」
「どうする? サンチョー」
「う うーむ」
 一応、兄貴分であるサンチョは、こんなとき、画期的なアイディアを思いつかないとしめしが付かないと焦った。
「お! そうだ! 閃いたぜ!」
 普段は何も出てこないのだが、昨晩いい酒を飲んだだけあって、今日は珍しく名案が閃いた!
「猫だよ!」
「へ?」
「ほら、少し前に聞いただろう、隣町のフェージって商人のところに金貨100枚もする猫が二匹、買われて来たって」
「ああ‥‥ あったな、そんな話」
「ちょっと耳かしなー」
 二人しかいない室内、耳打ちに意味があるとは思えないが、サンチョはもったいぶって計画を打ち明けた‥‥。
「摩り替える?! 猫を!」
「そうだ! ほら、ボスがこの前手に入れてきた立派な置物の猫があったじゃねぇか! 金貨50枚だったよな!」
「ああ」
「それを100枚の猫と取り替えてしまうのさ! 置物もちょうど2匹あるし うまく行けば合わせて金貨100枚の差額だ! ボスも喜ぶぜ!」
「さすが兄貴だ! まるでボスみたいだなぁ」
「はははぁ! そうともさ! おれもボスみたいに変装するか! ボスの服に占い師のがあったよな」
 サンチョは得意絶頂である‥‥。

「猫の世話ですか?」
「そうじゃ!」
「4日ほど家を空けるのでな、使用人はあいにく風邪で暇を取っておる」
 ここは冒険者ギルド、異国風の衣装をまとった小柄な老人が、姿に似合わぬ大声で受付と話している。
「猫が好きな冒険者も多いですからね‥‥ まあ、暇つぶしにやる人もいるでしょう」
「暇つぶし? とんでもない! 金貨100枚もした猫じゃぞ! それも二匹じゃ! 真剣にやってもらわねば困る!」
 男は、仲買商人のフェージと名乗った。
 新しい物好きらしく、服装も装身具も外国の物や最近の少々珍しいものばかりを身に着けている。
「最近、外国の商人から買い取ったのじゃが、貴重なのはこれから生まれてくる子供なのじゃよ」
 フェージは、目を輝かせて、聞きもしない猫の説明をしだした。
 つまり、この猫、その外国の商人の話では、紫色の子猫を産む、世界でも珍しい猫なのだそうだ。
「は? 紫色の子猫? 聞いたことありませんね」
「ふふふん! 冒険者ギルトでもまだ知られておらぬのか! やはりわしの目に曇りはないな!」
 フェージの商人的勘では、この紫の毛を持つ猫は、愛好家の間で爆発的に売れるはずなのだそうだ。
「まさに千金を産む猫というわけじゃな! なので真剣にやってもらわねばならぬぞ! 腕利きを頼む!」
「はぁ‥‥ まあ、そこまで仰るのでしたら、募集してみましょう」
 フェージは、手続きを済ませると、猫の部屋の鍵を預けて、今の事は他言無用だと念を押した。
「鍵は持ってなくて良いのですか?」
「ああ、この鍵は3本あってな、わしも一本持っておるから大丈夫」
「3本? 後一本は?」
「猫の主治医、獣医博士パレッリ殿がもっている、そうそう依頼の最後の日に往診に来るので失礼のないようにな!」
 フェージはそういうとギルドを後にした。

 一時間ほどして、今度は髪の短い活動的な感じの少女がギルドを訪ねてきた。
「今、父さんがきてたでしょう? フェージって言うんだけど‥‥ 猫がどうのって」
「え、ええ 娘さんなんですか?」
 まったく共通点の無さそうな親子だが、そういえばどことなく雰囲気が似ているかもしれない。
「もう猫の世話に来る人、決まりました? 私も家にいるんで、どんなひとかなぁってね」
「これから募集ですから、まだ決まっていませんよ」
「そう‥‥」
 娘はレレミーといい、フェージの6人の娘の一番下だそうだ。当日の4日間、家には冒険者と彼女、そして猫だけになる。
「あの‥‥ どう思います? 父さんの話」
「どうって?」
「騙されてるんじゃないかなぁ 紫色の猫だなんてね 父さん信じやすいから 売りに来た旅の動物商人リレッパって人も胡散臭かったし」
 レレミーは猫ではなく、父親の心配でここに来たらしい。
「うーん、では、冒険者にそれとなく頼んで見ましょうか? 何かわかるかも知れませんよ」
「そうですね、お願いします」
「何かほかに気になった点とかありますか?」
「えーと‥‥」
 レレミーは、売りに来た商人も怪しかったが、往診にくる猫の医者もインチキ臭いと言う。
「ローマの生まれだって言うので、今頃ローマは暑いですか? って聞いたんですよ」
「はい」
「そしたらね‥‥ ローマは砂漠だから暑いの何の! 水が年中不足しているだ。だからローマの猫はラクダのようにコブがあるんだ! ‥‥って言うんですよ」
 獣医博士カパレッリと言うのは動物専門だと言うわりには猫の扱いが下手で、いつも逃げられているらしい。
「変でしょ? それに、どっかで会ったような気がするのよねー。あのお医者様」
「昔の知り合いか誰かとですか?」
「いいえ、最近家に来たほかのお客よー うーん、最近のお客様と言えば‥‥古くからの出入りの商人だけよねぇ‥‥ ああ、猫を売りに来た商人もいたか‥‥ああ、あの人に似てるんだ、動物商人のリレッパ‥‥」
「わかりました、冒険者には念を押しておきますね」
 レレミーは、礼を言うと家へと戻った。

 帰り道、家の前で占い師に呼び止められた。
「わしは預言者だー! お前の家の猫は近いうちに石になってしまうぞ!」
「?」
 レレミーは無視して家に入ろうとする。
「天窓を開けておけ! 月明かりに十分に当たれば、石にはならないであろう!」
 レレミーは、振り向いて占い師を見る。
「天窓だぞ! わすれるでないぞー!」
 レレミーは無言のまま家に入っていく‥‥。
「うまくいきましたね 兄貴!」
 物陰からペコスが現れる。
「ああ、びびっていたぞ! さあ、縄梯子の用意だ」

●今回の参加者

 ea3184 ウー・グリソム(42歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea3413 フィリア・ブローニング(33歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 ea8574 常倉 平馬(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb2610 ラトーヤ・ルイン(32歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「本当に、紫色の子猫が生まれたらすてきよねぇ〜」
 フィリア・ブローニング(ea3413)は、メス猫ティターニアを胸の上に乗せると、仰向けにねっころがった。
 天地が逆さま、天窓からは白い雲が見えている。
「ニャー!」
「ティーちゃんも、そう思うのー? 子供ができたら一匹もらおうかなぁ‥‥」
「売値は金貨300枚じゃそうじゃよ」
「えー!」
 猫じゃらしの紐をもって、これまた遊ぶ気満々のマッカー・モーカリー(ea9481)が部屋に入ってきた。猫の背後に回る。
「ティターニアはおとなしいのう。そりゃ! そりゃ! そう言えば平馬殿は?」
「屋敷の周りをパトロールするって言ってました」
「あいかわらず、色気のない男じゃのう」

「遊んでるんじゃないのよー」
 ラトーヤ・ルイン(eb2610)は、外壁や中庭を中心に侵入できそうな場所を見て回っている。
 動物商人や、偽医者はすでにここに何度かきているので、壁や扉に細工がしていないとは限らない。
 もちろん‥‥念のためである。間抜けな詐欺師達が、そんな手の込んだことをしているとは思っていない。
「ひゃは! ちょっとちょっと」
 しゃがんだり背伸びしたり、壁に耳をくっつけたり‥‥ ラトーヤの行動は、オス猫オベロンの大いに興味をひくところであったらしい。
 背中の上に飛び乗って駆け回り、髪の毛にじゃれ付く!
「痛いよー!」
 一度は飛び降りたが、目は爛々と光り、少し距離をおいて尾行を開始した。獲物を追う格好だ。

 屋敷の裏手には大きな川が流れている、セーヌ川である。
 そのほとりを、常倉 平馬(ea8574)は警戒していた。
「あーん! 背中から降りてー!」
 壁越しにラトーヤの悲鳴が聞こえてくる‥‥。
 平馬はべつだん猫が嫌いなわけではない。自分もちょっとは遊んでいたいのだが、見たところ、屋敷にいる者は全員猫にメロメロである。
「対岸も調査いたそう」
 平馬は、少なくとも一人くらいは、常時、気を張っておくべきだろうと思うのであった。

 夜‥‥
 静まり返った屋敷、レレミーの部屋の明かりも消えたようだ。
 月明かりが、暗い室内に天窓の形に差し込んでいる。建物の雰囲気も相まって、どこか異国に迷い込んだような錯覚を覚える。
 暗闇の中には、平馬とマッカーが息を殺して隠れている。
 そして、長椅子にはラトーヤが眠っている。
「美しい人ですね」
「うん? おおラトーヤ殿か、そうじゃな」
「まるで人形のようだ‥‥」
「うむ、じゃがこれで、おぬしより年上じゃというのだから世の中わからぬものよ」
「え? ああ、そうでしたね」
 そのとき、屋根の上でカタリ‥‥と音がする。

「来た‥‥ 足音は2人 真上です」
 正座していた平馬が薄目を開けて、つぶやいた。 ‥‥と、途端に!
 ドタドタドター! ガターン! バターン! ドボーーン!!
「わー! サンチョー!」
 どうやら、賊の一人は平馬の撒いておいた油で滑って、裏のセーヌ川に落ちてしまったらしい。
「まってろサンチョ! 今助けるぞー! あー!」
 バリバリ!! ドシーン!!
 残った一人は、大慌てで戻ろうとしたが、誤って天窓を踏み抜き落下してきた!
「わ! なに?」
 眠っていたラトーヤが、音に驚いて、跳ね起きる。そして‥‥
「シャドウバインディング! って‥‥泥棒ですか?」
 音のする方向にいる黒い影に向かって魔法をかける!
「ラトーヤ殿! 見事じゃ! だれか明かりを!」
 明かりが灯される、天窓の真下には顔に煤を塗りつけた、ペコスが白目をむいて気絶している。
 皆が集まってきた。
「狸寝入りではあるまいな?」
 平馬が油断なく構えながら近づく。
「大丈夫ですよ 魔法もかかってますから動けません」
「そうですか、でも念のため縛り上るといたそう」
 平馬は、こういう時、用心を怠らない。
「一人川に落ちたようじゃったな そうじゃ ラトーヤ殿はフィリア嬢を起こしてきてくれるかの? 怪我をしてるかもしれぬ」
「はーい」

 油で足を滑らし、高い屋根の上からまっ逆さまに川に落下したサンチョは、やっと意識を戻した。
 冷たい水の中に落下したはずなのだが、なにやら心地よい。
「あ! 目が覚めましたね 気分はどうですか? 痛いところはありませんか?」
 目を開けるとフィリアが天使のように微笑んでいる。
 右腕に鈍痛があったが、どうやらすでに治療された後のようだ。
「い、い、いやないです」
 隣にはペコスも寝かされている。
 普段、女の子に相手にされないペコスは、フィリアに親切にされて真っ赤になっている。
「どうじゃ、話してみぬか?」
「へ? 何を?」
 マッカーが、いかにもわけ知り顔で、突然話を切り出した。
「話してみろ、悪いようにはせん!」
 なんだかよくわからないのだが、マッカーはえらく親切で、サンチョとペコスの境遇に同情する。
 それにつられて、二人はついつい、今回の詐欺の経緯や今までの人生について話をしてしまう。
「ボスが変装の名人で詐欺師、それで、今回は医者と商人に化けているって言ったわね?」
 横で聞いていたラトーヤが、ボスの話になったところで口をだした。
「そうです! ボスはパリッレ様っていうんですよー」
「はぁ、商人ね‥‥それに医者ね‥‥なんかわかっちゃったなぁ」
 話が一通り終わる。
「なぁ! 役人には突き出さないでくれよー 将来大泥棒になったら、沢山お礼するからさー!」
「5年! いや10年まってくれ! そしたらバケツ一杯宝石をあげるよー」
 二人は少々論点のずれた懇願をする。
 マッカーとラトーヤはなにやら小声で相談をしていたが‥‥。
「わかりました 逃がしてあげます!」
 ラトーヤが、にっこりと屈託のない笑顔で二人に告げる。
「わしらは偉く同情しておるのじゃ。猫も石の猫の置物と交換してやろうかの」
「ええ! やったなー! サンチョー! あれ? 石の猫は?」
「あ! しまった! 川の中だ!」
 二人は縄を解いてもらうと、服のすそをたくし上げて、まだ朝日の昇らぬ冷たい川へと入っていった。

「私は反対です!」
 フィリアは、二匹の猫を両脇に抱えると猛然と抗議する!
「あのね、大丈夫よ、あの泥棒2人組を尾行してくれます?」
「なるほど、アジトごと一網打尽というわけですか」
 やはり反対であったらしい、平馬もそう言って納得した。
「あったぞー!」
 川の方でサンチョの声がする、どうやら見つけたようだ。

「いやはや、遅れたな!」
 サンチョとペコスが猫を大事そうに連れて去った後、まる一日遅れてやってきたのはウー・グリソム(ea3184)である。
 いままで、ずっと調べ物をしていたのだ。
「リレッパって商人は、パリにはいない! 少なくとも商票はもってない」
 今回は貴族でもなんでもない、一商人の素性であったためグリソムとしても、かなり苦労したようだ。
「しかし収穫はあったぞ」
 グリソムの調べでは、以前詐欺師のパリッレという男が、半年ほど服役していたことがわかった。
 罪状は詐欺未遂で、リレッパという名前で役人を装い、ある村で賄賂を要求したらしい。
「そこで、本物の役人とばったり会ってしまったらしいな」
「さすが、あの二人の師匠ですね、今度も同じ名前を使うなんて‥‥」
 ラトーヤは呆れてしまっている。

 扉を開けると、立派な口ひげを蓄えた背の高い紳士が立っていた。
「獣医博士パレッリ殿ですな?」
「左様」
 グリソムは、そ知らぬ顔でレレミーの部屋へとパレッリを案内した。
 部屋にはいると、ラトーヤが涙ながらに出迎えた。
「大変なんです! 先生! 猫ちゃんが! 猫ちゃんが!」
「君はだれだね?」
「え? 私はレレミーの従姉妹でヤートラって言います! そんなことより先生! 早く診察を!」
 パレッリはせがまれるままに、猫の籠の横へとやってきた。
「な! ‥‥なんだこりゃ!」
 パレッリは口をあけたまま立ち尽くしてしまった!
 石になった猫が横たわっているではないか! ‥‥いや、そうじゃなくて、これは先週金貨100枚で泥棒仲間からで買ってきた、猫の置物だ!
「なぜこんなところに?」
「なにか言いましたか? 先生?」
「いや‥‥なにも‥‥」
 パレッリは真っ青になる。
「先生? どんな奇病なんでしょう?」
「う‥‥うむ」
「ねぇ ねぇ 先生?」
「ちょっとトイレ‥‥」
 パレッリは廊下へと出た。

「お帰りかな?」
 いつの間にか、平馬がパレッリの後ろにたっている。
「う」
 サーと、背筋に寒いものが走る‥‥これは殺気だ!
 ‥‥殺される! 詐欺師パリッレの膝がガクガクいいだした。
「そ! そうだ! 日時計通りのなんとかという店が、猫の置物を盗まれて、買戻したがっていたな! 家宝なんだそうで、相場の2倍で買い戻すとか言ってたぞ! で‥‥では失礼!」
 大慌てでパレッリは出て行った。

 しばらくして、泥棒たちのアジトを見張っていたフィリアが2匹の猫を連れて帰ってきた。
「サンチョとペコスさん、猫を返してくれましたよ! 顔がアザだらけでしたけど‥‥」
「あはは」
 姿を想像してラトーヤが吹きだす。

 後日、フェージ氏は大喜びである!
「言われた店へ行ってみたら、石の猫を一体金貨100枚で買ってくれましたぞ! 損害ゼロだ! わははは!」
「ところで、フェージ殿、金の卵を産む鶏の話しをご存知か?」
「な‥‥なに? 金?」
「左様、左様、今なら金貨100枚‥‥」
「駄目ですよー そんな冗談!」
 フィリアがそう言って大笑いする、その場の皆も笑った。
 しかし、グリソムは思った、マッカーめ、本気だったな‥‥と。