山賊の息子
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■ショートシナリオ
担当:白樺の翁
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月07日〜06月12日
リプレイ公開日:2005年06月14日
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●オープニング
西日の強い午後。
12才になったばかりのアダンは、宿屋に届けられた彼宛の荷物を開きかけて躊躇していた。
「どうしたの? アダン。お母さんの荷物は調べたの?」
2つ年上のレピンが本当の姉のように心配して声をかけた。
「ああ、うん、これから見るよ」
少年は動揺していることを隠そうと、笑顔を作ると笑いかけた。
レピンが、アダンをつれて冒険者ギルドにやってきたのはやはり西日の強い午後であった。
戸を開けると二人の長い影がギルド内へと伸びる。
「すいませーん! えーと、どこに並べばいいですか?」
「こちらに来てください! 並ばなくても大丈夫ですよ!」
受付に呼ばれて、2人はカウンターまでやってくる。
やや内気そうに見えるアダンは、なにか小さな包みを大事そうに抱えていた。
「ご依頼ですか? お届け物か何かでしょうか?」
「いえ 護衛と人探しです」
レピンとアダンは受付に自己紹介すると早速本題を切り出した。
「このアダンの父親を探してほしいのと、その父親からアダンを守ってほしいんです」
アダンは言ってみれば孤児であった。
彼の母親は山賊の一味で、たまたまアダンを連れて、食べ物を調達に村に降りてきた所をつかまったらしい。
母親は山賊といってもたいした罪状もなかったのだが、仲間のことを一言も言わなかったために、15年の流刑となった。
当時1才だったアダンは行き場がななかったため、その村の宿屋が引き取った。レピンの家である。
「でもね、アダンはあたしの弟だよ! 誰がなんと言っても弟! なんだけど‥‥」
おそらく、虐めっ子達に今まで何度となく宣言してきたらしい台詞を胸をはって公言するレピン。
「この前ね、この子の母親が流刑地で死んだの。 遺品が届いたんだけど、その中に何通か手紙が入っていて‥‥」
「これは父さんからの手紙です。 間違いないと思います」
今まで黙っていたアダンが、抱えていた包みから2通の手紙をだした。
一通目の手紙はアントンという名前の男からのもので、アントンはどうやら、山賊の親玉らしい。お前のお陰で全員が逃げられたこと、なんとか助け出す算段をしていること、そしてアダンの双子の姉のゲルダも元気であることなどが書かれていた。10年ほど前の日付が記されている。
「こっちは去年の夏です」
二通目は、そのゲルダという少女が書いている。10年の歳月の間にアントンは落ちぶれてしまい、手下に裏切られ、殺されかけた挙句重傷をおい、歩くこともままならない状態で、山の中の洞窟に隠れ住んでいるという‥‥。
「アダン君には双子の姉がいたんですね?」
「うん アダンの姉はあたしの姉妹だよね? ほら、女の子同士の話とかもできるし、兄弟が増えるのって悪くないと思うの」
レピンは少々複雑な思いがあるようだが、悪く思ってはいないようだ。
「父さんは困っているようなんです! 山賊だから自業自得なんだろうけど‥‥」
「息子としては、ほおっておけないんだって。 だから一緒に探すのを手伝ってください」
レピンが頭を下げると、アダンも一緒になって深々とお辞儀をした。
「え‥‥ええ、それはわかりました。で、その間の護衛なんですか?」
「いえ、実は大体の場所もわかってます。手紙ではわかりにくく書いてますけど、父に聞いたらその洞窟、1日あればいける距離だそうです。10年前山賊の隠れ家だった場所なんだそうで、舞い戻ってきたんですね。で、問題なのは‥‥」
つまり、レビンが心配しているのは、会いに行く父親本人である。
「アダンは大丈夫だって言ってますけど、あたしは心配です! 体を悪くしていると言っても、山賊を引退したとは手紙にも書いてません!」
頼りない弟をもった姉貴としては、それが実の父親であっても心配なものは心配なのだ。
依頼料金は、レピンの両親が快く出してくれたと言う。
つかまった山賊の子供を、自分の子供として育ててしまう親である、レピンの態度をみてもなかなかの人物に違いない。
「当日はあたしもついていきます! アダンはまだ子供だから心配です」
手続きをしながら、そういうレピンに受付は苦笑した。
●リプレイ本文
「まったく、ひでぇ道だな!」
カエン・ヴィールス(ea1727)は穴だらけで、手入れのされていない道を歩きながら文句を言った。
「これでは馬車の車軸が傷んでしまう 行商達に不人気なわけですな」
常倉 平馬(ea8574)も馬の足を案じながら相槌を打つ。
「ああ 宿屋が見えてきましたよ」
ジュリアン・パレ(eb2476)の指差す方向に、平屋の大きな建物が見えてきた。
「よく来られましたね 酷い道だったでしょう」
人の良さそうな、小柄な宿屋の主人がにこやかに迎えてくれた。
宿は思ったより繁盛しているようで、出てきたレピンも、ちょっと挨拶すると、すぐにお客の接待で飛んでいってしまった。
「実はこの宿の前の山道、主要街道を通るより半日ほど早道になるんですよ。道さえ良ければねぇ」
ここの領主は、無頓着なのだろうか? 道だけでなく橋の傷みも酷い。
翌日、まだ暗いうちに依頼人の子供2人とともに洞窟へと出発する。
調べ物で、一日遅れてきたウー・グリソム(ea3184)が、宿の前で合流した。
昨晩の宿代はただだし、夕べの料理は絶品であった。さらに朝と昼の弁当がサービスされる。
黒パンにチーズと野菜を挟んだ粗末な物だが、これも味はなかなかである。
「なんだ そんなにサービスが良かったのか? 私なんか徹夜行軍だぞ」
「いつもすまんのう。ほれ、おぬしの弁当じゃ。で、調べ物の首尾はどうじゃった?」
マッカー・モーカリー(ea9481)は、弁当の包みをグリソムに手渡す。
「うむ! このあたりの領主ブロッシュ卿は、ひどい無能領主だな! いや‥‥ 大馬鹿者と言うべきかも知れん!」
10年前のアントン群盗団の壊滅以来、この辺りでは夜盗や盗賊の話をほとんど聞かない。貴族の間での評価は高いだそうだが。
問題はその遣り方だ、有力な賊が現れるとその主だった者を懐柔して役人にしてしまうのだ。
結果悪政がはびこり‥‥結果は見ての通りだ。
一行は、山道を半日ほど歩く。
「む‥‥ 止まれ! 罠じゃ」
マッカーの声に、全員に緊張が走る!
「落とし穴か?」
もう一人のレンジャー、グリスムも前へやってきた。
「いや、そんな可愛いもんじゃないのう この紐の先を見て見るのじゃ」
「うーむ こりゃ大掛かりだ」
10mほど離れた藪の中に二箇所、仕掛け弓が二列並んでいる‥‥ それぞれ20本ほどが列をなし、Vの字形に設置されている。
「さらにじゃ、この罠に気づいて迂回すると‥‥」
道の脇にも別の紐が隠されている、どこに繋がっているのやら‥‥。
と、その時、警戒していた平馬が叫けぶ!
「伏せろ!」
一本の矢が、列の中央付近にある大木に突き刺さる!
「それ以上進むな!」
女の声だ‥‥それもまだ幼い。
「ゲルダ殿ですね」
周囲は鬱蒼とした森、向こうからはこちらが見えているようだが‥‥
「我々は怪しいものではない!」
平馬は、ゆっくりと立ち上がり、両手に武器がないことを見せると、今までのいきさつを話し始めた。
「ここにアダン殿もいる! 姿を見せてくれ!」
しばらくの沈黙‥‥。
「帰れ!」
今度はジュリアンが立ち上がり、辛抱強く説得し始めるが‥‥ スパン! と軽い音とともにジュリアンの足元に矢が突き刺さる。
「帰れ! 今度は当てるぞ!」
伏せたままのマッカーが、カエンをつついて一方を指差す。
その方向には、苔むした大きな岩があり、その後ろの若木が一本かすかに揺れている‥‥。
「あそこか‥‥ わかんねぇ娘だな!」
カエンは、武器をほおり出すと立ち上る。
「丸腰だ! 今からそっちへ行くぞ! 殺りたけりゃ殺れ!」
革鎧の胸具をはだけると、カエンは、自分の心臓を指差しながらずかずかと岩へと突進する。
「カエン殿! また無茶なことを!」
その後を平馬が追う。
「キャー!」
そのとき、岩の後ろ側で悲鳴が上る! 全員がその場へと殺到した。
岩のすぐ後ろは沢になっており、見ると若い娘が足を滑らせたのか下に倒れている。
どうやら、カエンの気迫に驚いて足を踏み外してしまったらしい。
「心配ない! 足を挫いただけだ」
助け起こしたカエンが叫ぶ。
アダンとゲルダの再会には、あまり言葉は要らなかった、なにせ二人は鏡に映したように良く似ているのだ。
ジュリアンが二人の間に入り、なにか優しげに諭している。
ゲルダがうなずき、アダンもうなずいた‥‥。
抱き合い、涙声で再会を喜ぶ二人。
その姿を寂しげに見つめている眼差しがある、レピンである。
「私にも血の繋がらない妹がいてね」
レピンの肩に手を置くと平馬がやさしく語りかけた。
「複雑な気持ちでしょう でも、二人ともレピン殿の兄弟ですよ! さあ、姉御風を吹かせてきなさい! 二人もそれを待っているはずです」
「でも‥‥」
「経験者が言っているのですよ 間違いありません!」
平馬はやさしく微笑むと、背中を軽く押してやった。
盗賊の親玉の隠れ家は、そこから10分ほど歩いた場所にあった。
「だれだ!」
洞窟の中から、錆付いたソードを構えた男が出てくる。アントンだ!
身長は立派だが、痩せこけて、肌は土気色だ。
「おやじ! 寝てないとだめだ! 冒険者の人達だよ‥‥信用できる、心配ない」
ゲルダが父の様子に慌てて説明した。
「俺を捕まえに来たのか!」
「落ち着け! それに、アダンが来てるんだ」
「アダン?」
アントンは武器を落とすと、手探りで歩みだす。
「お父さん? もしかして‥‥ 目が見えないの?」
「ア‥‥ アダンか?」
ふらふらと進んでくるアントンに、たまらず手を貸すアダン! その顔を両手でまさぐるアントン。
「はは‥‥ でかくなったなぁ! 母さんが戻ったら迎えにいこうと思ってたんだ!」
アントンは10年前の傷がもとで、歩けない上に両目の視力もほとんど失っていた。
アダンの母の獄死の情報は、彼を慕ってやって来るきこりから聞いたそうである。
親子3人の再会、涙の再会だ。
「後で‥‥ね」
レピンは平馬の袖にしがみつくと小声で言った。
「さて! 飯にするぞ! そう思って用意してきたんだからな!」
ころあいを見計らって、カエンが景気の良い声を上げる。 早速料理の準備だ。
「兵食に毛が生えた程度の味だが、文句は言わさん!」
30分ほどして、カエンのワイルドな料理が出来上がった。
最初、無口だったアントンも、もともと気さくな性格なのだろう。しだいに話し出す。
いろいろ話すうちに、マッカーが盗賊の宝などという話を出す。
アントンは何か思い当たったらしく懐から何か出す。
「盗賊の宝です」
それは小さな箱であった、大盗賊の財宝にしてはいささか小さい。
中から出てきたのは、薄汚れた羊皮紙だ。
文字が書き込まれ、この地の領主のサインもある‥‥
そこには、減税の確約、道路架橋の修理、臨時徴収や役人の個人的使役の禁止など、土地の農民たちにとってはすばらしい条件が書き並べられている。
「これは?」
驚くグリソムに、アントンは話し出した。
アントンも最初はただの盗賊だった。
ところがある日、一人の女性を誘拐した事から人生が一変した。
彼女は、アントンに農民の貧窮、貴族達の贅沢、そして役人の横暴について分かりやすく諭した。
最初は、うるさいとだけ思っていた言葉が、そのうち心の中で大きく重くなっていった。
「俺も貧農の出で、貧乏や餓えは良く知っていたし」
彼は変わった! 金持ちの屋敷を襲撃し、役人達を脅迫した。周辺の諸山賊を集めて、領主の屋敷を包囲した事もある。
「そしてとうとう約束させたんだ!」
領主は、確約の証に、この誓約書を書いた。 ‥‥だが、それは彼を誘き出す罠だったのだ。
受け取りに行った彼は、買収されていた手下に裏切られ、仲間達のほとんどを殺され、彼もこのような有様となった。
「天罰ですよ‥‥ 調子にのった罰だ。そしてジルまで失ってしまった」
ジル‥‥ アントンをただの盗賊から義賊に変えようとした女、そしてアダンとゲルダの母親の名前である。
「しかし、この誓約書があれば」
平馬がそう言いかけた時、グラハムが首を振る。
「サインのスペルも微妙に違うし、刻印も偽物だ」
偽物をつかまされた時点で、アントンと仲間達の落日は決まっていたのだろう。
翌日、アントンを説得した一同は、レピンの宿へ彼もつれていく事になる。健康状態が心配だ!
担架を作り、アントンを乗せる。
街道までたどりついた所で、偶然、役人の数人と出会ってしまった。
「止まれ! 見ない顔だな!」
「我々は旅の商人じゃ」
マッカーがすかさず、商業用スマイルで応対する。
「山賊の残党が隠れているという噂がある! なんだ? 病人か? 顔を見せろ!」
担架のアントンの所までやって来た役人は、毛布を剥ぎ取ろうとする!
「待ちなさい! この人は重病だ! 早く運ばねばなりません! 私は神聖騎士として神に命を捧げています。その私が、この者は賊とは関係ないと言っているのです。 それでもお疑いか?」
ジュリアンは役人の目を正面から見る。
「くそ忌々しい! さっさと消えろ!」
役人は目をそらすと、吐き棄てるようにそう言って、その場を立ち去った。
レピンの宿屋では、その両親によって親子は暖かく迎えられた。
手際の良いレピンの父親は、アントンが座ったままできる仕事まで手配していてくれる。
「もし将来‥‥」
あの誓約書に書かれていた事が実行されれば、この宿屋ももっと繁盛し、アントンも胸をはって生活できるだろう‥‥ マッカーは、そう思った。