偽りの復讐劇

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月13日〜06月18日

リプレイ公開日:2005年06月21日

●オープニング

 メーリルは、足早に歩きながら後悔していた。
 いつもの様に、パン屋により、知り合いの雑貨屋によった。雑貨屋の娘は同じ年で、新しく手に入れた青い服の布地の話で、大いに盛り上がってしまった。
 気がつけばこんな時間である。 帰り道、パリとはいえ、路地は暗い。
 突然、暗がりの中でうずくまっていた影が立ち上がり、前に立ちはだかった!
「きゃ!」
 メーリルは恐怖のあまり棒立ちになってしまう! 追いはぎだろうか? 手に武器は持っていないが、突き出された手はごつごつとして大きく、メーリルくらいなら簡単にひねり殺せそうだった。
「ああ‥‥ なんてことだ!」
 しかし‥‥ 驚いたことに、男の口から発せられた言葉は、脅しの文句ではなく、か細い涙声だった。
「イリールじゃないか! まさか‥‥ まさか、また会えるなんて!」
 あまりの突然の出来事に、メーリルは、何がなんだかさっぱり理解できない。
 男は、一歩近づくとメーリルの手を握った。
 メーリルは半分飛び上がると、脇に抱えていた荷物を落としてしまう。
 しかし、なぜ? どういうことなのだろう?? 男は、そのまま黙っている。
 暗くて顔はよく見えないが、ほほを涙が伝っているのが見える‥‥ そして、あの名前‥‥ イリール ‥‥ その名前はメーリルの死んだ母親のものであった。


 一月ほどしたある日、大きなお腹を揺すって一人の男が冒険者ギルドにやってきた。
「ああ、お前! 係りだな! 護衛を頼みたい! 腕に覚えのあるやつだ!」
 男の名は、グノームという。 仕事は金貸しである。
 受付はいきなりの命令口調に、一気に悪印象を受ける。
「護衛のご依頼ですか?」
「そう言っただろう? 耳がわるいのか?」
 困ったのが来たな‥‥ 受付はそう思いながら、笑みを返しておいた。
「グドー・ジェールという凶暴な男が外国から帰ってきて、俺達を脅迫してきた」
「俺‥‥達?」
 グノームは受付を睨み付けたが、咳払いをひとつすると説明する。
「俺とレイトンだ。昔馴染みでな、昔一緒に仕事をしていた」
「脅迫の内容は?」
「‥‥言いたくない!」
「はぁ そうですか」
 依頼の内容は、彼の屋敷の警護である。
 その友人のレイトンと、ジェールから身を守るために、パリを離れて新しく買った屋敷へしばらく身を隠すのだという。
「できたら、グドーが姿を現したら殺してくれ!」
「ああ、そういうご依頼はちょっと‥‥」
「ふん! 駄目なのか? ‥‥しかたない、それは別口で‥‥」
「はい?」
「いや、なんでもない! 依頼は護衛だ! 頼んだぞ!」
 グノームは手続きに取り掛かる、金貸しだけあって書類にはうるさい。
 そこへ、ひょっこりと一人の少女が入ってきた。
「うん? どうした? メーリルこんなところに?」
「ああ、お父さん 護衛を頼みに来たのね?」
 メーリルは、グノームの一人娘である。
「お店にお客さんが来てるわよ」
「なんだって?」
「その書類、私が書いておくから、お店に戻ったら?」
「ふん! ‥‥」
 グノームは大きく鼻を鳴らすと、娘に書類を託して、足早にギルドを去った。

「こんにちわ」
「あ、はい、えーとグノーム様のお嬢さん?」
「はい、メーリルといいます」
「では、手続きの続きを‥‥」
「ああ、待ってください! そのですね‥‥ ちょっとご相談が」
 メーリルは、ギルドの裏口へ回ると、そこから一人の男を連れて戻ってきた。
「グドー・ジェールさんです」
 メーリルは、その男を紹介する。
「え? さっきお父様が言ってた凶暴な男‥‥ですか?」
 背が高く、がっしりとした体格をしているが、全体的に温かみを感じる人物である。
「一月前に、道で偶然お会いして‥‥少々話が複雑なんですけど、聞いてもらえますか?」
 メーリルは、グドーに目で了解を取ると話し出した。
 話は、16年前にさかのぼる‥‥ 当時グドーはある貴族に雇われた役人だった。
 算術と剣技の両方に秀でていた彼は、貴族の領地内で税金を集める徴税隊に所属していた。
 そこには、隊長としてレイトン、付属の徴税官としてメーリルの父親グノームがいた。
 彼は新参者だったが、領主の引き立てもあって、すぐに副隊長になる。
 徴税隊は徴税官長ボロックの配下であったが。彼には、イリールという一人娘がおり、グノームもレイトンもお近づきになろうと躍起になっていた。
 しかし、グドーは気がつかなかったが、彼女の心はグドーにあったらしい。
 そんな事もあり、グノーム達には、グドーは最初から邪魔だったようだ。
 そして運命の秋がやってきた。
「税金は毎年、秋の終わりに集めるのですが、その年は最初からおかしな事ばかりでした」
 グドーは、メーリルの話の合間に、静かな声で付け加えた。
 徴税官長ボロックは、その年に限っていくつかの新しい税金を導入した。 窓税とか井戸税、靴税などだ。
 領主からの指示もなく、告知もない突然の増税に領民は反発したが、レイトンが強引に集めてしまった。
「私は、もちろん抗議したんですが‥‥」
 彼の話は取り上げられず、逆に縛り上げられて詰め所に閉じ込められてしまった。
 そして‥‥ 二倍近くに膨れ上がった、税金は、領主の屋敷へ輸送する途中‥‥ 忽然と消えてしまう。
「翌日、私は税金強奪犯になっていました」
 グドーはニコリと笑うと人事のように言う。
 即刻、領主の前で、裁判が行われた。
 グノームとレイトンは、二人で口裏を合わせてたうえ、黒幕がボロックだったので、すべてをグドーへ擦り付けるのは簡単な事だった。
「領主様は良い方で‥‥まあ、私の話は信じてはくれませんでしたが、財産没収と領地外退去だけで許してくれたんです」
「でも、酷いと思いませんかー? 血が繋がった父だと思うと、なおさら許せない!」
 メーリルは父親のさっき出て行ったギルドの出入り口を横目で睨みながら言った。
「そうですね‥‥ で、ご相談というのは?」
「あ、はい」
 メーリルは、手紙を取り出した。
「父が言ってた脅迫状です。 私が書きました。 これ、お芝居なんです! 父やレイトンおじさんを懲らしめてやってほしいんです!」
「いやー、私はもう恨んでませんけどね 追い出された後、外国を回り、それなりに楽しい16年間でしたし‥‥」
「グドーさん優し過ぎだよー! 悪い奴はちゃんと後悔させてやらないと!」
 正式な依頼は、こうである。
 グノームとレイトンの二人の護衛をするふりをして、ありもしないグドーの復讐劇を演出して、騙した事を大いに後悔させてやる事である。
「これを機会に、父には真人間になってもらいます! グドーさん! 必ず謝らせますからね!」
「メーリルちゃん‥‥ その気持ちはうれしいよ でもねぇ」
 おそらく、二人の年齢差は20才以上だろう‥‥ しかし、受付は積極的なメーリルの熱っぽい瞳を見ていてふと思った。
 きっと、メーリルは16年前のイリールと同じ病気に違いない、同じ心の病‥‥ 今度はグドー心に伝染してくれると良いのだが‥‥。

●今回の参加者

 ea2563 ガユス・アマンシール(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea2848 紅 茜(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3184 ウー・グリソム(42歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea8574 常倉 平馬(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb1627 フィア・ハーヴェント(29歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2440 ヴィクター・ノルト(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2476 ジュリアン・パレ(32歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「次! シーン12じゃ!」
 ここはグノームが購入したパリ郊外の屋敷、グノーム達より一足先に到着した冒険者達の、最後のリハーサルが行われている。
「茜殿! 死んだんだから笑わんでくれんかのう」
「だって、くすぐったいんだもん!」
 台本をもったマッカー・モーカリー(ea9481)が、声を枯らして走り回っている。

「また鶏肉?」
 休憩時間、山盛りの鶏肉を前に紅 茜(ea2848)苦笑いする。
「血だけ売ってくれ、とは言えませんから まだありますよ」
 小道具大道具を一手に引きくけている常倉 平馬(ea8574)がすまなさそうに、肉の山を載せた皿を見せる。
「楽しみだなぁ でも私の出番は最初だけー」
「私は最後だけです」
 和やかな談笑のなか、空は夕日に染まっていく。今夜は本番である。

 月明かり、真っ黒い雲が地平線のあたりをまるで巨大な爬虫類の背中のように横たわり、うねりながら流れていく。
「ギルドより参りました、華国の武道家、紅茜と申します」
「いや、遅れました。ノルトです。よろしく」
 ここは、レイトンとグノームそして娘のメーリルの隠れているパリ郊外の館である。
 玄関から入ってきたのは、異国風の挨拶をする茜とヴィクター・ノルト(eb2440)である。
 すでに、フィア・ハーヴェント(eb1627)とガユス・アマンシール(ea2563)の二人はグノーム達と合流しており、居間の腰掛に座って他人のふりをしている。
「グノーム! 大げさ過ぎじゃないか? 相手は一人だぜ!」
 皮肉っぽく嘲笑しているのはレイトンである。
「お前こそなんだ? 呼びもしないのに隠れに来たんじゃないのか?」
「お前から手紙がきたから、来てやったんだぞ!」
「手紙? 俺は呼んでないぞ! お前がかってに‥‥」
「まあまあ」
 いがみ合うレイトンとグノームの間に入ってヴィクターがなだめる。
「お嬢さんが見てるんですよ。まあ、イライラする気は分かりますけどね、何か飲み物でも取ってきましょう」
 ヴィクターはそういうと奥の部屋へと姿を消した。
 少しして、風もないのに蝋燭の明かりが揺らぐ‥‥ 炎はゆらぎながら脈動を繰り返し、今にも消えそうである。
「変ね? 窓でも開いてるのかしら?」
 メーリルが立ち上がると茜が止めた。
「窓に近づいてはだめです! 外に気配があります! 見てきますから、じっとしててください」
「気のせいだ! 怖いと思うからそんな気がするんだ! 臆病者め!」
 レイトンはよく喋る、実は動揺を隠しているようだ。
 茜はレイトンを無視して、扉を開けると、姿勢を低くして油断なく外へと向かった。

「なんだか怖いな。ねぇグノームさん? となり座っていい?」
 フィアはしなを作ると、グノームの隣に座る。美人が隣にやってきてまんざらでもないようだ。
 ガタン! バタン! と、庭の方で大きな音がする! 続けて乱れた足音、叫び声!
「庭の方だ!」
 ガユスを先頭に一同は庭へと走る! 
 出てみると、庭は暗く静かだ。 戦闘はすでに終わっているらしく、庭石の上に人? ‥‥が倒れている。
「こ‥‥ これは‥‥」
 ランタンの明かりに照らし出された惨状に、ガユスは言葉を失った。
 庭石の上に倒れているのは茜だ! あたりは一面の血の海‥‥ あふれ出る血が大地をさらに赤く染めていく‥‥彼女は大の字になり、信じられない、と言う表情で天を見つめている。
「だめだ‥‥とても助からない」
 手当てしようと茜を抱きかかえたガユスだが、手の施しようがない。ただ傷口と思しき所を必死に抑えるだけだ。
「ま、まさか?! これほどの腕と‥‥は‥‥」
 茜は、そこまで言うと、大量の吐血をして両目を見開いたまま事切れた‥‥。
「‥‥死んだ」
「キャー!!」
 フィアの悲鳴に、恐怖を駆りたれられたグノームとレイトン、そして一同は館の中へと取って返した。
「何があったんです?」
 玄関のところまで来たところで、ヴィクターに出会う。
「茜が‥‥ 外は危険だ!」
 ガユスは、室内に戻ると、椅子やテーブルでバリケードを作り始めた。
 それを見た、グノーム達も無言のまま手伝う。
 家具、絨毯、あらゆる物を動員して扉を封鎖し、窓という窓を塞いだ。
「朝になったら、周辺を捜索しましょう」
「おい! お前達だけで大丈夫なのか?」
 レイトンは今までの虚勢はどこへやら、真っ青になって口走る。
「明日、パリに使いをだして、護衛を増やしてもらうように頼んでみましょうよ」
 フィアの提案に、誰もが無言で賛成する。
「まあ、ともかく一杯やって落ち着きませんか?」
 ヴィクターは、先ほど持ってきたワインをカップになみなみとついでみんなに配った。
 そして、一足先に一気に飲み干す。
「フィアとメーリルは、まだ子供ですからね、ほどほどに‥‥ う? あれ、変だな‥‥」
 ヴィクターは、胸の辺りを押さえるとうめきだした。
「う‥‥う ぐわ!」
「ヴィクターさん? ヴィクターさん?」
 フィアが、抱き起こすが、ヴィクターは胸を掻きむしり、その苦しみようはどうしようもない。
 見る間に血の気がうせ‥‥ がっくりと力が抜ける。
「どうしたんだ? え 死んだのか?」
「毒‥‥ ワインに毒が‥‥」
「グハァ! 俺も少し飲んじまった! 助けてくれー!」
 恐怖のあまり、その場に座り込んでしまうグノーム。
 口に指を突っ込んで、しきりに吐くレイトン。

「あああ‥‥ みんな殺されるんだ! みんな殺されるのよ!」
 フィアが、我慢しきれないという表情になると、玄関へと走りバリケードをどけ始めた。それを追いかけるグノーム。
「まってくれ! 逃げるなら俺も連れて行ってくれ!」
「逃げる? 誰のせいでこんな目にあってると思うの? あなた何をしたの? 普通じゃないわ! どんな恨みをかえばこんな残酷なこと‥‥」
「お父さん話して! もういや! 話して!」
「いや‥‥ 何もない 俺は悪いことなど‥‥」
「そう! そうなの? 私おります! もうやめます!」
「ま、まて! おい! お前何とかしろ!」
 グノームは座り込んでいるガユスに助けを求める。
「無駄ですよ、あなたが何も話してくれないのなら、私だって協力する気にはなりません。諦めてください」
 グノームは動揺し当惑し混乱している。しかしまだ話し始めない。
 フィアはそんな彼を一瞥すると、外へと飛び出した!
「私、関係ないんです! 見逃してください! う! いや! やめてー!!」
 フィアの悲鳴が響き渡る! しかし、外を覗いて見る勇気があるものはいない。
 どんな残酷な殺され方をしたのだろうか? 悲鳴は数分続いた‥‥。

 そして数時間、屋敷の中は怯えるレイトンの声と、メーリルの泣き声だけが静かに響いている。
 外からは何の物音もしない。

 どこか遠くで鐘の音が鳴る‥‥。
「犯罪者を出せ!」
 いきなり、はっきりとした言葉が、正面玄関のほうから響く! 恐る恐る戸の隙間から外を覗くと、そこには3人の男が立っている。
 朝霧の中、輪郭しか見えないが、真ん中の男には見覚えがあった! グドーだ!
「犯罪者を出せ! 天誅だ! 斬首いたす!」
 右側の東洋人らしい男が、日本刀を抜き放つと、静かだがよく通る声で宣言する。
「罪人を前に‥‥」
 右側の騎士風の男が、厳かに命ずる。まるで裁判‥‥ いや、この静寂は処刑場のものだ!
 館の中の者は、物音ひとつたてない。またしばらく静寂が支配する。

「仕方ない、ならばもっとも大切なものを奪ってやろう!」
 グドーが口を開いた、判決は下された。もう覆ることはない‥‥ と、その静かな声は語っている。
 それと同時に、館の内部で、蝋燭、暖炉の残り火が一斉にざわめき出した!
 それはあっという間に大きくなり、室内を駆け巡ったかと思うと一斉に消えた!
「なんだ? 何が起きた?」
 グノームは喘ぎながらあたりを見回す! 倒れているガユス、調べるまでもない、奴も死んだのだ! メーリル! メーリルがいない!
 何てことだ! メーリル! メーリル! メーリル!
「毒が回って息が出来ないんだ! 助けてくれー」
 レイトンが足にすがり付いてくる。それを踏み越え、グノームは外へと飛び出した。
「俺がやった! 俺が悪かった! 16年前、ボロックに話を持ちかけたのも俺だ! 邪魔だったグドーに罪を擦り付けるアイディアも俺だ! 俺が悪かった! だから娘は殺さないでくれ! 頼む! 頼む!」

 朝日である、今日も爽やかな一日が始まりそうだ。
 グノームの周りには、茜、ヴィクター、フィアを始め、冒険者たちが並んで笑っている。
「やっぱり本当だったのね」
 その中に、苦笑いしているメーリルの姿があった。
「メーリル?」
 メーリルは頷くと満足げに笑った。
「どういうことだ? もしや‥‥ まさか! 騙したな! おまえら全員詐欺で訴えてやるぞ!」
「ほー この男の顔をみても同じことが言えますか?」
 それは、グドーの右に立っていた悪魔騎士? ジュリアン・パレ(eb2476)である。
「あ、そいつは‥‥」
 ジュリアンの足元に縛られているのは、グノームがグドー殺害に雇ったごろつきだった。

「くそ‥‥ わかった、だが娘は返してくれ!」
「ごめんねー、お父さん! 私家出してグドーさんと暮らします!」
「なんだと」
 メーリルが腕に抱きつくと、グドーは困ったような照れ笑いをした。
「お父さんが本当に反省したら、家に帰ってあげるね」
 グノームは口をあけたまま、座り込んでしまった。
「シーン36! これにて終わり、終劇じゃ!」
 マッカーはそういって台本を閉じた。 一同拍手!