霧の渦

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月09日〜07月14日

リプレイ公開日:2005年07月17日

●オープニング

 早朝、谷底から吹き上げる風に霧が渦を巻く。
「ぎゃぁーー!!」
 絶叫とともに、断崖から黒い影が落ちていく‥‥ 途中何度かバウンドしつつ、濃い霧の中に消えた。

「へへ、やっと死にやがった‥‥ じじいの割にはしぶとかったな」
 断崖の上から下を覗き込む男が2人いる。
「役人にしては根性のあるやつだったな。一人で追ってくる所は間抜けだけどな。なぁ兄貴」
「しかし用心のため、どこかに身を隠さないとだめだな」
「兄貴は用心深いなぁ」
 人相の悪い2人組は、あたりを見回す。
 ここは、里から随分と入り込んだ山の中である。殺人の目撃者の心配はないが、風雨をしのぐ場所には困りそうだ。
「おい! みろ!」
 兄貴と呼ばれた男が、傾斜を登ったさらに上を指差している。
「ありがてぇ 小屋か!」
 二人はなれた風に足音を消すと、小屋へと歩き出す。

「じじい一人に‥‥女一人か‥‥」
 小屋に近づいてからそろそろ1時間になる、用心深い兄は物陰からずっと小屋を監視していた。
 小屋には木こりの老人とその孫らしい少女が二人で住んでいる、洗濯物の数、ゴミの量まで念入りに調べて確信を得た。
「兄貴! 霧雨が降ってきた、早く行こうぜ!」
「まて、焦るな‥‥ 女もじじいも殺すな! じじいは重傷がいいな、そうすれば女は逃げない」
 兄は、先ほどの役人から奪い取ったショートソードを弟に渡すと命令した。
「へいへい こっちは肉体労働、兄貴は頭脳労働か?」
「文句をいうな! 俺は裏口を固める」

 二人組みは、小屋へと入っていった。
 短い悲鳴があがったが‥‥ すぐに小屋は静かになった。


「いやはや、パリへ出てくるというと近所中から頼まれごとだよ。買い物6件、親戚への言付け2件、人探し1件だ」
 ここは冒険者ギルドである、もと冒険者で現在は田舎の村の村長をやっているシモンズが、受付と話している。
「頼りにされているんですよ! いい事じゃないですか」
 シモンズ村長も世話好きな性格なので、愚痴はこぼしても嫌がっているわけではないようだ。
「で、シモンズさん ギルドには世間話にきたんですか?」
「ああ、そうだった。忘れるところでしたよ」
 シモンズは担いできた大きな麻袋をカウンターにのせると、その中の物を並べだした。
「何ですか? これ‥‥」
 木製の皿、スプーン、木片、衣服の一部らしい布切れ‥‥どうみてもゴミと思われるものばかりだ。
「うん‥‥俺にも良くわからないんだけど、村の真ん中に川が流れているんだがね。 最近上流からこんな物が沢山流れてくるんだよ」
「上流で家の解体でもやってるんですかね?」
「うん、俺も最初はそう思ったんだが‥‥どう思うかね? これ‥‥」
 シモンズは木製の皿を拾い上げると、ひっくり返して受付に見せた。
「あ‥‥」
 皿の裏側には、釘か何かで引っかいて刻まれた文字がはっきりと浮き上がっている。
「た‥‥ す‥‥ け‥‥ て‥‥ 助けて?!」
 シモンズは、他のガラクタも手に取ると文字の一部らしいものが刻まれているところを教えてくれた。
 布切れには、文字はなかったが、文字だったと思われる黒いシミがついている。
「どれも助けを求める内容だよ」
「川の上流には何かあるんですか?」
「特にはないね‥‥ かなり上のほうに木こりの小屋があるかな? たしかホルト爺さんと孫のサーラが住んでるはずだ」
 ホルト爺さんは、木こりの中でも長老クラスで、かなりの歳である。
 身よりはその孫だけで、村人たちとの人付き合いを嫌って、一年間のほとんどを山の小屋で過ごしている。
「心配ですね、病気にでもなったのかな? 見に行かれたんですか?」
「それがね」
 この季節、この地方の高い山にはかなり濃い霧が出るため山登りは危険なのだという。
「つい最近も、領主様に雇われたお役人が、我々の話を聞かないで山に踏み込んで、行方不明になっているんだよ」
「そうなんですか」
「なんでも連続強盗殺人犯のフェルデン兄弟が脱獄したそうでね。まあ、そんなのもうろついているかも知れないから、村人だけで調べにいかせる訳にも行かない」
「なるほど、そこで冒険者の出番なわけですね」
 シモンズは、笑いながらうなずく。
「まあ きっと子供の悪戯じゃないかと思うんだけどね。念のため調査してほしいんだよ」
 村長は、なれた手つきで手続きを済ませる。
「さて、買い物だ! 明るいうちにパリを出ないとなぁ‥‥ 宿代を節約しないと出納係りに怒られてしまうんだよ」
 そういうと、シモンズは苦笑いを残して出て行った。
 村長の仕事もなかなか大変なようである。
 しかし、助けてと彫られた皿の文字は、悪戯にしてはどこか鬼気迫るものが感じられた。
 霧に閉ざされた山奥で、何かが起きているのかもしれない‥‥。

●今回の参加者

 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3233 ブルー・フォーレス(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4567 サラ・コーウィン(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8574 常倉 平馬(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb2476 ジュリアン・パレ(32歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 山道をすでに丸一日歩いている。
 昨日の雨のせいで、川は増水し、村で教えられた一番歩きやすい道は、水の底になってしまった。
 やむなく迂回し、歩きにくい沢を進む‥‥
「注意してください! この岩滑りますよ!」
 先頭を行くブルー・フォーレス(ea3233)は、道の状況を注意深く判断しつつ、ゆっくりと足を運んでいく。
「そろそろ日が傾く時間じゃ‥‥」
 マッカー・モーカリー(ea9481)の表情もいつになく厳しい。
「あーあ、また降って来やがったぜ! どうせならドバ! っと一度に降るか、カラッと晴れるかどっちかにしてほしいぜ!」
「だれだ? 雨男ー? あ! でんでん虫!」
 また、小雨が振り出したようだ。 カエン・ヴィールス(ea1727)はうっとうしそうだが、サラ・コーウィン(ea4567)は雨に誘われて出てきたでんでん虫を手の上に乗せて楽しそうにしている。
 一番後ろを歩くジュリアン・パレ(eb2476)は、時折立ち止まってはあたりを見回している。
 周囲の警戒のためであるが、それだけではなく、この幻想的な風景を楽しんでいるようだ。
「山を甘く見るな‥‥か」
 そんな仲間たちの姿を見ながら常倉 平馬(ea8574)は、出発するときに村でシモンズ村長に言われた事を思い出していた。

「いい匂いー!」
「味見してみてくれますか?」
「はーい! うーん! 美味しいよー!」
 結局、山小屋へたどり着く前に日が落ちてしまった。
 ブルーとサラは、夕食の準備をしている、材料は保存食と途中で手に入れた山菜だけなはずなのだが、出来上がった料理はなかなか本格的である。
「おー良い匂いじゃな、寝床も完成いたぞ」
 マッカー、ジュリアンと平馬の3人は、岩肌の窪みと、葉の多い針葉樹の枝を使って猟師の仮小屋のようなものを完成させた。
「サラさんは私のテントに入ってください。 濡れて困る荷物の管理もお願いします」
 ジュリアンは紅一点であるサラに、テントを提供し、他の3人と仮小屋で寝ることになった。
 食事の後、各人は寝床へと入った。
「絶品じゃったなぁ‥‥」
「おー! 美味かったぜ! 最高最高!」
 ブルーの料理は大好評であった。冒険者たちは野宿して味気ない保存食を食べることが多い。そんな時、美味しい保存食料理、を作れるのはレンジャーでもあるブルーならではであろう。
「喜んでもらえて嬉しいです! 明日はサーラさんとホルトさんにも食べてもらいたいなぁ」
「無事だと良いのですが‥‥」
 ジュリアンが低い声でいう。
「おや? 月が出てきましたよ‥‥ 岩を枕に 松葉の庵‥‥ 風流ですな」
 松葉の間から差し込んでくる月明かり、平馬はいつしか故国の夢の中へとまどろんだ。

 翌日、あたりはミルクのような霧に包まれ10m先の人影も見えない状態だ。
 出発し、3時間ほどで、小屋を発見する。
 下の沢で待つこと30分‥‥少女が一人、水瓶をもって降りてきた。 
 少女は水を汲み始める。
 15〜6才くらいだろうか? なかなかの美人である。
「お! おー‥‥ うんうん! これは助けがいがあるな」
 カエンがしきりにうなずいているのを横目に、サラは足音を忍ばせてサーラに近づいていく。
 上の小屋から死角になるような場所を選びながら進んでいくのは言うまでもない。後を追うカエン。

「サーラさん?」
 一瞬ビクッと体をこわばらせた少女は、恐る恐る後ろを振り向いた。
「サーラさん? あなたを助けに来ました。怖かったでしょう?」
 サラがやさしい声で言う。
「しー! 静かにな、ばれるといけねぇ」
 カエンが口の前に指を一本立てて、大きな声を出さないようにと身振りで示す。
 こわばっていたサーラの表情が崩れて、両目から涙がほとばしる!
「あああー」
 わっと泣き出したサーラはカエンの胸に飛び込んだ!
「うお! ‥‥あーよしよし もう大丈夫だぜ」

「サーラさん? お話聞いてもらえますか?」
 サラは、サーラが少し落ち着くのをまって、自分たちの素性を告げて、事情を聞きだした。
「では、お爺さんが捕まっているんですね?」
「はい、二人組みの賊がいきなり入ってきて‥‥お爺さんは足に大怪我をしています! 助けてください!」
 家の間取り、賊のいつもいる場所、そしてホルト老人の寝かされているベットの位置、細かい質問を続ける。
「そしてね、お願いがあるんですサーラさん」
 サラは、突入計画について説明をする、サーラにはもう一度小屋へもどってもらって、味方を引き込む役をやってもらうことも話した。
「お願いできますね」
「は‥‥はい」
 サーラは不安そうにうなずく。
「おい! 心配するな! 俺がついてる! そのジジィ‥‥じゃなくて、お前のお爺さんも助けてやるぜ! わっははは!」
 見かねたカエンが、大きな声で景気よく宣言する。
「しー!」
 こんどはサラは、口の前に指を立ててそれを制した。あ、やばい‥‥という表情にサーラは小さな声で笑う。
「うふふ‥‥」
 サーラの表情は少し明るくなったようだ。サーラははなれて様子を窺っている、他のメンバーにも一礼すると、小屋へと戻っていった。

「なー兄貴! 暇だなぁ」
「我慢しろ! つかまったら20年は飲めなくなるんだぞ」
 テーブルの上に両足をのせて、フェルデン兄弟は、動物の燻製をかじっている。
 サーラとホルト老人の1年分の保存食はこの大食漢2人組によって、もう半分はなくなっていた。
「こんにちわ!」
 突然、扉のほうで声がして2人は飛び上がった!
「な‥‥なんだ?」
 どうやら来客のようだ‥‥予期しない状況に二人は動揺する。
「おい! サーラ! 出てみろ! 変なまねしやがったら、ジジィは殺すぞ! わかったな!」
「は‥‥はい」
 サーラが扉を開けると、2人の狩人風の男が立っている。
「狩りで近くまで来たのでよって見たんですよ。サーラさんの手料理食べたくてね。これお土産です」
「ホルト殿は元気かな? わしじゃよマッカーじゃよ! おや? お客さんじゃったか?」
 部屋の中のフェルデン兄弟は、ばつが悪そうに目で挨拶をする。
「あ、ホルトさん、また腰痛ですか?」
 ブルーはベットで寝ているホルト老人を見つけると、さりげなく、脱走犯2人との間にはいった。
「お客人、どこからこられた? 最近は物騒じゃからな、気をつけなされ。 ああ、そうじゃ」
 マッカーは、そういうと懐から保存食のあまりを取り出した。
「これなんじゃがね‥‥」
 フェルデン兄弟は、この奇妙な行動に顔を見合わせる。
 マッカーがそれを差し出すと、なんとなく弟のほうが手をだした。
 ガジャーン! 一瞬の出来事で、何が起きたのか兄弟は理解できない! 弟の体はまるで転地がひっくり返ったように空中を一回点すると、硬い床に叩きつけられた!
「ピュー! 今です!」
 ブルーが口笛を短く吹くと、外のメンバーに合図する! 一瞬の間を置くことなく、平馬とカエンが飛び込んできた。
「御一同! フェルデンの兄は、毒針をつかう! ご注意なされよ! 降参したと見せかけるのも常套!」
 平馬は、フェルデン兄の背後へ回り込みながら言う。
「毒針はなげるのか? ねたがばれちまっちゃ お粗末だな」
 カエン倒れている弟の腰からショートソードを取り上げると、わざと無防備にして挑発する。

「くそー! 騙しやがったな!」
 兄は、裏口を蹴破ると、外へ飛び出した。
 しかし、数メートルも進まぬうちに、また立ち止まらずにはいられなかった。
「どこへ行かれる? その先は崖ですよ」
 霧の中に立っていたのはジュリアンだ!
「降伏しなさい! 私を倒しても、もうこの先へは逃げられません! 観念しなさい」
「うるせー! どきやがれー!」
 兄は、そういうとホルトの小屋にあった鉈を振りかざし、ジュリアンに襲い掛かった。
 しかし、ジュリアンは、平然と立ち尽くしている。
 そして‥‥
「ぐわーー!!」
 霧の断崖に絶叫が響いた‥‥。

「はいはい! できましたよー! 温かいうちに食べてくださいね!」
 白い湯気を上げた大きな鍋をブルーは、テーブルの上にのせた。
「おー! ブルーの料理は美味いぜ! 俺が保証する! な、サーラちゃんも食え」
 料理を皿に盛りながら、食う気まんまんのカエンの横には、サーラが座っている。
「カエンさん! 皆さん! 本当にありがとう!」
 泣きはらした赤い目で、テーブルにいる一同を見回すサーラ。
「気にするな! 食えよ」
 料理を山盛りにして、サーラの前に置こうとするカエンは、そのとき意外な突発事故に遭遇する。
「ありがと」
 と‥‥ サーラが突然、カエンの両肩に手を置くとキスをしたのだ! それもかなり長い‥‥長いキスである。
「おやおや、今日はやけにもてるようじゃな」
「あ‥‥ ああ、スキンシップがうまく行き過ぎたかな? わははは!」
 頭を掻きながら、豪快に笑うカエン。

「痛くはないですか?」
「ああ‥‥おかげでだいぶ良くなりました」
 サラは、ホルト老人の横に寄り添うと、ブルーの料理をスプーンで口に運んでやる。
 老人の目から涙が流れている、絶望していたのだろう‥‥サラの手を握りしめて離さない。

 ここは小屋の裏方の絶壁の上である。
 ジュリアン、平馬がいる。‥‥そして、崖の途中の木にはフェルデン兄が引っかかっている。
「反省し、謝罪すれば、引き上げてあげます! その枝はそう長時間持ちませんよ」
「いや、ジュリアン殿、このような極悪人、一思いに!」
 平馬が刀を抜くと、フェルデン兄は恐怖のあまり失神してしまった。
 二人は顔を見合わせると、引き上げてお縄にした。