護衛任務

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月10日〜08月15日

リプレイ公開日:2005年08月19日

●オープニング

 最後の2mほどを飛び降りるとフォンテーンは上を見上げた。
 ここは大きな屋敷の裏庭である。庭の向こう側には、屋敷の外へと通じる裏口の木戸が見えている。
 フォンテーンは、閉じ込められていた4階にある自分の部屋からシーツや毛布、カーテン、外套までつなげてロープ状にし、やっと脱出してきたところだ。
「おい! 逃げたぞ! あそこだ! 逃げたぞー!」
 不意に野太い男の声が響く! 屋敷の窓に次々と明かりが点った!
 裸足に夏草がチクチクする。あたりは暗い。しかし、ぐずぐずしていられない、見つかる前に逃げなくては!
「おい! 待ちやがれ!」
 裏口に近づいたフォンテーンの目の前に、黒い影がぬっと現れ、太い男の腕にあっという間に組み伏せられてしまう。
「いやー! 放して! 親父の道具にされるのは嫌! 知らない男の所に嫁に行くなんて絶対に行きたくない! 放してー!」
 数名の男たちが、集まってくるとフォンテーンをまた屋敷の中へと連れ戻す。
 裏庭は静寂を取り戻し‥‥ しばらくして、屋敷の明かりも消えた。

 ここは冒険者ギルドである。
 外はそろそろ暗くなろうという時間だ。そこへ三人の人相の悪い男たちが姿を現す、少々場違いな感じだ。
「先に帰れ‥‥ 話は俺がつけておく」
 リーダー格らしい中年の背の高い男が、後ろの二人にいう。
「しかし、ヘッセンの旦那が‥‥」
 手下の一人が、そう言いかけたが、リーダーの一瞥で黙ってしまう。
 二人は、無言で挨拶すると帰っていった。

「ご依頼でしょうか?」
 中年男がカウンターの前にやってきたので、受付が応対する。
「そうだ、護衛の依頼だ‥‥」
「護衛‥‥そちら様は?」
「俺か‥‥俺はヘッセンのところで用心棒をやっているルネだ」
「ヘッセン様のところですか」
 ヘッセンは元盗賊だったという噂のある、評判の悪い金貸しである。
「ヘッセンの娘のフォンテーンが、こんど貴族のポド・マロン卿の所へ嫁入りする。 ‥‥その護衛だ」
 ルネの口調は終始単調で、落ち着き払った様は迫力がある。
「危険があるんですか?」
「フォンテーンには、相思相愛のカッセルという貧乏騎士がいてなぁ。そいつが花嫁を奪いに来ると言っている」
「もしかして、マロン卿との結婚は政略結婚?」
 ルネは片方の眉毛だけを動かして、当たり前のことを聞くな‥‥と返事する。
「つまり、ご依頼は、花嫁の警護、カッセルから守ることですね?」
「ああ‥‥表向きは‥‥な」
「?」
 ルネは突然、ニヤリと笑うとカウンターに、金の入った袋を乗せた。
「実はな 今日はヘッセンの使いで来たんじゃねぇんだ。俺もあいつにはほとほと愛想が尽きてな。そろそろ潮時だと思っていたんだ」
「と、いいますと?」
「フォンテーンはいい子だ! あのヘッセンと血がつながっているとは信じられないくらいな! カッセルという野郎も‥‥あの野郎、夕べこの俺に直接一人で直談判にきやがった‥‥」
 言葉は悪いが、カッセルの事を話すルネの表情は明るくうれしそうだ。
「命を懸けてフォンテーンを迎えに来るんだとよ‥‥ ひよっこのくせしやがって‥‥」
 当日、ルネを含めてフォンテーンにはヘッセンの手下が10人もつく、実戦経験豊富な者ばかりだ。
 純真な青年の愛と勇気だけでどうにかなる戦力ではない。
「そこで、冒険者にも護衛を名目でついてきて欲しい。 あのひよっこが出てきたら何とかなだめておいてくれ‥‥フォンテーンはタイミングを見て俺が逃がす」
 ルネは手続きを済ませると、なんども鼻で笑いながら頭を振って見せた。
「まったく俺も焼が回ったぜ! フォンテーンは俺の娘じゃねぇ カッセルだって他人なのによ‥‥ 笑ってくれても良いんだぜ」
 受付は笑った、しかしそれは、もちろん蔑みの笑いなどではなかった。

●今回の参加者

 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb2476 ジュリアン・パレ(32歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「おら、今ゴブリンに襲われそうになって慌てて逃げてきただよ!」
 小さな村の酒場に、赤ら顔の中年の農夫が飛び込んできたのは、太陽が沈みかけた夕方であった。
 酒場にいた村人達は一瞬、見慣れない男だと思ったものの、近隣の村でのゴブリン騒動を聞き及んでいたので、心配そうに男の周りに集まった。
「出たのか? その‥‥ ゴブリンが? この村じゃここ10年でてねかったのに!」
「ああ、いましがただぁ! そこの街道さ、ちょこっと入ったところだよ!」
 男がそういうと、数人の男が心配そうに酒場を出ていく。
「家が心配だ! 俺も帰る!」
 恐怖と不安は伝播し、あっという間にその場を支配してしまう。
 状況に満足した中年の農夫は、酒場を出て本来の姿に戻る‥‥城戸 烽火(ea5601)である。
「もう良いでしょう」
 烽火は、慌しく走り回る村人達を見ながら、仲間との合流地点へと向かった。

「家にはいなかったぜ! やっぱりもう出発したんだな」
 遅れてやってきたカエン・ヴィールス(ea1727)が、ジュリアン・パレ(eb2476)に耳打ちする。ここはヘッセンの屋敷である。
「そうですか、どこかで待ち伏せする考えでしょうね」
 ジュリアンは愛するもののために命を賭けているカッセルという若者に、なんとなく自分を重ねていた。
 たった一人で孤独に耐え、愛する者を救うために勝ち目のない戦いをやろうとしているのだ。

「ほんとか!? がははは!」
 隣の部屋からヘッセンの手下達の笑い声が聞こえてくる。
 その輪の真ん中にはマッカー・モーカリー(ea9481)がいた。
 なにやら、面白い話をしているらしく、手下は手を叩いて大喜びしている。
「マッカー殿の戦いはすでに始まっているようですね」
「俺は腹芸ってのが苦手でね 先に寝るぜ!」

 翌朝、まだ暗いうちにフォンテーン嬢護送の隊列は出発した。
 フォンテーンとは面会の必要なしと、冒険者達は顔も見ることができない。
 夜明けごろ、烽火が合流する。

 昼飯時になり街道沿いの5〜6軒の家が集まった集落につく。
「なんだ? 人気がないぞ」
 ヘッセンの手下の一人が、開け放たれた扉の中を覗き込んで首をかしげる。
「こっちもだ! もぬけの空だぜ! マッカーさんよー どう思う?」
「うーむ、そうじゃなぁ‥‥」
 と‥‥ なぜか、ヘッセンの手下達に溶け込んでしまっているマッカー、昨晩一晩飲み明かしてすっかり意気投合してしまったらしい。
「昔、見たことがあるぞ‥‥ 南ノルマンであった疫病の大流行の時、恐れた村人達が村を棄てたんじゃよ! よく似ておる!」
「ええ! 疫病?? とんでもねぇ!」
 家に入りかけた、手下達は慌てて飛び出してくる。
 マッカーの話は思いつきの出まかせなのだが、彼のしたり顔にはなかなかの説得力がある。

 そこに偵察に出ていた、カエンが帰って来た。
「この先の道沿いの家はみんな空だな! 家畜までいなくなっているから、どっかに逃げたんだな」
 動揺する手下達‥‥ 戦闘慣れした荒くれ者達だが、見えない敵にはからっきし臆病なようだ。
 ルネがカエンに目配せして、少しはなれたところに呼び出す。
「どういう事だ?」
「いや、俺にもわからない! 家が無人なのは本当だ」
 すっとしゃがむと、今見てきた地形をざっと地面に描いて位置関係を説明する。
 的確な説明に、的確なルネの質問が入る‥‥まるで傭兵の隊長と副官の会話だ。
「カエンとかいったな! なかなか場慣れしているな」
「そういう場所で育ったんでね‥‥あんたも、ただの山賊崩れじゃないみたいだな」
 ニヤッと笑うルネ、笑い返すカエン。
「道を変更する! この先の村は迂回だ! 昼飯はその後だ!」
 ルネの命令に異議を唱えるものはだれもいない。

 村を大回りし、襲撃に備えて見晴らしのよい場所で休憩を取る、昼飯だ。
「ジュリアンは、周辺の偵察! 烽火はこの先の道を調べて来い!」
 食事の準備が始まった所で、ルネのどすの利いた命令が響く。
「あたしの食事は?」
「命令だ!」
 烽火が抗議するが、ルネは聞く耳持たない。 手下がくすくす笑うなか2人はその場を離れた。
 もちろん、これも計画のうち、ジュリアンはカッセルを探しに、烽火はこれから進む道に小細工をするための行動である。
「ジュリアン様! カッセル様のこと頼みましたよ!」
「そちらも気をつけて‥‥」

 一時間がたった。
 烽火とジュリアンが戻り、隊列は出発した。
「カッセル様には会えませんでしたが‥‥ 途中の村が無人だったわけがわかりました」
 ジュリアンはカエンとマッカーを前にしてそこまで言うと、烽火のほうを見る。
「先ほど修道院に立ち寄ってみたのですが‥‥」
 そこは周辺の村から避難してきた人でごった返していたらしい。ゴブリンの大規模な襲撃があるという噂‥‥ つまり烽火がばら撒いた偽情報が一晩で一帯に広がり、人々を介しているうちに尾ひれがついてしまったのだ。
「わたしはただ、ゴブリンに襲われそうになったと言っただけですよ」
「噂が噂を呼んだんだな、まあいいじゃねぇか! こっちには好都合だし 烽火お手柄だぜ!」
 楽しげにカエン、苦笑いするマッカーと、呆れているジュリアン。

 出発してしばらくすると、血の匂いがしてくる。下草が踏み荒らされ、各所に戦闘の痕跡がある‥‥ 烽火の仕業である。
「ルネ隊長! 襲撃の跡じゃろうかな?」
「うむ‥‥ 道を変えるぞ!」
「しかし もうじき日が沈みます‥‥ぜ」
 手下の一人がそういうものの、迂回することにそれほど反対という訳ではないようだ。
 今のところ、実に自然に時間稼ぎができている。

 道を変えて慎重に進んでいると、後ろから追いかけてくる者がいる。
「まてー! そこの馬車止まれー!」
 馬に乗り白いマントをたなびかせた若いナイト、カッセルである。
「我こそは、カッセル・グランダーク! フォンテーン嬢をいただきに参った! 尋常に勝負しろ!」
 最短ルート上で待ち伏せしていた彼は、我々が道を変更したことに気づき、今やっと追いついてきたようだ。
「正々堂々と出てきやがったよ‥‥ よーし! 俺が相手になってやる!」
 名乗りを上げたカッセルに答えたのはカエンだ! ソードを抜き放つとカッセルへと突撃する!
「賊は一人とは限りません! 私も残って援護します! 皆はこの場を早く!」
 ジュリアンもそういうと、列の最後尾へと走る。
「お! この地形はまずいぞ! 敵に包囲されやすい! 隊長ここは撤退が吉じゃ!」
 マッカーがまたもっともらしい事をいい、ルネはその意見を入れる形で、この場から離れる。

 カエンとカッセル! 刃を合わせること数度!
 最初真剣だったカエンの表情はいつの間にか余裕のあるものになっていた。
「よー! あんたの剣、性格そのまんまだなぁ」
「なんだと!」
 カッセルの大振りのスイングをひょいとかわして‥‥
「まあ、話を聞け! 俺は味方だ!」
「問答無用だ!」
 素早い連続した突き! 左右からの隙のない攻撃! カッセル猛攻! しかし教科書通りの攻撃だ。
 ニヤリと笑ったカエンは、カッセルの剣筋を見切り、剣を叩き落してしまう。
「遊びは終わりだ! 話を聞け! あんたのお姫様に会わせてやるよ」
「我々を信じてください」
 ジュリアンは、落ちている剣を拾うとカッセルの前に差し出す‥‥カッセルも観念したようだ。


 薄暗くなってきた、ホーの森に入ると、ルネは隊列を止めて食事を取らせる。
 一時、食事の支度に騒然となる‥‥

「フォンテーン嬢が逃げたぞ!」
 突然、叫び声が上がる! 見張りは突然後ろから強打され、犯人は見ていないという‥‥。
 すぐさま捜索が開始される。 
 暗いホーの森、鬱蒼と茂る樹木、そして縦横に走る獣道‥‥。
 追跡を開始して、小一時間もたたぬうちに、ヘッセンの手下達は方向を失い始めた。
 そして‥‥
「フォンテーン嬢だ! あそこだぞ!」
「いや、違うフォンテーン嬢は向こうだ! あの茂みに逃げ込んだ!」
「いやいや違うぞ! 今あの岩の上に姿が見えたんだ!」
 右と思えば左、左と思えば後ろと、フォンテーンらしい姿が、次々と場所を変えて目撃された。
 烽火、八面六臂の大活躍‥‥ 人遁の術面目跳梁である。
 情報に翻弄され、右往左往するうちに日は完全に暮れてしまった。
「まて! 待つのじゃ! これ以上は危険じゃ! 現にカエンもジュリアンも烽火も戻ってこん! 罠じゃ! 敵の待ち伏せじゃよ!」
「そういえばルネもいないぞ」
「心配するな! わしはレンジャーじゃ! 必ず無事に森から脱出させてやるぞ!」
 マッカーは無理に笑って見せて、一同を安心させる。
 マッカー達が、いもしない待ち伏せや、敵の追跡を振り切って、森を脱出できたのは翌朝の話である。

「フォンテーン!」
「カッセル様!」
 涙の再開‥‥ その場を見守っているのはジュリアンだ。
 カエンはルネを気にして迎えにいった。これだけの大失態である、ルネもヘッセンのもとには戻れない。

「まずはパリを離れなさい、行くあてはありますか?」
 ジュリアンは若いカップルにやさしく問いかけた。
「はい 僕の叔父がドレスタットに住んでいます。そこへ身を寄せるつもりです」
 カッセルは、希望に満ちた瞳でジュリアンを見ている。
「カッセル様、あなたはもう一人ではありません。 ですから勇気と無謀の区別はつけておくべきです。しかし、あなた達は若い、未来は二人のものですよ」
 本当はもっと沢山言いたい事があったのだが、今は黙って見送ることにするジュリアンであった。
 若い二人に神の祝福を!