泥棒の目印

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月18日〜01月23日

リプレイ公開日:2005年01月25日

●オープニング

 太陽が大きく西に傾き、家々の影が長く伸びている、今日は風の強い一日であった。
 その少女が姿を見せたのは、そんな夕暮れの雑踏の中からである。

 ギルドの中をしばらく覗き込んでいた少女は、意を決して中へと入ってきた。
「すいません! お願いがあってきました!」
 受付に向かって大きな声で話しかける言葉の端々に、少々東部訛りがありアクセントがおかしい。
 粗末な服装だが、身奇麗にしており、なかなか好感が持てる。
「どうしました?」
「シャイロックさんのお店に泥棒が入ります! どうか助けてください!」
 受付係は少々困惑する。
「えーと、あなたは?」
「私、シャイロックさんのお店で、住み込みで下働きしていますエリーヌと言います。本当に泥棒が入るんです、誰も信じてくれないんです!」
 ここは冒険者ギルドである。受付係は12〜13才の少女をカウンターの前まで招きいれた。
「依頼料は‥‥ これで、必ずお払いします‥‥」
 少女は懐から小さなロザリオを取り出し、少し見せるとギュッと握り締めた、銀製のようだ‥‥ 売ってお金にするという意味だろうか?
「わかりました、それで泥棒とは、どう言うことなんでしょう? 落ち着いて話していただけますか?」
 エリーヌは話し出した。
 エリーヌは東部の寒村の生まれで、つい2月ほど前に知り合いのつてで、シャイロックの店に下働きに入った。
 3日ほど前、裏門の脇の壁に奇妙な悪戯書きを見つけた。
「こんな感じです」
 エリーヌは板切れに書いてみせる、三角形と数字を組み合わせたもので子供の悪戯にしてはおかしな形だ。
「実は私、このマークとよく似たのを以前見たことがあるんです」
 数年前、故郷の村で泥棒騒ぎがあった、犯人は東部で荒稼ぎしていた泥棒ダイス兄弟で、結局つかまらなかった。
「後でわかったのですが、そのとき盗みに入られた家の壁に、これそっくりの落書きがしてあって、きっとこれは泥棒たちの目印かなんかだろうって話になりました」
「なるほどね‥‥ で、その話は店の人にはしたんですか?」
「昨日、旦那さんにこの話をしたのですが、私は来たばかりだし、ぜんぜん信用してくれませんでした、知り合いもここにはいないし。でも見過ごすことはできません! 第一、物がなくなったら私が一番に疑われます!」
 エリーヌは正義感の強い娘のようだ、しかし店であまり可愛がられてはいないのだろう、エリーヌの瞳にはいつの間にか涙がたまっている。
「でも、いつ泥棒がはいるか分からないのではねぇ‥‥ 何ヶ月も見張ってるわけにもいきませんしね」
「このマークのこの数字、これをみてください、この数字が盗みに入る日付なんです」
 エリーヌは、紙に書き込まれたマークの数字の部分を指さした。
「村でもそうだったんです、何故かその家の者が留守の日が分かっていて、ここにその日付が書かれるんです。どうしてかは分かりません、日付は5日後です! ちょうど旦那さんご一家は今朝からお出かけで、6日ほどお帰りになりません!」
 店の中に内通者でもいるのだろうか? ともかくそれが事実なら、本当に盗人たちが現れるかもしれない。
「他に使用人はいないの?」
「5日後は定休日なんです、誰もお店には出てきません! それに、住み込みは私だけなんです、広いお店で私一人‥‥ どうか、助けてください! 私だけではどうにも‥‥」

「なんだ!やっぱりここにいたのか! まったくはた迷惑な娘だ!」
 そこへ中年のひげ面の男が入ってきた、受付係がすかさず尋ねる。
「あなたは?」
「ああ、どうもどうも、あっしはシャイロックさんの所で、先週から荷馬車の係りをしているマルセルって者でさぁ。こいつが、昨日から泥棒だの何だのと騒ぎ立てていて、旦那様も怒ってらしてねぇ 姿がみえねぇんであっしが探しにきたわけです」
 マルセルと名乗る男は、エリーヌを睨み付けたあと、周囲に何度も頭を下げる、少々わざとらしい。
「マルセルさん‥‥ なんでマルセルさんが?」
「なあ、嬢ちゃん、大人を困らせるもんじゃないぜ よしわかった!そこまで言うなら、あっしが一緒に見張ってやろうな、それでいいだろ?」
「でも‥‥」
「そんなわけで、なんでもねぇですから、皆さん気にしないでくだせぇ」
 言葉は優しいがやや乱暴に、エリーヌの肩をつかむと外へと引き出した。
「あの、私、お店で待ってます! だから‥‥」
「まだ言うか! さあ、大人しくしろ! 帰るんだ!」
 マルセルはエリーヌを連れてギルドを出て行った‥‥ 外は風が強い、二人の声はすぐに聞こえなくなる。

 そう言えば、マルセルの言葉のアクセントもどことなく東部風であった、彼も最近東部からやってきたのかもしれない。

●今回の参加者

 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7916 仁科 桔梗(31歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8223 竜崎 清十郎(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8286 ビアンカ・ゴドー(33歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ea9633 キース・レイヴン(26歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 ea9655 レオニス・ティール(33歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea9784 パルシア・プリズム(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 冬の空は青く澄み切っている、太陽は大儀そうに天頂を避けて回り道をし、よわよわしい光を投げかけている。

 シャイロック商店の店先に、金髪でやや細身の爽やかな青年が現れる、レオニス・ティール(ea9655)である。
 女性店員達のまなざしが、いっせいに注がれる、青年は中へと入ると、店員の顔を一人一人確認する、しかし目当ての人物がいなかったらしく、おもむろに口を開いた。
「ねぇ君達、エリーヌさんはここじゃないのかな? デートの約束があってね、呼んでくれないかな?」
「エリーヌ?! あんな小娘とデート!? ‥‥エリーヌ! あんたにお客さんよ!」
 他の女性店員たちの嫉妬と困惑の眼差しの中、エリーヌが姿を現した。
「あの‥‥何でしょうか?」
 戸惑うエリーヌを店から連れ出すと、小さな声で耳打ちする。
「悪い事を見過ごせなくてそれに対する行動を起こせるのは良いことだよ? 無茶は禁物だけど、ね」
「え?」
「冒険者ギルドの紹介できましたレオニスといいます、内通者がいるかもしれませんからね」
 エリーヌの表情が一気に明るくなる、二人は通りを並んで歩く、と‥‥後ろから声をかける者がいる。
「抜け駆けは良くないのう」
 マッカー・モーカリー(ea9481)がいつの間にかつけて来ていた。
「あなたもギルドからいらしたのですか?」
「そうじゃ‥‥早速だがマルセル殿には注意されよ、恐らくはあやつが内通者じゃろう」
 早速、エリーヌと話をする、情報収集である、マルセルや他の店員の最近の行動や言動、後は店の構造も詳しく聞くことができた。
 どうやら、マルセル以外には怪しい者はいないようだ、マルセルに近づかない事を念押しして、その日は別れた。


 当日朝、一同が店の裏手に集まる。
「俺は‥‥マルセルって奴が怪しいと踏んでいる、行動や素姓に泥棒をするのに都合の良い点が、ごろごろしているだろう」
 キース・レイヴン(ea9633)が言うと、全員がうなずく、どうやら共通の考えのようだ。
「依頼人の安全も考えたほうが良いんじゃないかしら、人質にでもされたら面倒よ。わたくし、護衛につこうかしら?」
 仁科 桔梗(ea7916)が上品なそぶりで、静かに言うと ビアンカ・ゴドー(ea8286)が同意する。
「私もエリーヌ様の側にいますね、荒事は皆さんにお任せします」

 夕方まで店の外を警戒したが何事もなく、一向は夜に備えて店の中へ一度入ることにした。
 裏門を叩くと、エリーヌではなく、マルセルが顔を出した。冒険者ギルドから来た事を言うと、あからさまに嫌な顔をする。
「エリーヌの話なんか信じて来たのか? よっぽど暇なんだな、帰えんな! 何にもおきやしねぇよ」
 そういうと門を閉めてしまおうとする、しかし、この反応を予測していたカエン・ヴィールス(ea1727)がつま先を突っ込むと、無理やり門を開いてしまう。
「何しやがる!」
「俺たちが店の中にいると都合の悪いことでもあるのかぁ?」
「いや‥‥ その‥‥ そうじゃないが」
「はいるぜ!」

「皆さん来てくれたんですね! 嬉しいです!」
 エリーヌが店からではなく、裏門の脇の倉庫から姿を現した、桔梗とビアンカが不思議そうな顔をしていると‥‥。
「私、倉庫の屋根裏部屋に寝てるんです、あの窓がそうです」
 エリーヌは、自分の話を信じてこれだけの人が、集まってくれたことがうれしくて仕方がないようだ。


 そして深夜、明かりを消し、静まり返った店の中には3人の姿があった、竜崎 清十郎(ea8223)は裏へ通ずる廊下を見張っている。
「何してるんだ?」
 何やら作業をしているパルシア・プリズム(ea9784)にカエンが声をかける。
「罠を仕掛けてるんです、このロープに引っかかるとこの金属のタライが落ちてきます、台所のを借りてきました」
「ふーん‥‥」
「で‥‥あなたは何してるんですか?」
「ワハハ! スキンシップだ!」
「私のお尻から手をどけていただけます?」

 店の外では3人が見張っている、表はレオニス、裏はキースとマッカーだ、その裏の2人組の目の前に、こそこそと現れた影があった‥‥マルセルだ。
 二人が隠れて見ている目の前で、マルセルは裏門の脇の壁に書かれた、あの泥棒の目印を書き換えようとする。
「尻尾をだしたようじゃな」
「仲間に見張りがいるのを知らせるつもりだな、そうはいかない」
 振り向いたマルセルは、慌てるが、もう遅い‥‥あっけなく御用となる。

 縄を打たれたマルセルは、桔梗とビアンカがエリーヌを護衛している屋根裏部屋へと運ばれた。ビアンカは待ってましたと説教を始めた。
「やっぱり泥棒の一味だったんですね! いいですか、良く聞いてください! 世の中には貧乏でも慎ましやかに一生懸命生きている人が沢山いるんです! どんなに苦しくても人様の物に手を出したりはしないんですよ! 聞いてますか? 目を見てください! 私の目を! 今晩は徹底的にお説教です!」
 マルセルは突然のことに目を白黒させている。全員はまた配置につく。小声で説教するビアンカの声だけが微かに聞こえてくる。
「まって、静かにして! だれか来たわよ」
 桔梗は窓の外を指差した、すると‥‥窓の下に見える裏門が音もなくすーと開く。縛られているマルセルも窓の外を注目する。


 裏門に面した通り、キースとマッカーが身を隠している。
「やつらだ‥‥捕まえるか?」
「いや、少し様子を見たほうが良いじゃろう」
 やってきたのは大男と小男の2人組である、見るからに凸凹コンビだ、ダイス兄弟だろうか? 小男の方がしきりに辺りを警戒している、大男はゆうに2mは超えていて、筋肉隆々手強そうだ!
 2人の泥棒は、しばらく様子を伺っていたが、そのうちゆっくりと中へと入っていった。
 と‥‥ ボコン!! と間の抜けた金属音が響き渡る! ころころと金属タライが転がる‥‥ パルシアの罠が作動したのだ!
「静かにしろ! なにやってるんだ! セルジェ!」
 小男の押し殺した声がかすかに聞こえる。
 泥棒2人は、落ちてきたタライに首をかしげつつも、門を抜け、店の裏手にまで入ってきた、獲物は罠に入り込んだわけだ‥‥。
 その時、屋根裏部屋の窓から様子を見ていたマルセルが大声で叫んだ!
「ビガール兄貴! 逃げろ! 罠だー!」
 入ってきた泥棒2人組は、その声で立ち止まった! 店の明かりが灯されて辺りが明るくなる。
「くそー! セルジェ逃げろ! マルセル! 必ず助けに来てやるからな!」
 どうやら兄貴と呼ばれたのは小男のほうらしい、小男は、後ろの大男セルジェに指図すると、機敏な動きで裏門へと走った! しかし大男セルジェは、事態が飲み込めないのか立ち尽くしている。
「ここから先は何人たりとも進ません!」
 清十郎が店の廊下から姿を現す、ズギャーンとポーズを決めてセルジェの顔をにらみつける! セルジェのほうが頭ひとつ大きいのだが、迫力に押されてたじたじだ! そのうち足が震えだす。
「ビガール兄貴ィー おいてかないでぇー」
 清十郎はそのまま拳を振りかざして突撃する! セルジェは慌てて、ベルトに吊るしてある武器に手を伸ばすが、間に合わない!
「ぐぇ‥‥」
「なんだ、見かけ倒しだな」
 清十郎の見事な腹への一撃で、大男はだらしなく伸びてしまった。

「ちくしょう! ちくしょう!」
 小男ビガールは、顔を真っ赤にして悪態をつくと、転がるようにして裏門から外へでた。
「やい! 覚えてやがれ!!」
 甲高い声で捨てゼリフを叫ぶと、ビガールは走り去る‥‥。いや、去ろうとした。
「まて! お前が頭目だな!」
「観念するのじゃ」
 待ち構えていたキースとマッカーがビガールを押さえ込んでしまう、ビガールはじたばた抵抗していたが、清十郎やカエン、パルシアが応援に駆けつけると、観念したらしく大人しくなった。
「なんてこった‥‥ちくしょう」

 騒ぎは終わった。ダイス兄弟、ビガール、マルセル、セルジェ、大中小‥‥いや、小中大と、縄でぐるぐる巻きにされて転がっている。
「でも、怪我人がでなくてよかったですね」
 ビアンカは屋根裏から降りてくると、全員の怪我のないことを確認する。
「さ・て・と‥‥今までの行いをきちんと償うんだよ? まずは官憲に引き渡す前に‥‥堅気な女の子を泣かした罰は受けようね?」
「今まで盗んだ物の隠し場所はどこだ? 吐きな、痛い目みたくないだろう?」
 これ以上ない程のイイ笑顔のレオニスとやる気満々のキース、それに桔梗も顔をだす。
「あたくしも混ぜてもらおうかしら」
 パルシアが、その様子を見てビアンカに言う。
「怪我人はこれから出るようです‥‥」
「えー!!」

 朝である。
「じゃあ、十字架はもう売ってしまったのですか!」
 朝食を用意しているエリーヌとビアンカが話をしている。
「そうなんです。ギルドへ紹介手数料をお払いする必要がありましたから、前金が必要だったんです。あれは母の形見でしたが‥‥ でも良いんです! 泥棒も捕まったし、これで良いんです」
「悪いことしちゃったな、俺はそこまでして報酬をもらおうとは思わないよ、なんとかならないか?」
 キースがいうと 今までずっと考え込んでいたマッカーが口を開く。
「金の事ならわしが代わりに掛合ってやろう! シャイロック氏は財布の紐が硬いらしいのう‥‥ 任せておけ、わしと同類の匂いがするのじゃよ」
 
 後日、旅先から戻ったシャイロック氏は、マッカーの話を聞き、ロザリオを買い戻させ、成功報酬をエリーヌの代わりに支払った。
 そして‥‥ケチなシャイロック氏は、エリーヌの給金を僅かだがアップしたそうである。