悪徳商人の死
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■ショートシナリオ
担当:白樺の翁
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月31日〜09月05日
リプレイ公開日:2005年09月09日
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●オープニング
「旦那も、やっぱり人の親だったんスねー」
使用人のエーブルが、ニヤニヤと下品な笑いを浮かべながら主人が馬車から降りるのを手伝う。
巨漢グレーダーマンは、荷物を受け取ると太い腕でこの華奢な使用人の腕をつかんだ。
「何の話だ?!」
「いててて‥‥だって、ご家族のためにでっかい家を買ったんでしょ?」
「どこで聞いた!?」
しまった、という表情のエーブルをしばらく睨み付けるグレーダーマン。
「まあいい、借金の取立てが終わったら、店でたっぷり聞かせてもらおう」
夕闇が迫る人通りのない裏道。
その時、長く伸びた建物の影から一人の男がグレーダーマンの背後に迫った。
「死ね! 金貸しのゴキブリ野郎!」
男は懐から毒を塗った短剣抜き放つとグレーダーマンの背中につき立てた!
「グハッ! 貴様ぁ! 何者だ! くそ‥‥」
グレーダーマンは男を振りほどくと馬車の上のエーブルに怒鳴る!
「エーブル! 俺の剣をよこせ! 早くしろ!」
しかし、エーブルは主人のその姿を見てもニヤニヤ笑いをやめなかった。それどころか荷物の中からショートソードを取り出すと、主人とは反対側の通りの向こうへと投げる!
「エーブル! 貴様‥‥なんだ‥‥くそ‥‥息ができない‥‥毒か‥‥」
エーブルともう一人の男は、倒れたグレーダーマンに止めを刺し馬車に乗せると何処と知れず姿を消した。
その日昼近くなってずっとずっと降っていた霧雨がやっとやんだ。
通りの水溜りを避けながらギルドにやってきたのは上は20才前後下は4〜5才だろうか? 年の離れた姉妹である。
「こんにちわ! いらっしゃいませ」
受付が応対すると、長身で色白の姉が答えた。
「こんにちわ‥‥はじめまして、わたくし日時計通りで金貸しをしていますグレーダーマンの娘でローラと言います。こっちは妹のメルです」
「え‥‥ あのグレーダーマンさんのですか‥‥」
受付は、姉妹の顔を交互に見ながらグレーダーマンの数々の悪評を思い出していた。
もともとはグノームというやはり評判の良くない金貸しの使用人だったのだが、主人が娘の駆け落ち事件で寝込んでしまったのを良いことに、店の権利や財産のほとんどを巻き上げてしまったそうなのである。
グノームも悪党だったが、その上を行くと巷では評判であった。
「どのようなご依頼でしょうか?」
受付は、どちらかというと線の細い、とかく悪党の世界とは関係なさそうなローラを見つめながら言った。
「実は‥‥父が昨日殺されました」
ローラは無表情に、小さな声でぼそりという。
「そ‥‥それは、本当ですか?」
ローラは静かに頷き、メルは姉のスカートにしがみついた。
グレーダーマンの死体は、昨日橋の下にぶら下げられたかたちで発見された。
「父が悪徳商人だったのは知ってます。わたくしたちは郊外にある叔母さんの家にすんでるんですが‥‥ なんとなく噂は聞いてました」
ローラの抑揚のない話し方が、かえって心の傷の大きさを物語っている。瞳も光がなく虚ろである。
メルは姉のスカートで顔を覆うと、声を殺して泣き始めた。
「殺されたって、言いましたよね? 犯人は捕まったんですか?」
受付の問いにローラは首を振る。
「きっと恨みを買ってたんだと思います。 仕返しされたのか敵を討たれたのか‥‥」
そういえば、以前グレーダーマンの強引な取立ての話を聞いたことがあった。 恨みを持っていた者は相当な数になっていただろう。
「ご依頼はなんですか? ローラさん」
「はい」
ローラはテーブルに書類らしい物を置く、どうやら借金の取立て状のようである。
「これは?」
「今朝、叔母さんの家に届きました。 内容は‥‥父が私たちのために南ノルマンに金貨120枚にもなる家を買っていたらしいのですが‥‥」
グレーダーマンは、仲間の金貸しに相当な額の金を借りて、この豪華な一軒家を買い取ったようだ。
取立て状は正式なもので、その期限があと一週間ほどであることが書かれている。
「さっき、父のお店へ行ってみたのですが、使用人のエーブルさんの話では、お店にはぜんぜんお金がないそうで‥‥」
小さな仕立て屋をやっている叔母の家も、彼女たち姉妹にも蓄えらしい蓄えはない。もし、この借金を返す事ができなければ、莫大な借金を背負う事になってしまう上、叔母達にも迷惑をかけてしまう。
「その豪邸は返せないんですか?」
「返却した場合、半額にしかならないそうです‥‥」
そういうとローラは、書類に書かれた120という数値を恨めしそうに眺める。
「それで‥‥ですね。これを見てください」
ローラはさらに2枚の書類を取り出す。
「これは父がお金を貸していた人のものなんですけど」
この2枚は昨日取り立てる予定であった物らしく、グレーダーマンのポケットに入っていたそうである。
「騎士ミッチェルとランカー船長。金額は‥‥二人を合わせるとちょうど金貨120枚ですね?」
「そうなんです」
「えーとつまり、ご依頼は、借金の取り立てですか?」
「はい」
ローラが頷くと、今までスカートでもじもじしていたメルが、きっと顔を上げて受付に言った。
「パパを殺したのはそのどっちかかもしれないって叔母さん言ってた!」
「そうなんですか?」
受付は下を向いているローラに聞く。
「あ、いえ‥‥証拠はないんです。 でも借金の取立てに行く途中殺されたみたいで‥‥あ、それと、これが‥‥」
それはグレーダーマンを橋から吊るしていたロープである。
見るとロープの結び方が特殊である。普通、陸で生活する者はこんな凝った結び方はしない。
「わかりました‥‥ では、ご依頼は借金の取立てと、グレーダーマン氏殺害の犯人の捜索?」
「お願いします! 犯人の捜索はともかく、借金で叔母さんに迷惑をかけるのだけは‥‥」
ローラは深々とお辞儀をした。
手続きを済ませ、二人は帰っていく。
メルは、泣き腫らした目でいつまでもギルドの方を見つめていた。
●リプレイ本文
「わー! いててて」
高い明り取り窓から逃げ出そうとしていたエーブルが、ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)に引きずりおろされ床に尻餅をつく。
ここは、グレーダーマン商会の一室、ディートリヒとティワズ・ヴェルベイア(eb3062)とアルヴィーゼ・ヴァザーリ(eb3360)の3人がやってくるとエーブルは顔を見ただけで逃げ出した。
しかし、すばやく出口を塞がれたので、逃げ場を失って窓へと飛びついたのだ。
「悪い事、何もしてません!」
「嘘はいけないですね」
「じゃ、なぜ逃げたんだよ?」
「そんでお金はどこに隠したのさー」
アルヴィーゼは脂汗をかいて脅えているエーブルを楽しそうに縛り上げた。
「なあ、ここにもと騎士のミッチェルってのが来てへんか? 良く来るって聞いたやけどな」
レアル・トラヴァース(eb3361)が酒場のマスターにミッチェルの事を聞く、マスターは苦笑いをして暖炉そばの席を指差した。
騎士ミッチェルはあまり清潔とは言えない床の上で酔いつぶれて眠っている。
「おい! グレーダーマン商会から来た者だ! 店から借りた金、いい加減払ってもらわねぇと俺らの首が飛ぶんだよ! あん?」
作戦通りヴォーディック・ガナンズ(eb0873)が、柄の悪いごろつき風に脅しをかける。
「俺がミッチェルだが?」
奥の小部屋から甲冑を着た大男が現れた。
ヴォーディックとミッチェルの目が合う‥‥しばしの沈黙の後、ミッチェルが入ってくるようにと手招きした。
フェイマス・グラウス(eb1999)は、グレーダーマン殺害についての調査をしている。
しかし、役所での聞き込みは徒労に終わってしまった。
「どうもおかしいねぇ 木端役人達は何かに脅えてるようだったし、目撃者が一人も現れないのはおかしいね」
彼女はそんな事を呟きながら、死体が発見された橋の側までやってきた。
「おかしいと言えば‥‥」
フェイマスは橋の欄干を覗き込むふりをしながら後ろへと目線を走らせる‥‥やはり、尾行されている!
「あーあ、用心棒の一人も連れてこれば良かったかな?」
口ではそう言っているが、フェイマスの表情は状況を楽しんでいるようだ。
橋を渡りきり、最初の路地を曲がる。そして、その場で停めてあった荷馬車の陰に隠れる。
程なく尾行者が現れた、中年の冴えない目立たない男だ‥‥一人のようだ‥‥武器も持っていない。
「あたしに用?」
目の前に現れた彼女に、男は仰天する‥‥が、すぐに苦笑いを浮かべた。
「へへへ、なんだ気づいてたのか。冒険者ってのはこれだから嫌だ」
男はグノームと自己紹介した。
「痛い痛い痛い!」
「吐くんだよ!」
「言います! 言います! 何でもいいます!」
「アンタさぁ、グレーダーマンを殺して、金を巻き上げたでしょ!」
「えーと‥‥それはそのー」
「‥‥」
「痛い痛い痛い!」
アルヴィーゼは、つねったり、突付いたり、ねじったりとロープでグルグル巻のエーブルを拷問している。
しかし、あまり尋問自体に力が入っている感じはしない。拷問している事が重要なようである。
「キミは、ステインエアーワードと言う魔法を知っているか?」
今まで黙っていたティワズが、静かに質問する。
エーブルの表情がこわばる。
「現場の空気が教えてくれたよ‥‥エーブルが‥‥」
「俺はやってない! ちょっと手伝った‥‥いや、その」
慌てているエーブル、ティワズは眉一つ動かさずに、目線でディートリヒにバトンタッチする。
「事件当日、殺害現場でエーブルを見たという情報もある‥‥横領した金はどこです?」
エーブルの全身から脂汗が滲む‥‥目線が目まぐるしく動く、今まで上気していた顔が、白くなる‥‥真剣に何かを考えている証拠だ‥‥ディートリヒは注意深く観察する。
「あなたは船乗りでしたね? 身の軽い船乗りでも無ければ、明り取りの窓から逃げようとはしませんよ。ランカーとの接点があった訳だ」
怪物を見るような目で、エーブルはディートリヒを見た。大きな溜息が一つ‥‥今まで緊張していた両肩の力が抜けた。
「わかった‥‥話すよ、やったのはランカーだ」
ティワズがディートリヒを見る、ディートリヒは頷いて見せた。
「では、詳しく聞きましょう」
一人残念そうにしているアルヴィーゼを除いて、2人はエーブルの自白を聞き入った。
「そうか‥‥そんな事になっていたとは」
レアルの話を聞き終えたミッチェルは目に涙を浮かべている。レアルが睨んだとおりミッチェルは悪い男ではなかった。
ミッチェルが戦意を失い落ちぶれたのは、腕を失ったからではないらしい。
彼は多くを語らないが、どうやらトーナメント試合のごたごたに巻き込まれて5才になる娘さんを亡くした事が原因なのだそうだ。
「メルちゃんと同じ年やな」
ミッチェルは、今ある全財産を処分して、借金を返すことを約束してくれた。
「そうだ、噂でだが‥‥」
ミッチェルが思い出したように、話し出した。
「ランカー船長は今晩、パリを脱出するという話を、さっき酒場に来ていた男達がしていたな」
「なんだって!」
ヴォーディックが驚きの声を上げる! 高飛びする気だ!
「行くなら急いだほうがいい!」
レアルとヴォーディックは、急いで席を立った。
「嘘じゃないでしょうね?」
「俺が嘘ついてどうなる?」
グノームはフェイマスに協力を申し出てきたのだ。もちろん、彼の目的はグレーダーマンによって乗っ取られた店を取り戻すことだ。
フェイマスはグノームのお陰で、ランカー船長が犯人である証拠を集めることに見事成功していた。
役人には賄賂、怖がっている目撃者には恐喝‥‥流石は同業者なれたものである。
「じゃあ、ランカー船長の手下って、パリに大勢いるのね?」
しかし、聞きたくない情報も集まってしまった。ランカーの事である。
「そうだな、奴の本拠地だしなぁ 通じている役人も多い」
グノームはそういって難しい顔をした。
「木端役人が恐れるわけね」
フェイマスも腕組みをして考え込んだ。
ここは、貧民街の一角、すぐ横をセーヌ川が流れている。
日没‥‥ ティワズとディートリヒ、アルヴィーゼ、そしてレアルとヴォーディックが合流してこの場に集まっている。
「エーブルの話では、船長の隠れ家はすぐ近くです!」
ディートリヒが、掘っ立て小屋の集団を指差して示す。
「パリを出ると言う噂やから、今晩中にかたつけな」
レアルがそう付け加える。
「捜査の手順は‥‥ 」
ティワズがそういいかけた時、アルヴィーゼが叫んだ!
「船!」
見ると、月光のセーヌ川からの反射でぼんやりと黒い影が岸につけてあるのが見える。
数名の者達がその周囲にうごめいている。
「船で逃げる気だぜ!」
ヴォーディックは言うが早いか、もう走り出している。全員がそれに続く。
「まてー!」
船の周りで作業していたものたちが、一瞬動きを止めた。
「急げ!」
命令する男が一人いる、あれがランカー船長だろう!
最後の箱を積み込もうとする手下に、先頭のヴォーディックが追いついた!
「そこまでだぜ!」
手下はヴォーディックの攻撃に転げるように川へ落ちた。
しかし、船は岸を離れている!
「わははは! どこの手の者か知らんが残念だったな!」
ランカー船長が高らかに笑う!
と‥‥ その時、セーヌ川の水面に一斉に数個の明かりがともった。
「残念だったのは、ランカーお前のほうだ!」
明かりは、水上で待ち構えていた、役人ののった船である。
「ランカー、金貸しグレーダーマン殺害の罪で逮捕する!」
役人達の船がランカーの船を取り囲んだ。
その一艘にフェイマスの姿があった。
後日、ここはローラの叔母の家である。
恩のある冒険者達を労らおうと、ローラをはじめ家のものは料理に接待に忙しい。
「賞金残念だったよね」
ティワズが、出された菓子を食べながら残念そうに言った。
「あたしも、その事がねぇ」
フェイマスが、すぐに答える。
彼女も悩んだのである。グノームとの調査でランカーが手ごわい相手である事がわかり、やむなく官憲に助力を願ったのだが、本当は一番賞金をほしがってたのは彼女である。
「あれで良かったんですよ」
ディートリヒが、そこに口を挟む
「私は最後尾だったのでよく見えたのですが、実は貧民街の住人の幾人かが、武器を持って集まりだしていたのは気がつきましたか?」
そうなのである。ランカーの手下はまだ大勢いたのだ、もし役人の船が現れなかったら‥‥。
「まあ、でもよかったやなぁ」
レアルがメルを抱きかかえて、部屋に入ってくる。メルはレアルにべったりである、片時も離れようとしない。
アルヴィーゼとローラの笑い声も庭の方からしてくる。
何の話で盛り上がっているのだろう?
結局、南ノルマンの豪邸は、手放すことになったようなのだが、二人にとってこの生活のほうがずっと良いのだろう。
実は、この席にミッチェルも呼ばれていた。
ヴォーディックと庭のベンチでなにやら話をしている‥‥ ヴォーディックが、時折ミッチェルの肩を叩く。
メルの話だろうか? それとも亡くした子供の話だろうか?
ヴォーディックがまた、肩を叩いて元気付けた。