競売 思い出の品々

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月31日〜09月05日

リプレイ公開日:2005年09月06日

●オープニング

「すいません! これここにおかせて下さい!」
 通りの照り返しが強い午後、大きな荷物をもったその少女はギルドの戸を潜った。
「あ、はい、ではその横の方へ」
 よろよろと入ってきた少女に周囲の者が手をかす。
「なんですか、これは?」
「これから、お世話になったお店を回って配る粗品です! ほんとうに安物なんですけどねー」
 受付の質問に少女は照れくさそうに笑った。
 
 少女はリタといい、グロート家で働いている下女である。
 遠目ではわからなかったが、粗末な生地のお仕着せを着、靴にも修繕の跡が見える。
 しかし、彼女を印象づけているのは真黒い瞳と、健康的に日焼けした肌だ。
 化粧っけは全く無いが、屈託のない笑顔で周囲の視線を集めている。
「今日はどんなご用件でしょう? グロード家のお嬢様‥‥エリーゼ様でしたっけ? あの方はご一緒ではないんですね?」
 
 リタは以前、ギルドに自分の仕えるわがままな女主人とともにやって来た事があった。
 その時は、主人に内緒でギルドに依頼をした経緯がある。

「で、今日のご用件は?」
「はいはい それなんですが‥‥」
 グロード家では1月ほど前に大きな災難に見舞われていた。
 それは唯一所有するグロード家の領地である村で、洪水が出て堰が決壊し、農地や家屋に大きな被害を出したのだそうだ。
「洪水? そんな事があったんですか? ちっとも知りませんでした」
「はい、たいした雨ではなかったのですが、なにせ御領地は貧乏ですから、10年以上治水などしていませんでしたし‥‥ ちょっと降っただけでもう‥‥」

 幸いにして人的被害はなかったものの、家を失った者も多く何より作物への被害が心配である。
「そこでお嬢様は、パリにあるお屋敷を売る決心をなさったんです」
「そうなんですか? 売れましたか?」
「はい」
 屋敷は、出入りの商人や屋敷周辺地域の住民たちの好意的な計らいで、思ったより高く売れたらしい。家財のほとんどもよい値が付いた。
「それは、よかったですね!」
「はい‥‥よかったのですがー」
「どうしました?」
「足りないんです」
 売れるものはすでに無い! 残ったのはエリーゼお嬢様の僅かな私物だけである。
 その私物も、たいした価値のものは無い。
 ほとんどが死別した両親の思い出の品なのだそうだ。
「お嬢様はそれも手放す決心をなさったんです! でも、普通に売ったのでは二束三文なんです!」
「それで‥‥ 冒険者ギルドに頼みとはなんです?」
 リタは、姿勢を正して真剣な顔になると、深くお辞儀をして静かに言った。
「どうか、お嬢様の私物の競売のお手伝いをお願いします! 普通に売ったのでは駄目なのです! このままでは、壊れた堰も埋まってしまった水路も直せません! 収穫期に間に合わなくなってしまいます! 良い知恵を! 良いアイディアを! どうか! どうかお助けください!」
 追い詰められたグロード家‥‥ このまま秋を迎えれば終わりである。
 ほかに収入源のないグロード家にとって、家や家財を売るよりももっと惨めな未来が待っているに違いない!
「あ‥‥ リタさん! 頭を上げてください」
 リタがいつまでたっても頭を上げない事に気づいた受付が、慌ててリタの前でしゃがむと彼女の手を取った。
 手が荒れている、冬のあかぎれの跡も残っている‥‥ 働き者の手だ。
「わかりました。募集してみます。 さあ、頭を上げてください」
 受付は、それでも頭を上げないリタに、そっとハンカチを渡してやった。

 目の周りを赤くしたリタが、手続きを終えてにっこりと笑う。
 もう、いつもの元気を取り戻したようだ。
「では、よろしくお願いします!」
「はい、お任せください」
「ああ、このハンカチは洗って返します! 鼻水ついちゃいました」
「いいですよー」
「いえ、洗わせてください! では、お願いします!」
 リタは、そういうと元気にお辞儀をして、重い荷物を持ち上げるとふらふらと通りへ出て行った。 

●今回の参加者

 ea1252 ガッポ・リカセーグ(49歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8574 常倉 平馬(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 ここはパリ郊外の小さな教会の前、小さな緑地があり、木のベンチが置いてある。
 教会のだれかの手作りなのか、出来は良くないが、丈夫で座り心地はまずまずである。
 フェリシア・フェルモイ(eb3336)は、もってきた包みを広げて、赤いドレスを着た人形の修繕に忙しい。
 もう10年近く放置されていたらしく、見た目より修理に時間がかかっているのだ。
 本当はこの仕事、教会の礼拝堂の中で行う予定であったのだが、今日のよう気は青空の下へ出たい衝動を抑え切れなかったのである。
「赤い人形さんだね?」
 子供の声にフェリシアは頭を上げた。10歳くらいだろうか? 可愛い女の子である。
「お人形さん好きなの?」
 フェリシアの問いに少女は大きくうなずいた。
 少女の身なりはかなり良い、裕福そうな感じである‥‥ 
「でも、このお人形さんはあげられないのよ。大切な物だから高く売らないといけないの」
「ふーん‥‥これ、イギリスの糸だね」
 少女は、ドレスの端っこをつまんでそんなことを呟いた。
「イギリスの糸?」
 フェリシアが聞き返すと、少女は大きくうなずいてニッコリと笑った。
「ママに買ってって頼んでみるねー!」
 教会から出てきた、10人ほどの一団にまぎれて少女は姿を消した。
 空中に鳩が舞う‥‥ 秋の足音が遠くに聞こえる。

「あー 紳士淑女の皆さん!!」
 競売場になっているグロード家の屋敷の大食堂で、壇上にいるのはガッポ・リカセーグ(ea1252)である。
 昨日からの努力のかいあって、会場には多くの人が集まっている。
「本日の競売は、ただの競売ではありません! 悲劇のグロード家の話は皆さんご存知と思いますが‥‥」
 まずは、グロード家の領地を襲った水害のすさまじさを、まるで見てきたように話し出すガッポ。
 やや大げさに、そして感情に訴える演出バリバリでの大演説である。
「ここに集まった皆さんはパリの誇りです! ノルマンの良心そのものと言っても良いでしょう!」
 そして‥‥集まった人達をジャンジャン煽てて‥‥。
「実は皆さん! あえて隠しておりましたが、これからご紹介する品々は、そこらの安物とは違うのです! まさに! 掘り出し物です! 絶対に損はいたしません!」
 最後は、大見栄を切って挨拶とした。
 われんばかりの拍手! 会場は一気に熱を帯びる‥‥。
「名演説じゃな、お客の目の色が変わってきたようじゃぞ」
 後ろから、こっそり話しかけるているのはマッカー・モーカリー(ea9481)である。
 今日は会場設営を担当している。
「後ろのほうのお客、大丈夫なのか? ちょっと乗り過ぎな感じだが?」
「ああ、あれはさっき裏通りの酒場で雇ったサクラじゃよ ガッポ殿が何か言えばなんでも拍手するように言ってある。ちょっとアルコールが入っておるが、大丈夫じゃろ」
 そういえば、服装はそれなりなのだが、あまり上品そうでないのが少し混じっている‥‥。
「それでは、頼むぞガッポ殿! おぬしの舌先三寸に、水害で家を失った子供たちの運命がかかっておるのじゃ!」
「おお! 任せてくれ!」

 競売が始まった。 まずは貝殻細工の宝石箱である。
「さて! 皆さん! これに取り出したるは美しい宝石箱! しかし、この品の紹介をするには、悲しい物語を皆さんにせねばなりません!」
 会場に遅れてやってきたのは、常倉 平馬(ea8574)とフェリシアである。
 すかさず、マッカーが歩み寄り、小声で話しかける。
「どうじゃった? 首尾は?」
「遅れて申し訳ない‥‥ 残念ながら同郷の者で今日これるものはいなかったが、一人マッカー殿もご存知の方をお連れしてきた」
 紹介されて姿を現したのは、貿易商人のフェージである。
「いつぞやは世話になったな! 今日は掘り出し物があると聞いてやってきたよ」
「でぇ‥‥私は父さんの衝動買いを見張りにやってきました」
 ひょいとその後ろから顔をだしたのはフェージの娘で、髪の短い活動的な感じの少女レレミーである。
 ただし、本当のお目当ては平馬のようであったが‥‥。

「おねーさん! 来ましたよー」
 突然、フェリシアの袖を引っ張る者がいる。なんと昼、教会の前であった少女である。
 フェージと雑談していたマッカーがそれに気づく。
「おや? たしかニコラス商会のアジェリーヌ嬢ちゃんだったかのう?」
「こんにちわー お人形さん買いにきました」
「お知り合いですか?」
「うむ、まあなぁ」
 フェリシアは、マッカーに小声で耳打ちする。
「わたくし、なんだか可愛そうで‥‥あの人形も金貨何枚かの高値で競売にかけるんでしょう? 本当にほしいと思っている子供達には買えない値段です‥‥せっかくきてくれたのに、アジェリーヌちゃんがっかりして帰るんじゃないかと‥‥」
 マッカーは腕組みして考えている。
「そうだ! わたくしが後で人形を作ってあげれば良いんですわよね? うんうんそうしましょう! 赤いドレスの可愛いやつを!」
「いやぁ‥‥フェリシア殿、心配は無用じゃと思うがの。もちろん、フェリシア殿の手作り人形も喜ぶと思うがのう」

 中休みである。
 準備室にあつまった一同、ガッポとマッカーは上機嫌である。
「滑り出しは良好だな! 俺も調子出てきたよ」
「休憩中にお客に強い酒を出すようにリタ殿に頼んでまいったよ。これで財布の紐も更に軽くなるじゃろ」
 商人根性全開の二人。
「さっき言ってたアラビアのお姫様のお話、とっても可哀想なお話でしたね」
「うむ、私も初めて聞いた‥‥ あんな悲劇があったとは‥‥」
「悲劇?」
 当のガッポは、即興の作り話、すでに忘れているらしく‥‥何のことかな? という顔をしている。
「おお! そうじゃなぁ うむうむそうじゃなぁ‥‥」
 慌てて、間に入るマッカー。

「マッカーさんでしたわね?」
 休みを終えて廊下に出ると、貴族の婦人が待ち構えていた。
「本当なんでしょうね?」
 このマルジェ婦人はマッカーが呼んだ貴族で、古今の犯罪研究を趣味としている変わった人物である。
 今回、とある大怪盗が、競売にかけられる品物の一つを狙っていると言う話をでっち上げたところ、飛びついてきたのである。
「わたくしが買い求めれば、我が屋敷にその怪盗も来てくれるでしょうね」
 婦人は明るい表情になる。

「さて、この赤いドレスのお人形! ただの人形ではない! まずは金貨1枚からはじめようか?」
 フェリシアが丹念に修繕した人形は、完全に新品同様になっている。
 しかし、布製の人形に金貨を何枚も出すものはいない‥‥ガッポがいろいろと話で盛り上げるが、金貨2枚でとまってしまう。
「そんなところか、ただの人形だし‥‥」
 ガッポがそう呟いたとき一番後ろの席で元気良く手を上げる者がいる!
「金貨10マーイ!」
 満面の笑顔のアジェリーヌである。
 驚く周囲に、財布から金貨を10枚出して見せた。
 対抗馬はなし‥‥即座に落札だ。
「お金持ちだったんですか?」
「ああ‥‥12才なんじゃがね、毛織物の雑貨店をもっておる」
「ええ! じゃあ」
 昼間の話をフェリシアから聞いたマッカーは、はたと‥‥ミスに気がつく!
「もしかして‥‥」
 アジェリーヌは子供だが、毛織物店の娘である。もしかするとあの布地‥‥価値があったのかも!
「大丈夫ですか? マッカーさん」
 青い顔のマッカーを見てフェリシアが心配そうである。

 競売は進み、タペストリーの番になっている。
「次は絶品中の絶品! フランク王国の某貴族の活躍を記した逸品! そしてこのタペストリー、ただの代物ではございません! よーくここを見てください! ここですここ‥‥」
 ガッポの名調子は冴える! のりにのって、アドリブ全開である。
「金貨10枚!」
「金貨‥‥11枚」
「なにぃ! 金貨12枚だ!」
 出所不明のタペストリーなのだが、つくりはしっかりしているし、デザインも悪くないため貿易商人のフェージが飛びついた!
 しかし、静かな対抗馬が出現する‥‥マッカーが声をかけていた貴族マルジェ婦人である。
「金貨‥‥13枚」
 真っ赤になって値をつけるフェージと、眉一つ動かさないで静かなマルジェ婦人。
 エキサイトした投機貿易人は娘のブレーキはすでに利いていない。
「うぐぐぐー! 14枚だ! いやいや20枚! どうだ!」
「21枚‥‥」
「うむむーー!」
 この勝負最終的にはフェージ氏が勝利する。

 熱気に満ちた競売の一日が終わった。もう深夜近い。
「目標金額、超えました!」
 マッカーのつけた帳簿をみながらフェリシアが嬉しそうに言う。
「そうか! やったな!」
 ガッポも胸を張る。
「もともとの評価額が金貨8枚だったのですからね。みんなの努力です。すばらしい成果です」
 実は今回、平馬には隠れた活躍があった。彼はある酒場で、グロード家の隣村の貴族が、競売の邪魔する計画を立てているという情報を得た。そのため彼はたびたび会場を抜け出して、周辺のパトロールをやっていたのだ。
 彼はこういう所で手を決して抜かない。
 また、彼のつれてきたフェージ氏が、収益の半分くらいを出した計算になる。この功績も大きい。

「ところで、マルジェ婦人は何を買って帰ったのじゃな?」
「えーと‥‥子供用家具セットですね ベットとか箪笥とか、小さな机とか‥‥12点セットのですよ」
 フェリシアの答えに、マッカーの動きが一瞬止まる‥‥。
「大丈夫ですか? マッカーさん」
「なんでもっと、盗みやすい物にしてくれんかったのかのう‥‥」
 マッカーは、予告状に何と書こうかと思案に暮れるのであった。