死神を乗せた御者

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月19日〜09月24日

リプレイ公開日:2005年09月27日

●オープニング

 今日は雲ひとつない晴天である。
 通りの人出もいつになく多い。
「ここが花の都なんですねぇ 素敵ですねぇー」
「ルピンさんはパリは初めてなんですか?」
「はい、父とずっと地方周りでしたから‥‥あこがれてました」
 14〜15才の位の長いスカートの少女と、身奇麗で精力的な感じの男が、数人の荷夫らしい男たちを連れてギルドにやってきた。
「ルピンさんはどうします? 買い物でもしてこられては?」
「ここが冒険者ギルドなんですねー 興味あります! ご一緒に、お邪魔はしませんから」
 少女は少女らしいく屈託なく笑って見せた‥‥が、同時にギルドの中へ、まるで敵陣を視察する斥候のような冷めた視線を向ける。
 男性はそんな彼女の素振りに、まるで気がつかない風で、気さくに頷くと、後ろの男達に合図してギルドへと入った。
「こんにちわ、失礼しますよ」
「こんにちわ」
 受付が挨拶すると男はパリ郊外で水車小屋を経営しているレトックという者だと名乗った。連れの女性は、彼の村の教会に2月前に赴任してきたの神父の養女だそうである。
「パリは久しぶりでしてねぇ ここの所いろいろ忙しくて」
 レトックは、受付に促されるままに席に着いた。
「どのようなご用件ですか?」
 短い雑談のあと、受付がそう切り出すと、レトックは後ろにいた荷夫の中から年長の者を呼んで、自分の横に座らせた。
「チューレといいましてね、まじめで酔わない限り滅多に嘘はつかない男です」
 紹介された初老の男は、帽子を脱ぐと少し恥ずかしそうにもじもじした。
「さあ、お話して差し上げなさい」
「へい‥‥ 実は、あっしはここの所‥‥ 毎週なんでがすが‥‥ 死神を荷台に乗せてまして‥‥」
 チューレは、レトックの所でもう20年以上も荷馬車を預かって働いている。
 パリから離れたレトックの水車がある通称水車村までは、馬車で急いでもまる半日かかる。チューレは暗いうちからおき出して、昼までに荷物をパリの得意先に配達するのが仕事である。
「もう2月ほど前になりますが‥‥」
 真っ黒いローブを着て顔を隠した怪しい者に声をかけられた。
 気のいいチューレは、道すがらパリへ行く者がいれば、荷物の間に乗せていってやるのが常だったので、そのときも何の気なしに乗せた。
「最初は、銀細工通りで降ろしたんで‥‥へぇ」
「はい」
「次の週には、日時計通り‥‥」
「また、乗ってきたんですね? その黒装束の男」
「そうそう、毎週、だいたい6〜7日おきかな? 間を空けて現れるんで‥‥へぇ」
 完全に正確なわけではないが、その者は毎週姿を現して、チューレの馬車にのった。そして、そのつど違う場所で馬車を降りたのだ。
「なぜ? 死神だと思うのですか?」
「それは‥‥ そのぉ」
 言葉を濁して下を向いてしまった、老御者に代わって、レトックが話しだす。
「2月前の火曜、銀細工通りでマス婦人が殺されたのはご存知ですよね? 犯罪調査は、こちらのご専門のひとつだ」
 パリは大都会である。 毎日多くの事件が発生し、殺人事件も少なくない。受付としてはそのすべてを記憶しているわけではないのだが‥‥。
「えーと、たしか‥‥ そのあたりの職工組合の副会長さんの奥さんでしたね?」
「そうです。 そしてその7日後、日時計通りの雑貨問屋の店主ドレイクさんの奥さんが殺されてますね?」
「ええ‥‥ はい、そうでした」
「チューレが銀細工通りにそいつを降ろしてから、先週までの降ろした場所の一覧です」
 レトックは、小さなメモを受付に手渡した。
 黙って目を通す受付。
「5回運んで、その降ろした場所で5人死んでいるんですね? 事故死や病死もあるようですけど?」
「ええ、私も最初は偶然かと思っていましたが、なにせチューレをはじめ家の使用人たちが不安がって困ります」
「わしゃ、死神の御者なんかやっとったとわかったら、天国へいけねぇです!」
 チューレも帽子を握り締めて顔をくしゃくしゃにした。
「謎の黒ずくめの男というわけですね? 死神かぁ怖いですね」
 今まで黙っていたルピンが、身を震わせて一言相槌を入れる。
 彼女は常に笑顔を絶やさない、しかし、受付はどうも何かありそうな気がしてならない。

「謎の男‥‥ そうですね? では、うーん‥‥この謎の男の調査ですね。それと死因との因果関係の究明」
「はい、そうです! ああ、そうそういい忘れるところでした! 実は、来る途中役所による用事がありましてね。ちょっとよってきたのですが‥‥」
「どうかしましたか?」
「いや、私は冒険者の皆さんにはお世話になったことがありましてね。それ以来全面的な信頼を寄せているので、調査は全部任せるつもりだったのですが、ちょっと好奇心がでまして、死んだ5人について少し調べてみたのです」
「なにか出ましたか?」
「はい‥‥ 死んだ5人は全部女性でしょう? で、年も近い‥‥何より驚いたのが、出身地が私と同じ村なんですよ! そして結婚前の旧姓が全員アミオって言うのです」
 レトックは、もう一枚メモをだす。小さな文字でびっしり5人の名前と年齢、出身地が書かれていた。
「姉妹でしょうかね? アミオって名前は村に多いのですか?」
「いえ、でも村一番の名家がアミオです。まあ、今は引っ越して住んでいませんけどね。村人とは交流がなかったので、そこの人間だったのかはわかりませんが‥‥村に戻ったら調べさせてみましょう。では、お願いします。なにか他に私ができる事がありましたら、何なりと‥‥」
 レトックは必要な手続きをすませると、ほっとした表情になる。
 一同が帰りかけたとき、老チューレがいきなり、受付の前に戻ってきた。
「そうだそうだ! まだ言ってない事があった! この前、乗せた時風がひどくてなぁ‥‥ ローブの裾が少しめくれたんじゃが‥‥ わしゃ死神が女とはしらなんじゃった!」
「女?」
「そらー、綺麗な、めんこい、白い足じゃったよ」
 目をしばしばさせると、それだけ言ってチューレは、通りでまっている主人達を追った。

●今回の参加者

 ea1727 カエン・ヴィールス(32歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ea9655 レオニス・ティール(33歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1107 ユノーナ・ジョケル(29歳・♂・ナイト・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「わははは! 負けちまったぜ! カエンの旦那、あんた強いなぁ」
 水車村の名物、6連水車小屋の休憩室は酒の入った荷夫達の笑い声に満ちていた。
 酒席の中心は、調査にやってきたカエン・ヴィールス(ea1727)である。
「次は誰だ?」
「おっしゃー! リベンジー!」
 カエンが荷夫達と興じているのは腕相撲である。
 一見遊んでいるようだが、これはカエンなりの作戦なのである。
 これで荷夫達の仲間関係がわかるし、酒でも入れば一気に仲良くなれる。荒くれ者の扱いに慣れたカエンならではであろう。
 こういう職場は仲間意識が強いから普通に聞き込みしてもだめなのである。
「よーし! そろそろ酒場に繰り出して飲み直すか!」
 頃合を見て、情報収集開始! 非番の者を全員引き連れて村の酒場へと向かう。

「うーん。これって変な事件だなぁ」
「何か書類に不備でも?」
 役所の窓口の中年の係官が、ユノーナ・ジョケル(eb1107)の独り言が聞こえたらしく心配そうに聞いてくる。
「いいえ」
 ユノーナはにっこり笑って相手を安心させてやる‥‥が、頭の中では今回の事件の異常性について考え続けている。
 水車村の荷夫達は、毎日かなりの量の小麦粉を広範囲に配達している。当然彼らの噂話は短期間のうちに広がることになる。
 チューレ老人はその中でも最古参で中心的人物だ。彼の話は3日もあればパリの近郊隅々にまで広がると見ていい。
「わざと‥‥かな?」
 また今、目の前にしている記録も驚くべき事実を伝えていた。

 レオニス・ティール(ea9655)は久しぶりにアミオ家の陰気な屋敷を訪れていた。あまり愛想のよくない執事がレオニスの顔を覚えていたらしく絶句する。
「当首のウイボー氏に会いたい。お話できるかな?」
 屋敷の中は静かだ、どうやらあの用心棒達は解雇してしまったらしい。
「旦那様は‥‥明日おいでください。今はお休みになっています」
「話だけでも、3分でいいんです」
 執事は、当惑しながらも拒否した。
「旦那様は、もう3日も痛みが続いていて眠っていなかったのです、今朝やっと薬が効いて‥‥だから、今日だけは‥‥」
 ウイボー氏の病はかなりの激痛を伴うらしい、ここ3日間は特にひどく、衰弱も激しいらしい。
「そうですか、では明日来ます。ところで、ずいぶん静かですね?」
「ああ‥‥アミオももう終わりです。死神に取り付かれて‥‥みんな逃げ出してしまいました」
 名門貴族の落日‥‥ レオニスの脳裏にはそんな言葉が浮かんでは消えた。

「遺体はないよ」
 墓守の老人は、マッカー・モーカリー(ea9481)の質問に答えた。
「新しい神父様の娘でルピンって子がいるだろ? あの子と‥‥黒ずくめの変なのが二人でやってきて、別の墓に移したからなぁ」
 アミオ家の馬鹿でかい墓所には、ここ100年ほどの一族の者が眠っている。総勢40名ほどらしい。
 火事で死んだ娘‥‥リリアンの遺骨は2月前に移されたそうである。
「こっちこっち、この墓に入れた」
 100mほど離れた場所の粗末な墓を墓守は指差した。
「ルーシー・パリッレ? だれじゃね?」
「母親ですな、アミオ家の当首の姉君なんだがね。若いころ悪い男に騙されてなぁ 百面相のパリッレって悪党ご存知か? まあ、そいつと駆け落ちしたんだな。6年たってひょっこり帰ってきたんだが、子供を3人連れて帰ってきたんだよ。その一番上がリリアン‥‥下がユリスとルピン」
「?! なんじゃと ルピン?」
 驚くマッカーに老人は、静かにうなずいた。
「うーむ‥‥ やはり復讐か‥‥すまぬがルピンのいる教会を教えてくれるかな?」
 マッカーは、しばらく考えた後、夜道を教会へと向かった。

 馬車は揺れる‥‥チューレ老人が震えながら御車台に座っている。
 翌日、カエンは馬車の上で、乗り込んできた死神‥‥の姿を観察していた。
 すでに随分と時間がたったが、じっと小麦粉袋の上に腰掛けて黙っている。表情は黒いフードのせいで見えない。
「ふーん」
 殺気は無いな‥‥ 心の中でカエンは呟いた。
 パリの街へと入ってきた、すでに日は高い。賑わった通り、暖かい太陽‥‥とても死神には似つかわしくない。
「え? 降りる?」
 チューレがいきなりすっとんきょうな声をだす。馬車は止まり、死神は降りようとしている。ここは噴水通りだ‥‥たしかアミオ家の屋敷のある通り?
「お! 手を貸すぜ!」
 ぱっと俊敏に飛び降りたカエンは、ややふらつきながら降りようとしている黒ずくめの死神に手を貸す! いや、正確には腕を引っ張って抱きかかえたのだが‥‥。
「あ‥‥」
 死神は予想以上に軽い! やはり女だ! カエンはそう直感し、受け止めた感触で確信した。
 やわらかく暖かい感触、髪の毛の香り‥‥うん、なかなか‥‥。
「はなせ!」
 死神はもがいて、腕の中から飛び出した。

「天‥‥天罰だろうか?」
 土気色した老当首の顔には死相がうかんでいる‥‥レオニスは、努力して明るい表情を作るとウイボーに笑いかけた。
「大丈夫だよ。気を強くもつんだ」
 ここはアミオ家の邸宅。
 以前会った時の傲慢な権力者の姿はそこには無かった、家族を失い、世間から見捨てられ、死の床にいる一人の老人の姿である。
 情報収集のために来ただけのはずなのだが、レオニスはほおって置くことができなかった。
 定期的に襲ってくる激痛‥‥彼は水を飲ませ、背中をさすってやる。
「どうですか?」
 そこへ執事に案内されたユノーナが入ってくる。
「時折、目を覚まして僕に懺悔するんだよ。姪の中で火事で死んだのがいたよね? 真相を話してくれたよ‥‥」
 レオニスは暗い表情になる。
 手下に命じて放火したのだ、自分の息子にアミオを継がせたいがために‥‥。
「酷い‥‥僕も調べてきましたよ。火事で死んだのは、ウイボーの姉ルーシーの娘ですね? 驚くべき情報もあるんです! ルーシーの娘は3人いたんですよ。その三人の一人が!」
 長女の名はリリアン、当時16才である。彼女はアミオ家の高い塔の最上階で焼死している。
 母親のルーシー、次女のユリスと三女ルピンは、同じ塔に寝ていたが、何とか脱出し九死に一生を得た。
「ルピン?」
「そう、レトックさんの村の神父の娘が、実は生き残っている姪の一人だったんですよ!」
 ガシャーン! バリーン!! その時! 突然、廊下で大きな音がする。なにか甕のような物を叩き割った音だ。
「その通りよ! よく調べたわね!」
 女の声だ‥‥ 姿は見えないが、死神だろうか?
「レオニスさん! 油の臭いがする!」
 ユノーナはすぐさま窓へ走るが、鎧戸を落としてあった戸は外から固定されているらしくびくともしない。2箇所ある扉も両方外から閉ざされている。閉じ込められた!
「ルピン‥‥ 死神はキミだったのか!」
 レオニスはベットに横たえているウイボーの前に立つ。この男は権力の亡者で極悪人だが、このような形で私刑にすべきではない!
「復讐のために正義を見失ってはいけない! キミの気持ちはわかるが、これではこの男とやってる事が同じだよ!」
 レオニスは、ルピンの声がした廊下の方に向かって叫ぶ。
「母様は‥‥ リリアン姉様が死んでから心労で死んでしまったわ‥‥」
 ルピンの声は、感情的な抑揚をもって壁越しに伝わってくる。
「復讐しても死者は喜ばない!」
 レオニスがルピンを説得している間に、ユノーナは出口を探しつつ、廊下の様子を伺う‥‥ 複数の足音がする。ルピンには手下がいるようだ。
 またどこかで油の甕が割られた、死神はこの屋敷ごと焼いてしまうつもりなのか?!

「ルピンやめて!」
 突然、今までと違う方向から、女性の声が響く! 同時にその方向にある扉が、乱暴に体当たりで破壊された!
「お待たせ! もう少し盛り上がってから助けに来るんだったか?」
 カエンである! 一緒にいるのは‥‥ 黒装束の‥‥死神??
「紹介するぜ! 次女のユリスだ!」
 ユリスは一礼すると、フードを下ろした‥‥ 右目からほほにかけてピンク色の火傷の跡がある。 あの火事の時の負傷だろう‥‥。
「私の格好が、結果的に皆さんを動かしたそうですね。妹を止めてください!」
 鍵が外される音がして、戸が開きルピンが手下とともに部屋に現れる。
「ユリス姉様‥‥また邪魔をしにきたんですか?」
 ルピンの表情は険しい。 手下はマスクをつけた長身の男と、町のごろつき風の男6人だ。マスクの男は手に松明をもっている。
「姉様は憎くないのですか? もうアミオ家で家督を継げる者は私達しかいないのです! 冒険者達を一緒に口封じしてしまえば、アミオ家は私達の物なんですよ!」
 ユリスはゆっくりと首をふる‥‥ それを見たルピンの瞳から感情がすーっと消えて、冷酷なものになる。
「お前達は、姉様が入ってきた裏口を封鎖して! 全員死んでもらいます」
 ルピンは手下に指図すると、松明をもっているマスクの男に火をつけるように目で合図する‥‥。
 男は頷き‥‥松明を掲げると‥‥
「まてー!!」
 ユノーナがあらん限りのスピードで突進する!
 しかし、男は突然松明を窓際の花瓶の中に突っ込むと火を消してしまった。
「な!!」
 ルピンが唖然とする目の前で、男はマスクを取りニヤリと笑う‥‥それは、マッカーであった。
 呆然自失の手下達を、カエンとレオニスがあっという間に倒してしまう。
 ルピンの前に立つ悲しい目のユノーナ‥‥。

 3日後、ウイボー氏が死んだ。
 ルピンは捕まり、ユリスはすべての財産相続を拒否した。
 呪われたアミオ家の歴史はここに終わる‥‥。