双子橋

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月25日〜01月30日

リプレイ公開日:2005年02月01日

●オープニング

 乾燥した冷たい風が吹き抜ける‥‥ 寒い朝である。
 空には、どんよりとした鉛色の威圧的な雲が、低く垂れ込めている。


 その黒尽くめの紳士は、ギルドの戸を開けると蛇のような冷たい視線を隅々まで走らせた。
 後ろには用心棒らしい厳つい男と、使用人らしい仏頂面の老人を連れている。
「冒険者ギルトと言うから、どんなところかと思っていたが、意外と普通だな!」
 仕立ての良いつば広の黒い帽子をとり、もう一度あたりを見回す、気づいた受付が応対に出る。
「ようこそいらっしゃいました、ご依頼ですか?」
「そうだ、依頼だ、仕事は単純だ、子供を一人‥‥ と言ってもすでに14歳くらいのはずだがね、それを探してほしい」
「人探しですか」
「得意だろう? その‥‥ 冒険者とやらの類の連中は‥‥ こそこそ嗅ぎ回るのがな」
 無礼な言いぐさに、受付は心の中でムッとなったが、そこはプロ、表情には出さない。
「お探しする方について、できるだけ詳しい情報を提供してください、あと、期間はどのくらいでしょう?」
 無礼な紳士は、名をジョルジュ・メラマールといい、名門メラマール家の次男であるそうだ、探しているのは、実の兄べシューの子供である。
「兄は不治の病でもう長くない、妻との間には子がなくてな、屋敷にいた女中との間にできた子供を探しているのだ」
 ジョルジュの話によると、女中は14年前にそれが元で追い出され、2年前には病気で死んだ、それ以来子供の行方もわからなくなっているらしい。
「私の部下にも探させているのだがね、事は性急だ、私は仕事で5日ほど留守をする、それまでに探し出しておいてほしい」
「期限は5日ですね‥‥」

 探し出す男の子は、名前はアレントという、アレント・ファジュローだ。
 年齢は14才、金髪で目はブルー、長身、目の下にほくろが3つ並んでおり、それが最大の特徴になっている。
 母親は、4年前まで下町の酒場で働いていた。
 アレントの現在の住所は不明。

「報酬は金貨で20枚払おう、それだけあれば下水の中だって探しに行くだろう? ただし後払、見つからなければ報酬はなしだ!」
 ジョルジュはそう言い、太っ腹なところを披露した、受付はこのいやみな態度に耐えつつ、話を進める。
「金貨20枚とはすごいですね、冒険者たちもさぞ喜ぶことでしょう。 ‥‥ところで、ギルドでは紹介手数料をいただいています、成功報酬は後払いのようですが、手数料は最初にいただくことになっております、お支払い願えますか?」
「なんだと‥‥ それも後だ! そんなはした金、まとめて後で払ってやる!」
「しかし、規則になっておりまして‥‥ 」
「誰にむかって言ってるつもりだ! 私はジョルジュ・メラマール! メラマール家の人間だぞ! こんな侮辱は初めてだ! まったくなんだ! 受付ふぜいが!!」
「‥‥ 」
「もう頼まん! 後でおもい知るがいい!」
 立腹したジョルジュは、後ろの2人に目配せすると、棄てぜりふを残して出て行った。用心棒は、ジョルジュの後を追ってすぐに外へでたが、仏頂面の老人は、その場に残った。
「あの‥‥ まだなにか?」
 受付が、怪訝そうに聞くと、老人は出て行った二人の方を伺いつつ‥‥
「お願いがあります! ジョルジュ様は、アレント様を見つけ出したら殺してしまうつもりです! 兄上様の財産を狙ってらっしゃいます」
 老人は、声を殺してヒソヒソと話す。
「いまジョルジュ様は、事業に失敗なさって大変な借金がおありで‥‥ 金貨20枚など支払うことができません! もちろん‥‥ アレント様を亡き者にして、兄上様の財産を継げば、話は別でございますが‥‥」
 老人は、小さな皮袋をカウンターの上におく。
「私は使用人の身分でございますから、蓄えなどございません、これはなけなしのお金でございます、どうか、これで‥‥ ジョルジュ様より早く、アレント様を見つけて、アレント様の父君である、べシュー様のお屋敷へおつれください」
「おい!なにしている! 早く来い!」
 外からジョルジュの声が響く、老人はギョッとする。
「ジョルジュ様の知らない事実がございます、アレント様の母上様は病死ではございません! セーヌ川にかかっている小さな橋で双子橋というのがございます、アレント様の母上様が亡くなられた橋です」
「亡くなられた?」
「はい‥‥ 物乞いに出ていて凍死したという話です、勤めていた酒場も、メラマール家との摩擦を恐れてか追い出されたそうです、ひどい話です。 あと5日で、その母上様の命日なのです、孝行者のアレント様の事です、その橋に姿を見せるかもしれません‥‥」
「なるほどわかりました、このお金はお預かりします‥‥ あ、もう行かれた方が良くはないですか?」
「では、よろしくお願いします‥‥ お願いします」
 大慌てで老人は飛び出していった、外からはジョルジュの叱咤する声が聞こえてくる、その様子からもジョルジュは良い主人ではないようだ。

 さて、老人の話が本当だとすると、ジョルジュに手を貸すのはアレントの命を縮める事になったようだ‥‥。
 自分の分の財産を食いつぶしたからといって、甥の命を狙うとは、ひどい奴だ‥‥ なんとかしてやりたいものである。
 

●今回の参加者

 ea0130 オリバー・マクラーン(44歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2242 シフォン・マグリフォン(27歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4433 ファルス・ベネディクティン(31歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea8989 王 娘(18歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0694 ハニー・ゼリオン(43歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 木枯らしが舞う、しかし、町の通りには人々の熱気が溢れていた。

「アレントという少年を知りませんか? こう‥‥ホクロが3つ並んでいる」
 店の主人は首をふる、オリバー・マクラーン(ea0130)が、礼をして次の店へ急ぐ。
 すでに数十軒の商店を回ったが、有力な情報はない‥‥しかし、オリバーはこんなもんだろうと思っている。
「こんな事は、ジョルジュの手下がもう散々やっただろう‥‥」
 彼は囮なのだ、わざと目だって、敵の気を引く作戦だ。
「蜂蜜買わないかい? ついでにアレントって子供知らないかな?」
 そしてもう一人、通りに仲間の姿があるハニー・ゼリオン(eb0694)だ。顔をかわった面布で覆い、蜂蜜の壷など持っている‥‥あれは、私より2倍は目立つ、オリバーはそう思った。

 表通りを派手に練り歩く2人とは別に、裏通りを探索する者がいるファルス・ベネディクティン(ea4433)である。
「この辺じゃ見ないねぇ」
 地図上の商店を塗りつぶす、地道な作業だ、そのファルスの姿を影で見つめている怪しい人物がいる、ジョルジュと一緒だったあの用心棒風の男だ。
 そして、その用心棒の姿を監視する影がある、フードを深く被った姿‥‥。王 娘(ea8989)だ。
 用心棒は、しばらくファルスを見張っていたが、雑踏の中へと姿をけした‥‥。王もそれを追う。

 フィニィ・フォルテン(ea9114)が街角で歌を歌っている、美しい歌声に沢山の子供達が集まる。
 その中で、真っ赤になってもじもじしている少女がいる。
「街でちらっと見かけて以来、とても気になっているので名前を知りたい。出来るならお友達になりたい」
「なんでぇー お前ませてんなぁー それはアレントってやつだよ、きっと」
 集まっている悪ガキがはやし立てる、少女はいっそう赤くなりもじもじする‥‥。少女はユキ・ヤツシロ(ea9342)である。
 アレントは子供の間では名が知れているのだが、だれも住まいを知らない、最近見た者もいないようだ。

「あんた、裏口から来てくれて良かった、玄関にいる2人組の門番は新入なんだけど、どうも様子がおかしくてね、ガラも悪いし」
 コックだという初老の男は、シフォン・マグリフォン(ea2242)が、事の次第を説明すると、協力を約束してくれた。
 ここは、べシューの屋敷である。
「アレントの母親のことかい? アンナといってね、良い子だったなぁ 若くて美人で、歌も上手だった‥‥」
 明るい人気者‥‥。政略結婚のべシューの奥方には、逆にそれが気に障ったのだろう、べシューには内緒で追い出してしまったらしい。
 その奥方も、べシューが病になってからは、実家に帰ってしまい、屋敷はひっそりとしている。
「べシューさんに会わせてくれないかな?」
「旦那様は‥‥」
 コックはぐっと涙ぐむ、そして
「旦那様は、もう誰ともお話をしません、心を閉ざされてしまって、だれも信用できなくなっているんだよ」

 王は、ジョルジュの手下の用心棒を注意深く尾行している、奴を追っていけばジョルジュ達のアジトがわかる筈だ。
 男は、町の中心街から離れ、暗く、ごみごみした物乞いのたむろする界隈にやってきた。
「王! おぬし何をしておるのじゃ?」
 突然、道端に座り込んでいた男達の一人が立ち上る。
「誰だ!」
 闇の中から現れた長身の男はマッカー・モーカリー(ea9481)だった。
「おぬしも、母親の物乞い仲間に目を付けたのか? 若いのになかなか目の付け所が‥‥」
「違う、あれだ」
 先を歩いている用心棒を指差す、男は崩れかかった古い倉庫の前で立ち止まっている。
「ほほー‥‥これは面白いのう、わしもあの倉庫を調べる所だったのじゃ。さっき、アレントに似た子供がいるとの話を、仕入れたばかりじゃて」
 用心棒は倉庫に入っていった、すると‥‥ 戸口の反対側の窓が開く、なかから少年が飛び出す!
「まちやがれ! 小僧!」
 用心棒の声がする、どうやら奴も気がついたようだ!
「王! 奴をたのむ! わしは少年を」
 マッカーが指図するまでもなく、王は機敏な動きで倉庫から出てきた用心棒の妨害に走る!
「待つのじゃ! わしらは敵ではない!」
 少年は一瞬その声に立ち止まった、振り向き、露骨に警戒した表情を向ける。
「わしらは‥‥」
「マッカー!!」
 王の叫びにマッカーが振り向くと、用心棒の仲間らしいのがぞろぞろと集まってきている! すごい数だ、勝ち目はない!
「橋で待つ! わかるな? あの橋じゃ!」
 少年は、大通りの雑踏の中へと消えていった、王とマッカーも目配せし、別々の路地へと逃げ込んだ。

 命日当日、双子橋である。
「本当にそれ、アレントだったのかい?」
 全員が集まっている。フィニィの歌声が響いている。ハニーは今日何度目かになる、質問を二人にした。
 何事もなく、午後になった‥‥。そして夕方。
「綺麗な声ですね、母を思い出します‥‥」
 突然、頭まですっぽりとローブを被った少年が、歌うフィニィに声をかける。
「え!あ‥‥」
 すかさず、ユキが駆け寄り、ローブの中を下から覗き込んだ。
「あ! ほくろ三つ!‥‥です」
「ユー! アレントだね」
 一同が集まってくる、アレントはフードを下ろした。
「皆さんは?」
「我々は冒険者ギルドの者だ」
 ファルスが、今までの顛末を話す。アレントはそれを黙って聞いている。
「あの父に会えと? 僕に貴族になれと言うのですか?」
 アレントは話が終わるとそういった。
「無理にとはいいません、私も貴族の端くれ、気持ちは良くわかります」
 オリバーの言葉には実感がこもっている。
「父が母に何をしたかご存知なんでしょう? 僕だって今まで‥‥」
 少年は言葉を飲み込んだ。
「キミは不幸だったかもしれないけど、お父さんはキミに会いたがってる。キミはお父さんも不幸にする気かい?」
「よく考えるんだ、端で見るほど貴族の世界は綺麗な世界ではありません」
 ファルスとオリバーが交互に言う、アレントの表情は複雑だ、憎悪と愛情、怒りと悲しみが混ざり合う‥‥長い時間が流れた。
「わかりました、父に会います」
「茨の道を行くか、それも良かろう。何かあれば我々を呼び相談するなり、依頼を出せば良い」
 オリバーはアレントの肩に手をおく。
 一同は、べシューの屋敷へと向かう、道すがらフィニィにアレントが話しかけてきた。
「フィニィさんでしたね、お願いがあります、父に聞かせてやりたい歌があるんです」
「歌ですか?」
「そうです、僕にとっても思い出の歌なんです」

 べシューは、四角い天井を眺めていた、今までの人生を思い起こす、貴族の長男として生まれ思い上がった人生、優柔不断で流されることの多かった人生。
 後悔ばかりが湧き上がってくる、なんという人生だろう、果たしてどれだけの人を不幸にしたのだろう‥‥ 一人の薄幸の女性の笑顔が浮かんでは消えた。
 と‥‥ 空耳だろうか? どこからか歌声が聞こえてくる!
「ま、まさか」
 その歌詞には聞き覚えがある、アンヌだ! アンヌが炊事場で、廊下で、そして彼の腕の中で歌っていた歌だ! 
「あ‥‥ああ‥‥」
 涙が溢れた、まぶたの裏側に浮かぶ、アンヌの幻影に両手を伸ばし、そして懺悔した。
 扉が開く、そして一人の少年が入ってくる。背が高く日に焼けてたくましい‥‥ その瞳は、そう、アンヌにそっくりだ。
「おまえは‥‥」
 歌声が流れる‥‥ べシューとアレントの心に同じ女性の姿が浮かぶ、そして親子の失われた時間が少しづつ埋められていく‥‥。
 べシューはもう何も言えなくなっていた、震える手で、アレントのほおにふれる。
「なぁ、親父‥‥。困るな、俺は長い間親父の顔面を思いっきりぶん殴ってやろうと思ってたんだぜ‥‥、なのに病気になんかなって、これじゃ殴れないじゃないか‥‥ 早く元気になってくれよ、思いっきりぶん殴ってやるからな」
 アレントのほほにも涙‥‥母を泣かせた男である、母を捨てた男である。だが、しかしそこにいるのは病み衰えた、一人の老人‥‥。そして、この世でたった一人の実の父親であった。
 べシューは何度も何度も涙をぬぐい、何度もうなずいていた。
 そっと、冒険者たちが部屋に入ってくる。
「よかったわね、歌が役に立ってうれしいです」
「愛だな、やっぱり愛だな」
「よか‥‥グズ よか‥‥った、グスン」
 満足そうなフィニィ、しきりにうなずくファルス、そして涙で何言ってるのかわからなくなってるユキ。
 その時、窓が開いて、王とシフォンが入ってきた。
「注意しろ、ジョルジュだ」
「手下も一緒だよ」
 外を監視していた王とシフォンは、敵の動きをいち早く察知したのだ。全員が身構えると同時に、ジョルジュが入ってきた。
 アレントがベシューに付き添っているのを見て、一瞬、顔を青くするが、すぐに笑顔を取り作ろう。
「ジョルジュか、アレントが戻ったぞ、わしの跡取りだ! お前もそのつもりで付き合ってくれ」
「は‥‥はい、兄上! や‥‥やあ、アレント君!」
 アレントは一同をチラッと見た後。
「叔父上、今回の事では、いろいろと尽力してくれて感謝していますよ」
「そ‥‥そうかね」
 ジョルジュは、部屋の外へ出た、廊下を笑顔を貼り付けたまま歩く。
「くそー! メラマール家の財産は、全部俺のものだ! 覚えておれーー!」

 翌日、ベシューの館には久しぶりの笑い声が響いていた、土地の名士を招いての披露パーティーだ、勿論、冒険者達も招待されている。
「フィニィさんと言ったかね? あの曲をお願いしたいのだが」
 ベシューが、注文する‥‥。
 そして、館には思い出の曲が、いつまでも流れ続けた。