空想家族

■ショートシナリオ


担当:白樺の翁

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月04日〜02月09日

リプレイ公開日:2005年02月10日

●オープニング

 灰色の冬の雲が流れ、山々は白く霞む‥‥ 高地は雪のようだ。 

 その日、冒険者ギルドの受付には、足の悪い中年の男性と、若い女性の二人組みが訪れた。
 用意された椅子に腰かけ、杖を置いた男性は、大丈夫だと手を貸す若い女性に目で合図する。
「ご用件は?」
「はい、私、カストと申します、ボナパルト・カスト、郊外で私設の孤児院をやっています」
「孤児院ですか、それはご立派ですね」
「成り行き上、そうなってしまいまして‥‥」

 男は、どことなく上品な顔立ちであるが、全体的に精彩という物を欠いていた。
 神経質そうで、自信無さげな眼差しを、こちらに向けている、年齢は50代前半といったところだろうか?
「で、ご依頼はなんでしょう?」
「はい、子役を探しています」
「子役? 劇にでる子役ですか?」
「はい、ああ、いえ‥‥ そうでもあり、そうでもなし‥‥」
「はぁ‥‥?」
 どうもこのカスト氏、人と話すのが苦手なようだ、外は寒いのに、額に滲み出した汗をハンカチで不器用にふく。
「じれったいなぁ カストさん、私が代わりに話ますね」
「あなたは?」
 目の大きな快活そうな女性である、16〜17才くらいの年齢だろう、3倍は年上のカスト氏よりも、ずっとしっかりしている感じをうける。
「カストさん所で働いてます! メリー・ドローワです、カスト孤児院の出身です! つまりですねー」
 メリーの話によると。
 カスト氏の一族は南部にある古い家で、カスト孤児院は、カスト氏の兄のアレクサンダーの仕送りで成り立っており、その兄上が来週こちらに来るらしいのである。
 来ること自体は問題は無いのだが、実は、カスト氏、兄上に孤児院をやっていることを話していないのだ。
「兄は、家の名誉や家柄をえらく気にする性格でして‥‥」
 カスト氏が、苦渋に満ちた表情で口を挟んだ。
「仕送りが孤児院のために使われていると知れば、間違いなく援助を打ち切るでしょう」
 カスト氏は15年前、孤児院を始めるまでは、貿易関係の仕事をしており、兄はその仕事への援助として、毎月ある程度まとまった金額を送ってきている。
「兄は、私が事業に失敗して、家名に泥を塗るようになる事を心配していました、まあ、私は最初から商才はなくて、うまくいかなかったのですが‥‥」
 思い出したくない過去なのだろう、カスト氏はいっそう苦しげだ。
「で、そんな時に、私が橋の下で泣いてたんだって、カストさんがひろってくれたんだけど、それが始まりでね ずるずると‥‥慈善事業はじめちゃったわけ」
「兄には、手紙で近況を知らるように言われてるのですが、孤児院の話は出来なくて、嘘を15年間書き続けています」
 兄のアレクサンダーには、すでに結婚し、事業はまあまあ成功して、子供も大勢おり、家名に恥じない生活をしていると書き送っている。
「カストさんのお兄さん、最近なにか感ずいたらしくて、いろいろと手紙で聞いてくるらしいのよー」
「兄は手紙に書かれている事が、一つでも嘘だったら、援助を打ち切ると言って来たんです」
 そして、それを調べるために、来週直接カスト氏の住まいへとやってくるのである。

「なるほど‥‥で、そのお話、子役とどうつながるんでしょう?」
「私、独身でして、妻も子供もおりません 兄が来たときに家に誰もいないのはまずいですから、私の子供の役を演じてくれる人を探しているのです」
「ふふふ‥‥ 子役って言うから、ちっちゃい子供の役だと思ったでしょう」
「ああ、ではカスト氏の子供の役って意味だったんですね」
「そうです、奥さんの役は、知り合いの老未亡人が、やってくれる事が決まったんですよ、あ、私も子供の役しますけどね」
「わかりました、もし希望者がいるようでしたら、ご紹介いたします、カスト氏は人間でいらっしゃいますよね?」
「はい、私も人間です」
「お願いします、兄を騙すのは悪いことですが‥‥ 行き場のない子供たちが、生きていけるようにしてやらねばなりません 里親を探すか、ひとり立ちできるまで、育ててやらなければならないのです」
 カスト氏の目には涙が光っている、その丸い背中にメリーはそっと手をおく。
 今、孤児院にいる子供たちは、一番年上でも6才と、小さな子供ばかりで演技は無理なのだそうだ、それにカスト氏の兄アレクサンダーが求めている家族像は、名家の名に恥じない立派な子供たちだ。
 上品で才覚にあふれ、あるいはまた、知的で高い教養を持った、他人に自慢できるような子供達‥‥そう、貴方のような‥‥。

●今回の参加者

 ea5123 シキ・コントラルト(32歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8866 ルティエ・ヴァルデス(28歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0896 ビター・トウェイン(25歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 冬の太陽が、弱々しく地上を照らしている。

 空家の改装も3日目、最終日である。マッカー・モーカリー(ea9481)が門石の上に仁王立ちして、手伝いの近所の人達へ差配している。
「さあ! あと一息、改装のテーマは質実剛健じゃよ!」
 マッカーの合理主義は徹底している‥‥空家の改装はまるで舞台セットのようだ。
 客間や食堂はピカピカに磨き上げられ、あの少ない予算でよくも用意したと思われる絵や家具までがそろっている、しかし、使わない部屋はほこりをかぶったままだ。
「マッカーさん! このお酒はどうしたのですか? こんな高いお酒」
 食堂の方から悲鳴に近い声がする。カスト氏だ。マッカーはニヤリと笑う。
「中身は安物じゃよ、空き瓶だけ手に入れたのじゃ」
 庭の木が数本植え替えられて、見られては困る屋敷の裏側への道を塞いでいる、手の回らない所は徹底して隠蔽だ!
 そこへ、孤児院からビター・トウェイン(eb0896)がやってきた、玄関の敷石を磨いているメリーに話しかける。
「はかどってますか? 孤児院のほうは何とかやってます」
「あ、ビターさん! すいません! 孤児院の悪ガキども、騒いでませんか?」
「ははは、悪ガキですか、活発な子供達ですね、昨晩は僕がカストさんやメリーさんを追い出したと勘違いして、大騒ぎでしたよ」
「あらー そんな、ご迷惑をかけちゃったんですか!」
「いやいや、話し合ったら分かってくれました、意気投合! もう、大の仲良しです」
 ビターにとって冒険の第一ラウンドは、すでに始まっていたらしい。
 しかし、彼のにじみ出る優しさに、すっかり子供たちは心を許したようだ。
「子供たちも手伝ってくれて、昼食を作ってきました、さあお昼にしましょう」
 
 掃除用具が散乱する中、一同は昼食を食べる。ルティエ・ヴァルデス(ea8866)は暇さえあれば、カスト氏やメリーに色々と質問を浴びせている。
「メリーさん? カスト氏のイビキはそんなにすごいのですか?」
「そうなんですよ! 同室なら耳栓がいりますよ! あと、寝ぼけてるとベットからよく落ちます、ははは」
「ルティエさん そんな事まで調べてるんですか?」
 しきりにメモしているルティエにシキ・コントラルト(ea5123)が質問する。
「身内なんだからね、どんな癖も頭に入れておきたいんだよ。ああ、それとシキ君、僕は兄のカーマイケルで、君は弟のフランクリン君なんだから、本番でとちらないように、今からそう呼び合わないかい?」
「なるほど、徹底してますね、分かりました‥‥兄上!」
 昼食の味はなかなかであったが、メリーは食が進まないようにみえる。
「どうしました?」
 すでに優しい兄モードに入っている、ルティエが気づいた。
「いえ、その、皆さん、食べ方が上品ですよね?」
 そういえば、時は金だ! と言って、すでに作業を始めているマッカーを除いて、皆上品な食べ方である。
「そうか、食事のマナーも練習しなくちゃいけないね、フランクリン」
「晩餐は予行演習にしましょうか、兄上」
 昼間は作業をして、夜は挨拶や話し方、食事の作法までの特訓がまっている、寝る暇もない。
 幸い、ルティエもシキも作法には詳しく、よい教師である。

 当日がやってきた、日が傾いた頃、アレクサンダー・カストの馬車が到着する。
「お待ちしておりました。私は執事のモーカリーと申します」
 マッカーはアレクサンダーの外套を受け取り、うやうやしく礼をした‥‥ さあ! 大芝居のスタートだ!
「兄上、そ、そ、その、良くこられました、か、家族を紹介します。 右から長男のカーマイケル 次男のフランクリン 長女のソーラ です、家内は具合が悪くて寝ております」
「ほー そうかね」
 カスト氏は緊張で舌を噛みそうだが、アレクサンダー氏は意に介していないようだ。
「初めまして、伯父上。遠い所をようこそ。家族全員で楽しみにしていたんですよ」
 上品な笑みを浮かべて、優雅な身のこなしで会釈するとルティエが握手を求める。
「初めまして‥‥」
 シキも丁寧な礼をして、伯父をそれとなく観察してみる、金持ちの貴族と聞いたが、服装は質素だし威張った感じはない。
「こんにちわ、伯父様。ソーラです」
 メリーは少々ギクシャクしたが、練習の甲斐あってなんとかさまになった。
「ではお部屋へ‥‥、ここは寒うございます」
 間髪をいれずマッカーが一同を促す、磨き上げられた廊下を客間へと進む。
 第一印象は悪くなかったはずだ。

 客間では、子供達の最近の活躍についての話題に及んだ、社交界の話、馬上試合の話、婚約の話‥‥。
 ルティエが細部までチェックし検討した内容のため、ぬかりはない。
 和やかな談笑の後、夕食になる。

「こんばんわ! お招きに預かりまして‥‥」
 そこへ正装したビターが入ってきた、近所に住む、この教区の司祭だと自己紹介する。
「ようこそ、ビター様、山海の珍味を取り揃えさせております、ささ、お席へ」
 マッカーは、全員を食堂へと案内する。

「まずは祈りを‥‥」
 祈りの後、ビター司祭は一同の顔を見回して話を始めた。
「僕の教会では、孤児を何人か預かっております、かわいいものですよ、子供というのは、アレクサンダー氏は慈善事業には、もちろんご理解がおありでしょう?」
「ああ‥‥そうですな」
「司祭様は立派な事をなさってますね、そう思いませんか? 伯父さん」
 シキは、相槌をうちながら、注意深く伯父の表情を伺う、慈善事業の言葉に多少過剰な反応があったが、なかなか表情が読めない。
 ビター司祭は続ける。
「カスト家は相当な名家なそうですね、当然社会への義務は果たされているのでしょうね?」
「義務?」
「聖職には神への責務があります、それと同じように貴族には貴族の義務があるのではないでしょうか?」
「うむ、なるほどな」
 考え込むアレクサンダー。
「そうですね伯父上、領民や使用人達は私達が頼りですからね」
「まったくです、我々は恵まれている分、社会へ多く貢献しなければならないのでしょうね?」
 ルティエとシキは交互に話す、話題の持って行き方に、父親カスト氏はハラハラしながら見守る。
「食前酒にございます」
 話題が詰まった所で、マッカーが、本職さながらのタイミングで飲み物を勧める。
「うん? なんだこれは、なにやら水っぽいような‥‥」
「外国から取り寄せました、珍しいワインにございます。 珍品中の珍品! でございますからして‥‥」
「そ‥‥そうかね、うむ」
 次に大きな皿に盛られた料理に手をだすアレクサンダー。
「鶏肉ににておるな‥‥」
「はい、ラクダでございます‥‥ こちらは象! そしてこちらが一角の肉でございます! まさに珍品!!」
「うむむ‥‥ 豚肉に安っぽいソースをかけた味ににておるなぁ」
「なにせ珍品でございますから‥‥はい」
 飲み食い笑い、カスト一家の豪華な? 晩餐は続く‥‥。
「そこで結局ドーバーを渡ることになったのですが、波がすごい! 船は小さいし、船長は酔っ払い! もう参りました」
「わははは」
 ルティエ作の空想上のイギリス家族旅行談は、アレクサンダー氏に大いに受けた、安酒で酔いも回ったのか、機嫌は上々ご満悦である。
 どうやら、成功だ‥‥、それがこの夜の全員の感想だった。

 翌日、まだ薄暗い早朝にアレクサンダーの声が屋敷にこだまする。
「起きろ! 起きてくれ! わしは家に帰るぞ!」
「ど、ど、どうしたんですか! こんなに早く?」
「わしは、田舎の屋敷へ帰るとする」
「こんなに早く? 朝食くらい食べていってください」
 突然の事にオロオロするカスト氏。
「それは孤児院の子供達にでもやってくれ」
「え?!」
「来る前に調べておったよ、孤児院の事も、家族の事もな! どんな言い訳をするかと思えば‥‥」
 カスト氏の子供達も集まってきた。
「ボナパルト! お前への仕送りは中止だ!」
 最悪のセリフがアレクサンダー氏の口から飛び出した、シキはすかさず、話に割ってはいる。
「まってください!」
「その代わり‥‥ カスト孤児院への援助をする」
「‥‥今、何と?」
 突然の事の成り行きに、全員言葉を失う。
「兄上‥‥」
 カスト氏の目に涙が滲み出す。
「馬鹿者! 泣くやつがあるか!」
 一同の顔を見回して
「カーマイケル、フランクリン、そしてソーラ‥‥ 本名ではないのだろうが、正直、昨日一日は楽しかった! 暖かい家族を味わうことが出来た‥‥ありがとう」
「分かって頂けると思っていました」
 シキはアレクサンダーの手をとる。
「貴族の義務か、耳が痛かったぞ あの司祭も一味か? なかなか良い事を言うわい」
「兄上、なんと礼を言って良いものか」
「ボナパルト! お前も頑張っておるのだな、もっとシャンとしろ! 胸を張れ! お前は立派なカスト家の男! わしの自慢の弟なのだからな!」
 アレクサンダーは、最後に全員と握手をする。
「マッカー殿、そのうちボナパルトとわしの屋敷に遊びにこられよ。本当に美味い物を食わしてやるわい。話は面白かったが料理はひどかったぞ」
「ははは、ラクダはまずかったかのう」
 アレクサンダーは最後にボナパルト・カストを抱きしめて別れを惜しむと、晴れ晴れとした表情で旅立っていった。
 後には空想上の家族が残った。
「よかった‥‥」
 ボナパルト・カスト氏はその場に座り込んでしまった。
「家族っていいですね、お兄さん‥‥なんて呼べて楽しかったなぁ」
 メリーは、二人の兄の間に入り込むとその両腕にもたれかかった、空想家族は今日で終わり‥‥ でも永遠に続いてくれてもいいなぁ‥‥とメリーは思った。