魔物の洞窟
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■ショートシナリオ
担当:白樺の翁
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月22日〜02月27日
リプレイ公開日:2005年03月02日
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●オープニング
地平はぼんやりとかすみ、今日は暖かい。軒のツララから雫が滴る。
「あれが魔王の要塞のある岩山だ!」
「みろ! 巨大なドラゴンが飛んでるぞ!」
久々の陽気に誘われてか、ツグミが一羽、空高く飛んでいる。
「あれはレットドラゴンだ! 邪悪な奴だ! 気をつけろ!」
3人は、小さな林を抜け、小川を遡って行く。
「魔物の洞窟が近いぞ! 足音をたてるなよ」
「魔物なんかへっちゃらさー! 僕の魔法の剣で一撃だよ」
すると目の前に洞窟が見えてきた、じめっとしていて、真っ暗な口を不気味に空けている‥‥。
「魔物の洞窟だ‥‥」
「お兄ちゃん 怖いよー」
三人の冒険者達は、魔物の洞窟から吐き出される、瘴気にも似た悪の気配に戦慄した! と‥‥ 言っても、それは嘘! これは冒険者ごっこなのである。
パトリック、ルディー、そしてジュリアの3人はまだ子供なのだ。
最年長のパトリックも7才、パトリックの妹のジュリアはまだ4才である。
「真っ暗だぁ」
「魔物がいるんだぞ! 倒さないと魔王の要塞へ入れないんだぞ!」
パトリックも暗いところは怖いのだが、年下のルディーの手前、強がって見せている。
「おまえ怖いんだな!」
「怖くなんかないやい!」
「お兄ちゃん帰ろうよー あたし帰るー!」
その時、洞窟の奥から、なにかのうめく声が聞こえてきた‥‥ ような気がした、人の声のような? いや、本当に魔物かも知れない!
「見に行こう」
「えー」
「やっぱり怖いんだ!」
「怖くないよー!」
パトリックとルディーは、大いに張り合って、中へ入っていった。
一日が終わり、日が暮れようとしている。
ここは冒険者ギルドである。
「そうですか、こっちでは噂になってませんか」
その男は、シモンズと言い、数年前までこのギルドで冒険者をしていたのだが、村人に乞われて、今はとある村の村長をしている。
小さな4歳ほどの女の子が、シモンズの足元でもじもじしている。
「今はじめて聞きましたよ、大変ですね お子さんですか?」
「ああ、ジュリアと言うんだ、下の子だよ」
顔見知りである受付は、気軽に対応している。
シモンズの村長をしている村は、ここから半日ほどの距離にある小さな村だ。
彼が数年ぶりに、ここへやって来たのには理由があった。
村の宿屋で事件がおきたのだ、昨日役人が泊まっていたのだが、連れていた罪人が、宿のぼや騒ぎに乗じて脱走してしまったのだ。
「とりあえず、人手がほしいんだ! 何人かお願いできないだろうか?」
「シモンズさんの頼みですからね、断ったりしませんよ、で、凶暴な奴なんですか? その脱走犯」
「うん、それがなぁ」
脱走したのは、殺人容疑で逮捕されていたブラッククロックと言う男で、かなりの巨漢らしい。
人相も悪く見るからに犯罪者風なのだが、話では、彼の住む土地の残忍な領主の罠にかかり、濡れ衣を着せられているという噂である。
ちゃんと調べれば、疑いは晴れるはずなので、領主と繋がりのある役人が、わざと逃げるようにしむけたのではないかと、彼は睨んでいる。
「逃げようとした所を殺してしまうつもりが、抵抗されて本当に逃げられてしまったんだな‥‥」
「間抜けな話ですね、でも、役人より早く見つけないと殺されてしまいますね」
「そうなんだ、ところが、村で捜索に協力すると申し出たら、領主の手下が到着するまで、捜索はするなと言うんだな」
「あらら、困りましたね」
「相手は役人だし、今の俺の立場では逆らえないんだ」
領主の手下が来るまでに5日ほどかかるので、捜索開始は5日後となる、脱走犯は怪我をしているはずなので、遠くへは行けないと言う。
「もちろん、その怪我がもとで死んだり、動けなくて飢え死にしたりしてくれれば、連中は手間が省けるというわけだな」
シモンズは手続きが済むと、ジュリアを受付に預けて、近くの店へ買い物に出かけていった。
「魔物が洞窟にいるんだよ」
ジュリアがもじもじしながら、受付に話しかけてくる。
「あら、そうなのー」
「うん、怪我してるの、それでね、お兄ちゃん達が食べ物運んでるんだよ あ! このことって内緒だよ」
ジュリアは、つぶらな瞳を大きく見開いて、口元に指をあてると シー! とやって見せた。
●リプレイ本文
ここはシモンズが村長をしている村である。
タイト・アベンチュリン(ea9973)とユノーナ・ジョケル(eb1107)は村につくと、まっすぐ村長の家へと向かった。
村長の家は、村から少し離れた場所にあった。
「ギルドからですね? よくこられました」
冒険者の先輩は、温かく迎えてくれる。
「詳しいお話と、あと、周辺の地図などありましたら‥‥」
「ああ、そうくると思って」
シモンズはすぐにテーブルの上に地図や松明、数日分の保存食を並べた。
「元冒険者の方が依頼人だと話が早いです」
タイトは地図を手に取ると眺めている。
「それと‥‥ シモンズさん、公正で、クリザリング家の影響を受けない人物に彼を保護して欲しいのだけど、心当たりはありませんか?」
「うーん、隣の大きな町まで行ければね‥‥手紙を出しておきましょう」
捜索開始の日なのだが、まだ領主の手下たちは到着していない。
村長の家の周りに集まっている冒険者たちは思い思いの時間を過ごしている。
「エリアンちゃん! じょうずー!」
「ジュリア君の豚さんもうまいよー え? 猫? うんうん、じょうずだよー」
エリアン・ワーズワース(ea9866)はジュリアとすっかり仲良しになっていた。
二人でお絵かき中だ、村長の家の壁がみるみる動物園の様相を呈している‥‥。
「ねー 魔物さんの絵も描いてくれないかな?」
「魔物さん?」
家の反対側、雪を被った畑からは少年達の歓喜の声が聞こえてくる。
「へー 本物の冒険者なんだ!」
パトリックとルディーと話をしているのはリオス・ライクトール(eb1229)だ。
「剣をみせて!」
「どんな冒険したの! 聞かせてよー!」
「俺はビザンツの闘剣士だ!」
「ビザンツだって、すげー」
「知ってるの? ビザンツって村?」
「当たり前だろう!」
本物の冒険者の登場に少年達は有頂天だ!
「スジを見てやる! 打ち込んでこい!」
リオスは、男の子2人に稽古をつけてやると言う。
「全力でこい! でないと怪我するぞ!」
3人の声が辺りに木霊する。
リュシアン・ワーズワース(ea9865)は、ぼや騒ぎがあった宿まで来ている。
目的は情報収集と役人の監視だ。
「その役人なら、まだ泊まってるよ」
宿の主人は親切で協力的だ。
「村長さんの遣した冒険者だろう? いい物があるんだよ」
主人は空いている隣の部屋に案内すると、壁にあいている小さな穴を指差した。
「がんばりな! 村人はみんな味方だよ」
午後になった。疲れきって座り込んでしまった子供達。
リオスも汗をかいている。
「もうおしまいか? パトリック! お前は腕力に頼りすぎている、よく相手を見ろ! ルディー! お前は剣士には向かない! 弓だ! お前は弓を鍛えろ! だが‥‥ 二人とも良くがんばったな!」
しばらく唖然としていた子供たちだったが、そのうち泣き笑いになると、リオスに抱きついてきた。
そんなわけで、子供たちの信頼を勝ち取ったリオスは、自分たちの使命を打ち明けた。
もちろん、未来の冒険者は快く道案内をかってでたのであった。
子供達を交えて昼食をすることになった。
そこにリュシアンが帰ってくる。
「クリザリングの手下が宿屋に到着したよ! 人数は51人、ギャブソンというのがリーダだね。 元海賊で弓の名手だそうだよ」
「ずいぶん詳しいな」
不思議そうにリオスがいう。
「壁に耳ありってやつだよ」
当惑する一同に、リュシアンはまるで、同じ部屋で見聞きしてきたような情報を次々と披露する。
手下の装備、武器の種類、酒の趣味‥‥ そして、命令書の中身まで‥‥。
「やっぱり殺せって命令だったよ‥‥ それと、ブラッククロックをつれて来た役人なんだけど‥‥」
ビーケという名前のその役人は、かなり小心者で怖気づいてしまっており、良心の呵責に寝込んでしまっているそうだ。
「ほほーそれは、つけこめるかも知れんのう」
黙って聞いていたマッカー・モーカリー(ea9481)がポツリと言った。
食後、一同は出発した、起伏のある森の中を進む。
「調子が出ないなぁ」
「どうかしましたか?」
頻りに首をかしげているカエン・ヴィールス(ea1727)にタイトが話しかける。
「お子様だろ、小さいのだろう‥‥ こう、女! ってのがいないんだな」
「失礼ね! 私、女です!」
「何! おお‥‥たしかに! じゃあ遠慮なく!」
カエンは何故か安堵した表情になって、タイトの腰の辺りへ手を‥‥ ぱしりっ! っと平手打ちの音!
「何するんですか!」
「うんうんうん、このくらい反応がなくちゃねぇ スキンシップだよ!」
「‥‥カエン、離れて歩いてくれます?」
「ねぇ! 添え木になる丈夫で軽い木を探して!」
「添え木?」
追い払われたカエンに、エリアンが話しかけてきた。
「魔物さんは足を折ってるのよ、あと傷口が化膿してるわね」
「何で分かる?」
「あたし、ジュリアちゃんとただ落書きして遊んでたと思う? 頑張ったのはビザンツ村の誰かさんだけじゃないのよ」
道案内の子供の足で2時間ほど、魔物の洞窟が見えてきた。
洞窟の中は暗い。
「魔物さん! パトリックとルディーだよ」
「ジュリアもー」
三人の声に、何か動く気配がある。
「冒険者の人も連れてきたんだ! 助けてくれるんだよ!」
暗闇の中からゆらりと大きな影が現れた、その怪異な姿に一同息を呑む。
身の丈は2mをゆうに超え、筋肉隆々として小山のよう‥‥ 顔は人を100人も殺した極悪犯のそれだ!
声の無い一同の中から、前へ飛び出した者がいた。
「俺はシイナだ! よろしくな! ははは、キミってでっかいなぁ! ブラッククロックだね?」
シイナ・ダンター(eb1009)は、笑いながら握手を求める。
「そ‥‥そうだ」
この反応には、魔物本人が驚いているようだ。
「やさしい目だね 助けにきたんだ」
ブラッククロックの表情が一瞬和らぐが、すぐに苦しそうに呻くと倒れこんだ。
「手をかして、手当てするから、うわ‥‥ これは痛い、我慢強いんだね ブラッククロック君は」
エリアンが駆け寄ったときには、魔物は意識を失っていた。
傷の手当てが済んだ直後、外で見張りをしていたマッカーが飛び込んできた。
「追手じゃ! つけられたぞ! わんさか来とるわい!」
「ブラッククロック君はとても歩けないわ」
「地図だと、この裏側に間道があります」
硬い表情のエリアンとタイト。
「わしが、残って時間を稼ぐ、子供たちは洞窟の奥へ隠れておれ、うまく誤魔化せたら‥‥ 少々耳を拝借じゃ、考えがあるのじゃよ」
「僕にも考えがあるよ」
マッカーとユノーナが皆を集める。
「俺も残りだな」
とシイナ。
冒険者達は互いにうなずき合って解散した。
「おい! ブラッククロックはどこだ?」
「何じゃ? わしは猟師でな、休んでおるのじゃが?」
踏み込んできた領主の手下達は、横になってアクビしているマッカーに詰寄った!
「うそをつけ! 奥だな! 見せろ!」
と‥‥その時、どこからかよく通った声が響く!
「出て来い! 悪人ども!」
洞窟の外へでたものの、声の主が見当たらない。
「ここだよ! シフールナイトユノーナ参上だ!」
洞窟の口の真上、断崖の頂点に立っているのはユノーナだ。
「ノロマな諸君! ついてこれるかな?」
「あそこだ! 弓だ! 急げ!」
「追うんだ! 回り込め! 急げ!」
次々と命令が飛び、追跡者達はユノーナを追いかけていく、程なく洞窟の周辺は静かになった。
日が沈み、すべてが闇に覆われる。
頭からすっぽりと毛布をかぶった2mを超える大男を真ん中に、冒険者3人が護衛しながら一隊は進む。
もうすぐ村長の家だ。
「やあ!」
突然声がかかる、一瞬緊張する一同だったが、現れた小さな影に安堵する。
「ユノーナ!」
流石に疲労の色が濃かったが、元気そうである。
村長の家についた、明かりはついていない。
リュシアンが静かに戸を開ける‥‥。
「村長さんいるかな? あ! おまえは!」
「囮をつかってうまく誤魔化したつもりのようだが‥‥ まだまだ甘いなぁ」
なんとそこにいたのは、ギャブソンと手下である。
「ふははは! さあ! ブラッククロックを渡せ!」
高笑いするギャブソンの声が家の中に響く‥‥しかし、その声に混じってもう一人の笑い声が聞こえてくる。
「ふふふふ 甘いのはおじさんでしょ!」
2mの大男は被っている毛布を脱ぐ、なんと! 下から現れたのはエリアンだ! エリアンがカエンに肩車していたのだ!
タイトが一歩前に出、静かに、しかし強く言い放つ。
「戻って主人に伝えなさい、あなたの非道もこれまでだと‥‥ さあ、もう逃げた方がいいですよ、朝には手配されるでしょう」
「何だと‥‥くそ! 騙したな!」
明け方の空の下、街道をシイナと役人のビーケが2mの巨体を急造の担架で運んでいる。
「そらそら、減刑に口聞いてほしいんじゃろ、かんばるのじゃよ」
それを後ろから激励しているマッカー、ビーケは散々脅されて結局協力する羽目になったのだ。
子供達とは、村の入口で別れた。
重い重いと、泣き言をいうビーケとは対象的にシイナは黙々と足を運ぶ。
「おぬしは静かじゃのう」
「この人の事考えてたんだよ、今までの人生‥‥ 見た目で判断するなんて‥‥そんなの絶対にダメだよ」
「優しいんじゃなぁ」
「え! いやぁ 照れるなぁ ははは」
その後、ブラッククロックの容疑は晴れ、ビーケの証言により新たな容疑者が浮上した。
現在裁判は公判中‥‥。勿論容疑は、甥殺しである。